身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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17歳-27 ナブラ大学

ナブラ大学、入学初日。

正門をくぐった瞬間、最初に思ったことは――

 

(広すぎだろ……)

 

キャンパスというより、もはや一つの街だ。

芝生がどこまでも続いていて、その間を自転車がビュンビュン走り抜ける。

古いレンガ造りの建物と、全面ガラス張りの近未来的な研究棟が、違和感なく並んでいる。

 

俺はバックパックを肩にかけ直した。

 

227 cmの日本人が歩けば、そりゃ目立つ。

すれ違う学生が二度見してきた。

 

「Dude, is that a basketball player?」

「No way, he’s huge…」

 

・・全部聞こえてるぞ。

でも、日本代表として世界大会を経験した今となっては、この程度の視線はもう雑音だ。

 

むしろ気になるのは、この大学の雰囲気の緩さだった。

 

芝生の上で寝転びながらノートパソコンを広げてる学生。

犬を連れて講義棟に入ろうとして、教授に笑われてるやつ。

芝生でロケットエンジンの燃焼実験をしている白衣の集団(恐らく無許可、警備員が走って止めに来ている)。

ラジカセで大音量の音楽を流しながら踊るみたいに歩いてる女の子。

 

「自由だな……」

 

日本の大学とはまるで違う。

秩序もなければ、校則らしきものも見当たらない。

誰も急いでないのに、誰も止まっていない。

それぞれが、自分のペースで前に進んでいる感じ。

 

ふと、芝生に目を戻すと、白衣の集団が警備員から逃げ出していた。

 

となりの噴水では「神の恵みだ!」と言いながら噴水の水を直に浴びている男がいる。

手に持っているのはカラフルな錠剤-MDMAだ。

芝生に目を戻すと、数人の男女が「芝生が笑ってる!まるでオーケストラだ!」とか言いながら踊っていた。

どうやら、合成麻薬に関するサークル活動が行われているらしい。

 

「・・・流石に自由すぎるだろ」

 

校則どころか法律も無いってか?

あまり関わりたくなかったので、この怪しいサークル集団をスルーして歩みを進めた。

 

中央広場に差しかかると、バスケコートが見えた。

 

屋外のハーフコート。

昼間から3 on 3が始まってる。

観客までいる。授業はどうした。

 

ダム、ダム、キュッっと、ボールの弾む音やバッシュの音が、乾いた青空に響く。

思わず足が止まりかける。

 

(……ダメだ、今日は違う)

 

今日は練習の日じゃない。

“大学生”としての初日なんだ。

 

 

目当ての建物に到着したので、ポケットからエリザベスさんの名刺を取り出して確認する。

 

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Elizabeth Branson

Adjunct Associate Professor

@Nabra University , Building C

– Neuroscience & Human Performance Lab

Mail: [email protected]

TEL: XXX-XXXX-XXXX

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Building C、助教授として採用されたエリザベスさんが、スポーツ医学・工学の研究をしている場所だ。

看板に書いてある建物名と一致するし、間違いないはず。

俺は受付に行き、名前を伝えた。

 

「Ah, Mr. Shinonome.

I've heard about you. Please proceed inside with this admission pass.」

 

受付に居たおばさんはそう言って、えらくスムーズに手続きをしてくれた。

どうやら、事前に伝わっていたらしい。

 

 

ガラスの自動ドアが音もなく開く。

研究棟に入ると、一切の騒音が消え、冷たい空気が流れてきた。

外の自由な喧騒とは別世界だ。

 

明るいロビーには巨大なモニターがあり、脳波データ、筋電図、3Dモデルの骨格映像がぐるぐる回っていた。

壁一面がホワイトボードになっており、数式を書きながら議論している研究者が何組も居る。

 

「・・・工学部の研究棟とは雰囲気が違うな。俺の通っていた国立大学は、節電のためにロビーも廊下も真っ暗だったが。」

 

ふと、前世での大学生活を思い出し、比較してしまった。

日本がアメリカの大学に勝てない原因が詰まっている気がするな・・。

外の学生を見るに、学生の質は日本の方が高そうなのに。

 

「いや、逆にMDMAで頭吹っ飛ばした方が創造的な研究が出来るんだろうか?」

 

