身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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二話投稿!一話目。


17歳-29 彼女たちの事情 アリサの場合

寮の部屋の窓を開け放ったまま、ベッドの上にどかっと腰を下ろした。

 

長い脚が邪魔で、普通に座っても膝が壁にぶつかる。

そのたびに、私の機嫌はさらに悪くなる。

 

「はぁ・・・ほんっと意味わかんない」

 

吐き捨てるように言って、携帯電話をベッドに放る。

さっき母親から来たメッセージには、今日も同じような内容が並んでいた。

 

「ナブラ大学にはバスケットボール選手が多いのでしょう?」

「良い方がいたら、まず身長を確認なさい」

「最低でも二メートル以上よ」

 

最低でも二メートル以上。

婚約相手選びというより、遊園地のアトラクション利用条件みたいだ。

 

「何なのよ、最低身長二メートルって・・・そんな限られた男の中に、相性の良い奴がいるわけないじゃない」

 

思わず額を押さえる。

 

私自身、身長は202cmある。

小さい頃から、家ではそれを誇りとして育てられてきた。

「背が高いのは選ばれた血筋の証」だの、

「アリサの子供はもっと偉大になる」だの、

やたら壮大なことを聞かされてきた。

 

その果てが、「二メートル以上の男と結婚しなさい」である。

 

いや、雑すぎるだろう。

 

「何よその条件。

優しいとか、顔が良いとか、頭がいいとか、顔が良いとか、一緒にいて落ち着くとか、そういう項目はないの?」

 

部屋に誰もいないのをいいことに、アリサは天井へ向かって文句を投げた。

 

返事はない。

神様もたぶん困っている。

 

机の上には、週末に予定されている一族の会食会場、トライアングルホテルの宿泊チケットが置いてあった。

祖母、祖父、母、父、叔母、従姉妹が勢ぞろいだ。

どうせまた、似たような質問攻めにあう。

 

「大学には慣れた?」

「勉強はどう?」

「単位はきちんととれているのか?」

「ところで二メートル超えの男性はいた?」

 

最後だけ圧が違うのだ。

途中まで普通の家族の会話なのに、急にNBAのドラフト会議みたいになる。

 

私は枕を抱き上げ、そのまま顔を押しつけた。

 

「いたとしても、だから何よ・・・」

 

二メートル以上の男、確かにナブラ大学には十数人ほどいるらしい。

特にバスケ部には5人以上いる。

 

だが、問題はそこじゃない。

 

「二メートル以上だから結婚候補」という発想が、もう嫌なのだ。

 

人間を何だと思ってるんだ。

遺伝子の掛け合わせ用ユニットじゃないんだから。

 

しかも一族の大人たちは本気で言ってくる。

 

「高身長の血は守らなければならない」

「百年続く我らがブランド【Ginormous】の社長には、高身長の男しかなれないルールだ」

「アリサの代で途切れさせるわけにはいかない」

 

どこの王族だ。

うちは王位継承でもしてるのか。

 

「だいたいね・・・」

 

私は枕から顔を上げた。

 

「二メートル以上の男なんて、普通に考えて絶対クセ強いでしょ」

 

これは偏見かもしれない。

でも、経験則でもあった。

 

高校時代に紹介された“婚約者候補”たちは、

全員どこかしら変だった。

 

やたらと自信満々なやつ。

自分の筋肉の話しかしないやつ。

「君の遺伝子は素晴らしい」とかいう、恋愛どころか研究論文みたいな口説き文句を言ってきたやつ。

 

思い出しただけで頭が痛い。

碌な奴がいなかった。

 

・・しかも、全員もれなくイケメンじゃなかった。

身長が高い遺伝子と、顔が良い遺伝子は、かけ離れた特徴を持っているのかもしれない。

 

「私はね、普通に恋愛したいの。普通に。

・・いや、身長が普通じゃないのは知ってるけど」

 

