艦隊これくしょん ゼロの悪魔   作:Xn-i

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7:死線と焔

 敵の第3陣は2隻の空母ヲ級、1隻の軽空母ヌ級に、雷巡、そして軽巡二隻の護衛を引き連れて構成される機動部隊である。

 しかし、今は夜であり、流氷や氷山の多い海域という地形と天候が機動部隊の戦力を大幅に下げていた。

 

 そんな第3陣の直後に続く第4陣は、敵の主力艦隊だった。

 

 そして、第4陣の真ん中に旗艦の如く陣取る、目元に傷のある、赤い瞳を輝かせた戦艦ル級がいた。

 同じく戦艦ル級をもう一隻つれて、更に重巡と雷巡が二隻ずつで周辺を固めている。

 

 やるしかない。

 震える拳を握り締めて、天津風は標的を見据える。

「まだ氷山の陰に隠れて。真正面からぶつからない事」

 叢雲の指示は矢継早に飛び、六人の艦娘はそれぞれ氷山の影に隠れて息を殺す。

 

「いい? 飛び出さない。引き付けて撃つ。近すぎれば、敵はこっちより小回りは利かない」

 空母も戦艦も、極めて射程が長い。

 それに対してこちらは駆逐艦。近接しての戦いを強いられる事になる。だが、近ければ敵のいい的にも成り得る。

 動き回り、隠れ、そして仕留める。

「………まだよ。その殺意は、まだ秘めておきなさい」

 すぐにでも飛び出しそうな天津風を、叢雲の言葉が抑える。

「大丈夫だ。その時になったら、やろう」

「菊月の腕前をよく見る事だ」

 若葉と菊月がそれに続き、彼女達はまだ気配を殺す。

 

 そして、第3陣の空母達が、護衛の雷巡と軽巡と共に横並びにこちらへ向かってくるのが見えた。

 

「いいぞ、敵はこちらが潜水艦か何かだと誤認してる」

 菊月は笑うと、叢雲に視線を向ける。

「魚雷発射用意」

「撃つタイミングは?」

 魚雷発射管を素早く、だが音は立てずに引き出す。

「流氷地帯に入ってから、氷でこちらの位置を誤魔化せる………今!」

 それはあまりにもベストなタイミングだった。

 

 六人の艦娘が一斉に放った24本もの魚雷は、そのうちの三分の一が水中で氷山に激突して爆発し、強烈な轟音と氷の破片が、深海棲艦たちの視界に広がった。

 そして残りの三分の一が、横並びに並んでいた機動部隊と護衛たちに牙を剥いた。

「グヘェッ!」

 軽空母ヌ級が悲鳴を挙げ、艦首から上った炎を消そうと躍起になる。

「ガアアアアアアアアアアアア!!!!」

 護衛の軽巡の片方に三本もの魚雷が突き刺さり、海を歩く火柱となって絶叫をあげた。

「敵ダァ! ドコダ、ドコニイル!」

 残りの四本は二隻の空母ヲ級に二本ずつ直撃、しかし装甲のおかげか、小破した程度で戦闘可能だ。

 更に三分の一のうち、その半分は迷走して海中へと消えていき、残り半分の四本が目元に傷のある赤い戦艦ル級に迫った。

「クソ!」

 だが、伊達にelite級ではない、とばかりに大きく面舵を執り、行く手を阻む流氷の幾らかを掠めて傷跡を造る。

 面舵いっぱいで回避された四本の魚雷は、その奥にある戦艦ル級へと向かう。

 

 旗艦が突然舵を切ったと思えば、氷の海から魚雷が迫ってきていた。

 

 四本の酸素魚雷の一撃は、戦艦いえども大打撃であった。

 

