勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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最近暑くなってきましたね。
平和な展開もそろそろ飽きたと思われるのでホラーをお届けです。


貪り喰らうモノ

 

 

フォレスティアの町にある衛兵の詰め所。

その隣に配置されている犯罪者を収監する牢屋の中で、一人の男が牢の隅に座り込み何かを呟いている。

時刻は夜、牢の高いところにある鉄格子がはめられた窓からは月明りが差し込んでいた。

 

 

「俺は悪くない俺は悪くない、全部リーダーとかあいつらが悪いんだ。そりゃ俺だってお零れ頂いたけど、あいつらみたいに悪辣な事なんてしてねえ」

 

 

男の目は血走り、自身の親指の爪を指から血がにじんでいるのに噛み続け自身は悪くないと呟き続ける。

収監されている男は王都近郊で活動している腕利きの冒険者の一団に属する内の一人だったのだが……。

男を含め、そのパーティは婦女暴行に恐喝、果てには同業者を罠にはめて殺しては自分達の懐と欲望を満たすことに腐心する悪党であった。

 

その悪事が露見する一歩手前まで追い詰められた男が所属するパーティは王都から逃げ出し、遠く離れた辺境の町フォレスティアで活動を始め。

そしていつも通り欲望を満たす為に目障りな人間を始末しようとし、呆気なく男以外雑に殺戮された上で独り衛兵に突き出された。

 

 

「ぶつぶつ五月蠅いぞ囚人!」

 

「お、俺はやってねえ!やったのはリーダー達だ!」

 

「往生際が悪いな、王都のギルドや衛兵からは回状も来ている……貴様に御裁きが下るのは確実だ、諦めておとなしくしていろ!」

 

 

男の独り言が癪に障ったのか、見張りをしていた衛兵は忌々しそうに囚人の男を見下ろしながら軽蔑の意志を隠すことなく男へ宣告する。

衛兵の言葉に、衛兵風情が偉そうにと囚人は激昂して勢いよく立ち上がろうとするが、襲撃した男に返り討ちにされた際に両足の健を切られていた事で立ち上がる事も出来ず前のめりに床へ転ぶ。

 

 

「……ふんっ、いい気味だな。最後の夜ぐらい神に慈悲を乞う祈りでもおとなしく捧げるんだな」

 

 

回状として回ってきた男達が行ってきた罪状を知る見張りは、憤然冷めやらぬと言った表情で床に無様に転んだ男を見下ろすと。

フォレスティアで犯罪を犯す前に、協力者のおかげで収監できたことがせめてもの幸いかと呟くと牢の中にいる男から見えない場所にある定位置へ戻った。

 

 

「くそっ、くそっ!あの男が居なけりゃ……いやリーダーがあんな事やろうっていうからだ、俺は悪くねえ、悪くねえ……!」

 

 

今まで他者を踏み躙り弄んできた悪党は、自身の罪を省みることなく他者に責任を擦り付けるかのように喚く。

明るみに出た男達の罪状は縛り首しかありえず、明朝速やかに刑が執行される事になっている。

隙を見て逃げ出そうにも走るどころか、まともに歩く事すらできない男はただ迫りくる死の足音に怯え自分が悪くないと自分自身に言い聞かせる事しか出来ずにいた。

 

 

しかし、その時である。

 

 

何かを引きずるような水音と共に、何かが牢獄へと足を踏み入れた。

その尋常ならざる音、そして足音の気配が放つ気配に衛兵は腰に提げていた剣を引き抜くと足音の主へ誰何の声を上げた。

 

 

「止まれ!ここは犯罪者を収監する牢屋だ、用がないものは立ち去……な、なんだ貴様は?!」

 

 

まるでこの世ならざるモノを見たかのように困惑し、恐怖に上ずった声を衛兵は上げる。

だが衛兵は即座に思考を切り替えると、衛兵の警告を無視して近づく侵入者へ攻撃を開始する。

その時、牢の中の囚人は牢獄に設置された炎によって生まれた衛兵の影を見た。

そして次の瞬間。

 