そこは自分でも分かっている。

202cmの女が普通を口にするのは、多少無理がある。

 

でも、せめて中身を見たい。

身長計を持って相手を値踏みする人生なんてごめんだ。

 

携帯電話がまた震えた。

新着メールだ。

 

「そういえば、あなたの大学に227cmの日本人選手がいると聞いたわ」

 

 

・・・思わず無言になる。

それからゆっくり天井を見上げた。

 

「仕事が早いな、うちの一族」

 

怖い。

情報網が怖い。

 

まだ入学したばかりの新入生なのに、もう候補者リストに入れられている気配がする。

 

「だからそういうのが嫌なんだってば!」

 

思わずベッドに倒れ込む。

長い脚がはみ出して、危うく机にぶつかりそうになる。

まったく、イライラする。

部屋が私のサイズに追いついてない。

 

 

・・・でも。

あの日本人選手。

その言葉に促されるように、さっきの光景がふと頭に浮かんだ。

 

夕方、キャンパスで見かけたあの背の高い男子、名付けてBIG-D。

いや、“背が高い”という表現で片付けていいのか分からないレベルだけど。

 

最初に見た時は正直、そっちに意識が全部持っていかれた。

とにかくでかい。

本当にそれしか出てこなかった。

誰かを見上げたのなんて、久しぶりだった。

 

でも、落ち着いて思い返してみると。

 

「・・・いや、普通にイケメンだったのよね」

 

私は枕から顔を上げた。

 

整った目鼻立ち。

すっきりした輪郭。

キリっとした目に、夕日を反射してキラキラと輝いていた瞳。

変に気取ってないのに、妙に目を引く感じ。

 

しかも、あの身長で威圧的に振る舞うわけでもなく、淡々としていた。

顔が良いだけの人間なら、あそこまで印象には残らない。

BIG-Dはたぶん、ちゃんと中身が落ち着いている。

 

「・・・しかも声も悪くなかったし」

 

ぼそっと呟いてから、私は自分で自分に呆れた。

何を分析してるのよ、私は。

別にそういう意味じゃない。

全然違う。

 

うちの一族のアホみたいな条件と、私個人の好みは別問題だ。

・・・別問題、のはずだ。

でも、事実として、BIG-Dの顔はかなり整っていた。

あのサイズで顔まで良いのは、ちょっと反則じゃない?

 

「神様、配分って知ってる?」

 

天井に向かって聞いてみる。

やっぱり返事はない。

 

 

227cmの日本人選手、たぶん間違いない。

母親が言っているのはBIG-Dのことだ。

あの身長だ、一族が食いつくのも分かる。

分かるけど、私を巻き込まないでほしい。

携帯電話を手に取り、母への返信を打つ。

 

「身長だけで人は選ばない」

少し迷ってから、もう一文足した。

「あと、勝手に候補扱いしないで」

 

送信。

 

ああ、面倒な返事が来る。

絶対来る。

来週の会食が今から面倒になってきた。

 

でも、まあいい。

少なくとも私は、身長だけで誰かを選ぶつもりはない。

たとえ、その誰かがかなりイケメンの227cmの男だったとしても。

 

・・・いやでも、とにかく顔が良かったわよね。

 

「だめだだめだ」

 

私は頭を振って邪念を払い、窓の外を見た。

夜のキャンパスに、コートの灯りがともっている。

 

自由な大学。

自由な空気。

対照的に、自由じゃない一族の掟。

 

折角このリベラルな大学に入ったんだ。

付き合う相手くらい、自分の意志で決めたい。

私は自他共に認める面食いなのだ。

一族がどんな巨人を用意したって、簡単に交際をするつもりはない。

せめて、BIG-Dくらいのイケメンじゃないと。

・・・って違う。

 

私はもう一度、大きく息を吐いた。

 

「ほんと・・・面倒くさい家に生まれたわ」

 

けれど今のため息の最後には、

さっきより少しだけ、小さな笑いが混じっていた気がした。

 

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