そんな益体もない事を考えながら歩いている内に、目的地に着いた。

ドアの前で立ち止まり、ネームプレートを読む。

 

Dr. Elizabeth Howard

Neuroscience & Human Performance Lab

 

漸く到着した。

ほっと一息。

知ってる名前を見ると、なんか安心するよな。

俺はリラックスした状態で、扉を三回ノックした。

 

「Come in.」

 

落ち着いた声が返ってくる。

俺はドアノブを回した。

 

『Dai! ¡Qué alegría verte!(ダイじゃない!よく来たわね!)』

 

俺が顔を見せるや否や、エリザベスさんはそう言って嬉しそうに話しかけてくれた。

何故かスペイン語で。

・・・まあ、良いか。

俺も多少はスペイン語話せるしな。

 

『一か月ぶりだな。元気にやってるようで良かったよ』

 

スペイン語で返す。

 

『こっちのセリフよ!ま、ダイが元気にやってるのはオリンピックの中継みてたから知ってたけどね!そこのソファに座ってて。今コーヒー淹れるから』

 

そう言うと、エリザベスさんは慣れた手つきでコーヒーマシンを操作し始めた。

デランギの最高級機だ。

良いマシン使ってるな・・。

 

今使ってるホテル、モーニングが無料でついてるのは良いんだけど、コーヒーの味がいまいちなんだよなぁ。

量産品の豆を安いコーヒーメーカーで淹れた味というか。

保温器にかかってるから、酸化した味がする時も多いし。

 

・・・ひょっとして、朝体育館に行く前にここに寄れば、無料のコーヒーが飲めるのでは!?

 

『-何か失礼なこと考えてない?』

 

不穏な空気を察したのか、エリザベスさんがジト目でこちらを見ながら話しかけてきた。

その手には、抽出が終わったのかコーヒーを持っている。

 

『いや、そんな事無いよ。良いコーヒーマシンだと思ってね』

 

俺は作戦がバレないよう、一旦マシンを褒めることにした。

 

『そうなのよ!ここの学長がコーヒー愛好家でね。各研究室に導入してくれてるのよ。もちろん、バスケ部の部室にもあるわよ』

 

『え!?そうなのか!』

 

良いね、流石はラスベガス近郊の私立大学だ。

金の使いどころが分かってる。

俺の中で学長の評価がうなぎ登りだ。(会ったことは無い)

 

・・・ほなまあ、わざわざこんな遠いところまでコーヒー貰いに来る必要も無いか。

 

『-なんか失礼なこと考えてない?』

 

再度、エリザベスさんがジト目でこちらを見てきた。

 

『いや、そんなことは無いよ。コーヒーマシンの件もそうだけど、いい大学だね。ここは』

 

俺は美味しく淹れられたコーヒーを飲みつつ、素直な気持ちで大学を褒めた。

 

『そうね。自由な校風だし、研究予算も多いし、私も気に入ってるわ。・・・学費が高いから、学生や保護者は大変かもしれないけどね』

 

そう言ってコーヒーを飲むエリザベスさん。

確かに、アメリカの私立大学だけあって学費は高かった気がする。

俺も一応払ったが、年間500万円を超えていたはずだ。

 

まあ、バスケ関連の学内奨学金でほぼ相殺できてるし、そもそもスポンサーとの契約金がデカかったからあまり気にしてはいなかったが。

 

『さて、早速MRIを使ってダイの体を計測したいところだけど、あいにく今日は機械が空いてないのよ。私自身は午後丸々空いているから、大学の案内をしてあげるわ』

 

エリザベスさんはコーヒーを片手に、残念そうな表情でそんな事を言ってきた。

 

―危ないところだった。

機械が空いてたら、入学初日からMRI検査されるとこだったのかよ。

検査自体は反対してないが、今日くらいせめて大学内を見て回りたいところだ。

 

『助かるよ。大学が広すぎてどこに行ったらいいか分からなくてね。まずは体育館やジム、学食の場所が知りたいな』

 

『・・一応大学生なんだから、講義棟も行っておきなさいよ。一年で出ていくから単位取ることに本質的な意味はないけれど、NCAAは成績の足切りもあるから、何個かの講義は受けておく必要があるわよ?』

 

