身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する 作:はるあき 007
勇太がいよいよ限界だ。
残り時間は2分弱。
スコアは88-83、5点差だ。
こちらが大きく有利な状況ではあるが、スリーポイント2本で逆転される危うい状況でもある。
ここで勇太を交代させるわけにはいかない。
勇太が居ないとディフェンスがより一層崩壊するし、オフェンスでのウォーカーへの指示出し役もいなくなる。
・・・が、もう足がおぼついてないし、完全に息が上がっている様に見える。
流石に交代が必要か?
そんなことを考えている間に、グスタフがスローインを受け取ってボール運びをしていた。
―今はとにかく、この一本を守る事を考えよう。
「一本、死守するぞ!」
俺は大声を出して味方と自分を鼓舞すると、ゴール下で腕を広げて相手のオフェンスを待ち構えた。
グスタフが指でオフェンスセットをコールしている。
同時に、ブラジル代表の選手たちが縦横無尽に動き始める。
カッティングしてくる選手たちをカバーしながら、ウォーカーの背中を叩いてディフェンス位置を指示する。
やることが多い。
勇太の様子も気になるが、とてもフォローする余裕はない。
ジョアンが左ハイポストでボールを受け取ったので、ウォーカーを押し出してディフェンスにいかせる。
俺はゴール下にカットインしようとしていたマテウスをカバーし、ゴール下のディフェンスを固めた。
と、ジョアンが右コーナーに向けてパスを出した。
そこにはドフリーでボールを受け取るグスタフと、足が縺れて転んでいる勇太の姿があった。
「リバウンドォ!!」
俺はマテウスをゴール下から押し出し、ボールを回収する準備をした。
しかし、そんな俺の努力をあざ笑うかのように、マテウスから放たれたボールは綺麗な放物線を描いてリングに吸い込まれていった。
・・これで88-86、2点差だ。
ベンチの方を見ると、コートに入る五十嵐選手と、肩を落としてベンチへと下がる勇太の姿があった。
流石に交代か。
山田コーチを見ると、親指を上にあげるハンドサインを出してきた。
これはオフェンスのクリエイトを俺に一任するときの合図だ。
丸投げに近いが・・・まあ、このメンバーでは殆どセットオフェンスの練習をしていないから、しょうがあるまい。
―よし、ここはウォーカーとのピック&ロールで攻めよう。
俺は伊藤兄弟にコーナー待機を伝えると、ドリブルでボールを敵陣へと運んでいった。
センターサークルを超えると、ジョアンが俺の前に立ちふさがってきた。
相手ディフェンスは変わらずマンツーマンのようだ。
俺はインサイドにいたウォーカーに合図を出し、スクリーンに呼ぶ。
すると、意図を汲み取ったウォーカーがジョアンの右側に立ち、壁を作った。
「Goodだ!」
俺はそう言いながら、ウォーカーの壁を利用して右サイドにドライブをしかけた。
すると、ジョアンとグスタフが俺にダブルチームをしかけてきた。
(「よし、ウォーカーがフリーだ!」)
俺はパスを出そうとボールを両手でつかみ、持ち上げる。
が、ダブルチームはフェイクだったようだ。
気づけばジョアンがウォーカーに向けて走っており、ディフェンスに捕まってしまった。
くっそ、ドリブル止めちまった。
俺は苦し紛れにピボットを踏んでパスの出し先を探した。
が、ディナイが徹底されており、出しどころがない。
―その代わり、ゴール下が空いているのが見えた。
(「いける!」)
俺はボールをバックボードに放り投げると、グスタフを躱してそのボールの後を追いかけた。
そして、踏み切って跳躍した。
セルフアリウープだ!
が、何故か視界の横からボール目掛けて飛び込んでくるウォーカーの姿が見えた。
「何やってんだお前ェ!!!」
思わず叫ぶが、もう動作は変えられない。
俺はウォーカーの手とボールを同時に掴み、そのままリングへと叩き込んだ。
「Whoa!」
ウォーカーは驚いた様子だったが、リングをつかんで何とか耐えたようだ。
俺も着地でバランスを崩しかけたが、何とか体勢を立て直した。
と、そんな俺達を横目にグスタフがクイックリスタートでボールを運び出していた。
まずい!
「Walker, hurry up!」
俺はぶら下がるウォーカーに声をかけると、グスタフの背中を追いかけていった。
しかし流石に動きが早い。
あっという間にスリーポイントラインまで到達すると、グスタフはそのままシュートモーションに入った。
(「させるかよ!」)
俺はグスタフを追いかけながら大きくジャンプして、シュートを叩き落とそうとした。
が、いつまでたってもボールが放たれない。
やられた!
フェイクか!
俺が着地してグスタフの方を振り返ると、悠々とスリーを打とうとするグスタフと、鬼気迫る表情で疾走するウォーカーの姿が見えた。
「Woooo!」
グスタフから放たれたシュートは、後ろからやってきたウォーカーのブロックによって叩き落とされた。
俺は抜け目なくそのボールを回収した。
そのまま慌てずゆっくりと、ボールを自陣まで運び出した。
時間は残り59秒。
ここで24秒使ってしまえば、もうほぼ勝ちは確定だ。
センターラインを越えると、ジョアンがマッチアップしてきた。
俺はレッグスルーを使って相手を揺さぶり、時間を稼ぐ。
24秒タイマーが8になったので、俺はオフェンスを開始した。
左にドライブをしかけた後、ビハインドザバックで右側に方向転換しジョアンを躱す。
そしてそのままペイントエリアに侵入した。
ヘルプが出てきたが、同時に左コーナーの伊藤兄がフリーになったのが見えた。
―ここだ!
