勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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普通のファンタジーじゃ物足りない?

しょうがないにゃあ(本気出す)


蠢く愛

 

大規模ダム施設において襲撃を仕掛けてくる魔物の撃退や、周辺に棲息する害を為す動物や魔物の間引きは恒常的に発布される依頼である。

この依頼は魔物を始末すればするほど報酬が加算される歩合制の報酬の割が良く……。

命を喪うリスクは町周辺の魔物退治に比べ高くはあるものの、駆け出しでも油断しなければ安全に倒せるゴブリンを倒すだけでも稼ぎになる事から人気のある依頼でもあった。

 

但しそれは、ゴブリンを相手にする場合のみに限定される話でもある。

オークが統率するゴブリンの群れが生じていた場合、その依頼の危険度は駆け出し冒険者の手に負える範囲を軽く逸脱する。

 

 

「オークだ!オークがゴブリンを引き連れて攻めて来たぞぉぉぉ!!」

 

 

3人でパーティを結成し、順調にゴブリンの集団を幾つか撃破したラース達が夕食を取りそろそろ翌日に備え就寝しようとしていた頃。

見張りについていた冒険者の叫び声と、緊急事態を報せる半鐘の音が大規模ダム近辺に鳴り響いた。

 

 

「先に出る!お嬢ちゃんらも装備を整え次第備えておけ!」

 

 

ラースは即座に飛び起きて外套を身に纏い、長剣を手に持つと宛がわれた部屋を飛び出し。

右往左往する駆け出し冒険者達を横目に壁伝いに駆け上がると、半鐘を鳴らす冒険者がギョっとする事にも構わず迫る数を視認する。

 

 

「かなり近くまで来てるな、おい。この施設は警戒の魔法とやらは使ってないのか?」

 

「そ、そんな筈はない!もっと早く察知できるはずだ!」

 

「……というこたぁ、警戒をすり抜ける手段を知っている何かが相手にいるって事か」

 

 

駆け出し達に比べ場慣れした雰囲気を持つ見張り代についていた冒険者に気になっていたことをラースは確認し、考えられる中で一番あり得そうなケースを小声で呟く。

 

 

「オークは1……いや違う、2。それにゴブリンが50といったところか、気配からするにゴブリンはまだまだ居そうだがな」

 

「あ、アンタこの暗がりでも見えるのか……い、いやそんな事よりも!オークは二匹で群れを率いるなんてありえねえ!」

 

「そうだな、普通ならこうやって仲良く攻めてくる前に取り分を多くするために同士討ちする筈だ」

 

 

しかし今にも一斉に攻めてきそうになっている今この状況において、オーク達が互いに殺し合いを始める様子は全く見えない。

むしろ、まるで何かに統率されているかのような様子までラースは感じ取っていた。

 

ラースはこのような状況に幾つも心当たりがある。

単純な話だ、オーク以上の上位存在が攻勢を指示した場合……このような事が良く起こるのだ。

 

 

「お前さん見たところ野伏か、矢弾はどのぐらい持ち込んでる?」

 

「2,20本だ……」

 

「上等だ、後で腕の立つ魔術師運んでくるからその娘と一緒に援護してくれ」

 

「え、ちょ、おい!?」

 

 

見張り代の冒険者にラースは言うだけ言うと、手すりに足をかけ決して低くはない高さから飛び降りて意図的に大きな音を立てながら着地する。

その音は右往左往していた冒険者達の動きを止め、視線をラースへと集中させた。

 

その状況を見逃すことなく、ラースは冒険者達を睥睨しながら口を開く。

 

 

「お前ら、右往左往してる暇あったら持ち場につけ! モタモタしてっと股座いきり立たせた小物共に簡単に踏み潰されっぞ!」

 

 

突然見張り台から落ちてきた得体のしれない男からの発言に、血気盛んな冒険者の一部は鼻白み戦闘配置につきながらも焦燥のままにラースへと言葉で噛みつく。

 

 

「うるせぇ!あんな数のゴブリンに、オークが二匹もいたら勝てるわけねえよ!」

 

 

少年から青年になりかけと言った見た目の槍を手に持った冒険者が叫ぶ。

彼の叫びは、ゴブリンだけを狩って割の良い儲けを得ようとしていた冒険者達の気持ちの代弁でもあった、しかし。

ラースはその叫びを一笑に付す。

 

 

「で、勝てねえから右往左往してどーすんだ? こんな暗がりじゃ逃げても人里に辿り着く前に狩り殺されて仕舞いだ」

 

 

