艦隊これくしょん ゼロの悪魔   作:Xn-i

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2:第0駆逐隊

 叢雲に続いて行った先は、工廠のすぐ近くにある巨大な建物―――資材の備蓄倉庫だとすぐに解った。

 その前に艤装を背負った一人の艦娘が待っていた。漆黒の髪に、白いブラウスシャツと暗いねずみ色の吊りスカート。歳は恐らく天津風と同じぐらいだろうか。

「お帰りなさい、叢雲さん。それと……第0駆逐隊にようこそ」

 真面目な性格であろう彼女はさっと敬礼を示し、天津風はすぐに敬礼で返した。

「朝潮。他の皆は?」

 叢雲は敬礼を返さず、その艦娘にそう問いかけると、朝潮はすぐに口を開いた。

「夕立はどっか行っちゃいました。他の二人は……」

「遅いぞ、新人。予定より3分と47秒の遅刻だ。先が思いやられるな」

 唐突に声がかかり、慌てて周囲を探すと倉庫の影に隠れるように座り込む艦娘。

 銀髪と鋭い目つき、そして黒いセーラー服が特徴的だった。

「菊月。アンタ、艤装は?」

「………」

 叢雲にそう声をかけられると、菊月はしばしの沈黙の後、立ち上がり、そして。

 

 ダッシュで武器庫へと走っていった。人に遅刻を言う割に自身は艤装を忘れるとは。

 

「朝潮。それで、若葉は?」

「あっちに」

「………」

 朝潮が指差す先には、ブレザーを着崩した艦娘が釣り糸を垂れていた。

「…若葉。仕事よ」

 叢雲が呆れ顔でそう声をかけると、彼女は竿を一度大きく振った後、すぐにそれを引き上げる。

「新顔が着たのか」

「見込みがあるかどうかは解らないけれど」

 叢雲がそう続けたので、天津風は少しイラッとする。

 

 若葉がこちらへと歩いてくると同時に、艤装を背負った菊月がこちらへと走ってきた。

 単装砲に、特徴的な艤装。睦月型だ。

「旧式の睦月型がよくもまあ、あんな大口叩けるわね」

 天津風が思わずそう呟くと、聞こえていたのか、菊月は単装砲をこちらに向けてきた。

「新人。菊月を侮るな!」

「最新鋭のあたしをコケにする睦月型がなんだって?」

「菊月。やめときなさい。それだけの自信があるって事でしょ? ま、見てみたいけれど」

 叢雲の言葉に菊月はすぐに単装砲を引っ込めた。そして、更に横から声がした。

「お? 新しい人が来たっぽいー?」

「夕立。時間までに集合と言わなかった?」

「ごめん、忘れちゃったー」

 てへ、と笑う金髪の艦娘も加え、ここに六人の艦娘が揃った。

「とりあえず挨拶だけは済ましとくのね」

 叢雲が促すと、まず最初に口を開いたのは朝潮だった。

「朝潮型駆逐艦、1番艦の朝潮です! よろしく」

「駆逐艦、若葉だ」

「菊月だ。あまり甘く見るな」

「駆逐艦夕立よ。一緒に、素敵なパーティしましょ?」

「…陽炎型駆逐艦、9番艦。天津風よ。あたしの出番があると聞いてきたわ」

 四人の艦娘にそう返事をすると、最後に叢雲が口を開いた。

「吹雪型駆逐艦、5番艦の叢雲よ。第0駆逐隊の旗艦を勤めてるわ。ま、あんまり期待してないけどせいぜい頑張りなさい」

 

「それじゃ、今日から任務再開よ。日常任務をね」

 

 後半部分を強調した叢雲がそう言い放つと、夕立はあからさまに退屈そうな顔をした、がそれは黙殺して若葉と朝潮が出てくる。

「了解。では、何セットだ?」

「2セットよ」

 若葉は頷くと、倉庫にあるドラム缶を一つ、二つ、三つと転がした。

「あれは?」

「輸送用ドラム缶よ。遠征任務しなかった?」

「……中身が入っているようだけど」

「そりゃそうよ。中身入ってるのよ」

 叢雲はきっぱりと告げた。

 

「第0駆逐隊の日常任務はここから幌筵泊地に資材を運ぶこと。最前線への補給よ」

 

 思わず、目が点になりかけた。

 

「今、なんて?」

「二度は言わないわ。自分で思い出しなさい!」

「…最前線への、補給?」

 それって、つまり。

 

 ただの輸送任務。

 

 わなわな、と肩を震わせる天津風にポン、と誰かが手を叩いた。

 顔をあげると、夕立の呑気な顔。

「ま、一緒に頑張るっぽい?」

 凄まじいまでの悔しさを押し殺し、天津風はぐっと拳を握る。そして。

「2セット必要なのよね、ドラム缶」

「そうよ」

 それぞれ、6つのドラム缶をロープで繋いだ艦娘たちはそのまま海へと進水し、主機を起動。

 

 6つのドラム缶を引き連れた、六隻の艦隊。

 

