身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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17歳-6 オフの終わりとワールドカップ

世界一のナイトリゾート、ラスベガス。

 

全てがデカい。派手。ギラギラしてる。

俺みたいなデカブツが街を歩いてても誰も驚かないどころか、むしろ「お前、どこのパフォーマーだ?」って笑顔で話しかけてくる。

既に俺のことを知っている人も居て、「マーチマッドネス楽しみにしてるぜ!」とか、気の早い事を言われたりもした。

 

今回は、そんな最高のオフを振り返っていこうと思う。

 

 

 

まず初日。

ホテルの部屋に荷物を置いて、ルーカスとアントニオと合流した。

ホテル付属のプールで昼間からバカでかい浮き輪に乗って、ジュース片手に日焼けを楽しむ。

見上げた空が嘘みたいに真っ青で、それまでの多忙な日々との落差が相まって夢の中みたいな時間だった。

 

エリザベスさんやルーカスの家族と合流して、BBQを始めたのは確か昼の3時。

それから夜まで、ずーっと食べて飲んで、語って、笑って、バカみたいに羽伸ばした。

印象的なシーンとしては、ルーカスの子供のソフィアちゃん(1歳)が滅茶苦茶かわいかったのと、アントニオがBBQに一家言ある男だったらしく、塊肉をひたすら燻製し続けていたところかな。

数時間のアントニオの努力の末に出来上がった肉は、確かに今まで食べた肉の中で一番旨かった。

・・・BBQって薄く切った肉焼いて終わりじゃなかったんだな。

 

 

尚、俺は移動の疲れもあって夜十時には寝てしまったが、アントニオとルーカスはカジノへ繰り出したらしい。

翌朝、やけにテンションの高いアントニオと、「大きく勝つには一度負ける必要がある。つまり、実質今夜は勝ちだ」とガンギマリの眼で意味不明な事を言っているルーカスが対照的だった。

・・・カジノに行けなかったのは残念だったが、ルーカスを見てると行かない方が良かったのかもしれないと思えてきた。

そもそも年齢的に数年は行けないのだが。

 

二日目はショーを見たんだが、これがまたすごかった。

空中ブランコにレーザー、火炎放射に花火、もはや何でもありの状態。音楽もビートが効いてて、身体の奥がゾクゾクするような演出だった。

流石は世界一のナイトリゾートの街といった感じだ。

 

来年に俺が加入予定のNBA新チーム、このショーに対抗する必要があるんだよな・・・

シュートが入るごとに花火打ち上げるとか、ハーフタイムショーにサーカス団呼ぶくらいしないとインパクトで負けそうな気もしてきたな?

まあその辺はアデルが考えるだろうし、任せるか。

 

三日目の夜には、屋上のナイトプールとバーを貸し切ってアントニオやルーカスと語り明かした。

煌々と光るストリップ通りを見下ろしながら、改めてリーガABCとユーロリーグでの優勝を振り返り、お互いを称え合った。

今回の優勝は、誰が欠けても成し遂げることができない、奇跡のような出来事だったからな。

最初期メンバーで、ラバリアの下地を作ったネルソンとフランク。セバスチャンの説得に応じてまだ知名度の低かったラバリアに加入し、チームのレベルを上げたアントニオやルーカス。そしてベストなタイミングで連絡をくれたルーカスの勧誘に応じた俺。チームに厚みを作ってくれたルーキーのパブロとエンソ、アルフ。

全員のタイムラインがこの一年で奇跡的に重なり、全員が死力を尽くして戦ったからこその勝利だった。

 

誰が何と言おうと、この優勝は最も困難で価値のあるものだと思うし、生涯の宝になるに違いない。

 

来年には俺はNCAA、アントニオはラバリア、ルーカスはNBAのAcers、別々の場所で活動を始めるわけだが・・・いつの日かまた、同じチームでプレイすることを誓い合った。

 

 

 

 

そんな感じで存分にオフを楽しんだ俺だったが、ラスベガスでやるべきタスクもしっかりとこなしていた。

ナブラ大学の入試のため、久々の勉強にも取り組んだ(拍子抜けするレベルで簡単だった、アメリカの大学の“入学は容易で卒業が困難”ってのは、どうやら本当らしい)。

テレビの密着取材もこなして、トライアウトにも参加した。

 

