この素晴らしいテイワットに祝福を! 作:グランドマスター・リア
主は今日も楽しく召の断章厳選
そして、こちら本編では稲妻編開始です
てな訳で本日――
作戦決行当日は、かくも晴天なり。
ではそんな折、俺達は何処で何をしてるかって?
「おやっさん!今日はよろしく頼むよ!」
「おう、カズマじゃねぇか!準備はもう出来てる、いつでも出航できるぜ!」
璃月の船着き場に到着すると、頭にバンダナを捲いた陽気なおっさんに声を掛ける。
そう、この人が今回の密入国計画の柱。数日前にダメ元稲妻に連れて行ってくれる船長を探していた俺に、唯一声をかけてくれた人なのだ。何でもおっさんはここ数十年のベテランらしく、稲妻までの海域を突破した事も何度もある腕利きらしい。
何という巡り合わせ。やはり、俺の幸運は嘘をつかない。
「カズマ、紹介してもらって何ですが……稲妻までの海には、常に特大の嵐が吹いていると聞きます。本当に大丈夫なんですか?」
そんなめぐみんの問いに対して、返答したのは船長のおっさんだった。
「ハッハッハ、嬢ちゃん聞いて驚くなよ?何と言っても俺の船は、これまでに三回も稲妻の雷雨を突破してんだ。早さと突破力に関しては、あの『南十字』にだって負けはしないぜ!」
「それは凄いな?南十字と言えば、璃月でも名の売れた武装船隊だ。それを越える突破力ともなれば、稲妻の雷雨もどうにかなるだろう」
ダクネスの言葉通り、南十字はいまこの璃月で最も実力のある船隊と言っても良い。
俺も一度、そこに稲妻へ連れて行ってくれるように頼みに行ったんだが、案の定門前払いで、知名度も実力も相当なようだ。それを越えるとまで豪語している以上、真っ先に嘘を疑う。しかし、ギルドや船着き場で聞き込みをした所、どうやらおっさんの話は本当らしいのだ。
何故か、それを話す奴らは一様に気まずそうな顔をしていたが、とにもかくにも本当ならそれで十分。
「いくら稲妻幕府とは言っても、ちょこっと国土の端っこ入港する船までは管理できないだろうからな。上陸さえできればこっちのもんだ」
大丈夫、逃げ足には自信がある。ちょっとやそっと腕っ節が良いだけの武士に後れを取るつもりはない。
「容易く嵐を突破するほどの船とは、一体どんな物なのでしょうか?」
「そりゃあ、すっごくゴツイ武装船に決まってるわよ!ね、カズマさん!」
「実は俺も、まだ船の方は見せてもらってないからな。拝むのが今から楽しみだぜ」
そう、こんな風に順風満帆なのは久々で俺は浮かれていたのだ。
でも、忘れてはいけない。美味い話には必ず裏があって、この世界はちっとも思い通りにも、上手くも行かないという事を……
おっさんに連れられて案内された船着き場で、俺達は絶句した。喜びとか、そういうプラスの驚きでは断じてない。文字通り、破滅的なまでの誤算に対するマイナス方面の絶句である。何故そんな反応をするのかって?
「ふっ、驚いて声も出ないみたいだな?何を隠そう、これが俺の相棒『アヒル丸二世』だ!」
かけられたベールを取って現れたのは、本当にそこらのこじんまりとした漁船程度の大きさしかない小船で、その船頭には黄色くペイントされたアヒルの頭が装飾されていた。
――うん、なにこれ?
そもそも何だよ『アヒル丸二世』って……一世は何処に行ったとか以前に、ネーミングセンスがチュンチュン丸顔負けのダサさだよ。
「すぅ……」
言っていいよな?
これは流石に……怒っていいんだよな?
「舐めんな!!」
*△+このすば+▼*
「ふざけんなよっ!何が『アヒル丸二世』だ?ただの小船じゃねぇか、馬鹿にしてんのか!?」
それは一応屋根こそあるものの、本当にそんじょそこらの漁船と変わらないレベルのボートだ。いかだ程酷くはないが、幾ら何でもこれで嵐を越えるとか無理がある。何となく、港の奴らが目を逸らしながら語っていた理由が分かった。
こんなので嵐の海を越えろとか、頭おかしいんじゃないのか?
そして何より……
「『アヒル丸二世』……何という素晴らしいネーミングセンス!まさか紅魔族以外に、こんな感性を持った人が居るなんて……」
この爆裂娘がシンパシーを感じているのが動かぬ証拠だ。
「なあ、やっぱ『南十字』の船に潜入するプランに変更しようぜ?こんなのに乗せられたんじゃ、命がいくつあっても足んねえよ!」
「馬鹿を言うな、それは駄目だと言っただろう?密入国だけでもギリギリなのに、挙句の果て他の船に潜入するなど到底認められん」
だぁ、コイツも面倒くせぇな。
いつもその異常性癖で俺をこれでもかと困らせる変態騎士が、今更何を認められないと言うんだ?
