身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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16歳-28 プレイオフ決勝戦 第七戦⑥

・セバスチャン

 

ジェイコフが放ったシュートは、ゴールリングへと吸い込まれていった。

私は審判に向かって勢いよく手を挙げ、タイムアウトを要求する。

 

ブザーが鳴り、試合が止まった。

選手たちが汗に濡れた顔でベンチに戻ってくる。

みな息が上がっているが、目はぎらついており、まだ死んでいない。

いいぞ、その気迫だ。

 

残り2分。

スコアは99-103。

あと4点。

しかし、この4点がどれだけ重いかは、コートに立っている選手たちが一番分かっているはずだ。

 

「よくここまで差を縮めた!あと2分だ、ここが正念場だ!」

 

私は力強く言い放つ。

ネルソンとエンソ、フランクはベンチに座って荒い息を吐いている。

ダイはタオルを首にかけながら、水を一気に流し込んだ。さすがの彼も息が荒い。

メディカルスタッフを見ると、ルーカスの足の筋を延ばしながら、水を手渡している。ふくらはぎが軽く痙攣しているようだ。

 

全員、極限の状態だ。

だが、まだ終わっちゃいない。

私はホワイトボードを取り出し、素早く戦術を描きながら指示を出す。

 

「次のポゼッションだが・・・ネルソンとの交代でアントニオを一時投入する。ダイにマークが集中しているが、この時間帯でアントニオをコーナーにおけば、相手の注意が分散できるはずだ。アントニオを囮にして、ダイがスリーを打つんだ!」

 

私の作戦に、ダイは大きく頷いた。

まるで迷いがないな。

頼もしい限りだ。

 

「アントニオを入れた後、ディフェンスはどうするんだ?」

 

ルーカスがすかさず聞いて来た。

 

「こちらのオフェンスが終わったら、一度ファールで試合を止めてくれ。その間にネルソンとアントニオは交代だ。そこから試合終了までは、スーパーBIG5でいく。スーパーBIG5で試合を決めるんだ!」

 

私の宣言に、ルーカスが頷く。

 

タイマーを見ると、9という数字が見えた。

タイムアウトの時間はもう終わりのようだ。

 

「その後のオフェンスについては、もう指示する時間はない。ダイに全てを任せる!」

 

私の言葉を聞いて、ダイが口元を緩めた。

 

「任せてくれ。必ず点を取る」

 

ダイの自信は揺るがない。

ラッセルがどんなに迫力があるディフェンスをしてこようと、マルティンがどんなに高くブロックに飛ぼうと、冷静に点を取ることができる。

だからこそ、彼にクラッチタイムを任せることができるのだ。

だからこそ、彼は世界最高のプレイヤーなのだ。

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り響く。

 

もう余計な言葉はいらない。

私は全員の顔を見回し、拳を握った。

 

「まだ4点、負けている。だが、最後に勝つのは我らがラバリアだ。そうだろう?」

 

「「「「「ああ!!」」」」」

 

全員の声が響く。

私たちは円陣を組み、拳を突き合わせた。

 

「いくぞ、ラバリア!!」

 

「「「「「おお!!」」」」」

 

掛け声とともに、選手たちは立ち上がり、コートへと向かう。

さあ、あと2分。

勝利をもぎ取る時間だ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

体がかつてないほど重い。

筋肉の疲労は既に限界に近い。

もう、俺の中に殆ど余力は残っていないだろう・・・

 

だが、体の中にある熱は、かつてないほど滾っている。

筋肉で動くんじゃない、魂燃やして動くんだ!

 

「一本取るぞ!!!」

 

「「「「おお!!!」」」」

 

俺の呼びかけに、ルーカス、フランク、エンソ、アントニオが魂の籠った声で応える。

まずは、セットオフェンスだ。

アントニオを囮に、点をもぎ取ってやる!

