この素晴らしいテイワットに祝福を!   作:グランドマスター・リア

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タイトルおもいつかんかった


この賑やかな日々に波乱を

 

鍾離の協力もあって、無事ヴィシャップさんをぶっ倒す事が出来た俺達。という訳で、晴れて当分の間は借金に怯える心配もない。

思えば、ここまで長かった。

 

来る日も来る日も……寝て起きては、休むこともなくクエストをこなして。ボロボロになる日々……でも、そんな酷い日常にもおさらば。これまでの疲れを全てぶちまけるべく、鍾離に紹介された万民堂へと足を運んだ。

そこは璃月でも有名な飯屋らしく、夜間は酒場としても解放されている。

 

璃月に着いてから一か月は経ったが、何気にこれが初めての酒盛りだったりする。案の定、そこにはこの街で知り合った冒険者達が居た。

 

「おお!カズマ達じゃねぇか!たく、ようやく酒場に来やがったな?借金はどうにかなったのか?」

 

「おう!一先ずはな?今日はたまりにたまったもんぶちまけるぞぉー!!」

 

タルタリヤのお陰で諸々クエストで稼いだお金が消えることなく懐に入ったので、飲み代を気にする必要はない。

港町な事もあって、飯は美味いし、酒もイケる。モンドの果実酒もなかなかだったが、こっちも捨てがたい。シュワシュワの味が恋しくなる今日この頃だが、そこは帰るまでのお楽しみといった所だろう。

 

「ひゃっはぁあああ!」

 

てな訳で、久しぶりにむさくるしき男達と騒いでいる。

 

「ハイ、花鳥風月ぅ!」

 

「「「「うぉぉおおおお!!」」」」

 

アクアの宴会芸も相まって、場はめちゃくちゃに盛り上がっている。

これだよこれ。冒険者としてやっていく楽しみの一つはやはり、こうして酒を飲んで馬鹿共と馬鹿騒ぎするのが、こうファンタジーの酒場という奴だろう。

 

「おーい、カズマ!あれやってくれよぉ!」

 

そう言って、璃月で仲良くなった冒険者の一人がハンカチをひらひらとさせて俺に手を振っていた。

 

「よっしゃあ、いいぜぇ!やってやるよ!」

 

やっぱこれをやる時が一番腕が鳴るぜ。

さあ、俺の絶技に唸りな!

手を伸ばしてハンカチに向ける。と、同時に万民堂の扉が開いた。

 

「今日も疲れたなぁ」

 

「あ、今日はカズマもい――」

 

現れたの宙に浮く非常食ことパイモンと、金髪ショートの天使、蛍。

だが、俺は止まらない。スキルは既に発動した!

 

「スティール!!」

 

俺の手の内が光り輝く。

その瞬間、盗賊スキル『窃盗(スティール)』が発動し、その対象はハンカチではなくその後ろに現れた蛍へと移る。

 

「ふぇ?」

 

蛍は目を丸くした。しかし、今俺の手の内には特有の柔らかな布地の感触がある。

わざわざ確認するまでも無いさ、でも敢えてッ!俺はその手を開き、その白き布を両手で広げて掲げた。

 

「い、い……いやぁぁぁああああ!!」

 

涙目で顔を赤らめ、震えながらスカートを押さえて悲鳴を上げる。

 

「「「「うおぉおお!」」」」

 

「いよっしゃぁあああああ!」

 

上がる歓声。

直接は関与しない姿勢を見せるガヤ達も、この俺の早業絶技には騒然の様子。口々に「流石カスマ……」「クズマの名に恥じねぇな」「あの蛍さんを相手にこの鬼畜ぶり。ゲスマだぁ……」と暴言、罵り、罵詈雑言の嵐が巻き起こる。

 

「さあ蛍!このパンツを返してほしくば、涙目で跪いてこの俺を『ご主人様』と……!」

 

「こ……」

 

「ん?何だって?」

 

よく聞こえなかったので聞き返す。

すると、俯いてプルプルと震えていた蛍がキッと俺を殺意のこもった目で睨み付けた。そして……

 

「『荒星(こうせい)』!」

 

「ぬぁにぃ!?ぎやぁああ!!」

 

蛍怒りから放たれた渾身の岩撃によって俺はあえなく吹き飛ばされ、幾つかのテーブルをなぎ倒しながら万民堂の壁に直撃。

そこには俺の手から落ちたパンツを恥ずかしそうに履きなおす蛍と、気絶した俺をゴミを見るような目で見つめる冒険者達の姿があったそうな。

 

