この素晴らしいテイワットに祝福を! 作:グランドマスター・リア
そして稲妻編開始のプロローグです
見覚えのある空間。
そして、見覚えのある光景。
椅子に座らされた俺は思う。嗚呼、俺はまた死んでしまったんだな。と……そして、死んだという事は送られた先も当然ここ。目の前に座して、めちゃくちゃ気まずそうに目を泳がせている銀髪の美少女は、幸運の女神エリス様だ。
死ぬ直前の事はよく覚えていて、俺は魔神に突っ込んだ後、よく分からないが色んな衝撃をその身に受けてあっさりとくたばった。だから、正直魔神はちゃんと倒せたのだろうか?とか、まあ気になる事は色々とある。
しかし、それよりもまずやるべき事がある。
「あの、エリス様……」
「はい、何でしょうか」
めちゃくちゃ返答の声音が平坦である。俺は椅子の上で縮こまったまま、誠心誠意頭を下げた。
「毎度まいど、すみません」
本当にこの一言に尽きる。
死ぬ度に、色々とこの神様には迷惑かけてるが、まさか別世界に飛んできてまでこんな事になるなんて……
そんな俺にエリス様はため息交じりに返す。
「はぁ……カズマさん。いつも言ってますけど、もう少しご自身の命を大切にしてください。今回はまた運よく体が残っているので、いずれアクア先輩がすぐに蘇生してくれると思いますけど……こんな事を続けていたら、いずれ本当に取り返しのつかない事態になりかねませんよ?」
「返す言葉もございません」
普段の俺ならそんなお小言にも口を尖らせて言い返すが、エリス様は俺にとって貴重な正ヒロイン枠。
俺の事をこんなにも気にかけ、死んでしまった場合は何度目であってもそれなりに悲しんでくれる。俺がこの異世界で頭の上がらない、数少ない人――いや、エリス様は神だけど……の一人なのだ。
「それに、今回はケースも輪をかけて特殊なので、カズマさんの魂を私の所まで導くの……それなりに大変だったんですよ?」
そう言うエリス様に、俺は首を傾げた。
「特殊って、いつもと何か違いありましたっけ?体は残ってるんですよね?」
呑気にそう訊くと、エリス様は呆れたような、それでいて恨めしそうな目を俺に向けた。
「……ご自身が今いる場所の事、もう忘れたんですか?」
「今いる場所って……あ、そうか。俺いま、別の世界に居るんだった」
テイワットはエリス様の管轄する世界とは別の世界だ。
ならば、日本の管轄がアクアだったように、テイワットにもそこを担当する神……確か、アクアやウェンティが『天理』とか呼んでた奴が死者の転生も取り仕切っているはずだ。
「そうです。漂流してしまった経緯は、この際おいておくとして……向こうの世界で死んだ場合、カズマさんが死んだ後会うのは本来なら私ではなく……天理というテイワットを管轄する女神のはずなんです」
だが、現実にはそうなっていない。
今こうして、俺はいつも通りエリス様を顔を合わせている。
「だったら、何がどうなって俺はここに?」
「……詳しく話せば長くなるので、ざっくりと説明しますね?今あの世界の輪廻転生は天界規定通り……つまり、女神の手では行われていないんです。輪廻も、転生先も、全てが機械みたいに自動化され、仮に死んでも死者が彼女と会うことありません。その為――」
「すみません。もう少し簡単にお願いします」
「…………端的に言うと、職務放棄の引きこもり状態。という事です」
途中で話がややこしくなってので、非常に申し訳ないがもっと話を噛み砕いてもらった。本日何度目かの疲労の目を彼女から向けられた気がしたが、分からないものは仕方がない。幾ら神と関わりがあると言っても……
俺は別に天界の規則に詳しい訳でも、用語を瞬時に理解できるほど頭が良い訳でもない。
ほら、分からない時はまず訊けってよく言われるしな。
まあだが、それはそうと……
「え?何すかその神?ふざけてるのか?」
一番ナッシングなのは、その職務放棄しているとか言うニート女神の事だ。
俺達は訳も分からずテイワットに飛ばされて、とんでもない思いをしたと言うのに……肝心の管理者は職務放棄?到底、笑って流せる話じゃない。
