身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する 作:はるあき 007
―――――――――
ウォームアップの音が止み、国歌が流れて、コートの中央に立った瞬間──
この会場が、完全に“日本のホーム”になってることが分かった。
「ニーポン!ニーポン!ニーポン!!」
「東雲君!勇太君!がんばって~~!」
「俺たちは最強だぁああ!」
「ぶっ潰せスペイン!!!!」
スタンドのあちこちに日の丸が揺れてる。
声援が、振動になって床を伝ってくる。
なぜかいつもよりも、ボールが手に吸いつく感じがした。
──これが、正念場ってやつか。
スペイン代表の選手は、自信に満ちた顔をしていた。
PGのジェイコフ、SGのアントニオ、インサイドのギャッソレンとルーカス……全員が、“俺たちの方が強い”って顔してる。
正直、俺たち日本代表の勝ち目は薄い。
個人能力で完全に負けており、俺を除いて全員がミスマッチというあり得ない状況だ。
かくいう俺も、インサイドではルーカスに勝てる自信がない。
でも、うちには山田コーチが仕込んだ策がある。
スターターに入ったウォーカーが、いつもより真剣な表情をしている。
今日のウォーカーは攻守のキーマン。
山田コーチは、アントニオを止めるために、あえて彼をフェイスガードにつけることにしたのだ。
「大、今日のオフェンスはウォーカーとのツーメン主体で行くぞ。リズム掴め」
「任せてください」
いつもより隈が深い山田コーチに、俺は少し小さめの返事をした。
俺とウォーカー。
身体能力最強の二人と呼ばれた俺達だ。
コートに入ると自然と意思疎通ができる。
山田コーチはそう判断したらしい。
・・・正直、上手くいくかは分からない。
ウォーカーは何を考えているか分からないところがあるし、コートビジョンも浅い。
だが、ブラジルの完全上位互換と名高いスペイン相手に、いつものモーションオフェンスは通じない。
これに託すしかないんだ。
もう一度、山田コーチを振り返る。
―完全に目が据わっている。
・・・徹夜のハイテンションで無理くり捻りだした案とかじゃないよな?
大丈夫だよな?
まぁ、作戦を考えすぎて昨日一睡もできなかった俺が言える立場では無いが・・・
もうここまでくれば腹をくくるしかない。
俺はセンターサークルに立った。
ジャンプボールだ。
ルーカスと向かい合う。
『まさか、ちょっと前に共にユーロカップを勝ち取ったチームメイトと、こんな大舞台で、敵として戦うことになるとはな・・・だが、こっちにはアントニオもジェイコフも居る。ランバやギャッソレンも超一流の選手、完璧な布陣だ。悪いが勝たせてもらう』
ニヤリと笑うルーカス。
『ああ、全力で来てくれ。確かに分が悪い戦いだが・・・俺が奇跡を起こせるってのは、お前が一番知ってるはずだぜ』
俺もニヤリと笑って返してやった。
ティップオフだ。
審判が投げたボール目掛けて、全力でジャンプする。
「「うぉぉぉ!」」
先に触ったのは俺だ。
ウォーカーが居る後方に向けてボールを弾き出した。
「Thank you! Dai!」
ウォーカーはボールを獲得すると、そのままドリブルでセンターラインを越えた。
まずはこちらのオフェンスだ。
ここで点を取って、流れを取ってやる。
トップの位置でレッグスルーをしながらボールキープしているウォーカーに向けて、左からスクリーンをかけに行った。
ウォーカーが意図を汲み、左にドライブをしかけた。
一度、ディフェンスが剥がれる。
──が、スペインの動きが速い。
ウォーカーのドライブをルーカスが止めた瞬間、ランバも一緒になってウォーカーにプレッシャーをかけていた。
ダブルチームだ!
「戻せ!ウォーカー!」
ウォーカーはダブルチームを捌くのが得意ではない。
俺は中にダイブするのを諦めて、一度ウォーカーの近くまで移動しパスを要求した。
―だが、ランバとルーカスのダブルチームの圧力は想像以上だったらしい。ウォーカーはドリブルを止められ、ボールをスティールされてしまった。
「戻れ!」
俺は味方に声をかけながら、自陣に向けて必死に走った。
その甲斐あって、相手のトランジションオフェンスは防ぐことができた。
ジェイコフがボールを持ち、トップの位置でセットオフェンスをコールしている。
と、その瞬間。
ルーカスがローポストで面を張り、パスを要求してきた。
俺はなんとかルーカスをゴール下から押し出そうと、全体重をかけてルーカスをプッシュした。
だが、
(堅すぎる!)