 

 

*△+このすば+▼*

 

 

 

十億モラはタルタリヤの手によってしっかりと支払われた事で、晴れて俺達の地獄の借金返済生活は一つの区切りを見せた。

それによって一週間の休暇を得た俺達は、それまでの過密労働の分のたっぷりと羽を伸ばした。その間にも各々が各所で馬鹿をやったせいで、俺はその半分をその対応に追われる事になった訳だが……

 

という事で、休暇終わり最初の依頼――温かな日差しの昼下がり。

背の高い山々に囲まれた絶雲の間。そこに空気を震わせる爆裂の轟音(・・・・・)が鳴り響く。

 

*△+【クエスト】『絶雲の間』に巣食う雷スライムを討伐し、絶雲の唐辛子を守り抜け+▼*

失敗

 

その日の夕方、酒場として解放された万民堂の一角。テーブルの一つには四人のボロボロの冒険者が座っており、どんよりとくらーい雰囲気が漂っていた。そして、酒場の中で耳に届くのは他冒険者の話し声。

 

『聞いたか?明日からしばらく、唐辛子を使った料理は出ないらしいぞ?』

 

『嘘だろ!?香菱さんの唐辛子料理は、今や毎日の楽しみだってのになぁ……』

 

『何でも、頭のおかしい炎元素使いのせいで群生地の山一つごと吹き飛んだってよ』

 

などなど、酒場の中は大方そんな話題に溢れていた。

やれ『絶雲の間の山が一つ消し飛んだ』『唐辛子もろともスライムを全滅』と、本来ならそんな荒唐無稽な話は噂に尾ひれがついて広まったと考えるのが普通だ。しかし、俺、サトウカズマはその噂が誇張抜きの事実である事を知っている。

 

「……お前、ホントいい加減にしろよ!雷スライムが思いの外多くて?考えなしに爆裂魔法打ち込みやがって……山ごと唐辛子吹き飛ばしたら意味ないじゃねぇか!?あんなの0点ですらおこがましいわ」

 

「はぁ!?どう見積もっても今回の爆裂は百二十点はありましたよ!この世界に来て以降最高の出来です!これだけは胸を張って言えます」

 

「採点対象外だ、つってんだよ!!無い胸張って何様のつもりだコラ!」

 

『七天神像』の時といい、別世界に来てまで全てをパーにしないと気が済まないのかこいつは?

 

「お、おいカズマ。流石に言いすぎだぞ?確かに結果は散々だったが、あの時めぐみんが爆裂魔法を撃たなければ……」

 

「それで俺達の信用もろとも破壊し尽されちゃ、世話ないんだよ!大体、スライムがたかってきたのは、お前が次々と群れに突っ込んだからだろうが!真正のドMも大概にしろよこのヘッポコクルセイダー!」

 

「ひゃうんっ」

 

襲い来る罵倒の数々に頬を朱に染めるダクネス。

 

とまあ、前述した理由のせいで俺達は多額の賠償金を払わされることになった訳だ。

これによって少し潤った懐は空っぽに……更に借金を背負う事になってしまった。冗談じゃない。悪夢かこれは?

 

「ねぇカズマさん……また借金増えたんじゃないの?いやよ、もうあんな生活は!折角街でゆっくり出来る様になったのに、もうあんな地獄の日々は嫌ぁ!」

 

こいつもこいつで一々人をイライラさせなきゃ気が済まないのか?

いつもの如く刻晴の所に謝りに行った俺が、いったいどんな罵倒をされ、嫌悪的な表情を向けられたか……なのにその苦労も知らずに好き勝手いいやがって。ふざけんな、泣きたいのはこっちだ。

 

「おうち帰りたい!もうおうち帰りたいッ!これ以上借金が触れたら、私達ひものになっちゃうわ!水の女神が干からびちゃってもいいの!?」

 

「うるさーい!大体借金の理由の殆どはお前らだろうが!?ギャン泣きしてる暇があったら、金返す方法を少しでも考えろよ!」

 

住む家も無ければ、働けど働けど金は減るばかり。

折角ちょっとはまともな世界に来たと思えば、ちっとも良い思いなんてしていない。むしろ、俺の今置かれてる状況はその逆ッ!涙ちょちょぎれる思いの中、四人で囲むテーブルは何故こうも悲哀を奏でるのか。

その真相を知るために俺達は、アマゾンの奥地に向かう……

 

(はぁ、せめてもう少し実入りが良くなれば話も変わるんだけどなぁ……)

 