「ドコカラダ…ドコカラッ! 敵ハドコカラダ!」

 悪魔の爪痕のようなダメージで、戦艦ル級の艤装は炎上、その機関はほぼ停止状態だ。

「落チ着ケ! マダ砲台ハ使エルダロウ!」

 旗艦のeliteル級はそう指示を飛ばすが、目の前の流氷地帯は未だに氷の霧に覆われたままだ。

「クソ! オイ、機動部隊! ドウナッテイル!?」

 叫ばれた相手の機動部隊は、辛うじて健在な護衛の軽巡と雷巡コンビが手探り状態で中を進み、その後ろを炎上中の軽母ヌ級、やや損傷した空母ヲ級二隻がいる。

 

 そんな炎上中の軽母ヌ級の肩を誰かが叩いた。

 

「火傷辛そうだな。冷やしてやろう」

 

 軽母ヌ級が振り向くと同時に、強烈な打撃が側頭部を襲った。

「氷は幾らでもあるからな」

 壊れた氷山から掴んだ氷の塊を海に投げ捨てつつ、若葉はそう言葉を続けると至近距離で連装砲を放った。

 空というアドバンテージを使えれば、圧倒的な強さを誇る機動部隊も、夜に視界不良に加え、懐に飛び込まれてしまうと後は装甲しか無かった。

 氷山の中で息を殺していた六人の艦娘は次々と目の前の標的に襲い掛かった。

 

 側頭部からダクダクと血を流す軽母ヌ級に次に喰らい突いたのは朝潮だった。

「この海域から出ていけ!」

 至近距離での砲撃は圧倒的な命中率を誇り、なにより朝潮の狙いは正確。たとえ相手の装甲が分厚くとも、距離の近さならばカバーできる。

「グッ…」

 追い討ちとばかりに叢雲がそのヲ級のすぐ横に回りこみ、その槍の一撃を放った。

 

 飛び散る血肉。

 同時に護衛の雷巡が叢雲に気付き、砲台を撃つ暇すら惜しいとばかりに大きく艤装を振り回した。

「っ!」

 重量のある艤装の直撃を受け、槍から手を離して吹っ飛んだ叢雲。

「コソコソト隠レヤガッテ!」

 追撃を放とうとした雷巡の背後に、天津風が姿を現したのは一瞬後の事だった。

「こっちにもいるわよ!」

 突然背後からしがみついた天津風を振り払うべく、雷巡は大きく身をよじり、一回、二回と真後ろ目掛けて拳を振るう。

 天津風は腹にその一撃を喰らい、うめきながら雷巡から離れた。

 

 だが、同時に天津風は、手元にある金属製のソレを確認して笑う。

「ねぇ」

「ン?」

「これ、なにかしら?」

 雷巡が目を凝らして天津風が掲げるそれを見ると、それは魚雷を繋ぎとめていた繋留ワイヤーと、その先にある安全装置。

「エ?」

 慌てて確認しようとしたその時、雷巡の艤装から魚雷はポロリと外れて、足元に落ちた。

 

 自らの魚雷が盛大に爆発し、雷巡の上あごが爆発と共に空高くへ飛び、胴体がバラバラになってそこら中に血肉を撒き散らした。

「だから爆発させないで欲しいっぽい! 汚い!」

 近くで軽巡を握りこぶしで殴っていた夕立が顔にべったりと張り付いた雷巡の内臓を取るべく、手を離しながらそう叫んだ。

 タコ殴りから解放された軽巡は後続の艦隊に報せるべく、とにかく逃げようとする。

 

 が、その視界の前に飛び込んできたのは―――――。

 

 胸と頭から血を流し、火達磨になった軽母ヌ級。

 その巨体から伸びた銀色の切っ先が、軽巡の身体を貫き、そのまま氷山へと押し付けられた。

 重量と圧力。肉の潰れる音、骨の砕ける音―――そして断末魔の悲鳴。

 

 少し手負いになった叢雲が槍を引き抜くと、二つ分の死体がずるずると海に崩れ落ちた。

「残り1体!」

 天津風が叫びながら空母ヲ級に狙いを定めた時。

 