そして何より、ワールドカップに向けた練習だ。

山田コーチから送られてきたセットオフェンスの動きはかなり複雑で、動画を見るだけでは理解できなかったからな。

奨学金の件で連絡先を交換していた安藤君に依頼して現地の大学生を集めてもらい、何度もオフェンスの動きを確認した。

 

安藤君の知り合いの学生たちは流石NCAA所属といった感じで、みな動きが良く、本番に近い速度でセットの練習が出来たと思う。

やはりNCAAの選手は日本の学生とはレベルが違うよなぁ。前世で出場していた大学リーグと頭の中で比較して、強くそう感じた。

まあ令和の時代になれば、留学生増加などにより日本の高校大学のレベルも飛躍的に上がるわけだが。まだ時間がかかるからな。

折角国内のワールドカップやBリーグが盛り上がってるとこだし、高校や大学にも早々にテコ入れをしてほしいところだ。

 

尚、練習に付き合ってくれた大学生たちには、お礼にドナルドホテルの宿泊費を払ってあげた。

大喜びしてプールで遊びまくっていたので、Win-Winの練習が出来たと言えるだろう。

 

 

あ、このワールドカップの件で一つヒヤッとしたことがある。

セットオフェンスの練習をするとき、ついついルーカスとアントニオにお願いしようとしてしまったのだ。

危ないところだった。

あいつら、ワールドカップでは敵なのを忘れていた。

ナイトプールでの出来事が印象的過ぎて、思わず味方かと勘違いしてしまうところだったぜ。

練習は完璧です、でもセットオフェンスがスペイン代表に流出しました!なんてことになったら、山田コーチからシバかれること間違いなしだ。

 

 

さて、そんなこんなでラスベガスでの日々が過ぎていった。

明日からついに沖縄での合宿だ。

 

初日はチーム練習でブリーフィングとセットオフェンスの確認があり、二日目には今季のBリーグチャンピオン“沖縄ドラゴンズ”との練習試合があるらしい。

自国開催のワールドカップ、絶対にメダルを獲得してやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ディーン小林 

 

 

会場は、関係者以外立ち入り禁止の体育館。

外観はどこにでもある地味なスポーツ施設だが、中に入れば空気がピリついていた。

張り詰めた汗のにおい、ボールが床を打つ音、シューズが滑る音、そして時折飛び交うコーチの怒号。

 

「日本代表の練習試合ってのは、こういうもんか」

 

俺はサングラスを外してそう独り言を漏らすと、真剣な目でコートを見つめる。

そして、自分の席を探して歩き始めた。

 

観客席にぽつりと設けられたメディア用の長机。

右端の席には‘ディーン小林様’と書かれた小さなネームプレートが用意されていた。

どうやら、ここが俺の居場所のようだ。

 

指定された席に座った俺は、ノートPCを開き、声を潜めて録音ボタンを押す。

配信はできない。

完全非公開の試合。

だが、山田コーチから「気づいた点があればフィードバックしてほしい」と言われている。

こんな貴重な試合を特別に見せてもらって、「特になかったです」では許されない。

後で何かしら喋れるように、せめて記録だけは取っておこうという算段だ。

 

「うわぁ……マジかよ。これ、全然“練習”の空気じゃないぞ」

 

目の前では、日本代表と沖縄ドラゴンズの選手たちが火花を散らしていた。

特に目を引くのは、やはり代表のセンター・東雲大。

まるで怪獣映画の主役のような動きで、沖縄のPFを背中で押しのけ、軽々とダンクを決めてみせた。

 

「ハハッ……バケモンかよ……!」

 

思わず笑いがこぼれ出る。

自分でも想定外なことに、声には驚きと呆れと・・ほんの少しの恐怖が混ざっていた。

 

「やぁ小林君。試合はさっき始まったところだよ。ギリギリ間に合ったね」

 

声がした方を見ると、U18の代表監督として活躍している佐藤さんが隣の席に座ろうとしていた。

俺が高校生の時にU15の監督だった人で、非常にお世話になった人だ。

思わず背筋が伸びる。

 

「お久しぶりです、佐藤さん。ホテルは余裕をもって出たのですが、バスが遅れてしまいまして」

 

俺は焦って言い訳を開始した。

まさかバスが30分も遅れるとは思わなかったのだ。

沖縄時間があるとは聞いていたが・・・公共交通機関くらいはしっかりしてほしいところだ。

 

「はは、別に責めているわけじゃないよ。私もさっき着いたところだしね」

 

そう言いながらコーヒーを一口飲み、コートに目を向ける佐藤さん。

想定外にやさしい答えが返ってきたな。

丸くなったのか?