何て思考しながら、お手元のスープが体に沁みる。

 

 

 

 

今日も涙をのむ思いをしながら、俺達は酒場を出た。

ダクネスとめぐみんはそのまま宿へ戻ったが、俺とアクアはそのまま床につく気にもなれず……璃月港の船着き場に来ていた。潮風を感じながら、体育座りで水面を眺めていると、とてつもなく虚しい気持ちになってくる。

 

「カズマさん。私、考えたのよ。このまま海に飛び込めば、魚になってアクセルに帰れるんじゃないかって……それに魚になれば、もう借金に怯える事もないもの……」

 

この女神、遂に神の威厳だけでなく人の尊厳までかなぐり捨てたらしい。

だがそんな時、俺達に声を掛ける者が居た。

 

「えっと……君達、こんな所で何してるんだい?」

 

振り返るとそこには、茶髪のイケメンこと俺達の命の恩人タルタリヤが立っていた。

またの名を、今この状況で俺が一番追い求めていた救世主。

 

「た、タルタリヤ!いい所にッ!」

 

バッと立ち上がってタルタリヤに掴みかかる勢いで、詰め寄る。すると、彼は何とも微妙そうな表情で苦笑いを返した。

 

「あ、いや少し私用から帰ってきた所でね?それにしても、君からそう良い笑顔で詰め寄られると、そこはかとなく嫌な予感がするんだが……念の為、今回は何をやらかしたのか聞いていいかい?」

 

と、聞かれたので……俺は事の経緯を詳らかに話した。

話し終わったと同時に、タルタリヤは破顔し腹を抱えて爆笑した。

 

「あ、はははっ!!そうか、今度は絶雲の間の山か……凄いね、ますます君達への興味が湧いたよ」

 

「笑ってる場合じゃないんだって!このままじゃ、借金が山のように積み重なって俺達は大変な事になるんだ!」

 

「そうは言ってもねぇ。助けてあげたいの山々だけど、俺も今は立て込んでいるから、生憎と手は貸せそうにないんだ」

 

そう言えば、タルタリヤはスネージナヤって国のお偉いさんで、幹部職につく彼はそれはもう馬車馬のように働いてるとの事。

前はその仕事を手伝う事でどうにか借金を返済してくれたが、そう何度も都合よくクエストの斡旋は出来ないという事だろうか?

 

「そ、そこを何とか!さっき、私用で出かけてたとか言ってただろ?お前の任務を俺達で手伝うから、どうにか手を打ってくれないか?」

 

「うーん、今回ばかりは君達でもどうにかするのは難しいと思うけどね……まあ、物は試しか。実はその案件というのが、これ(・・)に関する事でね」

 

言って、タルタリヤは懐から一枚のお札のような物を取り出した。

 

「ん?なんだそれ?お札か?」

 

「これは『禁忌滅却の札』と言ってね。仙人の力が込められた神札で、遥か昔に岩神モラクスが作り人間に与えたものなんだ。これはそのオリジナルなんだけど……訳あって、俺達はこれを量産しようとしてるんだ。でも、流石は神の力が込められた特別な札と言った所で……」

 

更にもう一枚、同じ見た目と形の札を取り出す。

 

「この通り、どう頑張っても出来の悪い贋作しか作れなくてね。これをどうにか本物に近い形に複製してくれれば、借金の返済くらいお安い御用なんだけど……どうだい?」

 

言って、タルタリヤは本物とコピーの一枚ずつを俺に渡す。

だが、当然そんな物渡された所で、仙人とか神の力とかは俺にはさっぱりで「どう?」と聞かれても反応に困るところだ。そもそも、俺にはどっちが本物でどっちがコピーかの見分け方すら分からない。

そこで、いつの間に復活したのか、ひょいっと俺の肩から青髪の駄女神が顔を覗かせた。

 

「あら?それ、解呪の魔法が封じ込められた霊符じゃない?大分力が失われてるみたいだけど、それでもかなりの代物ね」

 

「アクア、これの事わかるのか?」

 

聞くと、アクアは当然と言った様子で返答した。

 

「ふふっ、カズマさん。私の事を誰だと思ってるのよ?この浄化を司る水の女神アクア様に、ただの下位神が作った骨董品くらい見抜けない訳ないじゃない」

 

いつもならその不遜な態度を咎めてひぃひぃ言わせる所だが、今回ばかりはそれをグッとこらえて問い投げる。

 

「へー、それじゃあそんな『アクア様』なら、こんな骨董品を量産するくらい訳ないよな?」

 