え?そうなのか。

・・・まあ、前世で受けてた講義に似たものを受ければ、そこそこの点数は取れるだろう。

共通科目なら学部が違っても似たようなもんだろうし。

 

『じゃあ、講義棟も追加で!』

 

そう言ってエリザベスさんの方を見ると、呆れた様子でため息をつき、コーヒーを口に流し込んでいた。

 

『それじゃ、講義棟や実験棟を中心に、案内してあげるわ。行きましょう』

 

『お願いします!!』

 

 

こうして、エリザベスさんによるナブラ大学の案内がスタートした。

講義棟や実験棟、体育館、学食、果てはグラウンドにサークル棟と、広大な大学を隅々まで紹介してくれた。

どこの設備もひたすらにデカく新しく、アメリカの私立大学のマネーパワーを感じることができた。

 

体育館に至ってはバスケ部専用の建物があって、ロッカールームも学年毎にあったからな。

異常な好待遇だと言えるだろう。

学費は高いが・・・

 

 

 

 

そして最後に、創立当初から建っているという、厳かな教会へと案内してくれた。

キャンパスの喧騒から、ほんの数分しか離れていないはずなのに、そこだけ時間の流れが違っていた。

 

レンガ造りの外壁は、ところどころ黒ずんでいる。

何百回も雨に打たれ、風に削られ、それでも崩れずに立ってきた色だ。

尖塔の先が、夕暮れの空に細く突き刺さっている。

 

『ナブラ大学は、ここから始まったそうよ』

 

エリザベスさんが、静かに言った。

あれだけ自由で、騒がしくて、エネルギーに満ちていたキャンパスが、

この教会の前では自然と声を潜めている気がした。

 

重たい木の扉を押す。

ギィ、と低い音。

中に入った瞬間、空気が変わった。

 

木の匂い。

古い本の匂い。

わずかに残る蝋燭の甘い香り。

 

ステンドグラスから差し込む光が、床に赤や青の影を落としている。

長いベンチが整然と並び、奥には十字架。

 

俺の足音が、やけに大きく響く。

 

『こういった場所に来ると、神様がいるんじゃないかと錯覚しそうになるわね』

 

エリザベスさんはそう言うと、最前列のベンチに腰を下ろした。

俺も、その隣に座る。

 

 

『そうだな・・・え?錯覚?』

 

神の存在、信じてないのかよ。

 

『私が信じるのは科学だけよ。神様なんて観測できないじゃない』

 

エリザベスさんはドヤ顔でこちらを見ながら、そんなことを言ってきた。

気持ちは分かるが、じゃあなんでここに来たんだよ。

なんもすることなくない?

 

『とは言え、何かに祈りたくなることはあるからね。気持ちの整理にもなるし、有効活用すると良いわ』

 

そう言うと、エリザベスさんは手を組んだ。

俺も、見よう見まねで手を組む。

 

教会は静まり返っている。

外の風の音が、かすかに窓を揺らすだけだ。

 

エリザベスさんの声が、低く、穏やかに響く。

 

『ダイの体から面白い物理現象が観測できますように。あと申請した研究予算が通りますように。あと先月出した論文も通りますように。あと・・』

 

この無神論者、滅茶苦茶要求多いな!?

本当に神様が居たとしたら、ドン引きするレベルの量である。

 

・・・まあ、俺も祈っておくか。

転生した経験がある分、エリザベスさんより俺の方が神の存在を信じている気するし。

神に会ったわけではないけど。

 

とは言え、何をお願いしようか?

神に祈るなら健康と相場は決まっているが、俺はもう健康スキル持ってるしな。

うーむ。

 

あ!そうだ。

俺もようやく大学生になったんだ!

仕事からも半分解放されるし、ここらで彼女を作っておきたいところ。

 

「神様!いい出会いをお願いします!バッチコイ、ガールフレンド!」

 

俺は2礼2拍手1礼をこなし、ひたすらに良い出会いがある様にと神に祈った。

 

 

 

『研究費、予算、設備、共同研究、論文・・』

 

「ガールフレンド!バッチコーーイ!」

 

 

 

―厳かな教会で、キリスト教とは縁もゆかりもない二人の、虫の良い祈りが響き渡っていた。

 

 

 








NCAA編、スタート!!
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