身長2m28cmの大男、平成元年の日本に転生する   作:はるあき 007

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二話投稿!一話目
#夏風邪を二連チャンで引いてたので、投稿ペースが落ちました・・・


17歳-36 サマーリーグ挑戦(勇太)

アメリカに来てから、何度「こいつら、本当に同じ競技をやってるのか?」と思ったことだろう。

 

 

サマーリーグ。名前だけ聞けば、爽やかな響きがある。

夏、若手、新しい挑戦。

未来ある選手たちが集まって、NBAへの足掛かりを掴む・・・そんな綺麗なものじゃない。

実際は、NBAの数少ない席を奪い合うために、全員が必死になっている。薄暗い戦場のような場所だ。

 

契約を持っている若手もいる。

ドラフトされたばかりの選手もいる。

Gリーグから這い上がろうとしている選手もいる。

海外リーグから来た選手もいる。

招待だけで参加していて、次の試合で結果を出せなければ、そのまま名前が消えるような選手もいる。

 

全員が、このサマーリーグに人生を懸けている。

 

そのせいか、練習から空気が違った。

一本のシュート、一本のパス、一本のディフェンス。その全てが評価対象になる。

ちょっとした気の緩みが、そのまま「こいつはいらない」という判断につながりかねない。

 

日本代表の合宿だって緊張感はあった。

ワールドカップだって、もちろん遊びじゃなかった。

でも、ここにはそれとはまた違う怖さがある。

 

代表では、自分は選ばれた数少ない選手だった。だが、ここでは違う。

俺は何者でもない。

 

昨日まで日本代表で何分出ていたかなんて、全く関係ない。

向こうからすれば、少し線の細いパワーフォワード。その程度だ。

使えるなら残す。使えないなら切る。

単純で、残酷で、分かりやすい。

 

「Yuta! Stay in front!」

 

「Yes!」

 

コーチの声が飛ぶ。

目の前のガードがボールを持つ。

身長は190cmないくらい。

 

体格だけなら、そこまで圧倒される相手ではない。

そう思って構えた次の瞬間。

視界から消えた。

 

「っ!」

 

右へのクロス。

そこから左。

俺が右足を引いた瞬間には、もう肩が俺の左腰の位置にあった。

 

(速っ……!)

 

慌てて追う。

なんとか後ろから身体を寄せる。

そんな俺をチラリと見ながら、そのままレイアップを打ってきた。

 

(・・舐めるなよ!)

 

俺は全身の力を振り絞ってジャンプし、何とかボールに触る事ができた。

シュートは外れ、味方センターがリバウンドを取る。

 

 

俺は着地して、思わず息を吐いた。

 

(なんだ、今のスピードは)

 

日本なら、世代最速のガードとして扱われる様な選手だ。

それがこっちだと、普通にいる。ゴロゴロといる。

 

練習を続けていると、身体能力の差を感じて、もっと嫌になる。

こっちのガードはとにかく身体が強い。

 

細く見える奴でも、当たると全然押せない。

スピードだけじゃない。

止まれる、切り返せる、そこからまた加速する。

 

しかも、シュートレンジが広い。少し下がれば3Pを打たれる。

当然、詰めれば抜かれる。

スクリーンを使われたら、今度はプルアップ。

 

さらに、自分より二回り大きい相手に対しても普通に突っ込んでいく。

このバイタリティ、闘争心。凄まじい物がある。

正直、最初の数日はかなり面食らった。

 

(これがNBAの近くにいる連中か……)

 

ワールドカップで感じた世界のレベルとは少し違う。

あっちは完成された選手の凄さだった。

こっちは、素材の暴力だ。

 

速い、強い、跳ぶ、長い。

しかも、全員若い。

これから伸びる奴ばかりだ。

 

 

ある日の練習では、俺の横を身長198cmくらいのウイングがリングまで歩いて行って、そのままリングに叩き込んでいた。

助走はほとんどなかった。

 

「……マジかよ」

 

思わず日本語が出た。

隣にいた選手が笑った。

 

「You good?」

 

「Yeah. I'm good.」

 

よくない、全然よくない。

こんなのが何人もいる。

バスケットボールという競技をやっているというより、陸上競技のエリートが全員ボールを扱えるようになってる感じだ。

 

だがしかし。

何日か練習して、俺は一つだけ気づいた。

 