「私だってそう思いますよ!でも、あの子ったら何度交信しても、自分の世界に引きこもってうんともすんとも言わないんです!私の方が先・輩ッなのにぃ!」
「お、落ち着いてくださいエリス様!?キャラ崩れてますって!」
俺自身のイライラよりも先に、エリス様が爆発するのは予想外だった。
流石に正ヒロイン枠がアクアみたいに色物な姿を見せるのは忍びないので、必死に彼女を宥める。
「はっ…コホンッ!すみません、取り乱しました……まあ、彼女がそんな風にさぼっているお陰で、カズマさんの魂を比較的楽にこっちに持ってこれたんですが……」
すると数秒ほどで冷静さを取り戻したエリス様が、一つ咳払いをしてそう述べた。
とは言え、何故こうもまともな精神をしたやつというのは、この世において少数派なのだろうか?ごくつぶしの駄女神に引き続き、今度はニート女神と来た。あのアクアですら、体裁だけでも真面目に仕事はしていたというのに、それすらも放棄した真正のごくつぶし。
正直いって、想像もしたくない。
「とまあ、事情というのはこんな所です。結構長々と話してしまったので、そろそろでしょうか?」
エリス様のそんな言葉とほぼ同時に、その空間に光が差し込む。
『カズマさぁん!リザレクションかけたから、もう戻ってこれるわよ!』
「おう、分かった!……それじゃあエリス様、俺もう行きますんで」
いつものような感覚でその光の下に立つと、体が浮き始める。そんな俺をこれまたいつものようにエリス様が見送る訳だ。ただ、今回は送り出しの
「
それはまるで、子供の帰りを待つ親の様な、そんな雰囲気だった。だから俺は、まるで家から出かける時のような呑気さでグッとサムズアップした。
「もちろん!そのニート女神は、この俺が一発ぶん殴って来ますんで、エリス様は安心して待っててくださいよ!」
「ふふっ、ええ期待してます」
こうして俺は蘇生の光に導かれ、再びテイワットへと戻っていくのであった。
*△+このすば+▼*
璃月での決戦も終結したという事で、近況をざっくりと話そうと思う。
まず、俺はアクアによって孤雲閣から引き上げられ、蘇生された。のだが、俺が生き返った時にはすでに渦の魔神との戦いから二日もの時が経っていたのだ。
俺が渦の魔神に突っ込んで結界の核を強奪した後、『新帰終機』とめぐみんの爆裂魔法による連続攻撃で、一時は魔神を完全に討伐したかに思えたが……やはり、そこは流石の魔神といった所で、奴はなおもしぶとく生き残って逃げようとしていたのだ。
その機を逃せば、魔神を倒すどころか、まともに反撃できる千載一遇のチャンスすらも無駄にしてしまう。
故に、凝光は群玉閣を落として、それを楔に魔神を再び孤雲閣の下に封印するという苦渋の決断を下した。
この目論見は蛍の力もあって上手くいき、再び魔神が封印された事で、璃月での決戦は終結を迎えた。
そして、ここからは俺が生き返ってからの話だ。
無事帰還した俺を、冒険者ギルドの奴らが総出で出迎えてくれ、またいつかみたいに万民堂を貸し切って馬鹿騒ぎした。
因みに言うと、俺が一度死んで、アクアに蘇生された事などは皆には秘密だ。
――決戦の際に捨て身の特攻をし、運よく生き残った所をアクア達に救出された……という事になっている。少し無理矢理な気もするが、変な誤解を招くくらいならこれが一番良い。
後はまあ、店の物を壊したり、性懲りもなく蛍のパンツをスティールしてぶん殴られたりと色々あったが、やはり戦いの後は宴に限る。
酒に美味い飯で、俺達の祝勝会はたけなわに過ぎ。
後に待つのは、魔神討伐の報奨金に関する事だった。
翌日の冒険者ギルドで、俺はそこに訪れた璃月の美人管理者こと凝光によってこう言い渡された。
「先の決戦において――渦の魔神オセルの撃退に多大な貢献をしたとして、冒険者サトウカズマさん一行には……璃月七星『天権』凝光の名を持って、六百億モラを進呈いたします!」
「「「「ろ、六百億ぅ!?」」」」
ギルドはもうお祭りなみの騒然に包まれた。
それもそのはずで、何しろあの七星『天権』の名で恐れられる凝光が直々に冒険者ギルドに赴いて、俺にそう言ったのだ。