情け容赦のないラースの言葉に、冒険者たちの顔が凍り付く。

オークの討伐についてはまた別途手配される予定の、腕利きの冒険者が当たる筈だったがその冒険者は未だ来ていない現状。

更には喚き逃げ出してもどうしようもない現実を突き付けられ、一部の冒険者は今にも泣き出しそうな顔をし始める。

 

 

「泣いて喚く前に死に物狂いで抗え。オークはこっちで相手してやる……そうだろ? お嬢ちゃん」

 

「……はい、オークは私達で何とかします。だから皆さんはゴブリンを相手に持ち堪えて下さい」

 

 

ラースが冒険者達の混乱を鎮めてる間に装備を整え終えたリリフィアが場に現れ、凛とした声と態度でラースの言葉に追従するように冒険者達へ告げる。

リリフィアの言葉にゴブリン達だけなら何とかなるかも、と言う前向きな戦意が漸く整い始める。

 

これだけ士気を持ち直したなら、何人かくたばるにしても全滅することはあるめえとラースは考えるとリリフィアに続いてやってきたファムへ手招き。

頭にハテナを浮かべたファムはそのままラースへと近付くと、有無を言わさず小脇に抱えられ。

リリフィアが止める間もなく、可愛らしい悲鳴を上げるファムを抱えたままラースは壁伝いに再度駆け上がって見張り台へと到着。

 

 

「というわけでこの娘さんと一緒に上からゴブリン相手に戦う連中を援護してやってくれ」

 

「お、おう……大丈夫か? 魔術師さん」

 

「だ、大丈夫です……覚えてろよこの蛮族」

 

「憎まれ口叩けるなら問題ないな、任せたぞ」

 

 

好き放題という言葉がこれ以上ないぐらいに振る舞うラースに対し、外面を気にする余裕もなくなったファムは半眼で男を睨んで抗議するが当の本人はどこ吹く風とばかりに受け流し。

見張り台から躊躇せず飛び降りてリリフィアの隣に着地した。

 

 

「ラースさん……スキル持ってないの、嘘ですよね?」

 

「本当だぞ、こんな事鍛えれば誰にでも出来る」

 

「いや無理ですって」

 

 

縦横無尽かつ傍若無人なラースの振る舞いにリリフィアは苦笑いを浮かべながらも、どこか緊張が解れた様子で鞘から光り輝く直剣を引き抜いて構える。

こうしている間にオーク達に率いられたゴブリンとの接敵は間もなくとなっているも、非戦闘員の大規模ダム施設内への避難は幸い間に合っており残るは戦闘に専念するだけであった。

 

 

「お嬢ちゃん、お前さんは一対一は確かに強いが多数は苦手だ。俺がオーク達の所まで切り拓くから脇目もふらずついてこい」

 

「……作戦があるんですね?」

 

「作戦と言うほど大したモノじゃねーさ、戦友達といつもやってた事をここでもやる。それだけだよ」

 

 

最前線に位置する冒険者とゴブリンが戦闘開始したことを合図に、ラースはリリフィアへ伝えると長剣を手に持ち敵集団の真正面から真っすぐ突撃を敢行。

思わず絶句するリリフィアとファムであるが、リリフィアはラースを信じてラースの背中を追いかけファムもまた夜空に照明の魔法を放って視界を確保してから、ゴブリン達への魔法攻撃を開始した。

 

真っすぐ突撃してきた人間の男にゴブリンは言うまでもなく、成人男性の二倍近い巨躯を持つ魔物のオークも間抜けが突っ込んできたと下品に哄笑すると。

指揮官である二匹のオークは突撃してきた男、ラースに一斉攻撃するよう号令をかける。

 

後ろからラースとリリフィアの自殺行為にも似た突撃を見ていた冒険者、そしてゴブリン達に攻撃号令をかけたオーク。

奇しくも双方共にラースはあっという間に襤褸くずのような死体になる、そう信じていた。

 

しかし。

 

 

「おいおい随分だらしねぇ小物だなぁオイ! 攻め方が貧弱すぎるぞオラぁ!!」

 

 

ラースが無造作に長剣を振るたびに何匹ものゴブリンの体の一部や頸が飛び散っていく。

ゴブリンは確実に殺すべく各々の得物でラースを殺そうとした、しかしその全てラースの体に届く事はなく返す刃の一撃で容易く絶命させられては奪われた得物を投擲されてゴブリンだけの死体が作り出されていく。

 

 

「ゴブリンの死体で、道が出来てやがる……」

 

「……恐ろしい男ですね」

 

 