 

俺はクイックターンでラッセルのディフェンスを剥がすと、ルーカスからボールを受け取った。

そのまま、自陣までボールを運んでいく。

 

センターラインを越えると、ラッセルとマルティンが俺にダブルチームを敷いてきた。

アントニオはジェイコフがマークし、ゴール下はダニエルとマウリカがゾーン気味に守っている。

突然のアントニオ投入にも慌てず、最良のディフェンスを組んできたな。

くそっ、嫌になるくらいに冷静な対応だ。

 

俺はスキップフェイントを入れながら、二人の動きを伺う。

フェイントにかかればクロスオーバーで抜き去りたいところだが・・・ラッセルが引っかかる筈もなく、全てのフェイントに適切な距離で対応してくる。

まずいな、隙が無い。

 

だが二人とも、俺の目線や体の向きにかなり敏感に反応しているようだ。

やはりアントニオが気になるのだろう。

攻めるとしたらここだ!

 

俺は左前にドライブフェイクを入れた後、クロスオーバーを使い後ろに切り返した。

そして、右手で右コーナーに居るアントニオにパスを出す・・フェイクを入れた。

マルティンがオーバーにパスコースを塞ぐ!

ここだ!

 

俺はボールを引き戻すと、全力でジャンプしてスリーポイントを放つ。

ラッセルはフェイクにかからずブロックに飛んできたが、俺の腕には届かない。

 

放ったシュートは綺麗に放物線を描いてリングへと向かい、そのままネットへ吸い込まれていった。

 

「しゃあおら!!!!!」

「これが最強オフェンスだ!」

「あと一点!!!」

「これで102-103だ!勝ってくれ!あの日の雪辱を晴らしてくれ!!」

 

シュートが入った瞬間、観客席からけたたましい程の声援が届く。

いける!

流れはラバリアにある!

 

とその時、ラッセルを見ると、この異様な盛り上がりに惑わされずクイックスタートでボールを運ぼうとしていた。

慌ててファウルで止める。

全く、油断も隙もあったもんじゃない。

 

審判の笛が鳴り、アントニオと交代でネルソンが出てきた。

ここからは、総力戦のディフェンスだ。

世界一の高さを誇るラバリアの守りを見せてやる!

 

ラッセルがボールを運んできたので、俺は少し距離を離した状態でマッチアップした。

シュートを打たれてもブロックができるギリギリの距離だ。

これで、いざとなればジェイコフのブロックにも飛べる。

 

ラッセルはドリブルをついたまま、こちらのディフェンスの動きを見守っている。

レアロは、どうやら時間を稼ぐ作戦のようだ。

 

焦れてプレッシャーをかけてしまいたくなるが、もう一点差なんだ。

慌てる必要はない。

 

残り数秒になっただろうか。

ラッセルが左ウィングの方向にドライブをしかけてきた!

 

正面に回り込んで止める!

と、ラッセルはターンをして、弾丸のようなパスを右コーナーのジェイコフに飛ばす。

まずい!

 

俺は全力でボールを追いかけ、ブロックに飛ぶ。

ジェイコフがクイック気味にシュートを放つ。

 

・・・ギリギリで間に合い、指先にボールがかすった。

 

「かすったぞ!リバウンド!」

 

俺がそう叫びながらゴールを振り向くと、ボールはリングに弾かれて高く上がっていた。

そして、

「うぉぉぉ!!!」

 

雄叫びを上げるルーカスが、リバウンドを確保した!

 

「ルーカス!お前は最高だ!」

「お前がナンバーワンだ!」

 

アリーナが再び歓声に包まれた。

マウリカとジェイコフは、悔しそうな表情でこちらをにらみつけている。

 

 

 

次はこちらのオフェンスだ。

残りは一分弱。

ここは24秒を使うより、早めに攻めた方が良いな。

 

 

俺は何度かドライブのフェイントを入れた後、強引にジャンプしスリーを狙った。

ブロックに飛ぶジェイコフとマルティン。

よし、マルティンの腕が伸びてきた!

