身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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本日二話投稿 二話目
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17歳-21 山田コーチの悩み

山田 義一 52歳

 

部屋のエアコンが鳴っている。

それだけが、今の俺の世界の音だった。

 

カーテンは閉めている。

夜の横浜は騒がしくて、窓を開ければ街の喧騒が飛び込んでくるからだ。

……今は、誰の声も聞きたくなかった。

 

テーブルには開きっぱなしのノートPC。

スカウティング動画を何度も再生しては巻き戻し、停止している。

スペイン代表のセットプレー。

ピックからの展開。

ドロップディフェンスの潰し方。

 

“わかってる”、それはもうとっくに。

何百回も見た。相手は変わらない。

変わらないのは……俺たちの勝ち筋が見えないことだ。

 

(この布陣で、どうやって止める?)

 

画面の中、スペインのポイントガード「ジェイコフ」が、軽やかにゴール下へ切り込み、キックアウトする。

そのパスを、205cmの最強シューター「アントニオ」が完璧にキャッチしてスリーを沈める。

 

俺は無意識に、テーブルを指でトントンと叩いていた。

 

「無理だ……これ、誰がどう止めんだよ」

 

思わず出た独り言が、部屋の静けさを裂く。

声に出した瞬間、自分が本心からそう思っていたことを痛感する。

 

(俺が……コーチとして、そう考えてしまってるってことだ)

 

世間は盛り上がっていた。

 

「快進撃!日本代表、次はスペイン撃破だ!」

「勝てる、いや勝ってくれ、東雲ならやれる!」

 

テレビ、ラジオ、インターネット──国中が“次も当然勝つ”と思ってる空気だった。

(無責任だよ……お前ら)

 

いや、本当はそんなふうに世間を責めたいんじゃない。

プレッシャーが嫌なんじゃない。

期待に応えたいのに、方法が見えない。

だから苦しい。

だから、悩む。

 

テーブルの横に置いたホワイトボードには、何度も消しては書かれた戦術案の痕跡。

「3-2ゾーン」「ダイの逆サイド起点」「変則スイッチ」──

全部やった。

どれも、“ギリギリ戦えるかも”のレベル。

 

「奇跡を起こす戦術って……どうやって作るんだっけな」

 

湯気の消えたコーヒーに目をやる。冷たい。

でも、飲み干した。

 

もう夜中三時になった。

あと数時間もすれば、スペイン戦が始まってしまう。

このまま何の突破口も見つけられなければ、俺たちはボロボロにやられてしまうだろう。

 

もう一度ノートPCを再生した。

スペインの次のプレー。

ランバのアイソだ。

イタリアのエースガード:ガルシアと1on1になって──

 

(……待てよ)

一瞬、止める。

巻き戻す。

指先がピクリと動いた。

 

(もしかして、“あえて”それをやらせる……?)

 

勝ち筋じゃない。

でも、“負けない筋”は見えた気がした。

そこから繋がる、たった一つの可能性の糸。

 

ゆっくりと席を立ち、窓のカーテンを開けた。

夜の横浜の街が光っていた。

人々の声が、音楽が、車のクラクションが聞こえる。

あれほど煩わしかった騒音が、今はJAZZのような心地よい音に聴こえる。

 

(大丈夫だ、俺は……まだ諦めてない)

 

ひとつ、深く息を吸った。

 

 

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