 轟音と共に、強烈な砲撃が後ろにいた朝潮の真横にあった氷山に直撃した。

「キャアアアアアアア!!!!」

 襲い掛かる氷の欠片。痛みと冷たさで悲鳴をあげ、艦娘たちはそれに気付く。

 

 敵主力艦隊の視界を塞いでいた氷の霧は晴れていて、戦艦ル級eliteを先頭とした主力艦隊。

「朝潮、無事か?」

 若葉がそう問いかけた時、菊月が悲鳴をあげた。

「後方より敵水雷戦隊が来ている!」

 引き返してきた敵の第1陣が到着。第0駆逐隊は挟み撃ちの状態になった。

「クソ…菊月、朝潮! 水雷戦隊をどれだけ食い止められる!?」

「あまり長くは持ちそうにありません。さっきの攻撃で、少しダメージが」

「私は大丈夫だが、2対6はキツイ。戦闘しながらだとそっちの支援も出来ない」

 朝潮と菊月の返事に、叢雲は一瞬だけ考える。

「全艦。敵主力艦隊旗艦に攻撃を集中。出来るわね?」

 とどのつまり、後ろからの攻撃に備えず、前面に集中。守りを捨てた突撃。目標を血祭りにする為だけの前進。

 だが、まさしく彼女達はそんな戦いが似合ってる。

 叢雲の言葉に、五人は力強く頷く。

 

「さあ、行くわよ!」

 叢雲の砲撃が皮切りだった。

 まず夕立が雄たけびをあげながら戦艦ル級eliteの真正面に躍り出るなり、飛び掛った。

「派手なパーティしましょうよぉぉぉぉぉォォォォッ!!!」

「駆逐艦ガ…フザケタ真似ヲォッ!」

 一直線に飛び掛る夕立に主砲をぶちかますまでもない、とばかりに12.5インチ連装副砲を放つ。

 副砲いえども、戦艦の副砲は軽巡や重巡の主砲ほどの口径と威力があり、それは夕立の艤装を盛大に吹っ飛ばすのに充分過ぎる程。

「ふべぇっ!」

 盛大に火に包まれた夕立は海に一回叩きつけられて跳ね、次いで近くの流氷に激突、そのまま赤いラインを描きながら氷を滑っていく。

「こっちだ間抜け!」

 その隙に横から氷の塊を手にした若葉が海を力強く蹴り、ダンクシュートの要領で氷の塊をル級目掛けてぶつけようと両腕で振りかぶる。

「クッ! 次カラ次ヘト! ダガ、無駄!」

「我々ハソイツダケジャナイ!」

 横から躍り出た護衛の重巡のストレートが、ノーガード状態の若葉の腹に突き刺さり、氷の塊が若葉の上から滑り落ちて彼女の身体と共に海に落ちる。

「若葉!」

 天津風が気付き、駆け寄るべく少しだけ突出する。

「馬鹿、伏せる!」

 叢雲の警告が飛ぶより、敵の重巡の砲撃が早かった。

 背後から飛んできた重巡の砲撃が天津風の身体を吹っ飛ばし、近くの氷山へ盛大にたたきつけた。

「ぐえっ!」

 どうにか態勢を立て直すべく、腕をついて身体を起こそうとした時、足元から爆発が起こる。

 

 魚雷が撃ち込まれた、と気付いた時に片足の艤装が吹っ飛び、浮力のバランスが崩れていた。

 

「くうっ……」

 身体を起こすべく、片足だけでバランスを取りかけた時―――――背後にぬっとした陰が現れた。

「天津風!」

 そしてその赤い瞳の黒い姿に、見覚えがあった。

 

 そいつは姉の命を奪った時と同じように――――天津風の顔に一蹴りを放ち、鼻の骨が折れる音と共に、彼女の意識を奪った。

 

 

 殺す覚悟を掲げて、焔を燃やしてきた。

 幼い頃に打ちのめされたあの無力さと、憎しみ、そして悲しみ。それが焔を燃え上がらせる燃料であり、酸素だった。

 焔はいつか消える。燃えるものが無くなれば、命という火種が消えれば消える。

 

 それはただ火事を起こしただけ?