 

俺は咄嗟にシュートの軌道を変え、ゴールテンディング狙いでシュートを打ちおろした。

しかし、

 

「まずい!」

 

マルティンが腕を引いた。考えを読まれたようだ。

ボールはゴールヘと向かうが、角度が浅い。

ゴールの前側に当たったボールは、大きく跳ね返ってジェイコフの手に収まった。

 

ジェイコフは、そのままボールを自陣へ走るラッセルへと投げる。

そのボールを俺は全力で追いかけた。

ラッセルがダンクシュートの態勢に入っている!

飛ぶしかない!

 

俺はフリースローラインで踏み切ると、そのままゴールまでジャンプし、ラッセルの手からボールを弾き飛ばした。

 

―が、顔面をボードで強打し、体の制御を失った。

腰から落下する。

自動車事故のような破裂音が、辺りに鳴り響いた・・

 

「いってぇ・・・」

 

腰に激痛が走る。

あまりの痛みに、起き上がることができず蹲ってしまう。

遠くで、審判の笛の音が聞こえる。

 

「ダイ!大丈夫か?」

 

数秒ほどたっただろうか、ルーカスが心配そうな表情で手を差し伸べてきた。

 

「ああ、なんとかな」

 

俺はルーカスの手を取ると、体を引き上げてもらった。

まだ腰に痛みがあったので、体を大きく捻って強引に筋肉をほぐす。

痛みが薄くなった。

危なかった。

俺じゃなきゃ怪我してるとこだ。

 

「ボールはどうなった?」

 

俺はルーカスに尋ねる。

 

「ダイがブロックしたボールを俺が回収したんだが、マウリカとマルティンがエンドライン際でプレッシャーをかけてきてな・・・咄嗟にマウリカの体にボールを当ててコートから出したから、俺らのボールからスタートだ」

 

ニヤリと笑うルーカス。

 

「流石ルーカスだ」

 

俺はそう言ってルーカスとこぶしを合わせる。

とその時、ボールを持った審判がやってきた。

治療や交代をするか聞かれたので、問題ないと回答する。

 

タイマーを見ると、残り23秒。

102-103の一点差。

 

このオフェンスが最後になるだろう。

シュートが決まればラバリアの勝ち、シュートを落とせばレアロの勝ち。

分かりやすくて良い。

 

 

エンドライン付近で、ルーカスからボールを受け取る。

そのまま、自陣へとボールを運んでいった。

 

「一本取るぞ!!!」

 

「「「「おお!!!」」」」

 

俺はいつも通りの掛け声に、魂を込めて発する。

ルーカス、フランク、エンソ、ネルソンがそれに応えた。

 

最後のオフェンスだ。

23秒を使い切って、かつシュートを決めれなければならない。

レッグスルーをはさみながらドリブルを続け、相手の様子をうかがう。

 

あちらも無理にプレッシャーはかけず、この一本を守り切る作戦のようだ。

俺の前にはラッセルがいて、こちらの動きを伺っている。

 

スリーポイントなら、強引に打つこともできそうだが・・・正直、さっきのブロックで足の筋肉を限界まで使ってしまった。

高高度のジャンプシュートは難しいかもしれない。

しかも、俺のスリーポイント成功率は良くて五分五分だ。

何としても点が欲しいこの場面、できればダンクで終わりたい。

 

次の一投がラストショットだ。

リバウンドの必要はない。

ルーカスのスクリーンを使って、ピック&ロールで攻めるか。

 

タイマーを見る。

残り8秒。

いまだ!

俺は手で合図を出し、ルーカスにスクリーンを要求する。

 

が、タイミングがまずかったようだ。

同じ方向に居たネルソンもスクリーンをかけに来た。

スペースが埋まっちまう!

 

俺は咄嗟に右に合図を出し、2人とも右手側にスクリーンを張ってもらう。

突然のダブルスクリーンに、ラッセルが驚いている。

よし、ここだ!

 

俺はスクリーンを無視して、左手からドライブをしかけラッセルを抜き去った。

が、マウリカがヘルプに来た!

 

もう時間がない!