俺はオーバーヘッドパスで左コーナーの伊藤兄へボールを供給した。
が、何故か横からウォーカーが飛び込んできて、ボールをかっさらっていった。
「何やってんだ!?」
思わずそう叫ぶ俺をよそに、ウォーカーはそのままグスタフを押し込み、ボースハンドダンクを叩き込んだ。
「ウォーカー!!」
「お前は救世主だ!!」
「次はスタメンで出てくれ!!」
「東雲君とのコンビネーション半端ねえって!」
虚を突かれた俺をよそに、沸騰したよう盛り上がる観客席。
絶叫、足を踏み鳴らす音、拍手、歓喜のうねり、まるで巨大な鍋のフタが吹っ飛んだみたいな、凄まじい音の爆発だ。
スタンドの奥では、日の丸の旗が振られている。
・・・まあ、決めたなら良いか。
これをコンビネーションと呼ばれるのは違う気がするが。
これで92-86の6点差、残り時間は37秒。
ここまでくれば、あとは堅実に時間を稼げば、まず負けはないはず。
と、そんな算段を立てていた俺の前で、興奮した様子のウォーカーがパスカットを狙ってジョアンの腕を突き飛ばしていた。
「Defensive foul!」
当然のようにファウルが宣告された。
しかも、ボーナスタイムだから相手にフリースローが与えられてしまう。
何やって・・・いや、前向きに考えよう。
ジョアンはフリースローが下手だし、2本とも入るとは思えない。
こちらのディフェンスも固いわけじゃないし、少し早めのファウルゲームに移行できたと考えれば良いか。
俺は気持ちをリセットすると、フリースローラインに向かって歩き出した。
TV放送【オリンピック 決勝トーナメント初戦 日本VSブラジル】
佐々木「おーっと!ここでウォーカー選手がまさかのファウルです!・・・これはあえてこちらからファウルゲームに突入しようという作戦でしょうか?」
佐藤「うーん、どうでしょうねぇ?ウォーカー選手の性格を知っている私からは、決め手となるダンクシュートが成功してテンションが上がってしまっただけの様に見えましたが。」
「なるほど」
「まあ、考えてみれば悪い手ではありません。ジョアン選手はフリースロー成功率が低いですしね。その間に山田コーチが選手に作戦を伝えることができます」
「おっと、噂をすれば。山田コーチが五十嵐選手を呼んで作戦を伝えているようです。これはどのような指示なんでしょうか?」
「想像ですが、まあボールの出しどころについてですかね。相手は直ぐにファウルをして時間を止めにくるでしょうから、東雲君にボールを預けろという指示だと思います」
「なるほど、彼のフリースロー成功率は、日本代表随一ですからね」
「・・予想に反してジョアン選手が2本ともフリースローを決めましたね」
「残念ながら決まってしまいましたね。しかし、スローイン後は佐藤コーチの予想通り、東雲選手にボールが入ってファウルされました」
「うん、これでいいんですよ。彼がこの状況でフリースローを落とすはずがないですからね。もう勝ちはほぼ確定したと言っていいでしょう。いやー最後ヒヤヒヤしました」
・
・
・
・
「3秒・2秒・1秒・・・ここで試合終了です!!ジョアン選手が放ったシュートはリングに触れることなく、そのまま転がっていきました。最終結果は98-92。日本代表の勝利です!佐藤さん、この試合通していかがでしたか?」
「いやー、やはりブラジルは日本代表とは相性の悪い相手でしたね。前半は完全に押されているように見えました。しかし、後半の修正は見事でした。ウォーカー選手を上手くオフェンスに組み込んで、非常に得点力のあるチームが実現できていましたよ。」
「そうですね!後半は日本代表が終始試合をコントロールしていたように見えました。逆に反省点などは何か見えたでしょうか?」
「うーん、やはり層の薄さですかね。ウォーカー選手の起用は見事でしたが、彼をコントロールする田中勇太君に負担がかかり、最後は体力切れを起こしていました。東雲君が最後指揮していましたが、意思疎通が全然取れてなくて、危なっかしかったですよ」
「東雲選手とウォーカー選手のコンビネーションは良いようにも見えましたが?」
「いやー、あれは偶然かみ合っただけというか、ほぼマグレというか。多分、もう一度やったら全く違う結果が生まれると思いますよ」
「なるほど、日本代表にもまだまだ伸びしろがありそうです。とはいえ、決勝トーナメントの初戦、見事に勝ち切ることができました!あと二回勝てば銀メダル確定、三回勝てば金メダルです。ワールドカップ史上初の快挙となるのか、ぜひこれからも見届けていきましょう!」
「そうですね!色んな意味で、非常にワクワクするチームですから。全力で応援してあげましょう」
「それでは、今日はありがとうございました!実況わたし佐々木がお送りし、」
「解説は佐藤でした」
「次回は準々決勝でお会いしましょう!」
――――――
決着!
色々と課題は残りましたが、まずは初戦突破ですね。
今年も読んでいただき、ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。