 それとも小火にすらならない、ただ相手に火傷を負わせただけ?

 

 消えかかる焔。

 小さい体に秘められた焔。

 

 消さない。消してはいけない。

 小さな少女は叫ぶ。

 それが私の生きる意味。生きてきた意味。目の前に引き起こされた悲劇を、打ち払うための焔。

 誰も同じ痛みを経験させない。誰も同じ悲しみを背負わせたくない。

 この焔を、これから生まれてくる子達に抱かせたくない。

 

 深海に沈む意思ではない、深淵から湧き上がる焔が突き動かす衝動。

 

 どす黒い悪魔へと変わり果てても、この焔だけは消したくない。

 

 奪われた未来も壊された日常も、秘められた殺意が感情となって剥き出せ。

 目を覚ませ!

 握り締めたその刃は大きな賭けでも一撃を当てろ。

 火を放て!

 振りかざす感情がその全てを黒に染めてしまう前に。

 

 怒りの声をあげよ。叫べ、その鉄槌を。

 たとえ世界が光が消えうせても、その体が動く限り、残された殺意がある限り戦え。

 

 我、悪魔。

 それが、今を動かす総て。

 

 

 轟音と焔、そして水の音。

「!!!」

 波が顔にかかり、天津風は少し咳き込みながら目を開くと、近くで連装砲くんが必死に射撃しているのが見えた。

 守ってくれていたのか、と思いながら身体を動かそうとする。

 片足の艤装は吹き飛んでいて動かない。右の肩が酷く重く、力が抜けて行く感じがする。

 武装はどうか、と見ると連装砲は火花と煙を吹いている、が一門は無事なようだ。

 

 どうにか立ち上がるべく、姿勢を起こす。

 少し離れた所で、叢雲と若葉、菊月が艦艇相手に必死の反撃をしているが、主力艦隊と水雷戦隊に挟まれた現状では死を待つばかりだ。

「火力が足りない!」

「若葉、菊月! 砲撃の手を緩めない! それと動き続けて!」

 若葉の悲鳴に頭から流れる血を拭いも出来ない叢雲がそう叫びつつ、魚雷発射用意をする。

「魚雷がもう残り少ない!」

 夕立と朝潮はどこだろうか、と顔を見渡しながら、連装砲を構える。

 朝潮の姿が見当たらない。やられたのか――――と、思った直後だった。

「はあああああああああっ!!!!!!!」

 口からダラダラと血を流す朝潮が、既に弾の切れた連装砲を掲げて、その砲身そのもので戦艦ル級eliteに殴りかかる。

「コノ!」

 不意を突かれて一発殴られた赤い目のソイツは、朝潮の腹に蹴りを放ち、今度はその顔を掴んだ。

「潰シテヤル小娘!」

 

 だが、その直前に、朝潮が一瞬だけ――――こっちを見た。

 

 天津風は速かった。

 壊れかけのタービンを限界まで動かし、足りない速力は相棒を掴んでフォローする。

 

 小型船よりも早く動ける自律兵装の連装砲くんのパワーは凄まじい――――。

 

 全力を込めた体当たりが、ル級eliteにぶつかり、轟音と衝撃、そして掴まれた朝潮が仲間達の近くまで飛んで行くのが見えた。

 連装砲くんのパワーをも生かした突撃。

 零距離に近づいた天津風は、残された連装砲の引き金を引いた。

 

 装甲を貫くことこそ出来なかったが、ダメージを与えることに成功したのか、ル級は天津風を引き剥がすべく、拳を突き出しながら後退する。

 顔をストレートに殴られ、海に叩き付けられそうになったが、どうにか踏ん張る。

 

 零距離射撃で使い物にならなくなった連装砲を投げ捨て、天津風は己を武器に最後の戦いへと挑む。

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