身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する 作:はるあき 007
「いたた」
微かな頭痛を感じて目を覚ました。
まぶたをこすりながら起き上がると、店内はまさに「昨晩の熱狂」を物語る光景が広がっていた。
薄明かりの中、歌舞伎町のネオンが窓越しにちらちらと差し込み、散らばった紙吹雪や破れたバナーがきらきらと輝きを放っている。
昨晩のラバリア優勝を祝うパーティーは明らかに盛り上がりすぎたようだ。
カウンターの上には開封済のシャンパンボトルが何本も並び、その隣には半分空のグラスが無造作に置かれている。
床には折りたたまれた椅子と倒れたスツールが散乱し、どこかのタイミングで使ったであろう金色のクラッカーの残骸が足元に広がっていた。
壁際のテーブルには、片付けるのを忘れたままのピザの箱や、食べかけのサンドイッチが放置されている。
その近くには「優勝おめでとう!」と書かれた手作り感満載のプラカードが斜めに立てかけられていた。
俺は苦笑しながら頭を掻いた。
「どんだけ盛り上がったんだよ…」
そうぼやきながら、テーブルに手を伸ばし、水のボトルを開けて一口飲む。
その瞬間、PCから通知音が鳴り響き、メッセージが表示された。
画面には「昨夜最高だったな!またやろうぜ!」という常連客の一言と共に、酒を片手に盛り上がる大勢のラバリアファンたち(+酔いつぶれた俺)の写真が送られてきていた。
俺は深いため息をつくが、その一方で、ラバリアの優勝祝いという特別な瞬間に店が一役買えたことに、少し誇らしさを覚えた。
「さて、片付けるか…」
と呟きながら、散らかった部屋に目を向けた。
店内を片付ける労力を思うと気が重くなるが、不思議と穏やかな笑みが浮かんできていた。
・・・・
「さて、こんなもんか」
片づけを初めて三時間、ようやくいつも通りの清潔な店内が戻ってきた。
水を飲みながら動いてこともあり、二日酔いはさっぱりと消え去った。
店内の様子も相まって、すがすがしい気分である。
後はコーヒーでも飲めば完全に元の体調を取り戻せるだろう。
俺は湯沸かし器の電源を入れて、一杯分のお湯を沸かし始めた。
「昨日は楽しかったが・・・流石に店を回すのがきつくなってきたな」
そう。
昨日の祝勝会は生涯最高と言っていいレベルで盛り上がったが、同時にこの店のキャスト不足も露呈していた。
と言うのも、唯一の店員である俺がベロベロに酔っていたので、酒やスナックを提供できる人が誰もいない状況になっていたのだ。
昨日は常連ばかりだったので飲食の全てをセルフ式にして乗り切ることができたが、一見さんが多い日ならクレームが出ていただろう。
アルバイトの雇用が急務と言える。
幸い、昨日の祝勝会でエリートサラリーマンの澤田から、有望な子がいるので雇ってほしいという要望を受けていた。
まさに渡りに船といったところだ。
勝利の酒に気をよくしていたこともあり、俺は二つ返事で了承したのだが・・・
よく考えたら、その子の事を何も知らないな。
俺は昨日澤田からもらった履歴書を探し始めた。
しかし・・
「あれ?どこいった?」
探せど探せど、履歴書が見当たらない。
まずいな、片付けをしているうちにどこかにいってしまったようだ。
最悪、捨ててしまったかもしれない。
もしくは、隣のホストクラブに置いてきたか?
「そう言えば、向こうも片付けないとな。明日には営業再開予定だし」
俺はそうひとりごちると、隣のホストクラブに向かった。
直ぐに到着し、やたら重たい入口の扉を開ける。すると、目に飛び込んできたのは昨晩の祝勝会の爪痕――煌びやかな照明の下で、紙吹雪とグラスの破片が床に散乱し、シャンパンの空き瓶が無数に転がっている、そんな光景だった。
「うわぁ……マジでやりすぎたな、これ」
ホストクラブを丸ごと貸し切って行われたラバリアの祝勝会。
全国各地からファンが集まり、まさに狂乱の夜だった。
床のあちこちに転がるクラッカーの残骸。カウンターには飲み残しのカクテル。ソファーには誰かが脱ぎ捨てたジャケットやマフラーが山のように積まれていた。
「これ、清掃業者も断るレベルだろ……」
俺はため息をつきつつ、ホストクラブのスタッフ用のクローゼットから掃除道具を取り出す。モップを手に取り、床の粘ついた液体の跡をこすりながら、苦笑を漏らした。
掃除と並行して履歴書も探すが、一向に見当たらない。
良い発見があるとすれば、ファンたちからのカンパBOXがあったことだろうか。
集まったみんなが使用料代わりに入れてくれたようで、千円札や一万円札が大量に入っている。ぱっと見、数十万円程度はありそうだ。
祝勝会は無料の予定ではあったが・・・、うん貰っておこう。
流石に後片付けが大変すぎるからな。
俺はカンパBOXを鞄にしまうと、店の清掃を続けた。
借り物なので、自分の店よりも丁寧に掃除を行う。
床を磨き、テーブルを磨き、食器を洗い、不要な物を捨ててゆく。
そんな作業を黙々とこなしていると、あっという間に6時間ほどが経過した。
腰は痛いし、手は汚れ放題になってきた。
だが、そのかいあって店内は見違えるほど綺麗になった。
「よしっ、これで問題ないだろう」
滅茶苦茶大変な掃除だが、達成感はあるな。
昨日は楽しかったからな。
それの後片付けだと思えば、苦にならないさ。
もう二度とやりたくないほど、疲れる掃除ではあったが。
「ん?」
最終確認のために辺りを見渡していると、カウンターの隅に片付け忘れたアイスティーを見つけた。
その下には、一枚の紙が敷かれている。
ついに履歴書が見つかったかな?
あれ?
なんか、あの紙動いてないか?
というか、光ってる!?
爆発!?
天地が逆転する。
・
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・
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・
「ファ!?」
慌てて飛び起きる。
辺りを見渡すと、散らかった店内が目に入る。
店内には紙吹雪が散らばり、開封済みのシャンパンボトルが何本も並んでいる。
「夢か・・・」
俺はほっと胸をなでおろした。
・・・え?
いつから夢だったんだ?
ひょっとして、掃除する前からか?
俺は慌ててホストクラブへ向かったが、店内は乱れ放題に散らかっており、アイスティーも履歴書も見つからなかった。
どうやら、全ては夢幻だったようである。