「単縦陣」

 叢雲がそう声を張り上げた後、ちらりと天津風の方を振り向く。

「アンタはアタシの後ろに来なさい」

「すると二番手?」

 単縦陣ならば、旗艦が先頭でその次か、と天津風が速度をあげようとすると、叢雲は首を振る。

「黙ってみてなさい。ウチはちょっと違うのよ」

 そう告げられた直後、真っ先に飛び出したのは旗艦ではない夕立だった。

 続けて、そこからやや斜め後ろになるように若葉が続く。

「来なさい」

 叢雲がその後に続き、天津風はその後ろを追う。

 その背後から朝潮が周囲を警戒しつつ、やや速度を落とした状態で続き、殿は菊月。

 

 旗艦を真ん中に置くのは空母機動部隊でよく組まれる輪形陣に近い。駆逐艦は輪形陣ではよく両端や先端に配置されるが。

 だが、横の配備はなく、縦に伸びきっている。だから単縦陣といえるだろう。しかし旗艦が先頭ではない。

 

「初めてよね? ま、おいおい慣れてきなさい」

 叢雲は更にそう続けた。

「朝潮と菊月にあわせた方がいいの?」

「少しぐらい距離があくのは構わないわ。だから時々後ろを気にしなさい。アンタ、足は早いんでしょ?」

 とにかく、叢雲の後に続きながらも、朝潮と菊月の動きにも目を配る。

 

 なかなか面倒な作業だ、と考えながら移動する、が。

 

 夕立と若葉は割と早く、叢雲はそれに追いつこうとする。すると、朝潮と菊月との距離が空いてしまう。

 叢雲に追いつこうとすれば後続の二人がついていけない、かと言って叢雲を見失ってしまえば行き先不明になってしまう。

 実際は朝潮と菊月は何度も往復しているだろうが、それでも余計な迷子は避けたい。

 

「おい、新人」

 そんな事を考えていると、一番後ろを進む菊月から声がした。

「右舷への警戒を厳だ」

「なんですって?」

「言ったとおりだ。右舷に注意しろ」

 左にも敵が出る可能性はある、とは思うが、叢雲達と朝潮・菊月ペアの間を走る天津風は距離を測るのに精一杯になっていたらしい。

 だが、右に目を凝らすが何も見えない。

「何もいないわ」

「駆逐らしい音が3、だ。かなり微かだから、距離は遠いだろうが。叢雲にも報告を」

「本当にいるの?」

「聞こえたからな」

「だからどういう理由よ。まるで深海棲艦の音がわかってるみたいじゃない」

 そんな事、有り得るはずが無い。

 深海棲艦達を探知するのは電探の力を借りる、だが電探とて正確ではない。水上艦ならば偵察機を飛ばし、妖精さんの目を借りてそれを確認するのが一番だ。

 だが、深海棲艦はその名の通り、深海に潜んで進む。

 時としてそれが突然出てくることもある。それらは電探でも使わなければ探知しようがない。睦月型が、音で判断できる筈も無い。

「天津風」

 沈黙を破ったのは朝潮だった。

「菊月は、私達の目で、私達の耳なの」

 菊月の方は朝潮の言葉に鼻を少し鳴らす。

「だから信じて。どんな小さなことだって、逃がしはしないから」

 そう言って笑う朝潮に、天津風はもう何も言わずに、少し前を走る叢雲の方に声を張り上げる。

 

「駆逐らしい音が3、右からですって!」

 

 半信半疑、そんな報告でもしようものなら叢雲は「解るように報告しなさい!」と怒鳴るだろう、が。

「そう。菊月はそれ以外になんて?」

「……距離は遠いかもって」

「そう」

 余程信頼しているのか、叢雲は特に気にも留めずに再び視線を前へと戻した。

 どんぶらこどんぶらこ、とドラム缶が続く。

「……どうなってんの」

「!」

 天津風の呟きに、脇を進む相棒は「俺が知るか!」と返したようだった。

 

 

 幌筵泊地は北方戦線の最前線であり、多くの艦娘を抱える一大泊地だ。

 資材入りドラム缶を引き連れた第0駆逐隊が到着する頃は、既に太陽は西に沈んで夜になりつつある時間となっていた。天津風は自身の早足ならばこんなに遅くはならない、と思った。

 しかしそれが任務だ。艦隊を組んでいる以上、艦隊行動でなければならない。

「いっちばーん!」

 先頭の夕立は早くも上がり、そしてドラム缶を引っ張る。

 若葉がそれに続きやがて叢雲もそれに加わる。

「せめて受け取りぐらいはいないの? ここまで資材を運んできたのに?」

「天津風」

 天津風は文字通り、夜になり静まり返る倉庫の前にドラム缶を転がしながらそう口を尖らせると、叢雲が口を開いた。

「アンタ、無駄口多い」

「無駄口の一つでも叩きたくなります」

 叢雲の方を振り返らずにそう呟くと、尻を盛大に蹴られた。

「痛っ! なにすんの!」

 が、そこにあったのは叢雲ではなく夕立のふくれっつら。

「あんまりそんな事言わなーい。みんなのつまんないの!」

「…」

 確かに、無神経だったかも知れない。

 何せ艦娘である。駆逐艦であろうと、艦娘である。

 