アクアはもはや我関せずに知らないフリをしているし、何故こうもこのパーティーは意思統一の面においてこれ程までに一貫性がないのだろう……おうち帰りたい。まあ、帰る為に今こうして頑張っているんだが……
「おいおい、見た目で判断しちゃいけねぇぜカズマ。お前も、港の奴らから俺の噂を聞いたんだろ?」
「いや、確かにそうだけど……」
反応はともかくとして、このおっさんが稲妻までの海域を越えたこと自体はそこそこ有名な話らしいし、ぶっちゃけそれで裏を取っていた面はある。
だからといって、
「まあ見ときなって、この船の真の姿はここからさ!」
言って、おっさんは船に乗り込むとあれこれ中に積んである装置を操作し始めた。すると、船が突然軋みを上げて車にエンジンが掛かった際のような音を鳴らしだす。
「こ、これは……!?」
ガシャンガシャンと普通の小船からは絶対に鳴らないような音を立てて、アヒル丸二世が変貌を遂げていく。
船の尾にはメカメカしいブースターが、左右に両翼の如くプロペラが、そして船頭のアヒルの目はガン開き赤い輝きを放つ。
「えぇ何これぇ」
おおよそ璃月の船にはあるまじきマシナリーな見た目に、仙人の作るカラクリをかけ合わせたような姿に絶句する。
この文明レベルのチグハグさとか、色々とツッコミどころが渋滞しているが、そんな俺達をよそにおっさんは自慢げに嘯く。
「見ろカズマ!これがアヒル丸二世の真の姿……超絶突破モード・Zだ!フォンテーヌのマシナリー技術に、璃月の仙人が作り出したカラクリの技術を応用した、俺の船だけが持つ最強装備って訳よ!」
確かに見た目は物々しいし、個人的な感性から言えば乗ってみたくはある。でも、それで命を危険に晒せるかと言えば断じて否だ。
だがしかし……
「ちょ、超絶突破モード・Z!?……この雄々しきフォルム!燃える心を刺激する様なビジュアル!更に変形までするなんて……か、カッコイイ!カズマカズマッ、これに乗りましょう!」
ただでさえ面倒な爆裂精神に油注ぎやがった。
これ、もう俺が何を言っても無駄なんじゃ……
「仲間の嬢ちゃんは、分かってるみたいだな。この船の凄さって奴を……」
「だから『嫌だ』つってんだよ!
話も聞かず勝手に乗り込もうとしているめぐみんの首根っこを捕まえる。
「離してくださいカズマ!?私はこれに乗るんです!乗らなければならないと、私の紅魔魂が叫んでいるんです!でなければ、この胸の高鳴りを今度こそ璃月の町にぶつけかねませんよ!?」
「おいてめぇ、今どこに何をぶつけるって?お前と違って、俺はまだ命が惜しいんだよ!」
そうしてめぐみんと色んな意味で死闘を繰り広げている間に、アクアとダクネスはそそくさと荷物の積み込みを進めていた。おっさんもノリノリで出港の準備を完了し、気付いた時にはもう俺が何を言おうと無駄な状態になっていた。
ダクネス曰く、『嵐に打たれて飛ばされるのも悪くない』。アクア曰く、『私は水の女神だから海に放り出されても溺れ死ぬ事は無い』だそうで、誰一人として正常な感性を持ち合わせない阿鼻叫喚。
半強制的に船に放り込まれた俺は、あれよあれよと死地へと連れ出されていく。
「ヒャッハー!久しぶりのシャバだぜぇ!」
「くそったれがぁあああ!!」
頭のおかしい仲間達のお陰で、俺のテイワット冒険記第三章『稲妻編』は早くもクライマックス。
と、言ってはみたものの、この船……確かに運行速度は凄まじい。とてつもない駆動音を伴って、海を自動車のフルスロットルなみの速度で航海している。にも関わらず、操縦席を含めた船の屋内はかなり快適で、揺れもそこまでじゃない。
「……思ったより快適だな、この船」
予想外に拍子抜け。
もっといつもみたいに最悪の旅路になるかと身構えていたのに、この有様だ。
「なあカズマ?嵐というのはまだか?こうも焦らされては……その……」
「お前はもう黙ってろ。本当に船が転覆でもしたらどうするんだ?」
その場合は、ガチで助かるのはアクアだけで、他は全員海のもずくだか藻屑だかになっておしまいだ。
このまま何も起きず、稲妻の地を踏めるに越したことはない。
「もうすぐ稲妻の海域だ。嵐に突っ込むから、船もかなり揺れる。しっかり掴まってろよ」