(・・・大ほどじゃないな)

 

それに思い当たった瞬間、俺は少しだけ安心した。

 

もちろん、ここにもでかい選手はいる。

210cm、212cm、219cm、逆に2m以下の選手を探すのが難しいくらいだ。

腕を横に広げたら、ほぼ壁みたいになるセンターもいる。

ジャンプ力もすごい。体重120kgを超えていそうなのに、そこそこ走れる奴もいる。

 

でも、それでも。

ここには、東雲大のような奴はいない。

 

あいつみたいに、あのサイズで、あの速度で動く奴はいない。

227cmで走れて、外までついてきて、しかもボールをハンドルできる。

ターンも速い、外のシュートもある。パスも上手い。

 

そして何より、あのサイズなのに「大きい選手の動き」をしていない。

普段から大を見ているせいで、感覚が麻痺していたんだと思う。

アメリカに来て、初めてそれが分かった。

 

(あいつ、やっぱりおかしいわ)

 

改めて思う。

そして、もっと大きな安心材料があった。

ここには大がいない。

つまり、俺が大を守らなくていい。

 

これは本当に大きい。

日本代表の練習でスイッチして大についた時なんて、冗談じゃなく地獄だった。

スペースをあけて前に立つと、上から打たれる。

詰めると抜かれる。

身体を当てると、そもそもこっちが押し返される。

ポストに入られたら、もう終わり。

 

あのとき感じた絶望的な差に比べれば、ここの選手はまだ理屈が通じる。

でかい奴はいる。速い奴も、強い奴もいる。

でも、全部を同時に持っている奴はいない。

 

(よし)

 

そう思えるだけで、少し気が楽になった。

 

とはいえ、自身の立場が楽になったわけじゃない。

むしろ、そこからが問題だった。

 

俺は、この中で何を武器にするのか。

スコアラーとして見ると、もっと上手い奴がいる。

ドリブル、プルアップ、フィニッシュスキル。

 

全部、俺より上の選手がいる。

得点力でも負け、身体能力でも勝てない。

サイズも特別優れているわけじゃない。

 

日本では「全てが優れているフォワード」だった。

でも、こっちでは 「すべてが平均値のフォワード」になってしまう。

それが一番危ない。

何でもできるけど、何も抜けていない。

そういう選手から消えていく。

 

 

ある日の練習後、コーチに呼ばれた。

 

「Yuta. Come here.」

 

正直、心臓が跳ねた。

 

(来たか……)

 

悪い方を考えた。サマーリーグを去っていく選手たちの様子を、俺はもう十分見た。

ローテーションにいれる予定はない、次の試合で終わり。

そんな話かもしれない。

 

俺は汗を拭いて、コーチのところへ向かった。

小さなミーティングルームには机、椅子、タブレット。

そして、厳しい表情のコーチ。

いかにも、選手の人生が決まりそうな場所だった。

 

「Sit.」

 

「Yes.」

 

言われるがままに座る。

コーチが画面を操作すると、俺の練習映像が流れた。

 

ドライブ、パス、ターンオーバー・・・。

ディフェンス、3P、またディフェンス。

 

「Yuta.」

 

「Yes.」

 

「What do you think your role is?」

 

いきなり、核心を突いた質問をされた。

・・・少し考える。

 

「Scorer?」

 

コーチは首を振った。

 

「No!」

 

余りにも早く、あまりにも明確な反応だった。

・・・ちょっと傷つく。

でも顔には出さない。

 

「You don't need to be a scorer here.」

 

コーチは映像を止めた。

俺がドライブで中に切り込んでいる場面だ。

 

「There are a lot of guys who can do this better than you.」

 

「……Yes.」

 

分かっている。

悔しいけど、こっちには俺より速い奴がいる。

俺よりハンドリングが上手い奴が、フィニッシュが上手い奴がいる。

そこで勝負するのは、たぶん効率が悪い。

 

「But」

 

コーチが次の映像に切り替えた。

ドラフトで4位指名された期待のフォワードに、前線からついている俺が表示された。

 

「Defense」

 

次。

味方がドライブした瞬間に、ベースラインを走る俺。

うまくパスがやってきてダンクでフィニッシュができた。

 

「Cutting」

 

次。

コーナーでパスを受けて3Pを打ったシーンだ。

外れてしまったが・・・。

 