「それって、七天神像の賠償金の倍近い金額じゃねぇか!?」
「ふふっ、驚くのも分かるけど……あの渦の魔神オセルを退けた報酬としては、むしろ少ないくらいよ?」
驚いたのは当然、俺だけでなくアクア達もだ。
めぐみんとダクネスに至っては、あまりの現実味のなさにコメントする余裕すらないし、アクアはなんかもうよくわからんが白くなっていた。
「い、いやぁ……でも、群玉閣の修繕費とか、諸々込みで凝光も立て込んでるだろ?そんなに渡しちゃって大丈夫なのか?」
俺にはこの報酬を素直に受け取れない理由がある。それは、まず渦の魔神復活の原因が俺とアクアにあるからだ。事情を知らなかったとは言え、危うく璃月を転覆させかねない犯罪を犯したのには変わりない。更にタルタリヤから金まで受け取って、借金の返済に使ってしまっている。
これもう、完全な黒。
国を巻き込んだ盛大なマッチポンプに他ならない。六百億なんて大金受け取れる訳がない。
「だからこそ、この金額になったのよ。確かに、七天神像の修繕費を差し引けば、その半分になってしまうけれど……これは、今の私達が見せられる最大限の誠意でもあるわ」
「それなら、七天神像の賠償金の補填だけで結構ですから!ホント、そんなに受け取っても使い道なんてないんで!」
ちゃっかり七天神像の修繕費をちょろまかそうとしている事については、触れないで欲しい。それくらいは許してくれ。だが、そんな心情を見透かすように凝光は俺を悠然と見据えていた。
「………あぁ成程。あの事を気にしてるのね?」
「はい?」
得心いった様子で首肯した凝光に、きょとんと首を傾げた。彼女は俺の耳元に顔を近づけて、ゾクリと底冷えするほど甘美な声音で囁く。
「あなたとアクアさんが、ファデュイに協力した件に関しては、こちらも既に把握済みよ?今の言葉は、その上でこの金額という意味……これは七星の面子と、あらゆる損得を差引した正当な数字なの」
「ふぁっ!?」
とんでもない事実に心臓の鼓動が早くなる。
凝光は顔を離して再び正面に立つと、満面の笑みで言った。
「受け取ってくれるわよね?サトウカズマさん?」
「は…はい」
勿論、断れるはずもなかった。
てな訳で、報奨金(口止め料の差引とか諸々含む)を受け取った俺達は、せめてもの償いにと群玉閣の修繕を協力。
そんな風にゴタゴタを処理していると、気が付けば璃月での決戦から半月もの時が経っていた。タルタリヤに文句を言いに行ったのは当然の事として――『送仙儀式』の後に、鍾離から自らが岩神モラクスであった事を告げられた時は驚いた。
と同時に、やはり神とか言う存在は大なり小なり頭のネジがぶっ飛んでる事を再認識した。
とは言え、それらも全部片付け終わったなら、次なる旅に出るのが冒険者というもの。
特に俺達は、七神全てを探した末に『天理』に会う必要がある。だから、次なる行き先は璃月の海上隣国である『稲妻』となるのだが、ここで問題が発生。それは今、稲妻で行われているという出入国の一切を禁じる『鎖国令』だ。
「――どうするんですか?このままじゃ、雷の神を探すどころか、そもそも国に入る事すら出来ませんよ?」
雷の神バアル。別名、雷電将軍。
更に幕府の定めた鎖国令と来れば、やはり想像するのは日本史だ。ここまで酷似しているともはや神の悪戯を疑うばかりだが、これによるアドバンテージを活かさない手はない。
「いいや、めぐみん。方法ならあるぜ?それもとびっきりの奴がな?」
「ほう、何か考えがあるのか?」
その返答に対して、ダクネスが興味ありげに唸る。
曰くペリー来航によって、止む無く幕府は鎖国の体を崩さざる得なくなった。
俺達には黒船艦隊などという大層なものは用意できないが、要するに入国さえできれば、割とどうにかなるという事。鎖国中の日本も、外に出るのは難しいが中に入るのはそこまで苦難ではなかったようだし、これは案外簡単にいくだろう。
ならば、やりましょう――
「当然。……さあ、盗賊スキルの本領発揮だぜ。皆でレッツ密入国だ!」
次回から稲妻編です
その前にもしかしたら世界任務とか挟むかもしれないし、挟まないかもしれない