アイリスを咲かせて   作:赤辻康太郎

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機動戦士ガンダムSEEDナタル生存if二次創作小説です。
今回でアニメ本編の流れは一旦簡潔となります。
最後が少し駆け足ですがそれでもよろしくければご一読お願いします。


天使の剣

ムルタ・アズラエルは大西洋連邦理事が集う理事会の席に居た。議題は勿論、彼が持ち帰ったNジャマーキャンセラーだ。彼がもたらしたその技術は今後大きな役割を担うことが予想された。

「君の持ち帰ったNジャマーキャンセラー技術は大きな功績だよ、アズラエル」

理事会でも彼を評価する声は多い。これにより様々な問題が解決することになるのだから。

「しかし、核で総攻撃というのは……」

アズラエルはその技術を早速核兵器へと転用した。そのことが理事会でも少々問題視されていた。

「それよりも、地球上のエネルギー問題を解決した方が……」

化石エネルギーの枯渇問題もあり、再生可能エネルギーにも限界がある。Nジャマーキャンセラーで再び原子力エネルギーが使えるとなれば現状の懸念も解消されるはず。理事会でも対プラントよりもそちらに使った方が良いという意見も上がっていた。

「この期に及んで何を言ってるんです?」

アズラエルは机に手を叩きつけ理事会の面々をキッと睨む。未だに及び腰の姿勢、日和見を決め込む理事たちに、アズラエルは苛立っていた。

打破する力があるのにそれを利用しないのは国防産業理事としても、反コーディネーター主義を掲げるブルーコスモスの盟主としても望むものではない。

「核は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃあない。強力な兵器なんですよ? 兵器は使わなきゃ」

どのみち遅かれ早かれコーディネーターは滅ぼさねばならないと主張するアズラエルに押され、理事会も核兵器の使用を認めた。月基地では大量の核兵器を積んだ艦隊が出撃の時を今か今かと待ち構えていた。

「さ、さっさと撃ってさっさと終わらせましょう。こんな戦争は」

連合軍は目標をプラント防衛要塞ボアズ、そしてプラント本国に定め作戦を開始。月面基地から核を搭載した艦隊が出撃した。

MS部隊がボアズ守備隊を引きずり出し、レイダー、フォビドゥン、カラミティが道をこじ開け、最後に核ミサイルを搭載したMA部隊ピースメーカー隊がボアズに核を打ち込んだ。その鮮烈な光にアズラエルは笑みをこぼし、その残酷さにフレイ・アルスターは目を背けた。これが自分のもたらした結果だという事実とともに。

「おのれナチュラルども……!」

一方ボアズの核攻撃の報を受けたプラント最高評議会議長パトリック・ザラは怒髪天となっていた。ユニウスセブンだけでなくボアズにまで核の光が放たれたのだ。彼だけでなくその場にいた殆どの人物が連合軍の卑劣な攻撃に憤りを感じていた。

「直ちに防衛線を張れ! クルーゼ!」

「はっ!」

「ヤキン・ドゥーエへ上がる……ジェネシスを使うぞ!」

議長の宣言に、クルーゼは密かにほくそ笑んだ。

ボアズ陥落の報せを受けたアークエンジェル、クサナギ、エターナルもプラントに向けて出撃した。ボアズが落ちた今、次に狙われるのはプラントだ。何としてもそれは阻止しなければならない。

「でも核だなんて……」

「あんま、驚きはしないがね。JOSH-Aの後だし」

ムウが皮肉を込めて言う。元々味方ごとサイクロプスで自爆するような連中だ。今更何をしようが最早驚くに値しない。

「けど、あの野郎……」

『間もなく最後の扉が開く! 私が開く! そして世界は終わる!』

『鍵を持ってるわ! 戦争を終わらせるための鍵!』

「……こういう事かよ!」

連合に核を持たせること。それで滅ぼし合わせることがクルーゼの狙いだった。人類を破滅させるために。

「しかし、戦争を終わらせる鍵が核だとは……」

「……確かに終わるさ。相手を滅ぼせばな」

ナタルの顔に影がさす。認めたくはないが、敵を滅ぼせば戦争はなくなる。敵が居なくなるのだから。だがそれは新たな戦火の火種にしかならない。憎しみの連鎖の果ては滅亡しかないのだ。

