身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する 作:はるあき 007
薄暗い部屋に、分厚いカーテンの隙間から朝の光がうっすらと差し込んでいた。
まるでバターを塗ったかのように、やわらかい光がシーツの上に滲んでいる。
このシーツは高級シルクの極上の肌触りで、体にまとわりつくような重みと、同時に心地よい清涼感を運んでくれている。
「ねむ・・・」
ベッドの中心に沈み込むように寝ていた俺は、ゆっくりと片目を開けた。
見上げた天井には目を凝らさないと見えないほどの、繊細な装飾が施されている。
流石は五つ星ホテル、天井すら高級。
意味がわからん。
逆に腹立ってきた。
「・・・ルームサービスでコーヒー頼むか」
俺は覚醒しきらない意識を奮い起こし、部屋に備え付けの電話に手を伸ばした。
「やっぱここのコーヒーは旨いな」
泥の様に濃いコーヒーを飲むと、徐々に意識が覚醒してきた。
やはり朝のコーヒーは濃い目に限るな。
ここのフロントとはツーカーの仲なので、指定しなくても濃い目で出てくるのが楽でいい。
カフェインによって意識が覚醒するにつれ、昨日聞いた衝撃的な情報が脳裏に蘇ってきた。
NCAA挑戦、NBAでの指名、スキルの封印、どれも非常に重要なことだ。
だが・・・全部一旦置いておこう!!
今日からは正式な休み。
待ちに待ったオフシーズンだ!!
去年は、日本代表の強化合宿とアジア選手権に連行されたおかげで、ろくに休み取れなかったからな。
今年こそは、ゆっくりとしたオフシーズンを過ごすんだ。
ルーカスとアントニオにはマカオ旅行に誘われてることだし、昨年のリベンジとしてマカオ行くのも良いなぁ。
日本に帰ってゆっくりするのもありだ。
院長とは話したいことが山の様にあるし、久々に天下統一のこってりラーメンも食べたい。
もしくは、このパルマ島をじっくりと満喫しても良い。
来シーズンからはアメリカ大陸だからな。
一年半ほど過ごした、第二の故郷を目に焼き付けておきたいところだ。
壁に設置されたスイッチを押すと、窓一面を覆っていたカーテンが動き始めた。
「ウィーン」という駆動音とともに、厚手のカーテンがゆっくりと左右に分かれていく。
やがて全面が開くと、眼前に広がったのは、パルマ島の息を呑むような風景だった。
透き通るようなエメラルドグリーンの海が、遠く水平線まで穏やかに広がり、波が光を跳ね返してはキラキラと輝いている。
その手前には、ヤシの木がゆるやかな風に揺れ、砂浜には朝日を浴びながらジョギングする人々の姿。まだ涼しさの残る朝の空気が、画面越しでも感じられるような爽快さを放っていた。
奥に目をやれば、丘の中腹に立つ白壁の街並みが、淡いオレンジ色の屋根とともにリズムよく連なっていた。
ところどころに並ぶカフェのテラス席には、既にモーニングを楽しむ観光客の姿もある。
見下ろせば、ラバリアの本拠地アリーナもはっきりと見える。
優勝パレードの名残だろうか。まだ撤収の終わっていない紅白の幕や、打ち上げられた紙吹雪の一部が風に揺れていた。
「・・・パルマ島、いいよなぁ」
思わず、ひとこと。
この島で過ごしてきた二年弱が、胸の中に一気に押し寄せてくる。
中学を卒業したその足で、初めてやってきた海外の地。
慣れないスペインでの生活、スペイン語の習得、初めてのプロ選手としての活動。
どれもこれも、簡単じゃなかった。
けれど、楽しく、美しかった。間違いなく俺にとっての“青春”だった。
今日も、パルマ島の朝は眩しい。
――この場所に、また戻ってきたいと思わせる景色が、そこには確かにあった。
「ここが俺の、アナザースカイ・・・」
・・・
いかんな。
オフシーズンとは言え、浮かれすぎている気がする。
だが、パルマ島を第二の故郷だと感じている気持ち、これは本物だ。
よし決めた!
このオフシーズン、まずは2週間、このパルマ島でまったりと過ごそう。
名所を廻りつつ、ラバリアの仲間や地元のファンと交流して、この島のことを記憶に刻み込もう。
そして、その次にルーカス、アントニオと共にマカオに行こう。
昨年行けなかった分も含めて、2週間くらいは滞在したいところ。
盛大に遊びつくすんだ。
最後に、日本に帰って第一の故郷を満喫だ。
院長と語らうも良し、施設の皆と遊ぶのも良いな。
食べたい日本食がいっぱいあるし、田中勇太や伊藤兄弟と遊びに行くのも魅力的だ。
「決まったな」
ワクワクしてきたぜ!