 

俺は急停止すると、渾身の力でジャンプし、ミドルシュートの態勢に入る。

―極限の集中のさなか、世界がスローモーションで流れているように見えた。

 

シュートを打つ俺の右手にマウリカのブロックが追い縋る。

マウリカの右手が、ボールに近づいてゆく。

 

・・・が、その手は届かず、俺の右手の数センチ下を通り過ぎた。

 

「入れ!!」

 

俺は自分が放ったシュートを祈るような気持ちで見つめる。

熱狂していたアリーナが、一瞬の静寂に包まれた。

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

そして

 

 

 

 

 

・・・ボールはリングを擦りながらも内側に落下し、ネットを揺らした。

 

「ブザー・ビーター!!!」

「決まったぁぁぁぁ!!!」

 

シュートが入ると同時に、アリーナ全体が爆発した。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

地響きのような歓声が、アリーナを揺るがした。

全身に電流が走ったような感覚がする。

手はまだシュートの感触を覚えていて、心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。

 

「勝った……勝った!!!」

 

気づけば、ルーカスとアントニオが俺を抱え上げていた。

 

「ダイならやると思っていたぞ!!!」

ルーカスが叫ぶ。

 

「お前は伝説になったんだ、ダイ!!!」

アントニオが興奮しながら、俺の頭をぐしゃぐしゃにする。

 

仲間たちが次々と飛び込んできて、俺は人の渦の中に飲み込まれた。

パブロが泣きながら俺の背中を叩き、エンソが俺の腕を掴んで何か叫んでいる。

 

観客席では、ファンたちが拳を突き上げ、「CAMPEONES!CAMPEONES! OLE, OLE, OLEEEE!!」と大合唱している。

2万人を超えるファンが声を揃えて歌い、アリーナが揺れるほどの大歓声がこだまする。

赤と白のチームカラーの旗が狂ったように振られ、紙吹雪が舞い散る。

アリーナのスクリーンには俺のシュートがリプレイされ続けている。

 

俺たちは歓喜の渦の中にいた。

だが、その中心にいるべき人物がまだ祝福されていない。

 

「監督はどこだ!?」

 

俺の声に応えるように、アントニオが指をさした。

 

「おい、あそこ!」

 

ベンチの端で、セバスチャン監督が呆然と立ち尽くしていた。

勝利の瞬間、俺たちがコートで抱き合い、ファンが絶叫し、アリーナが歓喜の爆発を起こしていたのに―監督だけが、信じられないという表情のまま固まっていた。

 

俺たちは一斉に駆け寄る。

 

「監督ぅ!!」

 

ルーカス、アントニオ、パブロ、そして俺も含めたチーム全員が一気に監督を囲み、ガッシリと抱きしめた。

 

「おいおい、ちょ、ちょっと待て、お前ら……!」

監督が慌てた声を上げる。

そして―

 

「いっけええええええええ!!!」

全員で監督を宙に投げた!

 

「お、おいおい!!」

 

監督が驚愕の声を上げるが、関係ない!!

俺たちは歓声に包まれながら胴上げを続けた!

 

「ラバリア最強!!」

「監督最強!!」

 

俺達の高すぎる胴上げに、どよめく観客席。

ラバリアのサポーターは胴上げされているのが監督だと気づくと、一斉に叫んだ。

 

「セバスチャン!!よくやった!」

「ついにやってくれたな!」

「ありがとう!最高だ!!!」

「ずっと応援してたぞ!35年かかったな!」

「20年前のあの日から、俺はずっと信じていたぞ!」

 

監督への祝福は止まらない。

 

ついにはファンもコートへと降り立ち、監督の胴上げに参加した。

監督はサポーターに胴上げをされながら、アリーナ中を縦横無尽に移動していった。

 

 

 

 

 

歓喜の渦に包まれたアリーナ。

この日、俺達はラバリアの歴史に名を刻んだ。

 

 

 













――――――――
感想やここ好きなどで盛り上げてもらい、ありがとうございました!
ラバリア編はこれにて終了です。
1-2個ほど閑話をはさんで、次節のアメリカ大陸編に移ります。
(投稿ペースは週1前後に戻ります)
お楽しみに!
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