「何でそんなもんがあるんだろうね」

銃にMS、そして核。なぜ人はそのような兵器を産み出してしまったのか。キラの疑問に答えられる者は、誰もいなかった。

「私たちは、間に合わなかったのかもしれません」

ラクスが嘆く。

「平和を叫びながら、その手に銃を取る。それもまた、悪しき選択なのかもしれません。でもどうか今、この争いの連鎖を、断ち切る力を!」

地球軍の蛮行を止めるべくストライク、バスター、そしてアームドモジュールミーティアを装備したフリーダムとジャスティスが戦場に躍り出る。戦いは既に幕を開けており、奥にはピースメーカー隊も散見された。キラとアスランはプラントへの核を攻撃を阻止すべく、ミーティアのブースターを最大まで上げる。

「あのミサイルを落とせ! プラントをやらせるなあ!」

イザークの悲痛な叫びに呼応し、プラント守備隊もミサイルの撃墜に走るが、連合の三機に阻まれて思うように防げない。その間にもMA隊はミサイルの安全装置を解除。プラントに向けて無数の核ミサイルが放たれた。

「っ!」

だがその寸前で、突如飛来した無数のビームとミサイルにより核はプラントに届く前に炸裂した。呆けているイザークたちを尻目に、戦場を駆ける二つの影。キラたちが間に合ったのだ。キラとアスランは尚も放たれる核を次々に落としていく。

「っ! あのMSに続け!」

正気に戻ったイザークも部下に指示し核ミサイルの撃墜に参加。プラントへの攻撃を何とか凌いでいく。

「エザリア。守備隊を射線上から下がらせろ」

ヤキンではジェネシスの発射準備を終えたザラ議長が守備隊を指揮するエザリア・ジュールに守備隊の退避を指示。ヤキン・ドゥーエの影から一機の超大型兵器が現れた。

「全軍射線上から退避? ジェネシス?」

突然の撤退命令にイザークは困惑した。ジェネシスが何なのかは分からないが、射線上からの退避と言うのだから大型の兵器には違いない。

「フリーダム、ジャスティス避けろ! ジェネシスが撃たれる」

プラントの大規模攻撃を察したイザークは秘匿回線でキラとアスランに撤退を通達。味方ではないとはいえ、敵でもなくプラントを守った二人を巻き込むわけにはいかない。

「この攻撃が、我らコーディネーターの創成の光とならん事を!」

ジェネシスの鏡面にエネルギーが収束。一本の長大なビームとなり、連合の艦隊に向けて放たれた。照射された膨大なγ線は連合軍主力艦隊の半数を一瞬にして凪払った。その威力に、敵も味方も皆目を見開いた。

「サザーランド大佐、これでは……」

「ええい! 浮き足立つな! 残存艦の把握急をげ!」

旗艦を失い、現時点での戦闘続行は不可能と判断したドミニオンは残存艦隊を引き連れ撤退した。第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦はプラント側の勝利となった。アークエンジェルらも体勢を立て直すため退却を余儀なくされた。

「我らが勇敢なるザフト軍兵士の諸君! 高慢なるナチュラルどもの暴挙をこれ以上許してはねらない!」

プラントに向けて核を放った地球連合をザラ議長は虐殺であると批判した。両者の溝はもはな修復不可能な域まで深まってしまった。

撤退するダガーに向けてジンが攻撃の手を緩めない。憎しみの炎がその火種を燻らせている。

「この光と共に今日という日を、我ら新たなる人類コーディネーターの輝かしき歴史の始まりの日とするのだ!」

ザラ議長の演説にザフト軍司令部が沸き上がる。ザフトのために。その場にいた全員が歓声を上げ、ザラ議長も頷く。

対し撤退した連合軍は残存艦隊の補給と整備、負傷者の救護におわれていた。アズラエルはこの状況をのたくたと対応を送らせた連合トップのせいだと怒り唾を飛ばす。その間にも他艦隊から救援要請が入る。

