勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
でもアレがOKってことは、遠慮なく本気出していいってことだな!!
そして戦いから一か月が経過した
とある王国の王都にほど近い場所にある長閑な村。
その村の外れにある素朴ながらしっかりとした造りの家の中には、笑顔と幸せが満ちていた。
「今日も
「もう、いつもそうやって褒められたら逆に作り甲斐が無いわ。
「パパはママが作ったものならなんでもいいもんね!」
時刻は夕刻、その家では一家は妻である女性の得意料理であるシチューを食しながら平和な夕餉の楽しんでいる。
赤毛の男はその顔に柔らかな笑みを浮かべ、母親と同じ銀髪に自身の髪色に似た一房のメッシュが入った幼い娘の頭を狐耳ごとぐりぐりと撫で回す。
父親である男に撫でられた娘はキャーと嬉しそうな声を上げながら尻尾をゆらゆらと振り、夫と娘の様子に妻である女性もまた狐耳を動かし尻尾をゆらりゆらりと嬉しそうに振っていた。
「そう言えば
「ふふ、そんな心配する事じゃないわ
しかし夫は最近体調を悪そうにしていた妻の体を気遣い、問い掛けるが妻は夫の言葉に笑みを浮かべそっと自身のお腹を服の上から摩る。
その動きに全てを察した男は飛び上がらんばかりの勢いで椅子から立ち上がると、妻の体を強く優しく抱きしめた。
「? ママ、パパどうしちゃったの?」
「うふふ……それはね
「えー!そうなの?! 私お姉ちゃんになるんだ!」
母親の言葉に幼い娘は狐耳と尻尾をピンと立てると、父親のように大好きな母親に抱き着く。
「もう二人とも、食事中にお行儀悪いじゃない」
口ではそう言いながらも、幸せに満ちている女性は夫と妻の頬に軽くキスをして親愛の情を示す。
劇的ではない、しかし何物にも代えがたい幸せ。
夫であり父親である男は、この幸せを守り続ける意志を強く持つ。
「二人とも、何があっても守るからな。俺の命に代えてでも……」
「もう大げさね
「そうだよパパー!」
夫の言葉に妻と娘は朗らかに笑う。
「「だって
そして、朽ちかけ羽虫が集る顔で男へと残酷な事実を突き付けた。
「……朝か」
窓から差し込む光と鳥の囀りに、粗末な寝台に横たわっていた赤毛の男は目を開いて上体を起こす。
男は右手で顔を覆い口の中で何かを呟き、大きく深呼吸すると寝台から降りた。
喪ってから今日に至るまで夢を見るたびに見る幸せだった頃の情景、その夢の終わりはいつも残酷な事実を突き付けるもので。
赤毛の男……ラースは忘れてはいない、忘れてなるものかと声にならない声で呟くと外套を纏い宿の水場で顔を洗い軽く身だしなみを整える。
大規模ダムで起きた偶発的な戦いから、早くも一か月ほどの時間が経っていた。
オークが二匹も仲間割れをする事なく軍勢を率いて襲い掛かってきたという情報は、フォレスティアの町に小さくない衝撃を与えた、しかし。
その後はそのような事件が起きる事はなく、何かしらの偶発的な物だと根拠のないまま結論が出た事によりその衝撃もやがては風化していった。
「あ、おはようございますラースさん!」
「おはようございます」
「いつも思うんだが、なんでお前さんらはこんな安宿で朝飯食べてんの」
大きく欠伸をしながら宿の2階から降りてきたラースを目ざとく見つけた少女ことリリフィアは、宿の一階に設けられた食事用の席に座ったままラースへ声をかけながら大きく手を振る。
その際の動きで少女の豊満な胸が揺れている事を周囲の席に座っている男達は、一つの揺れも見逃さないとばかりに目を見開いて見ているが悲しい事に少女は全く気が付いていない。
そんな親友であり仕えている主であるハーフエルフの魔法使い、ファムはこれ以上ないぐらい重い溜息を吐きながらもリリフィアに続けてラースへ礼儀正しく挨拶をした。