俺の最高のオフシーズン、ここに開幕だ!!!
「♬♪♫♬♪♫♬♪♫♬♪♫~」
・・・
・・
携帯電話から着信音が鳴り響く。
何か・・嫌な予感がするな。
一旦・・・無視してみるか。
十数秒ほど放置すると、着信音が止まった。
そのまま一分ほど待ってみたが、携帯電話が再び鳴ることは無かった。
「たいした要件じゃなかったようだな。ふぅ、焦ったぜ」
俺は思わずそう独り言ちると、携帯電話を開く。
と同時に、「ピピッ」というメールの着信音が鳴り響く。
画面には新着メッセージが表示されたていた。
――――――――――――――
From:院長
大へ
来シーズンはNCAAへ、そして来々シーズンからNBAへ挑戦することになったんだってね。
アデルさんから聞きました。
おめでとう!
というわけで早速だけど、このオフの予定を送るね。
今年は忙しくなるぞ~。
詳細はまた電話で連絡します。
――
7/21(今日)@スペイン
高級ブランド「ガッチ」のCM撮影
※エリザベスさんに付き添いを頼んでます
7/22 移動日
7/23 @フランス
ヘルスケア器具メーカー「グッドウィル」のCM撮影
※アデルさんの関係者の企業です。来季ラバリアで予定されていたサラリー補填のつもりなのかも?
7/24-25 移動日
7/26 @アメリカ
ナブラ大学バスケットボール部 公開トライアウト
7/27 @アメリカ
TOFFFLテスト
※450/500点以上を取ってください
7/28~8/8 @アメリカ
大学入学試験対策
※数学/物理/化学/地理のテストがあります。トライアウトの成績も加味されますが、点数が低いと落とされます。高校三年間の内容を一週間半で詰め込むそうです。
8/9 @アメリカ
ナブラ大学入学試験
筆記テスト&面接
8/10 移動日
8/11 ~ 8/18 @沖縄
バスケ日本代表強化合宿
※この期間は、不規則に日本メディアへの対応、財団の承認処理、アメリカ/スペインメディアへの対応、ワールドカップイベントの対応、テレビ出演、日本企業のCM撮影などの仕事が入ります。
8/19~9/3 @横浜
ワールドカップ開幕
※決勝までのスケジュールを押さえています
9/5 @アメリカ
ナブラ大学 入学式
9/6~ @アメリカ
NCAAでの活動、ナブラ大学での講義受講スタート
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・・・
・・
・
「忙しすぎるだろ!!!」
何だこの過密スケジュール。
一日たりとも休みが無ぇ!
俺のオフはどこに行ったんだ!?
内容もかなり滅茶苦茶だ。
高校三年間を一週間半で復習して、そのまま大学入試に突入するのかよ!
そんなもんできる訳・・・いや、まあ不可能ではないか。
前世はそこそこ難関の国立大学の工学部へ入れたわけだし、その時の知識が割と残ってはいる。
むしろ余裕をもって試験に臨める可能性すらある。
休むとしたらこの期間か?
・・いや、流石にブランクがあり過ぎるな。一週間半はみっちり勉強しなおさないと、入試問題なんて解けない気がする。
落ちたら計画が全てパーだしな。
「入試に落ちて無職になりました~」とか、洒落にならん。
この期間は勉強漬けにするしかないだろう。
他にどっか休めるポイントはないか?
CM撮影は一日かかりそうだし、そもそも一日休めたとて何だ?という話ではある。
強化合宿をサボる最終手段も残されているが、山田コーチがブチ切れそうだな・・・
流石にワールドカップは万全の状態で臨みたい気持ちもあるし。
こないだ思いついた新しいセットオフェンス、田中勇太や伊藤兄弟と練習しておきたいところでもある。
他には・・・無いな。
え、まじか?
今年の俺の休み、無し?
「♪~」
部屋の中に、来訪者を告げるブザーが鳴り響く。
まずい、もうエリザベスさんが来たのか!?
逃げ・・いや。
エリザベスさん怒ると怖そうだし、止めておくか。
ここで逃げたところで、どうせCM撮影は行かなきゃならないわけだし。
エリザベスさんのサポートが無いと、余計に時間がかかりそうだ。
「・・・はーい!今行きます」
俺は残ったコーヒーをがぶ飲みすると、玄関へ向かって歩き出した。
こうして、俺の激動のオフシーズンが開幕した。
ーー
オフシーズンが始まりました。
どこまで描写するかわかりませんが、ワールドカップは詳し目に書く予定。
リアルではNBAプレイオフ決勝のカードが決まりましたね。
楽しみだとは思いつつ、推しチームが居ないので心がオフの補強の話題に持ってかれています。