勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
一応本作は試験的に12話仕立てで1章区切りにするよう、プロット組んでたり組んでなかったりします。
ある朝、フォレスティアの町を衝撃と共にと一つの凶報が駆け抜ける。
昨晩衛兵の詰め所が何かによって襲撃を受け、その日の夜詰め所に詰めていた衛兵と牢に収監されていた囚人が虐殺されたというモノだ。
死体はまるで凶悪な害獣に食い荒らされたかのように悲惨な有様となっており、一部の遺体に至っては身元の確認が困難になっているものまである。
その余りにも凄惨過ぎる内容は冒険者ギルドのみならず、町の中にある宿屋や酒場でも朝からその話題がそこかしこで語られるほどであった。
「なんとまぁ、恐ろしい話だなぁオイ」
そしてその話題は赤毛の剣士、ラースが逗留している宿でも話題に上がっていたのだが……。
「しかしお前さんが一人で会いに来るなんて珍しいな」
その日は珍しい事に神殿騎士メルトが単独でラースに逢いに来ていた。
ここ最近は交流も進み避けられる事はなくなれど、なんとなく単独で互いに交流することもなかった二人。
ラースはその辺りも考え、いつも頼んでいる蒸かした芋を口に運びながらメルトへ問いかける。
「……剣士殿、貴方を経験豊富と見込んで頼みがある」
「なんでえ畏まって、そりゃしたくもない経験豊富なのは認めるがそれがどうかしたか?」
「……今回の事件を引き起こした何かの調査を手伝ってほしい」
「……随分穏やかじゃないな、話してみろ」
メルトが放った言葉にラースは芋を食べる手を止め、思考を切り替えつつテーブルの向かいの椅子に座る女性を眺める。
「神殿騎士の任務とかで駆り出されたのか?大変だな」
「……違う、コレはボクの独断」
「普段おとなしいお前さんが言い出すって事は邪教とやらの絡みか、根拠は?」
「……無い、ボクの勘」
勘かよ、とラースは苦笑いしつつも油断なく正面に座る竜人の女性を眺める。
メルトという女はラースがこの数か月付き合った中で知る限り、戦術の豪快さと大柄な体躯に似つかわしくない理論的に思考する人物であった。
そんな女性が、このような惨事が引き起こされた状況に置いて勘を最初に言い出すという事は何かしら感じたという事を証明している事に外ならない。
「俺は構わんよ、お嬢ちゃんらはどうしてる?」
「……勇者殿達には神殿へ向かってもらっている」
「ああなるほど、嬢ちゃんが持つ勇者の名前を使った厳戒態勢でも発布してもらうってところか?」
「……その通り」
ラースが試しに聞いてみれば思った通りの動きを働きかけてるという回答に、ラースは思わず天井を仰ぐ。
思った以上に面倒かつ厄介な事態かもしれん、と。
そうと決まれば話は早いとラースは食事を掻き込むと代金を払い、メルトと共に宿を出る。
目的地は惨劇の舞台となった衛兵の詰め所。
その場所は集まった野次馬もさることながら、せわしなく動き回る衛兵や神官が右へ左へと動きまわり騒然としていた。
「おらおら、散れ野次馬共」
「……剣士殿、その乱暴な真似は」
詰め所へ向かう邪魔な野次馬を適当にかき分けて進むラースに、メルトは申し訳なさそうにその大柄な肉体を縮こまらせながら詰め所へと進む。
突然野次馬をかき分けてやってきたラースとメルトに、ヒリついた雰囲気を漂わせていた衛兵はすぐに立ち去るよう述べようとするが……ラースの顔に気付くと態度を少し和らげる。
「ラースさんではないですか、どうしたのですか?」
「ああ、この神殿騎士さんに調査協力頼まれてな」
「そうですか……ええ、そちらの神殿騎士様の身元は把握しております。中へどうぞ」
どこか憔悴した様子の衛兵に道を空けられたラースとメルトは詰め所の中へと足を進める。
最初に二人が感じたモノ、それはまるで視覚で感じ取ってしまうのではないかと錯覚するほどに濃厚な血肉の臭いであった。
中に入った二人は調査や事後処理に当たっていた衛兵に、彼の仲間が殺害された経路を辿って奥へと進む。
途中幾つも残っていた血痕を見ながら、何か考え込んでいるラースにメルトは疑問を感じつつ。
やがて辿り着いた牢獄は、床のみならず壁や天井にまで血痕が残っているまるで地獄のような有様をしていた。
「……なぁ衛兵さんよ、俺も宿で噂話は聞いたが。確認したいことがある。いいか?」
「はい」
普段は相手の心情を憚る事なく好き放題質問をするラースが、言葉を選ぶ様子に少しメルトは表情に出すことなく驚くも。
