艦隊これくしょん ゼロの悪魔   作:Xn-i

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4:目を開く者

 翌朝目が覚めた時は、まだ太陽が昇る前だった。

「早く起きすぎたかも……」

 少なくとも相棒はまだ寝息を立てている。

 窓を開けて、薄暗い外に視線をやると、誰かの姿が見えた。

 

 叢雲だった。

 槍の鍛錬をしていた。斬撃、突き、ラッシュ、或いは反転。

 長年鍛錬してきた槍捌きなのだろう。

 昨日の戦いでも見せていたその鋭い槍捌きは、それに支えられているのだ。

 

 そして、一度だけこちらを振り向いた。

「早いのね」

 それだけ告げて、再び鍛錬に戻った。

「連装砲くん、起きて」

 窓を閉めて、とりあえず相棒を起こした。

 

 そう、今、出来ることから始めればいい。

 

 

「室内演習場……ここね」

 どの鎮守府でもそうだが、演習は大きく分けて二つある。

 一つは鎮守府の目と鼻の先にエリアを区切り、そこでペイント弾を使用して行う、実戦形式の演習。

 標的を使う場合と、艦娘同士でやり合う場合があり、後者の方が練度は上がる、と言われてる。

 もう一つは大抵は工廠の近くに室内用のプールを置いて、そこに訓練施設を作る場合だ。

 室内にある分、天候に左右されずに演習を行えるのが魅力だ。訓練施設を抜けて行く、という形式上、実戦形式ではないことが玉に瑕だが。これはしょうがない。

 

 がらり、と扉を開けると、プール独特の塩素のニオイと、誰かが既に演習をしている音が聞こえた。

 早くも誰か演習しているのか、早いものだ、と考えながら周囲を見る。

 

 プールの中に無数に並ぶ障害物や標的の間を、一人の艦娘が駆け抜けていた。

 やや大きめの砲を発射するだけでなく、手にした赤い刀身の刀を振り、近場の標的を斬撃だけで仕留めて行く。

 

 天井から釣り下がった艦載機の模型から発射されたペイント弾を回避し、代わりに機銃を発射する、だがこれは外した。

 舌打ちが響いた後、艦娘はさらに前進し、最後の標的に真っ赤なペイント弾をぶちまけた。

「終了!」

 天津風のすぐ脇の監視椅子に座っていたもう一人の艦娘がそう声を張り上げた。

「あー…航空ターゲットを2つ外したってトコだな。天龍、お前寝不足か?」

「うっせぇ! 昨日のカレー食べ過ぎただけだっての!」

「オレもお前と同じ5杯食ってんだけどな」

 彼女は監視椅子から飛び降りてそうタメ息をつく。

「ん? おい、木曾。隣りのチビは誰だ?」

 そして天龍の方は天津風に気付いたので、天津風はまずは敬礼をする。

「昨日より着任しました。陽炎型駆逐艦、9番艦の天津風です」

「おお、新人か。オレは天龍。世界水準の天龍型軽巡洋艦の1番艦だ」

「オレは木曾。球磨型重雷装巡洋艦だ。まあ、宜しく」

 それぞれ眼帯が特徴的な二人の軽巡は敬礼を返した後、連装砲くんに気付いた。

「そいつは?」

「こっちは相棒の連装砲くん。こう見えても、頼りになるのよ」

「……そうか。なあ、そいつは」

「やめとけよ天龍。一緒にするもんじゃない」

 天龍を木曾がたしなめた後、木曾は言葉を続ける。

「ほい。ペイント弾。訓練しに来たんだろ? タイムはきっちり計ってやるよ」

「スタート地点は、あっち側だ。来いよ」

 木曾が監視椅子へと再びあがり、天津風は天龍に伴われてスタート地点へと向かう。

「最速タイムは?」

「41秒。ターゲットスコアはターゲット全破壊、ただしスカが3発ってトコだな」

 そして天龍はさらに続ける。

「お前と同じ陽炎型だったぜ」

 こう言われて、昨日羽黒が天津風を陽炎型だと聞いた時に言おうとした何かの事が、解った気がした。

 恐らく、自分の前任もまた陽炎型だったのだろう。

 

「はじめ!」

 

 そして木曾の声と共に、天津風はプールへと飛び出し、相棒を両手から放った。

 まず最初は真正面の三箇所の標的。こんなもの外すまでもない、射撃して当てる。動きながら当てるで充分。

 3発連続ヒットで前進すると、頭上から艦載機の模型がせり出し、ペイント弾の射撃が2方向から。

「!」

 反対方向の二箇所同時に制圧するのは不可能、ならば片方ずつ。

 一度右へかわしながら右の艦載機を攻撃、右は沈黙したが左はこちらにあわせて掃射を向けてくる。

 

 天津風はその場で片足を軸に回転し、その機銃を回避。

 

 そして戻ると同時に射撃で左の艦載機も沈黙。さらに前進しようとすると、何もない空間が現れた。

「?」

 はて、これは――――?

