勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
元々はちゃんと神様も居てその神様が死後の幸福を約束してたけど、いったい何があったんですかね(すっとぼけ)
信仰と言うモノはどの場所においても人の生活の規範であり拠り所である。
それが例え、神殿が唱える死後の安寧が今や欺瞞であり魂は邪神の供物とされる世界でも変わる事はない。
「初めて足を運んだが思った以上に賑やかだな、どこでもこうなのか?」
リリフィアらに連れられて足を踏み入れた神殿の中を軽く見まわし、入り口から見える中庭ではシスターと思しき女性が子供達に絵本の読み聞かせをし、待合所のような場所では老人らが雑談に興じている空間にラースはリリフィアへ問い掛ける。
ラースの問い掛けにリリフィアはそうですよ、と頷いて肯定するとこっちですと言いながら神殿の奥へと進む。
「町によりますが神殿は子供への教育や住民の悩みを聞く場所でもありますからね」
「そりゃまた随分民衆に寄り添ってるな、俺が知ってる神殿とは大違いだ」
「参考までに、どんな神殿だったか聞いても?」
「俺が知ってる神殿はお貴族様の社交場で、神職連中がゴマすりして寄進を集る場所だったわ」
ファムの質問に対してあけすけに答えるラース、その内容にファムは思わず眉根を潜める。
どうやらハーフエルフの少女にとって、ラースが語る神殿の在り方は許せるものじゃなかったらしい。
そんな適当な雑談を交わしながら神殿の奥へ進み、進めば進むほど市民の姿は消え神職に携わる人間とばかりすれ違うようになる。
しかしすれ違う神官はリリフィアに気付くと目礼すると同時に道を開け、神殿長様がお待ちです。とまで言う状態。
そのような待遇にラースは内心驚くも、そう言えばこの娘勇者だったわと根本的な事を思い出していたりする。
そうして辿り着いた神殿の奥にある扉を開き、中へ足を踏み入れると。
その部屋は神官の部屋と言うよりも官僚の執務室と言った様相をしており、机の上には整頓された書類が幾つも並べられていた。
ちなみにラースは神殿長の部屋と言えば悪趣味なぐらい飾り付けられてるモノだと思い込んでいたので、地味に驚愕していた。
「ご足労下さり感謝します、勇者リリフィア」
「新たな神託が下ったと聞いて参じさせて頂きました」
背後に重厚と言う言葉が温く聞こえるほどの鎧を身に纏った、ラース以上の背丈と体躯を持つ騎士を控えさせたエルフの女性が席から立つとリリフィアへ告げる。
神殿長のその言葉に対してリリフィアは礼を返し、ラースとファムを伴い神殿長の机の前に並んだ。
リリフィアとファムが社交辞令を交わす中、ラースは重装の騎士に視線を向ける。
顔まですっぽりと覆う造りこまれた兜に覆われた騎士の顔は見えず、しかし明らかに角飾りとは思えない有機的な黒い捻れた角が一対兜の頭頂部から伸びており。
臀部からはこれまた鎧と同じように装甲と鱗に覆われた太い尻尾が伸びており……鎧の胸部が大きく盛り上がっているが、それが装甲なのかそれとも別のモノかまではラースにも判断がつかなかった。
ラースからの視線に気づいた騎士はラースと目線を合わせ、しばし見つめ合うような形となる。
男性の中でも長身に入る部類にいるラースよりも頭一つ分は大きいその騎士の視線は威圧を伴うものであるも、ラースは内心首を傾げていた。
この騎士、なんで俺に対して怯えているのだろう。と。
「あの、ラースさん?」
「ああ、すまない」
騎士の観察と視線をぶつけ合う事につい熱中したせいで、自身への呼びかけに気付いてなかったラースはリリフィアの呼びかけに謝ると神殿長へ視線を向け直す。
無礼極まりない態度であったとラースは神殿長へ謝罪するも、神殿長はたおやかに微笑むと気にしないで下さいと微笑を浮かべた。
「神託が下りました、先のオークによる襲撃は覚えていますね?」