巨石を押しているかのように動かない。
とてつもないパワーと重量だ。
拙い。
俺が苦戦している間に、ジェイコフからルーカスにパスが通ってしまった。
せめて、ブロックを決めてゴール下で点を取らせないようにしないと。
そう考え、ルーカスと不利な押し合いをしながらも、その一挙手一投足に集中した。
「Hey!」
が、そんな俺をあざ笑うかのように、ルーカスから綺麗なパスが上がる。
カットインしてきたギャッソレンは、そのパスを受け取ると、そのままの勢いでアリウープダンクを決めた。
「すまん、大!」
息を切らせた勇太が謝ってきた。
どうやら、ランバがかけたスクリーンに引っかかってしまったようだ。
「気にするな!だが、相手は個人技だけじゃなく連携も上手い。常に全体の動きを見続けよう」
勇太にそう言葉を返す。
だが、俺もルーカスの守備に手いっぱいで、全体の流れが把握できていたか怪しい。
内省が必要だな。
「一本とるぞぉ!」
気を取り直して、こちらのオフェンスだ。
今度は俺がハンドラーになり、ボールを敵陣まで運んでいった。
ディフェンスはルーカスではなく、ギャッソレンが付いて来た。
どうやら、俺が外で動くときはアジリティのある選手をつける作戦らしい。
となれば、
「Walker!」
俺はウォーカーをスクリーンに呼ぶ。
意図を汲んだウォーカーは右側にスクリーンをかけてくれた。
それを使って、俺は右ドライブでインサイドへアタックする。
が、ギャッソレンがスクリーンを強引に押しこみながら俺のドライブについて来た。
ウォーカーのスクリーンが甘かったらしい。
(くそっ、ディフェンスが堅すぎる)
俺はコーナーに向かいながら、ハンドオフで伊藤弟にボールを預けた。
伊藤弟がドリブルをしながら、トップに向かう。
しかし、すぐさまアントニオが伊藤弟からボールをスティールした。
(相変わらず、なんて反射神経と腕の長さだ!)
感心している場合ではない。
俺は全速力でディフェンスに戻った。
ゴール下まで戻ると、ジェイコフがドリブルをしながらオフェンスを組み立てようとしていた。
俺はルーカスとインサイドスポットのとりあいをしながら、その様子を観察する。
次はどんなセットが来るか・・・
と、突如右コーナーでドフリーになっていたアントニオにパスが入る。
アントニオはパスを受け取ると、綺麗なシュートフォームで、全くブレを感じない軌道でスリーポイントシュートを沈めた。
これで0-5だ。
「Sorry! Brother!」
ウォーカーが勇太に謝罪している。
どうやら、アントニオが勇太にしかけたフェイクスクリーンに完全に引っかかり、アントニオをフリーにしてしまったようだ。
これは拙いな。
オフェンスもディフェンスも、何一つ通用していない。
(……何かが、噛み合ってない)
スタンドを見る。
会場のサポーターは、まだ熱心に応援をしている。
でも、その“熱”に、俺たちのプレーが追いつけてない。
そのまま、差はじわじわと広がっていた。
5分たって、スコアは3-16。
スペインは動じてない。
表情一つ変えずに、正確に点を積み上げてくる。
俺たちは、“作戦通りにやってるのに負けてる”という静かな焦りに、足を取られはじめていた。
(このままじゃ、潰される)
作戦の修正に希望を求めてベンチの山田コーチを見るが、完全に天を仰いでいる。
・・・もう、これまでなのか?
試合開始前、山田コーチが俺に放った言葉が走馬灯のように頭を駆け巡る。
~「もしも作戦が一つも通用しなかったら?そうだな・・・その場合は大が全てのボールをブロックし、大が全てのシュートを決め続けるしかない」~
~「修羅になるんだ、大!」~
(ああ、やってやるよ)
もう、作戦の修正でどうにかなるレベルじゃない。
ここで求められるのは圧倒的な”個”だ。
数的不利をものともしないような、圧倒的な個人の力だ!
俺は修羅になるぞ!
俺はボールを受け取ると、ゴールに向かって渾身の力でドライブを開始した。