「そんな事より補給と整備を急がせろよ! 終わり次第、残存戦力で再総攻撃だ!」

「アズラエル理事、しかし!」

「アソコに、あんなモノ残しとく訳にはいかないだろう!」

アズラエルが指差すモニターには次弾の準備が進められるジェネシスの姿がある。

「何がナチュラルの野蛮な核だ! 彼処からでも地球を狙える……奴らのあの兵器の方が遥かに野蛮じゃないか!」

次は地球が狙われるかもしれない。その脅威を野放しになどできない。地球が撃たれる前に。

エターナルでもその破壊力が議論された。バルトフェルドは遠距離大量破壊兵器所持の理由は抑止だと言う。しかしどちらも既に撃たれてしまった。

「初めて戦場で敵を撃った時、震えたよ」

バルトフェルドが染々と語る。

「だがすぐに慣れると言われ……確かに、すぐ慣れたよ」

「アレのボタンも核のボタンも同じ、と?」

「違うか?」

人は慣れる。楽しいことも悲しいことにも、そして人を殺すことにも。銃の引き金も核やジェネシスのボタンも同じ。指先一つで、簡単に人を殺めることができる。そして正義の名の下に、人はその意味を忘れる。キラたちはもう核もジェネシスも撃たせないと誓う。

「……」

アークエンジェルの談話室で、ノイマンはソファーにぐったりと腰を下ろしていた。買ったばかりの缶コーヒーも封を開けずに手持ちぶさたにしている。

「どうしたんだ? こんな所で」

「え?」

不意に声をかけられそちらを向くと。ナタルが腰に手を当てていた。

「ば、バジルール中尉! 失礼しました!」

慌てて立ち上がり敬礼するノイマンをナタルは片手を上げて制する。

「いや、いい。突然声をかけてすまなかったな」

「い、いえ……」

ナタルはそのままノイマンの方に歩み寄ると、隣に腰をかけた。

「飲まないのか?」

「え? ああ。何となく飲む気が失せて」

ばつの悪そうに頭を掻くノイマン。結局かれは缶を中空に放った。行き場を失った缶が回りながら漂う。ノイマンはそれをぼんやりと見つめていた。

「……どうなるんですかね? この戦争」

「そうだな」

もはや戦争とは呼べない。文字通りの互いを滅ぼし合う殲滅戦へと様相を変えつつある。その先にあるのは破滅と新たなる憎しみの連鎖。

「……俺、子供の頃ヒーローに憧れてたんです」

「……うん」

「中でも巨大戦艦で敵をやっつけるのが好きで、子供の頃の夢でした。でっかい戦艦を操縦するのが」

その頃を思い出す様に静かに語る。ナタルも黙って聞いていた。

「叶ったか?」

微笑みながらノイマンに聞く。ノイマンも微笑みながなら答えた。

「ええ。叶いましたよ。すっごい格好いい戦艦に乗れましたから」

軍に入って戦艦の操舵手を志願して、アークエンジェルの操舵手に配属になった時は嬉しかったと。

「けど、現実は違いますね。軍が正義、ザフトが敵だと思ってたら今度はアラスカにオーブで連合と戦って。今はその両方を相手にしている。これじゃ、何が正義かわからないですよ」

「戦争に正義も悪もない。皆が自分の信じるモノのために戦っている。……そう思っていたかが」

今ではその自信もない。地球軍もザフトもお互いに相手を討ち滅ぼすことしか考えていない。撃たねばやられる。やられるまえに撃つ。撃たれたから撃つ。撃つから撃たれる。堂々巡りの鼬ごっこ。戦争はそういうものだと割り切れればいい。いや二人とも少し前まではそう思っていたのだ。今までの経験が悩ましいほどに二人を変えた。