見張り台の上から矢を放ち冒険者達を援護していた男は、戦場が良く見える位置にいるからこそラースの異常性を理解してしまう。

まるで赤熱したナイフをバターに差し込んだかのように、ゴブリンの軍勢で作り出された津波が溶けていく光景がそこには広がっていた。

 

そしてその光景を目の当たりにしたファムもまた、人間の範疇に収めてよいのか疑問を感じるラースの強さに戦慄すると共に。

魔法の師匠であるエルフから聞いた、かつて共に旅をしたという剣士の逸話を思い出すも、2000年以上前の人物がこの場にいるわけがないと頭を振ってバカげた妄想を頭から追い出す。

まずはこの場を切り抜ける事が先決だと思考を切り替え、冒険者達を巻き込まないよう苦慮しながら広範囲へ火力を発揮できる魔法による支援を続行した。

 

一方ラースの背を追いかける形で追従していたリリフィアはラースの強さに驚嘆しながらも、同時に一つの疑問を感じる。

一体この人はここまで強くなるまでに、どれだけの死線を超えてきたのだろう、と。

だがその思考はすぐに打ち切られる事となる。

 

 

「お嬢ちゃん、目的地点に到着だ!」

 

「はい!片方は任せてください!」

 

「ちげえよ! 2対1でサクっとぶっ殺すんだよ!!」

 

 

ラースの力強くも逞しい声にリリフィアは気合を入れて剣を握る手に力を籠め、ばらけて戦うと思ってたところにまさかの数的優位を容赦なくぶつけようとするラースの言葉にそれもそうかと考える。

作戦と言える作戦はない、しかし時間をかけるとゴブリンの攻勢で力尽きる人が出るかもしれないと思うとリリフィアの心に立ち向かうための勇気と力が湧き上がる。

 

 

面白くないのはオークの方だ。

使い物にならないゴブリン共のせいで、人間が二人も自分の目の前にやってきたのだからそれも致し方ないと言えよう。

しかしのこのこやってきた内の片割れの雌は極上と言える見た目をしており、豊満な体付きと尻は自分の子供を産ませるに相応しいとオークは考え興奮した雄たけびをあげるとラースを無視してリリフィアへ一直線に襲い掛かる。

 

オーク二匹は確かに互いに殺し合う事はなかった、何故なら自分達に力を授けた輩は殺し合いによる戦力減少を禁じたからだ。

だが極上の雌を奪い合うなとは言われていない、浅はかな脳でその結論に至ったオークは手に持った巨大な棍棒でリリフィアを横から激しく殴りつける。

 

 

「遅いです!」

 

 

しかしその攻撃は少女の長い髪を大きく揺らす風を巻き起こすのみで、リリフィアを傷つけるには至らなかった。

そしてオークが相手にしていたのはリリフィアのみではない。

 

 

「さすがオークだ、脅威度優先順位より欲望優先しやがる」

 

 

オークのわかり易い習性にラースはケタケタと嗤うと、自身の2倍の背丈を持つオークの両足首を背後から長剣の一振りで両断。

 

 

「あ、やっべ」

 

 

その際にオークの頑丈さとラースの腕力に板挟みにされた長剣が軽い音を立ててへし折れ、オークは痛みに絶叫しながら膝から前に向かって倒れこむ。

咄嗟に手と膝を地面について体の前面を地面へ叩きつける事こそオークは防ぐが、その姿勢はリリフィアに対して首を無防備に晒す事に繋がった。

 

 

「とどめ、です!!」

 

 

そのような絶好の機会をリリフィアは見逃さず、高く飛び上がり両手で握りしめた光り輝く直剣をオークの無防備な後ろ頸へと縦一文字に叩きつけ。

醜悪な欲望が詰まったオークの頭を、その肥え太った醜い体から一撃で切り離すことに成功した。

 

余りにも華麗かつ伝説的なその一撃に、ゴブリンと激闘を繰り広げながらも戦いを見守っていた冒険者たちは大きく歓声を上げる。

オークはその巨体が持つ頑丈さと怪力が危険すぎる魔物であり、駆け出し冒険者が戦った場合は軌跡でも起きない限り勝てない相手であった。

そのような魔物を華麗な少女が討ち取ったのだ、盛り上がらないわけがない。

 

 

しかし歓声を受けているリリフィアは未だ喜ぶことは出来ない状態にあった。

何せ未だオークは一匹残っているのだ、その上ラースは長剣の刃が折れて武器がない状態……と考えるも無手でもあの人何とかしそう、などとリリフィアが考えている間に……。

あっという間に一匹オークが屠られた事に怖気づいたオークは、軍勢のゴブリンに自分が逃げ切るまで死んでも戦えと言わんばかりの吠えて号令をかけると。

 

