身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する 作:はるあき 007
――ズン、と膝に重い衝撃が走った。
床が傾いて、視界が回る。
踏み込んだはずの足が、支えてくれなかった。
「……ッ!」
倒れた瞬間、耳がぼうっとして、周囲の歓声も遠ざかる。
チームメイトたちが駆け寄ってくる。
心配そうに声をかけてくるコーチ、マネージャー。
皆が心配そうに声をかけてくれる。
そして・・・
“君の前・前・前十字靭帯オーバーワークで全破れ~”
「カスのR〇〇WINPSみたいな煽りだな!!」
思わずツッコミながら飛び起きた。
目を開けると、天井の木目が視界に入る。
白木の格子、障子越しの柔らかな朝日――ここは・・・ああ、そうだ。旅館か。
どうやら、前世で前十字靭帯をやってしまった時の事を夢に見ていたようだ。
この怪我のせいで、小学生からずっと続けていたバスケを引退したんだったっけ。
嫌な事を思い出してしまった。
・・・そんで、最後のは何だ?
あんな最悪な煽りをしてくる奴、チームメイトにはいなかったはずだが。
まあ、夢だから訳分からん替え歌差し込まれるのもしょうがないか。
前世だけに。
体を起こすと、三つ連結して敷いてある敷布団がわずかにズレた。
昨日の練習の疲労がまだ太ももに残ってる。
「久々にきつい練習だったからな・・・それで変な夢を見てしまったのかもしれん」
昨日は午前に全体練習があり、モーションオフェンスのセットをひたすら繰り返した。
そして、午後には筋トレをこなし、夕方にはスキルコーチの指導の下でステップの練習をするという、とんでもないハードスケジュールだった。
ステップ練習では下半身に負担のかかるものも多かったし。
「今の俺の体なら大丈夫だとは思うが・・・怪我には気を付けないとな」
昨日習った動きのなかだと、特に後ろに足を引いて急加速するステップ、いわゆるフォルスステップが危ないな。
まだ余り危険性が認知されていないが、令和の時代にはアキレス腱断裂の原因になるとして問題になっていたはずだ。
・・・この体なら怪我しないだろうし、逆に積極的に使う手もあるか?
いや、流石に危ないか。
いざというときの切り札にして、できるだけ使わないでおこう。
そんで他の選手には注意を促しとこう。
「今日は、たしかオフの日だったか」
昨日が過密スケジュールだったから、今日はオフになったことを思い出す。
その瞬間、全身の力がふっと抜けて、再び布団に沈み込んだ。
「ふ~・・・やっぱ休みって、最高だな」
旅館の部屋は広くはないが、清潔で落ち着いた雰囲気だった。
畳の匂いが心地よくて、クーラーの風がほんのり涼しい。
窓の外からは、セミの鳴き声と、どこか遠くで水が流れるような音。
非日常というより“田舎の夏休み”みたいな空気感だ。
「露天風呂にでも入りに行くか」
のそりと布団から出て、浴衣の帯を結び直す。
障子を開けて外を見ると、小さな庭に朝の光が差し込んでいた。
緑が濡れていて、昨日の雨の名残りがまだある。
空気が澄んでて、思わず深呼吸を「大!デカ盛りメニュー食いに行こうぜ!!!」
・・・落ち着いた旅館の朝をぶち壊すぞと言わんばかりに、田中勇太の叫び声が聞こえてくる。
無視しようかとも思ったが・・デカ盛りメニューは魅力的だ。
なんせ、この旅館で出てくる食事はアスリート向けに薄味だし、かつ高たんぱく低脂質で消化に良いものばかりだ。
ありがたいのは事実だが、4日も続くと飽きてくる。
折角沖縄に来たんだし、タコスとか、ステーキとか、スパムとか、ゴーヤチャンプルーとか、ガツンとしたものが食べたい。
俺は玄関に向かい、扉を開けた。
「ようっ!デカ盛りメニュー食いに行こうぜ!」
ど派手なアロハシャツにサングラス、そして片手にはステーキ屋のチラシを握った田中勇太が現れた。
「お前、その格好・・観光客か?」
「いいだろこれ!沖縄の露店で買ったんだよ!ほら、シャツのこの部分、小さいシーサーが100体以上プリントされてるんだぜ」
サングラスを貫通してくるほどの、満面の笑顔を浮かべる勇太。
浮かれた陽気なテンションのまま、勇太は俺の部屋にズカズカと入り、畳の上にドカッと座り込んだ。
「そんで、デカ盛りメニューってどんなやつだ?」
「決まってんだろ?これだよ、これ!」
勇太が誇らしげにチラつかせたのは『ミートパラダイス那覇本店』と書かれたチラシだった。横には「ギガ盛りチャレンジ!総重量3.8kg!成功すればタダ!!失敗すれば5万円!挑戦者求ム!」という煽り文句。
「全く、山田コーチの昨日の言葉を聞いてなかったのか?“オフはしっかり休め。消化に良いものを食べ、体を休めるのも練習の内だ”って言ってただろう」
俺はやれやれと、ため息を吐きながら言った。
「・・・不満を言っている風だが、既に着替えを始めているな」
「それもステーキって!沖縄の名物でも、ソーキそばとか消化に良いあっさりしたものもあるだろうにさぁ」
「・・・しかも、オレンジ色のアロハシャツに着替え始めたな?俺のアロハより派手じゃないかそれ?」
「4キロ弱の肉なんて食べたら、絶対消化にエネルギー使っちまうよ」
「・・・アロハに加えて麦わら帽子、サングラス、ビーチサンダル、フル装備じゃないか」
「しょうがねえなあ、そんなに勇太が行きたいなら付き合ってやるよ!!!」
俺は仕方なく着替えを済ませると、鞄を持って勇太にGOサインを出す。
「やれやれ風なのが腹立つところだが・・・まあいいや!行こうぜ!待ってろ!デカ盛りメニュー!!」
「食いきってやるぜ!!」
こうして俺たちは、沖縄の太陽の下、肉塊を求めてステーキ屋へと向かった。
実際に出てきたモノはとんでもない迫力で、200 gのステーキが19枚折り重なっている姿は、もはや芸術作品と言っていいほどの仕上がりだった。
始めはテンションが高かった勇太だったが、1枚食べるごとにテンションが下がっていたのが面白かった。
それを見て、店長のおっさんが逆にテンションを上げていったところも良かったな。
1時間も経つ頃には、勇太は残る12枚のステーキを前に絶望の表情を浮かべていた。
ちなみに、俺は1枚1枚味わって食べたので勇太よりスローペースだったが、淡々と食べ進めることができた。
ソースが十種類以上あったので味に飽きることもなく、美味しく食べることができ、最高の食事だった。
喜ぶ俺を横目に、逆にテンションが下がっていく店長が面白かったな。
最後の一枚を食べるときには、絶望の表情を浮かべていた。
そんで俺が勇太のステーキにも手を付け始めたときには、絶望を通り越してムンクの叫びみたいなリアクションになっていた。
・・・尚、店長が可哀そうだったので、料金はちゃんと払った。
今回でゆったりしたオフが終わり、次話からワールドカップに突入します。
ワールドカップは書き溜めて一気に投稿するか、毎週書くかで悩んでいるので・・・アンケートを取ろうと思います!
多数決で決まった通り書くかは未定ですが、参考にしたいので投票よろしくお願いします。
ワールドカップ編は
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溜めて一気に投稿
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毎週投稿
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