「連合もザフトもこれでは疲弊するばかりだ。仮にどちらかが勝利してもその先に未来はない」

ザフトが勝てば地球が、連合が勝てばプラントが滅びる。だがどちらが勝つにせよ、いずれ訪れるのは滅亡だとナタルは言う。

「地球は残り少ない資源を食い合い、それをめぐって新たな利権争いが起きる」

「プラントは出生率の問題で次世代が産まれず人口の減少は押さえられない」

どちらも未来の世代に託すには大きすぎる問題を抱え、解決の糸口も掴めていない。

「どちらにせよ待つのは地獄、ですか。やってられないですね」

「だが、それを止めるためにも我々も戦わねばならない」

ここにいる全員がそんな未来を望んではないない。そうさせないためにここにいる。

「……中尉はこの戦闘が終わったらどうします?」

「え?」

唐突に投げられた問いにナタルは面食らった。

「終わったら、か……取り敢えず、大西洋連邦には戻れないな」

脱走艦であるアークエンジェルのクルーは大西洋連邦に戻ったら軍法会議は免れない。

「ですよね。まあその辺はカガリにでもどうにかしてもらいますか」

オーブ連合首長国代表の娘であるカガリなら亡命の口利きなど容易にしてくれそうだ。

「中尉はないんですか? やりたいこととか?」

「生憎と軍一筋だったからな。今更やりたい事なんて」

言っていてナタルは思い返す。幼い頃から厳しく育てられ何の疑問も持たずに軍門の扉を叩いた。軍に入ってからも規律正しく、ただ命じられるままに過ごしてきた。果たしてそれは自分が本当に望んだことだったのだろうか。

「……少尉はどうなんだ?」

「俺ですか? そうですね……戦艦はもう懲りたんで次は車あたり運転しますか」

「車でバレルロールはできないぞ?」

「しませんって。俺のこと何だと思ってるんですか?」

ノイマンの情けない顔に、自然と笑みが出てしまった。彼をバカにしている訳ではない。不謹慎だが無意識に安心していたのだ。

「初めて見ましたね」

「え?」

「中尉がそんな風に笑ったの」

「なっ!」

ナタルの頬が熱くなる。異性からそんな事を言われたのは正真正銘初めての経験だった。

「じ、上官をからかうんじゃない! だいたい、その言い方だと私が常に怒ってるみたいじゃないか!」

実際彼女は普段から笑わないし今だって怒っているのだから間違いではないのだが、怒られたノイマンは「すみません!」と平謝りだ。そうこうしていると、放っていた缶がナタルの下に戻ってきた。ナタルはそっとそれを手で包む。