 

「ぐぁ!? が、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

人体に何かが大量に突き刺さる音が響くと共に、囚人の目の前で衛兵の影が複数の何かに刺し貫かれて衛兵は苦悶の叫びを上げる。

突然の異常事態に囚人は引き攣った悲鳴を喉から絞り出し、必死にはいつくばって牢の奥へと後退った。

 

そしてゆっくりと、衛兵を惨殺した何かが水音交じりの足音を立てながら囚人が収監された牢屋の前へと姿を現す。

 

 

「ひっ!?り、リーダー……死んだ、はずじゃぁ……!」

 

「へ、へっへ、へへへ……」

 

 

囚人の目の前に現れたソレは、つい先ほど責任転嫁していたその人である所属していたパーティのリーダーその人であった。

だが生きていた時と異なり、自分が牢に収監される原因となった男に逆袈裟げけに切り裂かれた体の部位の上こそリーダーであったが、それ以外の部位は見覚えのある仲間の肉体であった。

 

 

「おぅい……血が、肉が足りねえんだぁ……」

 

「ひぃっ!そ、その衛兵食っちまえよリーダー!」

 

「おぉ、そうだなぁ……」

 

 

濁り血走った瞳を己に向けてくる、リーダーだった化け物の言葉に囚人は股間を濡らしながら必死に叫ぶ。

囚人の言葉に化け物はその通りだと緩慢な声で応じると、自身の体からはやした黒い触手で突き刺して引きずってきた衛兵の死体に被りつく。

化け物の口は人間ではありえない程に、口の端を自ら引き裂くほどに開くと鎧を身に纏ったままの衛兵の死体を貪り始める。

 

囚人は確信していた、あの衛兵を食い尽くしたら次は自分が食われると。

だから必死に音を立てないよう、化け物に気付かれないよう生きてきた中でこれ以上ないぐらい神経を尖らせながら這いつくばって動き、衛兵の死体から転げ落ちた鍵束を掴む。

そして化け物に気付かれる前に何としても逃げ出そうと、牢のカギを開けて這いながらでも牢から脱出を成功させた。

 

だが無情にも。

男がカギを開けて開こうとした牢の扉は、軋んだ金音を大きく牢獄の中へ響かせる。

 

 

「おぉ? おぉい、何逃げようとしてんだぁ」

 

「ひぃっ!や、いやだ!神様助けて!懺悔する!どんな事してでも償う!だから助けてくれぇ!!」

 

 

衛兵の体を半分以上食い散らかした化け物が、大きく裂けた口から血と臓物を零しながらぎらついた目で己を見る事に耐えられず囚人は泣き叫びながら神に祈る。

少しでも、一秒でも長く生きる為に囚人は本能が導くままに化け物から距離を取ろうと足掻く。

 

 

「リぃダぁのイウコトハぁ、絶対だって言ったロォ?」

 

「いやだ!死にたくない!こんな死に方嫌だ!誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

人の死体を食い散らかし、肉体を内側から隆起させ変質させていく化け物が一歩ずつ囚人へと近付く。

囚人は自由に動く手で自身の体を守ろうと足掻くが、その全ては何一つ意味を為さなかった。

 

 

牢獄の中に新たな断末魔が響き、そして血と肉をすすり臓物を貪り食う音が木霊する。

無法極まりない冒険者のリーダーだった男は、もはや人間性と呼べるものは欠片も存在していなかった。

 

残っているのは貪っても貪っても満たされない飢餓感と。

 

 

「女、ソう、オンナだぁぁ……これなら、あいつに負けねぇ……ぜんぶ、全部俺のモノだぁぁぁ」

 

 

醜悪なまでに肥大化した獣欲のみであった。

 




衛兵の被害がどのぐらい出たのかは、次回をお楽しみに!
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