 戦艦や空母のようなバケモノとまともに張り合うことはできない。

 だが、深海棲艦と戦う為にある艦娘なのだ。

 

「……」

 だがしかし、頭を下げるのが癪に障った。

 沈黙でしか返せない、不器用な彼女がそこにいた。

「倉庫にドラム缶置いたらさっさと戻るわよ。帰りは少しは早くいけるから…」

 叢雲がそう声を張り上げると、背後から一人の艦娘が顔を出した。

 

「みんな、お疲れ様! いつもありがとう!」

 

 大型の艤装に、大型の連装砲。戦艦か重巡か、その辺りだろう。

 優しい雰囲気の彼女は天津風に気付くと、すぐに口を開いた。

「新しく入った子なの? 私はこの幌筵泊地所属、妙高型重巡洋艦の羽黒。よろしくね」

「…陽炎型駆逐艦9番艦の天津風です。本日より第0駆逐隊に配属になりました!」

「陽炎型なの? それじゃ―――――」

 羽黒が少し驚いたように言葉を続けようとした時、ぴしゃりとした声が遮った。

 

「任務は明日もあるから! 今日はこれで失礼するわ、羽黒さん」

 叢雲がさっさと歩を進め始め、若葉と菊月がそれに続く。夕立は肩を軽く竦めた。

「ご機嫌斜めっぽい」

「……すいません、羽黒さん! それじゃ、私達はこれで。天津風、帰りましょう」

「え、ええ…すいません。羽黒さん」

「ううん、いいの。また今度お話しましょう。あ…」

 羽黒は声のトーンを落とし、天津風に囁くように言った。

「……単冠湾の提督は、怖いところがあるから、気をつけてね」

「まさか? 猫ですよ?」

 冗談だろうと思った。だが、羽黒は真剣な顔だった。

 

 天津風は、無言で頷き返して、既に海上に出ていた叢雲たちの後に続いた。

 

 

 行きは独特の単縦陣だったが、帰りは複縦陣だった。

 やはり、同じく独特で、叢雲と若葉が先頭、次いで菊月と夕立が続き、最後は天津風と朝潮だった。

 

 無言で、進んでいく。

「!」

 空気が嫌だ、とばかりに連装砲くんが声を出す。

「戻ったらご飯にしましょ」

「……それ、連装砲?」

 朝潮も沈黙が嫌だったのだろう。トーンこそ落としていたが、朝潮がそう話しかけてきた。

「連装砲くんはただの連装砲じゃない。賢いし、海上なら私よりも早いんじゃないかしら」

 連装砲くんは、非常に頼りになる相棒だ。

 火力に速度、そして自律機動。

 艦娘は基本的にはかつて艦艇だった頃の武装を踏襲しているが、ごく稀に変異体として自律武装が艤装から生まれることがあるらしい。

 その原因については良くわかっていないが、艤装の一部そのものが意志を持って行動する、自律武装が実在し、連装砲くんもその一つである、という事しか天津風は知らない。

 だが、連装砲くんと天津風には、今までの絆がある。それだけで充分だった。

「触ってもいいかな?」

「だってさ」

「!!!」

 肯定であろう返事に、天津風が促すと朝潮は手を伸ばしてその頭を撫で始めた。

 連装砲くんはペットではないのだが、まあそれぐらいは許されるだろう。

「いい子ね」

「あたしの自慢よ」

 天津風がそう答えた時、前方を進んでいた四人が止まっていた。

「どうしたの?」

 

「お客さんだ」

 

 菊月がそう口を開いた。

 

「敵の水雷戦隊。重巡1、雷巡1、軽巡と駆逐が2ずつといった所だ」

「やっぱりこの辺りも、色々と危なくなって来たわね」

 菊月の言葉に、叢雲が続く。

 天津風は夜の海に目を凝らすが、そこに敵の姿は見えない。だが、菊月はそこにいるのがわかっている様に艦種まで告げた。

「距離は?」

「遠くない。有効射程まで10分。反航戦」

 真正面から接近している、という事か。

「第0駆逐隊、全艦で単縦陣よ」

 

 叢雲の言葉の直後、先頭が夕立、やや斜め後ろに若葉、その後ろに叢雲。そして菊月と朝潮が後ろへと回る。

 

「天津風。アンタは足とその自律武装が自慢なら、アンタのいいポジションがあるわ」

 こちらの方を見ずに、叢雲は言葉を続ける。

「遊撃をよろしく。戦場を見渡しながら動いて。最新鋭のアンタには、朝飯前でしょ?」

 嫌味ったらしい言葉だ。だが。

 

 そこまで言われるのなら、応えない訳には行かない。

 

「了解。第0駆逐隊の戦い、見せてもらうわよ」

「怖くて腰を抜かさない事ね」

 天津風の言葉に叢雲の返答。

 

「敵水雷戦隊、接近。有効射程まで3分!」

 

「第0駆逐隊、行くわよ! 準備はいいわね!」

 

「「「「「氷と夜の冷たい海に、紅の勝利を刻め!」」」」」

 

 まだ流氷の浮かぶ夜の海に、勇ましい艦娘達の声が響いた。

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