「いつか……」

「はい」

「いつか、君の運転する車に乗せてくれるか?」

「勿論です」

ナタルはその言葉に微笑むと缶を開けて中身を一口すする。

「勝つぞ」

決意を新たに口をつけた缶をノイマンに返す。

「ええ」

ノイマンはそれをしっかりと受け取った。

月面プトレマイオス基地から連合軍の増援部隊が派遣されたが、ジェネシスの第二射を受け半壊。プトレマイオス基地も被爆し地球軍に壊滅的なダメージを与えた。

「核攻撃隊を発進させろ! あの忌々しい砂時計、一つ残らず叩き落としてやるよ!」

「アズラエル理事、それでは……」

逆上したアズラエルは標的をジェネシスからプラントへ変更。一気に勝負に出た。しかしそれでは今の脅威は排除できない。

「うるさい! どうせプラントを落とせば戦争は終わるんだ!」

ドミニオンの転進を察知したアークエンジェルはジェネシスをエターナルとクサナギに任せアズラエルを追った。

「またこいつらのお守りかよ」

オルガが文句を垂れながらMA隊の守備に就く。イザークの率いるプラント守備隊も迎撃に出る。

「アークエンジェル接近! 距離9000!」

「丁度いいじゃないですか。あの裏切り者の艦、今度こそ沈めるんだ!」

アズラエルはついでとばかりにアークエンジェルの撃墜を命じる。フレアが不安そうにモニターを見ると、近づいてくるアークエンジェル。

「アンチビーム爆雷発射!」

「ゴットフリート照準、ってー!」

両者のビーム方がそれぞれの右舷を掠める。アークエンジェルはゴッドフリートの一番を破損。ドミニオンも右舷ヘルダートが使用不可となる。

ゴットフリート、バリアント、ヘルダート、イーゲルシュテルンにスレッジハマー。持てる火力の全てを持って天使の名を冠した二隻は戦う。

「マリューさん!」

「必要な部隊は補給を! ドミニオンは押さえる。ジェネシスへ!」

ピースメイカー隊を掃討したフリーダムたちは続けてジェネシスへ向かう。アークエンジェルはキラたちの邪魔はさせないとドミニオンを押さえ込む。

「ストライク帰投します! 被弾あり!」

「ええ!?」

そこへ右腕と左足を失ったストライクが帰還。途絶え途絶えの通信からクルーゼと戦ったのが分かった。

「くそ! クルーゼの新型! も、もう一度ーー」

「報告は後です! 整備班、緊急着艦用のネットを! 医療班待機!」

マリューは左舷カタパルトを開きストライクの帰投準備を急がせる。

「今だ! 撃て!」

この機を逃すまいとアズラエルはローエングリンの照準を合わせるように命令した。

「アズラエル理事、それではーー」

あまりにも人道に反する。という台詞を、サザーランドは寸前で飲み込んだ。今更アズラエルに人道を説く意味も、それを口にする資格も自分にはないと覚った。

「なんですかこの期に及んで。まさか、僕に人道を説く気ですか? 貴方が?」

小馬鹿にしたように嘲笑うアズラエルに、サザーランドが唇を噛む。

「ほら、さっさと撃つんだ!」

「……」

命じられた士官は命じられるがまま、ローエングリンの起動準備に入る。

「ダメ! もう止めて!」

フレイが叫ぶ。彼女はもう耐えられなかった。アークエンジェルが、マリューやナタルがこんな男の手で貶められるのが。自分のもたらした「鍵」でこれ以上誰かが犠牲になるのが。

「アークエンジェル! 逃げて!」

「お前、この! 何を!」

アークエンジェルを逃がそうとしたフレイをアズラエルが叩く。あまつさえ彼女に拳銃を向けた。

「止めろ!」

兵士の一人が咄嗟にアズラエルの腕を掴む。

「お前……!」

アズラエルが怒りのままに引き金を引いた。銃弾は跳弾し艦橋内を走る。

「アズラエル理事!」

アズラエルを押さえた兵に呼応して、他の兵士もサザーランドを取り押さえる。

「き、貴様ら何を!」

「行け!」

「行ってくれ!」

「アークエンジェルに!」

アズラエルとサザーランドを押さえる兵たちを除き、フレイとクルーはドミニオンからの脱出を図る。

「お前らあ!」

「がっ!」

無理矢理引撃った一発が兵士の脇腹を貫く。

「僕にこんなことして、どうなるか分かっているんだろうな!」

再び一発。今度は肩を貫いた。たがそれが悪運の尽きだった。肩を貫通した弾丸は勢いそのまま何度か跳ね返ったあと、艦長席の横のボタンを破損した。

「しまった!」

それは艦橋のドアの緊急封鎖ボタンだった。本来なら侵入を防いだり、侵入者を隔離するためのものだが、衝撃で誤作動しアズラエルたちを閉じ込めてしまった。

「ドアを開けろ!」

「これでは無理です!」

ボタン部分は火花を散らしている。これでは修理など不可能だ。

「貴様らあ!」

怒りにまかせるまま、サザーランドを押さえていた兵士を撃つ。サザーランドも自由になったとはいえ艦橋から出れないことには変わりない。とはいっても操舵手はフレイと共に艦を降りたし、今いる兵士もアズラエルによって負傷されている。アズラエルは忌々しげにモニターに映るアークエンジェルを睨みつけた。