 そこが油断、とばかりに水中から潜水艦の模型がせり上がってきた。

「!」

 6つの潜水艦は同時に魚雷を放つ。一度停止して隙だらけの此方に、迫る魚雷は早い。

 どうする、どうする?

「連装砲くん!」

 こういう時の相棒だ。

 

 飛び出した連装砲くんが高速で砲撃を乱射し、天津風自身は背中に背負った4発の魚雷を放つ。

 放たれた魚雷の一部は連装砲くんが盾になってくれる。その隙に相手をこちらの魚雷で潰す!

 

 3隻の潜水艦の模型にヒット。残り半分は撃てないまま水中へと引っ込んでしまった。

 すると、次は戦艦を筆頭に、多数の模型が現れた。

「まだまだ来るのね」

 模型に搭載されたそれぞれの砲門や魚雷が次々に放たれる。これは、避け切らなければならないようだ。天津風は覚悟を決めると、一気に速度を上げる。

「連装砲くん、こっちはよろしくね!」

 相棒と二手に分かれて突入、そこら中に現れる模型の中を、ペイント弾を打ちながら駆け回る。

 同じくペイント弾が飛び交う、模型からの砲撃。

「くっ!」

 ここまで本気でペイント弾を浴びせてくるなんて、今までの訓練ではなかった。

「なるほど、地獄ね」

 いい度胸じゃない、と天津風は口の中で呟く。ならば、それに応えるのみ!

 

 移動しながら、撃ちぬく。その繰り返し。

 相手が反応するより先に、相手に反応して撃ち込む。たったそれだけ。

 だが、その単純な事ですら、戦場では困難となる!

 それが戦場だ。焦るな、冷静になれ、そして戦え!

 

「抜けた!」

 プールを抜き終えた直後、頭上から再び艦載機の模型が飛び出した。

 先ほど天龍にヒットさせた奴だ。しかも、数も多い!

 

 8機編隊が2セット、それぞれ別方向からの機銃掃射。

 取り囲むような掃射を、姿勢を軽く低めにしながら機銃での対空砲火で、一つ一つ撃ちぬく。

「!!!」

 ようやく敵の砲撃地帯を抜けた連装砲くんが後方から移動し、こちらに気付くなり上空に猛放火。

 だが、流石に連装砲での対空は苦手か、殆どが空振りだった。

「流石にあれは無理か! 連装砲くん、無理に狙わない!」

 前へと移動し、ようやく艦載機地帯を抜けて最後の標的が現れた。

 

 真正面からの水雷戦隊。

 魚雷を放つのと、相手の魚雷は同時だった。

 

 すれ違う、四本ずつの魚雷。

 天津風はそれに気付くと、大きく右へと弧を描きながら回り込み、そして砲撃。

 1発の砲弾が命中したところで標的が消えた。

「終了!」

 木曾の声が響く。

「初回にしちゃいい具合だな。ターゲット破壊率8割はいい感じだ。ただ無駄弾が多いぜ、空振りが17発」

「そこまで撃った覚えはないけど…」

「そっちの相棒が外しすぎだ」

 天津風の返答に、天龍が連装砲くんを指差しながら応える。

「だけど、お前は割りとすげぇぞ。対空も、雷撃も対応出来てたし。回避もいいな」

「ああ。大したもんじゃないか。見込みあるな」

 天龍も木曾も、割と褒めてくれてはいるようだ。天津風が少し安心していると、木曾が思い出したように言葉を続ける。

「おっと。もう朝飯の時間だな。行こうぜ」

「ああ。ここはメシだけは美味いからなあ」

 そういえば昨日も食事を取っていなかった気がする。お腹はかなり空いている。

 天津風も少し食事が楽しみになった。

 

 