「そろそろか……稲妻の嵐って一体どんな――」
俺が船の窓から先の海を見ると、そこにある光景にまたしても言葉を失った。
先の見えない黒い渦雲に、所々に雷が線を引き、まるでそれは雷雨の結界だ。その圧倒的異様は、流石は雷神だと感服するほど。
まあ、今からそれに突っ込むとか言う愚行を侵す直前じゃなければ……の話だが。
「帰ろう!もう璃月に帰ろうぜ!あんなのに突っ込んだら、マジで死ぬって!」
「何を言っているカズマ!目的地を前にして引き下がるなど、冒険者の名折れ!さあ船長、どんとあの嵐に飛び込むのだァ!」
「へっ、男なら腹を括れよ。お前の仲間の嬢ちゃんは、よっぽど肝が座ってるみたいだッぜ?」
「これは肝が座ってるんじゃなくて、ただ変態なだけ……ッ!?」
すると突然船が強烈な揺れに襲われる。
それによって俺は後頭部を座席に叩き付けられた。何事かと外を見ると、そこには先を見通せない暗雲だけが広がっていた。
「お、おい?まさかもう……」
「おうよ、稲妻の海域に突入した!こっからは文字通り命がけだ!神様に祈りな、命知らずの冒険者!」
お母さん、お父さん。
カズマです。突然になりますが、俺……
「死ぬかもしれませぇぇえん!!」
暗雲、雷の中を一隻のアヒル丸が駆ける。
その先に待つのは稲妻の光か、それとも水底の闇か……
*△+このすば+▼*
社奉行の本拠地、神里屋敷。
その海岸に、空色の髪をし、淑やかな雰囲気を纏う姫君――神里綾華が足を運んでいた。
彼女は、稲妻における重要な役職である社奉行の要人であるから、様々な祭事や雑事を取り仕切っている。
幼げがあり清廉ながらも、着物に独特な甲冑を付けた姿は、正しく神里家の令嬢然たる佇まいと言えるだろう。
しかし、そんな彼女も不意に、ぎゅうぎゅう詰めになった時間の合間を縫い、こうして近くの海岸に足を運ぶ事がある。
その瞳が見つめるのは、海の向こうにある異国の地か……
はたまた平和になった先の稲妻を夢想しているのか……
目狩り令を始めとした、度重なる重圧が稲妻そのものすらも押しつぶそうとしている。それを憂う姫君は、ため息一つ。
「はぁ……こんな事ではいけないのに……」
常日頃から、規律を重んじ、礼儀正しく振舞っていても疲れない訳ではない。
こうして一人になった時くらいは、気を抜いても許されるだろう。だが、綾華のそんな陰鬱とした気分も、視界の端に移ったおよそ見慣れない『者』によって吹き飛ばされる。
「――あら?」
波打ち際に、仰向けに転がる少年。
洋装をしたその者の姿は、伝統的な稲妻民の装いではない。どちらかと言えば、モンド人のそれに酷似している。
どうするか迷ったが、綾華は意を決して、その者に近付くと一際慎重になって肩に触れた。
「この方、漂流してきた外国の方でしょうか?意識を失っているようですけど……あの、大丈夫ですか?」
ピクリとも動く様子のない少年はうつ伏せに倒れていて、綾華は触れるのは危険だと理解しつつも、放っておく事は出来ず、少年を抱き起こした。すると、その顔を見て血相を変える。
「……っ!酷い顔色……」
長く海を漂流した為か、顔は真っ青で肌も冷たい。しかし、脈は正常で息もしている。
まだ、すぐに治療すれば助かる。その確信は、迂闊な行動は控えるべきという白鷺の姫君としての自制心を押しのけた。
「少し、失礼します」
綾華は少年を背負うと、屋敷の方向へと急ぐ。
「絶対に助かりますから……もう少し、頑張ってください!」
この時、もしも少年に意識さえあれば、こんな美少女に背負われ、心配されるという情けなくも役得な状況に、喜色を上げていた事だろう。
しかし今回ばかりは、そうでないのが幸運だった。
何せ、この少女を相手に初見でそんな無礼を働けば、くせ者として即座に投獄されていた可能性すらあるからだ。でも、現実にはこうして少女が懐に、少年――サトウカズマを招き入れる状況が出来上がっている。
少年を襲った不運のもたらした結果であるものの、よもやこの出会いが稲妻の趨勢を変える大きな邂逅になるとは……
綾華も、そしてカズマも知るよしもない。
はい、先に言うと、カズマは結局船から投げ出されて漂流しました
その辺の詳細な描写は次回に