「この宿のご飯も美味しいのですよ!」
「それにこのポンコツ、こういう分かり易い冒険者の宿で出される食事にそれはもう憧れてましてね」
「まぁ……好きにすればいいけどよ」
良いところ、それも公爵家の姫とは思えないリリフィアの振る舞いにラースは苦笑いを浮かべながら椅子に座ると適当に店員を呼び止めて食事を注文する。
男が頼んだものはパンと蒸かした後に潰した芋、それに卵を焼いたものと言う非常にシンプルなものであった。
「はーい畏まりましたにゃーん」
注文を受けた猫獣人の店員は手早くメモを取ると、時折セクハラしようと手を伸ばす冒険者の手をするすると避けて厨房へメモを届けに行く。
あの客、この宿の名物シチューを頼まないなんてふてえ野郎だにゃ。なんて思いつつ。
「んで、今日はどうするんだ?」
「そうですねぇ、神殿から呼び出しが来てるからそちらへ行こうかと思います」
「私も同様です、ラースさんはどうしますか?」
二人の少女の言葉に適当に相槌を打ちつつ、ラースは店員から注文した食事を受け取りパンを口へ放り込む。
気が付けば白パンが当たり前に出てくる環境に慣れたなぁ、などと緩い事を考えつつ口の中のものを呑み込むとラースは口を開く。
「俺みたいな素性の怪しい輩が行っても問題ないなら行くぞ」
「それなら決定ですね!あのオーク達との戦いとこの一か月の活躍でラースさんの名声も凄いですし!」
「名声って言うんですかね、アレ」
ラースが肩を竦めながら口にした言葉に、リリフィアはテーブルに勢いよく手を付いて立ち上がりながら熱弁。
一方で野菜をもしゃもしゃと口にしながら、ボヤくようにファムが呟いているのが実に対照的であると言えよう。
「猛獣出没と聞けば剣を片手に飛び出し!」
「手が空いてるからって付近にいる若い冒険者コキ使って、獲物をこれでもかって追い立ててましたね」
拳を握りラースの活躍を高らかに語るリリフィア、そして野菜を呑み込んだファムは背後で起きていた悲喜劇を語り。
その時不幸にも居合わせコキ使われた冒険者で、この場にいる冒険者は遠い目をしてその時の酷使っぷりを思い出していた。
「野盗が現れたと聞けばすぐに駆け付けて風のようにやっつけて!」
「野盗に襲われてた商人の第一声が命乞いでしたけどね」
リリフィアの褒め称える言葉、それを聞いているラースはどうしているかと言うと。
微妙に居心地が悪そうにしながら、蒸かしただけの芋なのになんで旨いんだコレなどと考えながら食事に専念していた。
そして止めないとこのお嬢ちゃん、延々と語りそうだと気付いたラースはエールを喉に流し込むとリリフィアに椅子に座るよう手を振って促す。
ラースの動きで自分が注目を集めてることにようやく気付いたリリフィアは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらおとなしく椅子に座った。
「まぁ俺が行っても問題ないという事はわかった」
「ありがとうございます……そう言えばラースさんは前の仕事でまた剣を折ってましたが、買い直さなくても良いのですか?」
「ああ、この前行ったときに投げ売りの安物買い込んで部屋に置いてあるから問題ない」
「ソレって大丈夫って言うのかなぁ……」
自分から言い出した事であるも、一か月前のオーク達との戦いで折れた長剣から数えて6本目の剣を折っていた事をファムが思い出してラースへ問うも。
剣士としてそれはどうなのだと言いたくなる返事にファムは思わず閉口し、リリフィアは思わずぼやくように呟くのであった。
悪夢を見続けているラースであるが、喪った家族との情景を再体験できるから悪くないと思ってるらしいよ。
それはそれとして起きてすぐは凹むけど。