いや、監督と選手の関係じゃなければこんなものなのかもしれない。

 

俺もコートに目を戻した。

試合開始5分でスコアは15-4。

沖縄ドラゴンズと言えば、日本代表のスタメンである田中選手有する千葉や伊藤兄弟の所属する静岡を打ち破り、Bリーグチャンピオンになった。日本一のチームである。

流石の日本代表でも苦戦するかと思っていたが、どうやら一方的な試合展開になっているようだ。

 

「・・・なるほどね」

 

終始リードしている日本代表、その鍵は山田コーチの新しい戦術にあるようだ。

近年流行り始めているモーションオフェンス、その中でも東雲選手をインサイドに置いてプレイメイクさせる、いわゆる4 out 1 inの戦術を採用している。

この戦術がドはまりしているのだ。

 

「東雲選手にボールが入ったが最後。ポストプレイでダンクまで持ち込まれるか、田中選手のカットインが決まる。中を固めれば外から伊藤兄弟のスリーポイントが突き刺さる。これは止められないな」

 

沖縄側の最善手は東雲選手にダブルチームしてパスの出所を叩くことだが、東雲選手の視野の広さとパスセンスに翻弄されており、全くうまくいってない。

そもそも226cmある東雲選手相手にプレッシャーかけたところで、スティールは難しいしなあ。

 

考察している間に、コートでは沖縄のPGである郡司選手がスリーポイントを打ち、外していた。

このディフェンスリバウンドを田中選手が確保したとき、矢のような速度で走る東雲選手にパスが渡り、トマホークダンクが炸裂した。

 

「うひゃー、トランジションも強いなぁ」

 

東雲選手が速いのは当然として、田中選手や伊藤兄弟、斎藤選手も良く走っている。

それに、斎藤選手と伊藤兄弟はオールコートディフェンスを敷いているようだ。

沖縄の選手はやりづらいだろう。

 

「スティールされればトランジションで点が取られる、慎重にボールを運ぶのに成功しても、リムプロテクトの上手い東雲選手がゴール下で待ち構えている」

 

悪夢のようなディフェンスだ。

これを崩すには、モーションオフェンスで対抗するか、ピック&ロールで東雲選手をゴール下から引き離すしかないが・・・

 

「ピック&ロール・・・だめかぁ」

 

東雲選手のマッチアップであるブライアント選手が郡司選手にスクリーンをかけに行き、ピック&ロールで攻略。

定番の戦法であるが、東雲選手のドロップディフェンスが上手すぎて何も通用していない。

ブロックが上手すぎて1対2の状況でも守れちゃうからなぁ。

 

「小林君から見て、日本代表はどうだい?」

 

と、第一Qが終了したタイミングで、佐藤さんが再び声をかけてきた。

 

「やっぱり歴代最強と言われるだけはありますね。東雲選手が素晴らしいのはもちろんですが、田中選手も伊藤兄弟も動きが良いですよ。慣れないはずのモーションオフェンスをよく理解できているようです。インサイドのディフェンスも固いですし、殆ど穴が無いんじゃないですか?」

 

俺は正直な感想を伝える。

 

「殆ど・・というと、気になる点があるのかい?」

 

佐藤さんは鋭い目つきで、俺の言葉尻を捕らえて追及してきた。

・・・この辺りは鬼軍曹と言われていた頃と変わらないプレッシャーだな。

 

「気になるという程じゃないんですが・・・ペリメーターディフェンスとスタミナ問題ですかね」

 

そう、まずはディフェンス。

東雲選手が支配するインサイドは固いが、ペリメーターディフェンスは少し弱い。

伊藤兄弟はどちらかというとオフェンス重視の選手だ。

NBAクラスのハンドラーとマッチアップになると、少々厳しい気がする。

最近はガード同士でスクリーンかけて、ピック&ポップでスリーポイントを打つようなセットオフェンスもあるし、強力なシューターにも対抗できるか微妙だ。

 

とは言え・・・

 