「Shooting」

 

ここで画面を止め、こちらをみてきた。

 

「Defense. Cutting. Three-point shooting.」

 

 コーチは指を三本立てる。

 

「You can play if you do these three things.」

 

ディフェンス、カッティング、スリーポイント。

どれも、俺の得意なことだ。

まあ、スリーポイントはかなり改善の余地があるが・・・。

 

「You don't have to hold onto the ball for long. You don't have to be a star, either. Defend against the opponent's most dangerous scorer」

 

「Yes.」

 

「Move when you don't have the ball.」

 

「Yes.」

 

「When the path is clear, don't hesitate to shoot.」

 

「Yes.」

 

「That's all I need.」

 

それだけで良い、か。

俺は少し考えて聞いた。

 

「Do I really not have to try to become a star?」

 

 コーチが笑った。

 

「There are too many guys trying to be stars. But every star needs players around him.」

 

スターの周りには、必要な選手がいる・・か。

俺は黙って聞いた。

 

「You want an NBA job?」

 

「Yes.」

 

「Then be useful.」

 

be useful、使える選手になれ。

その言葉が、妙に胸に残った。

 

スターになれ、点を取れ、試合を支配しろ。

中学高校、そしてBリーグでも、今まではそういうことばかり考えていた。

 

日本代表で、大の横でプレーするようになってからもそうだった。

あいつみたいな怪物の隣に立つなら、自分ももっと上手くならないといけない。

もっと点を取らないといけない。

もっと試合を作らないといけない。

少しでもあいつに追い付かなければならない。

 

・・・でも、もしかすると、考え方が逆だったのかもしれない。

大がいるなら。大にボールを持たせればいい。

NBAにスターがいるなら、スターにボールを持たせればいい。

 

俺がやるべきなのは、その選手が一番気持ちよくプレーできるようにすること。

そして相手のスターが、一番嫌な時間を過ごすようにすること。

 

「・・・なるほど」

 

思わず日本語で呟いた。

コーチが頷く。どうやら、日本語のリスニングはできるようだ。

 

「Nothing.」

 

俺はもう一度画面を見た。

ディフェンス、カッティング、3P、そしてルーズボールに飛び込む姿。

地味だ、すごく地味。

ハイライトには残りにくい。

 

スポーツニュースで「今日のトップ10」に選ばれるようなプレーでもない。

でも、それでも。

これなら、俺にもできるかもしれない。

いや、俺だからできる形にできるかもしれない。

 

「相手の一番いいスコアラーを守ります」

 

俺が言う。

コーチが頷く。

 

「Good.」

 

「ずっと張り付きます」

 

「Good.」

 

「相手選手に、嫌われるくらい」

 

少し間があって、コーチが笑った。

 

「Better.」

 

そこから練習の見え方が変わった。

以前は、ボールを持って何ができるかばかり考えていたが、今は違う。

相手を見る、味方を見る、空いているスペースを見る。

ボールがないところで、何ができるか。

 

まずディフェンス、とにかく前からつく。

腰を落とす。相手の胸ではなく、腰を見る。

フェイクに反応しない。

 

一歩目で負けたら終わりじゃない。

追う、横につく。

俺はガードに比べるとスピードが遅いが、フォワードにしてはジャンプ力と高さがある。

横からでもシュートに圧力をかけることができる。

 

スクリーンが来る。

かわす、無理なら身体を細くして抜ける。

 

それでも離されたら、もう一度追いつく。

しつこく。とにかくしつこく。

気持ちで負けない、諦めない。

 

そうやって、相手スコアラーの嫌がるディフェンスをひたすら磨いていった。

 

 

 

ある日のサマーリーグ。

この日も俺は、相手のエースガードにずっと張り付いていた。

最初は何も言わなかった。

二本目、三本目、四本目。

 

とうとう相手が振り返った。

 

「Man, get off me!」

 

苛立っている。

俺は思わず笑いそうになった。

 

「Sorry.」

 

全然悪いと思ってないけど。

相手がボールをもらう。すぐにプレッシャーをかける。

 

右を切る、左に行かせる。

ヘルプが来る位置へ誘導できた。

苦し紛れのパスがくる。

 

(これだ)

 

点を取ってない、スティールもしてない、ブロックもない。

でも、相手のオフェンスは停滞した。

俺の仕事は、完璧にこなせた。

 