 食堂はかなり大きく、百人以上は軽く収容できそうだった。

 しかしそのテーブルも殆ど使われてないと解る。多くは椅子を上に上げてあり、使えるようになっているのは厨房の真正面にある数列だけで、そこには既に二人の影があった。

「あ、天津風。おはよう」

「やっほい」

 朝潮が軽く手をあげ、夕立は眠そうな顔で口だけ出した。

「夕立、お前もう少ししゃきっとしろよ」

「あ、天龍さんと木曾さんも一緒だったっぽい?」

 慌てて背を正す夕立。どうやら夕立は二人が苦手なようだ。

「ったく、アイツは本当にマイペースだな…鳳翔さーんくださいなー」

「あら、おはようございます、天龍さんに木曾さん。天津風ちゃんもおはよう」

「「「おはようございます」」」

 天津風と同時に、天龍と木曾も挨拶をした。

 そのまま渡されたお盆にはご飯に豆腐とワカメの味噌汁、海苔と漬物、塩鮭に生卵というメニューだった。

「あ、ちなみにご飯のお代わりは3杯までな」

 天龍がそう口を挟んだ時に、食堂の扉が開いて二人の艦娘がやってきた。

「おはよ…あ、天津風おはよう。艤装の調子はどう?」

「お陰様で大丈夫です」

 片方は夕張で、眠たげな声でそう問いかけてきたが、夕張の仕事は見事だったようで、訓練の為に艤装を取りに行った時には治っていた。

「調整も完璧ですよ」

「そう、良かった」

「夕張の仕事は早いからな」

 一緒にやってきたのは菊月だった。同じく朝食のお盆を受け取り、座る。

「朝…か…」

 そしてもう一人。軽巡であろうオレンジの制服に身を包む彼女は眩しそうだった。

「川内さん、おはようございます」

「これで8人…いや、9人?」

 若葉と叢雲がこれに加われば、11人。そういえば昨日、ここにいるのは11人と言っていたが。

「後は、若葉と叢雲で全部?」

「ああ。ま、賑やかじゃあねぇけど。悪い場所でもねぇぞ?」

「昔に比べればね」

 天龍の呟きに、川内がそう続ける。

 

 若葉と叢雲が来たのはそれから五分後だった。

 

「第0駆逐隊は朝食後に執務室に、ですって」

 

 

 文字通り朝食の後、第0駆逐隊の六人は執務室へと向かった。

「おーし、テメーら揃ったな」

 朝食の時に顔を出さなかった提督は書類の山を歩いていた。

 どうやら朝は仕事が多かったようだ。

「提督、朝ごはんです」

「ああ、ありがとう鳳翔……あちっ!」

 猫舌らしく、朝粥の丼に舌を突っ込んで早くも火傷していた。

「で」

 ふーふーした朝粥に顔を突っ込んだ提督に、叢雲はいつもの冷たい声で口を開いた。

「あたし達が呼ばれたって事は、でっかいもんでもあるんでしょ?」

「その通り。ただいま幌筵泊地への輸送ルートは3つあるが、どれも深海棲艦がわんさと出てくるようになった。ここ1ヶ月、ずっとだ。コイツが来るまで出撃してない時も、な」

 天津風に軽く視線を送ってから提督は続ける。

「で、だ。トドのつまり、奴らはシーレーンを破壊したがってる。ところで知っているか? 北方海域以外じゃ、敵さん、大人しいらしい。頻繁にちょっかい出してるのは此処だけ」

 

「わかるか? そこから導き出される答えはなんだ? たった、一つ」

 

「こっちは陽動。本命はどっかの海域で…無警戒の間抜け面した友軍にどかーん、だ」

 

 朝粥の丼から顔を上げた提督は煙草の箱をとんとんと叩いた。

「誰か煙草」

「了解した」

 若葉が立ち上がり、煙草を取り出して咥えさせ、火をつける。

 もくもく、と煙が立ち上る。

「いいか、第0駆逐隊。そこで俺らがやるべき事は難しいことじゃねぇ」

「陽動に乗らず、警戒を怠らない、ですか?」

「NO!」

 天津風の言葉に、提督はそう叫んだ。

 

「奴らにゃ、手痛いしっぺ返しを喰らってもらう。ここが陽動なら、陽動どころじゃない被害を出してもらおうって事だ」

 

「悪くないわ」

 叢雲は満足そうに返事をする。

「そういうことだ。奴らがどこでちょっかいを出すのか、それを知る必要がある。第0駆逐隊、本海域周辺の哨戒を命じる」

 

「奴らがどこにいるか、奴らがどこに行くのか、その全てを丸裸にしてこい」

 

 あまりにも冷たい口調で告げられた命令。

 だが、この時になって天津風は理解した。この提督がタダモノではないという事を。

 

 そしてなんで猫の姿になっているのかという事を。

 

「任せなさい。あたし達は第0駆逐隊よ。この海に、あたし達を遮るものはいないわ」

 

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