「くそっ!」

アズラエルは先ほどまでCIC担当が操作していた端末でローエングリンを起動する。

「アズラエル理事、何を?」

「僕は勝つんだ……そうさ……いつだって!」

そして陽電子砲のプラズマを纏ったフューシャ色の光が放たれた。ストライクの収容とドミニオンからの脱出艇に気を取られていたアークエンジェルは回避が遅れた。

「回避!」

「ダメです! 間に合いません!」

「くっ!」

艦橋の誰もが今度こそ死を覚悟した。

「うぉおおおおっ!」

そこに割って入った影。ストライクだ。ムウはローエングリンがアークエンジェルを貫く直前でストライクを滑り込ませた。シールドを構えローエングリンを防いでいく。

「やっぱ俺って不可能を可能にーー」

だが損傷した機体がローエングリンに耐えきれなかった。ストライクは光に飲まれ爆散した。愛する人たちを守って。

「いや、いやーっ!」

マリューの絶望的な悲鳴が木霊する。約束したのだ彼と。必ず帰ってくると。バラのペンダントを握りしめて。マリューは涙を流す。誰も彼女にかける言葉がなかった。

「……ローエングリン、照準!」

ゾッとするような低い声に思わずナタルはマリューを見る。彼女は今まで見たことないような憎しみを込めて前を見ていた。

「ローエングリン、照準!」

ナタルの復唱にサイも慌ててローエングリンを起動する。照準は勿論ドミニオン。

「撃てー!」

陽電子砲の閃光が空を断つ。

「そんな、そんな馬鹿な!」

「ああ……うあああああっ!」

堕天した主天使を大天使の剣が斬り裂いた。ローエングリンに貫かれた艦橋から誘爆し、ドミニオンは崩壊した。

「……」

崩れ落ちるドミニオンにナタルはそっと敬礼をした。もしアラスカでそのままドミニオンへの異動を受け入れていたら、撃たれていたのは自分だったかもしれない。そんな思いを胸に秘めて。

「MS接近!」

感傷に浸る間もなく新たなる脅威が接近した。ムウを打ち破ったクルーゼの駆る新型プロヴィデンスだ。バスターが間に入るも、ドラグーンシステムによる複数のビームで敢えなくフェイズダウンしてしまう。

「貴方は!」

「また君か。厄介な奴だよ君は」

代わりにフリーダムが相手となる。ミーティアのビームソードやミサイルで対応するが、ドラグーンシステムと、大型ユニット故の動きの遅さという弱点を突かれ苦戦する。アークエンジェルも援護に回ろうとするが、破損した状態で新型の相手は荷が重かった。

そんな中、キラの視線の端に、ドミニオンの脱出艇がチラついた。

「フレイ!」

そこにはフレイがいた。キラは今度こそフレイを守るため手を伸ばす。

「……」

クルーゼが何の躊躇いもなく脱出艇を撃った。ビームは艇に当たる寸前でフリーダムの投げたシールドで防がれて事なきを得た。

「フレイ……」

「キラ……」

その一瞬の隙。クルーゼの遠隔操作ビーム砲の一つが艇を撃ち抜いた。爆散する脱出艇。またしても彼女を守れなかった絶望がキラを包む。

「フレイーっ!」

燃え盛る業火に焼けゆく我が身を感じながらフレイは呟いた。「ごめんね」と。

「フレイ……」

「キラ君……」

「アルスター……」

爆ぜる脱出艇にアークエンジェルも言葉が出ない。ナタルもまた、救えなかった自分と似た声質の少女に哀悼の思いを馳せる。

戦況はその後一気に加速した。フレイの死によりキラが覚醒。エターナルとクサナギを狙ったプロヴィデンスをメインカメラと右腕、右腕を失いながらもビームサーベルで貫いた。

ヤキン・ドゥーエではジェネシスで地球を撃とうとしたザラ議長が部下に撃たれて死亡。それと同時にジェネシスの発射ヤキンの自爆シークエンスに組み込まれ起動。アスランはジェネシス内部でジャスティスを核爆発させて破壊した。

「終わったな」

「ええ」

崩れ落ちるヤキンとジェネシスを前に、ナタルはノイマンの肩に手を置いた。ノイマンはその手にそっと自分の手を添えた。

「キラ……」

「キラ君は?」

「キラ」

「キラ・ヤマト」

サイの肩からトリィが飛び立った。主の元に。戦争終結の報せをその翼に乗せて。

プラントは地球連合に停戦を申し入れ、連合もそれを受け入れた。のちC.E.72にユニウス条約が締結されることとなる。彼らの長きに渡る戦争はようやく終わった。その身と心に大きな傷痕を残しながらも。

 

 




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モチットダケツヅクンジャヨ
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