ラースが衛兵に問いかけた内容に、戦慄する。
「通り道で見たモノとここの血痕の種類が違い過ぎる、死体は貪り食われた痕があったか?」
「……はい、人間の死に方とは思えない。無惨な状態でした」
「……すまない」
「いえ……仲間の仇に繋がるのなら、いくらでも聞いてください」
ラースが感じていた違和感、それは道中と牢獄で余りにも血痕が違い過ぎるのだ。
「囚人を喰う事が目的だった? いや、それならば衛兵を喰ったことに理由がつけられん」
「……そうですね、まるでここでその事に気付いたかのような」
状況と痕跡がチグハグすぎる、とラースが後ろ頭をがしがし掻きながら呟いた言葉にメルトは同意を示しつつ言葉を返す。
そして、メルトが返した言葉にラースは勢いよく彼女へ振り返りその顔を凝視した。
「……え、ええと、ボク何か変な事を……?」
「違う、そうじゃない。今何て言った?」
「……ここで、その事に気付いたかのような。と」
メルトが根拠もなく呟いた言葉、その一言を聞いたラースは血相を変えて牢獄の床を調べ始める。
そしてラースは地面に血痕が残っている床をくまなく調べ始め、衛兵が殺されたと思しき場所に転がっている干からびた黒い何かを発見した。
「……クソが」
親指大ほどの大きさの干からびたヒルのようにも見えるソレを見つけたラースは、心から忌々しいと言わんばかりに悪態を吐き捨てる。
ラースはしゃがみ込むと、上着の袖を乱暴に引きちぎって布で黒い残骸を包んで拾い上げた。
「お前さん、これに見覚えは?」
「……これは、邪教の教祖が振るった漆黒の何かに、似ています」
「だろうよ」
ラースが手に持つ布に包まれた、黒い干からびた何か。
それはメルトが邪教の教祖の襲撃によって仲間を喪ったあの日に見たモノに酷似していると同時に……。
ラースがかつて仲間達と死闘を繰り広げた、魔王が振るっていた殺戮を齎す触手に酷似しているモノの切れ端であった。
「衛兵さん、お前のお仲間さんは間違いなく英雄だ。抵抗の末に大事な痕跡を残してくれていたよ」
「……ありがとうございます、死んだ仲間も浮かばれます」
並の剣や技では断ち切る事は困難なソレは、適当に暴れただけで千切れるほど脆いモノではない。
血痕や痕跡に紛れ目立たない状態ではあったものの、それがこの場に残されていたという事は殺されてしまったものの最後まで抗った衛兵の功績なのだ。
「ここに収監されていた囚人は何をやって捕まったヤツだった?」
「ラースさんが持ち込んだ犯罪を犯した冒険者の一味の一人です、王都や神殿から囚人の一味が犯した罪状が回ってきたため本当は本日縛り首が執行される予定でした」
「マジか、あいつかよ」
最後の手がかりを得るべくラースは傍に控えていた衛兵に問い掛け、返ってきた返答に思わず呆気にとられる。
「……剣士殿、何があったのですか?」
「いやね、お前さんらを狙うアホが襲ってきたから一人残して返り討ちにしたんよ。この前」
「……そういう事は、共有して頂きたい……!」
「ごめんて」
急遽聞かされた情報に思わずメルトは驚き、問い詰めてみれば返ってきた情報に絶句。
「……勇者殿が気に病まないよう、配慮されたのですね?」
わかってますとも、と言いたげな目を向けてくるメルトにラースは違うと主張したかったがこの場でそんな事を言い合う気もなく。
肩を竦めてメルトの追及をはぐらかしつつ、衛兵に礼を言うとメルトを伴って詰め所から出る。
「……しかし、アレだけの事をした犯人は何処へ……?」
「そこまではわからん、だが何処に行けば会えるかは心当たりがあるし。相手がどういう化け物かも当たりはつけてる」
「……お聞かせ頂けますか?」
「今は誰が聞いてるかもわからん、神殿へ行って嬢ちゃんらと合流してから話す」
メルトの詰問をラースははぐらかしながら神殿へ急ぎ足へ向かう。
ラースはメルトから疑念が籠った視線を向けられつつも、ラースは意に介する事なく歩みを進める。
何故魔王がいないはずのこの世界で、魔王の力によって異形となったモノの痕跡が出てきたのか、それを確かめる必要があると考えながら。
しかしこう書いてて思うんですよ。
リリフィア達の視点でRPGにした場合、ラースって途中で裏切るか死ぬかして退場しそうだなって。
ファイナルなファンタジーの2で言う、四人目の仲間枠的に。
余談ですが当初の予定では、バラけて調査開始とかそんな展開を考えてたのですけども。
地味に過保護気味なこの剣士が、放流したらひどい目に遭いそうな娘さん達を調査に放り出す展開が浮かばなかった。