次はカッティング。

これが意外と難しかった。

Bリーグでは何度もやってきたが、ここではコート広さが違う、相手ディフェンスの速度が違う。

今までの様に俺が行きたいタイミングでゴール下に入ることができなかった。

 

だが、何度か失敗するうちに気づいた。

自分が行きたい時に行くんじゃない。

相手が見ていない時に行く。

ディフェンダーの首を、腰を見てタイミングを盗むんだ。

 

味方がドライブした。

相手ディフェンダーが一瞬だけボールを見る。

 

(今)

 

背中を切ってゴール下に侵入した。

パスが来る。

そのままダンクシュートを決めた。

 

 

簡単だ。

簡単に得点が取れた。

でも、この簡単な二点を作るために、一瞬のタイミングの読みが必要だった。

・・・これがカッティングか。

 

 

最後は3P。これは反復練習あるのみだ。

コーナー、45度、トップ、どの位置からでも高精度にシュートを決める必要がある。

 

キャッチ、セット、シュート・・外れる。

次。

キャッチ、セット、シュート・・入る。

次。

キャッチ、セット、シュート・・また入る。

次。

 

足が疲れてくる。

シュートが短くなる。

そこでまたフォームを整える。

 

試合で必要なのは、元気な時に入るシュートじゃない。

ディフェンスで相手を追い回した後。

何度もスクリーンにぶつかった後。

足が重くなってから、それでも決める3Pだ。

 

何本打ったか分からなくなるくらい繰り返した。

 

 

そんなある日、サマーリーグの一コマ。

チームのエーススコアラーの調子が良かったので、今日のオフェンスはアイソレーションを中心に組み立てられていた。

俺はコーナー待機だ。

 

味方のエースがドライブでゴール下に侵入した。

ディフェンスが収縮する。

それを見たエースが、こちらにボールを飛ばしてきた。

 

(打つ)

 

迷わない。

キャッチ、セット、シュート。

・・・スパッ。

リングにはほとんど触れず、ネットが鳴った。

 

戻りながらベンチを見る。

コーチがニヤリと笑い、頷いた。

それだけ。

 

でも・・・嬉しかった。

たぶん、今までなら得点したことそのものを喜んでいた。

でも今は違う。

やるべきことをやったその事実が嬉しい。

 

(俺はこれでいい)

 

少しずつ、そう思えるようになってきた。

もちろん、まだNBAに入れたわけじゃない。

何も決まっていない。

明日にはローテーションが変わるかもしれない。

次の試合でシュートを外し続ければ、それだけで評価が落ちるかもしれない。

ディフェンスで簡単に抜かれたら終わり。

 

サマーリーグは、そういう場所だ。

でも、道は見えた。

 

NBAで20点取る必要はない。

10アシストする必要もない。

スターじゃなくていい。

むしろ、スターが嫌がる選手になればいい。

 

スターが助かる選手になればいい。

東雲と一緒にやってきた経験は、無駄じゃなかった。

あれだけボールを集める価値のある選手の横でプレーしていたからこそ分かる。

スターの横に必要なのは、もう一人のスターだけじゃない。

 

スペースを作る奴、守る奴、走る奴、余計なことをしない奴。

そして、必要な一本を決める奴。

 

(だったら、そこを極めればいい)

 

俺は汗で濡れたシャツを引っ張りながら、コートの端へ歩いた。

 

ここの選手は速く、強く、高い。

やっぱり化け物ばかりだ。

でも、以前ほど怖くはなかった。

 

東雲より大きくて、東雲みたいに動く奴はいない。

そして、俺には俺の戦い方がある。

 

華やかじゃなくてもいい。

試合後のハイライトで名前が出なくてもいい。

ボックススコアを見て、6点/3リバウンド/2アシスト。

そんな数字でも構わない。

 

ただし、相手のエースを苦しめて、味方のスターが気持ちよくプレーできて。

最後にコーチから、「Yuta, stay on the floor.」と言われる選手になる。

 

それでいい。

いや、それがいい。

 

俺はNBAのスターになりに来たんじゃない、NBA選手になりに来たんだ。

だったら、生き残る。

どんな形でも使われる選手になる。

勝つために、外せない選手になる。

 

その席を、俺は、自分の手で掴みにいくと決めた。

 

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