「当ったり前じゃない!この私にかかれば秒で瞬殺よ!ちょっとそれ貸しなさい」

 

アクアは俺の手から札二枚をひったくると、本物の方をムムムと見つめた後に今度はコピーの方へと視線を移す。

そして、指先に浄化の光を灯すと、札の上をまるで字でも書くように数度なぞる。やがて札が光に包まれて、アクアは満足そうに頷くと札を俺に返した。

 

「ふぅ……完成よ。我ながら惚れ惚れする出来栄えね」

 

「よし。タルタリヤ、これでどうだ?」

 

得意気に胸を張るアクアを他所に、俺は札をタルタリヤに見せる。すると、彼はまるで信じられない物でも見たかのように目を見開いた。

 

「っ!?これは……失われた仙人の力が復活したどころか、オリジナルよりも遥かに上の力を秘めている。素晴らしい、見事な出来だ!」

 

「本当か!?でかしたぞアクア!」

 

興奮した様子で紡がれる称賛に、アクアは更に調子に乗る。

 

「ふふーん、もっと褒めてもいいのよ?仙人の力が何だか知らないけど……この私の加護を授けた札なんだから、効果はそっちの三倍はくだらないわ!」

 

「確かに、見た限りだとその言葉に偽りはないようだ。それにしても、まさか神の作り出した札を越えてしまうなんて……本当に、君達には驚かされてばかりだよ」

 

つい先ほどまで女神から魚へとジョブチェンジしようとしていた奴の姿とは到底思えない。

タルタリヤは満足気味に首肯すると、人差し指を立てて俺達にこう提案した。

 

「これを後十枚ほどお願い出来るかい?勿論、借金に関しては俺が責任を持ってどうにかするし、更に上乗せで一枚につき百万モラ支払おう」

 

「百万!?よーしアクア、じゃんじゃん作ったれ!」

 

「まっかせなさい!こんなのちょちょいのちょいよ!」

 

言って、アクアは上機嫌にタルタリヤから残り十枚の札を受け取って先程と同じように術を施す。

何だろう、今だけはアクアが本当に女神のように見える。ここまでこいつが絶好調なのは、ひょっとするとバニルのダンジョンに調査に行った時以来なんじゃないか?いつもいつも面倒事を増やす厄介女神とはまるで別人だ。

 

「はい、これでおーわりっと」

 

「いやぁ、助かったよ。まさか、こんなに早くに解決するなんてね……報酬は数日後に北国銀行で渡すから、改めて来てくれ」

 

「本当に持つべきものは友達だよな!」

 

今回に関して俺は何もしていないが、このカズマさん、雰囲気に水を差すほど無粋ではない。そして、他人の手柄だろうと遠慮なく乗っかるのが俺だ。

俺達は借金返済の目途が立ち更に臨時収入まではいる。タルタリヤは難航していた仕事が片付いた。まさにWinWinの関係、皆ハッピーでほくほくな状態な訳。

 

「それじゃあ俺はもう行くよ。二人も気を付けて帰りなよ」

 

「ああ、サンキューなタルタリヤ!」

 

タルタリヤと分かれた後、イイ感じにあったまった俺達は一時間前とは打って変わって上機嫌に宿への帰路を辿る。

 

「ねぇねぇカズマさん?今回は私、頑張ったわよね?私のお陰で借金だってどうにかなったんだし、臨時収入は私の多めに貰っちゃってもいいわよね?」

 

「いいっていいってそれくらい♪そんな事よりさっさと帰って祝い酒にでもしようぜ!」

 

そうはもう滅茶苦茶に軌道に乗っていた。

借金が無くなった今の俺達に敵は居ない。魔王軍幹部だろうと、機動要塞デストロイヤーだろうと怖くはない。例え明日、この璃月港が沈むほどの大事件が起こっても俺達は恐れる事はない。

 

勝った、第三部完。

 

 

 

 

 

と、思っていた時期が俺にもありました。

その翌日、俺達は目にする事になる。璃月港を襲う嵐と、遠くの海に姿を見せた巨大な化け物の姿を。ヒュドラのような幾つもの首を持つとてつもなく巨大な水のモンスター。それがこの璃月に向かって侵攻中。この世の物とは思えないほどの厄災を前に、俺は璃月港の地に膝をついて叫んだ。

 

「な、なんじゃこりゃああぁぁああ!!」

 

俺達の冒険はまだまだ始まったばかり。サトウカズマの明日に待つのは光、それとも闇。




次回で本編の璃月編は最後です
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