「はい、ですがアレは偶発的って事になったと聞いております」
「ええその通りです、しかし……詳しくはこちらの者から聞いた方が良いでしょう。神殿騎士メルト、お願いします」
「……はい」
神殿長に促されたメルトと呼ばれた神殿騎士は、その風体からは想像できない透き通るような声で返事をしながら兜を外す。
その下から現れた顔にリリフィア達は少なくない驚きを覚える。
「……神殿騎士メルト、です。よろしくお願いします」
日に焼けつつも染み一つない肌と切れ長の瞳が特徴的な美貌の神殿騎士は、小脇に外した兜を抱えながら頭を下げると。
余り多くを語るのは得意ではないのか、時折言葉を選びながらも説明を開始した。
メルトは神殿騎士の中でも明確な所属を持たない遊撃騎士として活動を行い、破壊の邪神復活を目論む邪教徒達と日夜戦いを繰り広げていた。
しかしある時、踏み込んだ邪教徒の拠点で明らかに通常の者よりも強い魔物達と交戦し少なくない犠牲を出しながらも魔物達に勝利した。
だがその時の魔物達には、明らかに強さ以外におかしいところがあったと言う、それが……。
「普通なら反目しあって同士討ちするオークや、トロールなどの強力な魔物まで統率されて襲い掛かって来たというのですか……」
メルトから語られた内容に、ファムが信じられないと言わんばかりの表情で呟く。
一方ラースはトロールって言うとあの臭くてデカいヤツか、あいつら再生するから死ぬまでぶった切るの面倒なんだよなぁと関係ない事を考えていた。
だが、続いてメルトから語られた内容でラースの思考は凍り付く。
「……そこまでは良かった、だけど教祖と呼ばれた獣人……白銀の髪に赤い一房の髪があった女性、それが現れてから戦況は一変した」
今朝に限らず幾度も夢に見ている、守れなかった愛娘と同じ髪の特徴と種族特徴を持つ女性と言う存在にラースは思わず目を見開く。
「……教祖の攻撃は正体が掴めなかった、昏い闇を振るったと思った次の瞬間には何人もの神殿騎士が斃れた」
昏い闇による攻撃、それはラース達がかつて打ち倒した魔王が放っていた唯一にして最大の攻撃方法。
どのような装甲も薄紙のように引き裂き、回避しようにも自由自在縦横無尽に放たれたその攻撃は当時の勇者やラースですら苦慮したほどのものである。
「その教祖とやらはどうしたのですか?」
「……私達を甚振った後、手駒だったであろう魔物達が全滅したから今日はこのぐらいにする。そう言い残して忽然と姿を消した」
ファムの問い掛けにメルトは先ほどまで殆ど動かしていなかった表情に、怒りと無力感を滲ませながら音を立てて拳を握りしめた。
メルト以外全滅という事は幸いにもなかったとはいえ、長年共に任についていた遊撃騎士団の半数が命を落としたのだ。
彼女にとって悔しい、と言う言葉では足りない激情がその胸の中には渦巻いていた。
「勇者リリフィアよ、事情は理解しましたね? 神託を授けます……神殿騎士メルトと共に邪神復活を目論む邪教徒を打ち払うのです、封印の儀には今しばらく時間を要します」
「わかりました!」
メルトによる事情説明は為されたと判断した神殿長は、神殿騎士の言葉を引き継ぎ勇者であるリリフィアに神託の内容を告げる。
その内容にリリフィアは凛とした顔と姿勢で力強くその任を果たすことを宣言するのであった。
一方ラースは今までは適当に飽きるまでリリフィア達に付き合おう、その程度の考えを持っていた。
しかし今この時、ラース自身にも明確にリリフィアに協力する目的が出来たのだ。
何の偶然かわからないが娘と同じ共通点を持つ邪教の教祖に逢い……正体を確かめるという、誰にも言えない目的が。
神殿騎士ちゃんことメルトはアレです。
同人RPGに例えるとアーマーブレイクとか戦闘エロがあるタイプのエロゲ女主人公(ひどい話)
ちなみに彼女の兜はグランブルーなファンタジーに出てくるバザラ〇さんの兜とか、あんな感じです。