リリフィアとラースに背を向けて一目散に逃げだした。

 

 

「へ?」

 

「逃げた、なぁ」

 

 

これにはリリフィアは困惑し、うーん世界が違ってもこいつらブレねえなぁなどとラースは考えつつケタケタと嗤う。

だがすぐにラースは嗤いを止めると何かに気付いたのか、リリフィアが首を斬り飛ばしたオークに近づき屈んで死体を調べ始めた。

 

 

「え?もしかしてまだそのオーク、生きてるとか……?」

 

「いや、間違いなく死んでいる」

 

「ほっ、良かったです……」

 

 

ラースがオークの死亡確認をしてくれたと思い込んだリリフィアは、心から安堵しながら背後を振り返りゴブリン達が散り散りに逃げ始めたことを確認すると、緊張が解けたのか地面に座り込んだ。

だがしかし、ラースの内心は穏やかではなかった。

 

 

「この気配、そして今一瞬見えたものは間違いなく……」

 

 

ラースが一瞬だが確かに見たもの。

それはかつて戦友達と共に討ち果たした魔王が、その力を注入して強化した異形を討ちとった時に死体から漏れ出たまがまがしい瘴気であった。

 

 

「……いや、ダメか。流石に剣もないのに深追いは出来ん」

 

 

逃げ出したオークを追撃して調査すべきかとも考えるラースであったが、最悪の事態があった場合無手では少々心もとないと判断すると男はへたり込んでいるリリフィアに手を差し伸べて引き起こす。

 

 

「ま、なんであれ良くやったなリリフィア」

 

「ふっふーん! ……え?今名前で呼びました?」

 

「気のせいだ」

 

 

親友の剣が認めるぐらいには勇者である迂闊な所が多々ある少女であるも、確かに勇者である少女。

そんな少女をラースは少しだけ認めてやる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げる、逃げる、逃げる。

戦線から離脱したオークは、脇目もふらず漆黒に染まった山の中の森を駆け抜ける。

オークが逃げる原因は、同族を討ち果たした強敵が恐ろしかったからではない。

 

もっと恐ろしい存在から、一刻も早く逃げる為であった。

その存在は人間を全て殺せと言った、人間の町にとって重要な施設を破壊し穢せと命令してきた。

その為の力もくれてやると言った、だがしかし目標を達成できなかった場合。

 

惨たらしく殺してやると、オークが死ぬ寸前まで痛めつけ恐怖を刻んでいた。

だからこそオークは逃げる、この場所とは違うどこか新しい場所へと。

 

 

「ダメですよぉ、命令違反はぁ」

 

 

必死に逃げるオークの耳に、漆黒の森に相応しくない声が響く。

その声は幼い少女のようであり、蠱惑的な妙齢の娼婦のようでもあった。

 

しかしオークは声から逃げようと、泡を吹きながら死に物狂いで更に逃げる速度を上げる。

だが、その行為は無駄でしかなかった。

 

音もなく風も立てずに漆黒の夜闇よりも昏い何かがオークの体をバラバラに引き裂き、夜の森の中に血と臓物をぶちまける。

 

 

「あぁ、邪神様に沢山の供物を捧げたかったのに叶いませんでした、どうかお許し下さいませ」

 

 

漆黒の夜に包まれた森の中に白銀が下りる。

声の存在は薄絹のような煽情的な装束に身を包んだ、美しい少女であった。

 

 

「お許し頂けるのですね邪神様……ええ、ええ私も見ましたとも……」

 

 

少女は長い白銀の髪の中に一束混じった特徴的な赤い髪の毛を夜闇になびかせながら、恍惚とした声音と焦点の合わない瞳で誰かに語りかける。

少女に語り掛けるモノの声は森の中には響かない、しかし少女の頭に生えた狐の耳がゆらりゆらりと動くことから少女は間違いなく何かの声を聴いていた。

 

 

(私達)お父様(英雄様)、強く気高いお父様(英雄様)、時の流れに流された果てに漂着したお父様(英雄様)

 

「お会いするのが、楽しみですね。邪神様」

 

 

うっとりと、淫靡にも聞こえる声音を残し少女は現れた時と同じように前触れなくその場から消え去る。

残されたのは哀れなオークの血と臓物と肉片が飛び散る、夜の森のみであった。

 




謎の銀髪(赤メッシュ)の狐耳少女。
一体何者なんだ……。
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