「ペリメーターディフェンスの方は、最悪そのままでもイケると思います。ディフェンスリバウンドは確保できていますし、要はオフェンスで殴り勝てばいいわけですから。問題はスタミナの方です」

 

特に伊藤兄弟と田中選手の体力問題だ。

 

フルコートディフェンスの消耗はすさまじい。

通常はセカンドラインナップを用意して、交代しながら使う戦術なのだ。

層が薄い日本代表とはミスマッチな気がする。

 

「そこは山田コーチも悩んでいるみたいだね。でも、簡単にボールを運ばれてはガード陣の勝負で負けてしまう可能性があるからね。フルコートディフェンスでディフレクションを増やしてターンオーバーを誘発し、トランジションで勝負するというのも悪くない気がするのだが・・」

 

なるほど。

山田コーチの気持ちもわかる。

だが、

 

「それでも僕は、ハーフコートで守った方が良いと思いますけどね。ガード陣がやられても、せいぜい外でシュートを打たれるくらいで、リバウンドは回収できますから。そこまで期待値は高くありません。それよりも、体力問題で伊藤兄弟と田中選手が居なくなるのが怖いですよ」

 

特に替えが効かないのは田中選手だろうか。

確率はもちろん落ちるが、シューターは伊藤兄弟の他にもいる。

しかし、2mオーバーでPFにマッチアップできて、トランジションを走れて、モーションオフェンスのカットインが上手い。

そんなのは田中選手しかいないのだ。

 

・・・まあ正確には東雲選手が一番替えの効かない選手だが、彼は体力お化けなので問題ない。

替えなければ良いだけだ。

 

「ふむ・・・それもそうか。田中選手の控えは帰化枠で探したりもしたのだが、なかなかいい選手がいなくてね。ディフェンスについては、山田コーチと話してみるよ」

 

と言うと、佐藤さんはコートへ目を戻した。

 

・・・しまった、俺が山田コーチに言おうとしてた事が一つ無くなってしまった。

日本代表の弱点を他にも探さないと。

 

 

その後も試合は続いたが、他の気づきはあまり得られなかった。

こちらの想定通り伊藤兄弟と田中選手のスタミナが切れ、第3Qの終わりに交代となった。

そして、オフェンスの練度やトランジションのスピードが大きく低下していた。

 

だが、沖縄の選手の方もフルコートディフェンスに疲れたのか、選手が入れ替わっていたのであまり大きな影響はなかった。

東雲選手がポストプレイで控えセンター相手に無双し続けて、気が付けば105-53で試合が終了していた。

選手層が薄い国相手なら、今のままでも勝てそうだ。

 

 

「・・・問題はアメリカ代表とスペイン代表だよな」

 

この二国はこのワールドカップの優勝候補筆頭で、選手層の厚さも桁違いだ。

スタメンを下げて強度が下がった日本代表では敵わないだろう。

 

「くぅ、しかし面白い試合だったな・・ぜひ実況配信したいところだが」

 

流石に許可は下りない。

まあ下りたところで、日本代表の不利益になるし、やらないのだが。

だがしかし、それでも思う。

 

「これは“非公開”で済ませる試合じゃないぞ。日本のバスケファンは絶対見たいだろこれ」

 

戦術を理解しているマニアックなファンは特に。

・・・初戦のギリシャ戦の実況の時に、ここぞとばかりに今日の情報を交えて解説するか。

 

俺はヌコヌコ動画の編集画面を開き、実況配信の予約を登録した。

 

“ディーン小林のギリシャ戦実況!!!震えて待て!”

 

登録して数分で、視聴予約やお気に入りの数がぐんぐんと伸びていく。

その数はついに2万人を超えた。

 

5年前のワールドカップ予選で視聴者が120人だったことを考えると、とんでもない進歩だ。

今の日本代表が、そして俺の配信がこれだけの人の心をつかんでることに、驚き、そして改めて思う。

 

「やっぱ、バスケって最高だな」

 

俺の小さなつぶやきは、選手たちの奏でるドリブルの音にかき消された。

 

 

 

 

 





自国開催のワールドカップが近づいてまいりました。
※当然ですが、オリジナル展開です。



西のチームの補強が凄い。
ナゲッツ、ロケッツ、ダラス、レイカーズ、この辺りはOKCに対抗できそう。
ウォリアーズは早く動いてもろて。
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