勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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実はちょっと難産だった今日の更新。


輝きの直剣

 

 

フォレスティアの町にある神殿、その奥の神殿長の執務室。

その中では、ラースとメルトが衛兵詰所で行った現地調査で得た情報の共有が今この時行われようとしていた。

 

 

「……剣士殿、合流してから話すと言っていた件、お聞かせ願えるか?」

 

「ああ、まず今回の事を引き起こしたのは。異形化した悪党冒険者のいずれかなのは間違いない」

 

「断定に至った根拠は?」

 

「唯一の生き残りである、囚人だった仲間を食い殺しに行ってるのが理由だ」

 

 

全員揃った所で、道中ずっと気になっていたメルトはラースに静かに問いかけると男は頷き説明を始める。

突然の情報にファムは驚きを浮かべながら根拠について質問し、返ってきた言葉に眉根を潜めた。

 

 

「それがなんで、犯人の根拠に?」

 

「死体から異形化した存在は、まず近場にある自分と縁がある存在を食い殺して体を補完する習性があるからだ」

 

「なるほど……しかし、それが何故悪党冒険者が犯人であると繋がるのですか?」

 

「そりゃ囚人の仲間返り討ちにしてぶった切ったの俺だからな、王都から来たばかりの連中で縁近いとなれば仲間連中以外考えられん」

 

「……返り討ちにしたとかその辺りについても聞きたいところですが、ええ、今は後に回しましょう」

 

 

ファムからの質問に淀みなく答えるラースに、メルトは何故この人はこんなにもその手の事に詳しいのだろうと疑念を浮かべ。

珍しく話を静かに聞いていたリリフィアは、ファムの質問が終わったタイミングでおずおずと挙手してラースに問う。

 

 

「あのラースさん、そもそも異形化って何ですか?」

 

「……あー、すまん。俺が前いた所ではちょくちょくあってな、知ってる前提で話してた」

 

 

リリフィアの質問にラースはふと自分が説明不足だったことに気付き、珍しく素直に謝ると先ほどからしきりに口にしていた異形化について説明を始める。

 

 

「異形化というのは魔王、ないしその眷属に力を分け身される事で生命体に生じる現象だ」

 

 

そう説明すると共に、全員に見えるように布に包んで持ってきた干からびた黒いヒルのようなものを見せる。

 

 

「ひぇっ!?なんですかソレ……」

 

「現場の床で見つけた犯人から切り離されたであろう肉片の残骸だ。異形化ってのは厄介でな、そいつが持つ欲求が極端に肥大化する」

 

 

ラースが見せる黒いヒルの残骸のような肉片に、猛烈な本能的嫌悪感を感じたリリフィアはメルトの後ろに隠れ恐る恐ると言った様子で黒いヒルの残骸を見る中。

その分け身を受ける事なく異形化した経験を持つ自身の事は伏せつつ、ラースは説明を続ける。

 

 

「金が好きなら金にのみ執着して他人を殺して際限なく奪うようになるし、殺しが好きなら自身がくたばる寸前まで誰かを傷つけるようになる」

 

「……最悪、だ」

 

「ああそうだ最悪だ、魔王や眷属が居ればそいつの指示を多少順守すれども基本自分の欲望最優先になる」

 

 

吐き捨てるように呟いたメルトの言葉に、ラースは同意を示すように頷く。

しかし、ラースの言葉にリリフィアとメルトは気持ち悪いけどそこまで危険なもののだろうか、と言わんばかりの表情を浮かべる。

そんな二人の様子にラースは気づくと、静かにラースの説明を聞いていた神殿長へ視線を向ける。

 

 

 

「危険性を説明する手っ取り速い方法がある。神殿長さん、少しばかり騒がしくなるがすぐに鎮めるから安心してくれ」

 

 

これから起きる事についてラースは執務室の主である神殿長に一言詫びを入れると、

ラースは布に包まれたヒルを右手に持ち替え、糸切り歯で左手の親指を深く傷つけると指から垂れる血を干からびたヒルへ一滴振りかける。

 

突然のラースの行動に全員が固唾を飲んで見守る中、血を一滴垂らされた干からびたヒルはその身を泡立たせながら激しく蠢き始め。

布に包まれたヒルを手に持つラースめがけて飛び掛かる。

 

 

「ラースさん、危ない!?」

 

「心配、するな!」

 

 

思わずリリフィアが叫ぶ中ラースは右手で飛び掛かってきた黒いヒルを叩き落とし、床に叩きつけられたソレを間髪入れず踏み付け動かなくなるまで靴裏ですり潰した。

 

 

「こんな具合にな、肉片の状態ですら貪欲に周囲にある血肉を求めて蠢く危険物だ」

 

「説明するのに手っ取り早いのは理解したが、それでも先に説明しろこの無法者!!」

 

 

百聞は一見に如かずだろ?と悪びれなく言い放つラースにファムは腹の底から怒りの叫びを上げる。

不憫なのは神殿長であると言えよう、己の執務室の床に汚物めいた黒いヒルの染みが出来てしまったのだから。

 

 

「魔王がおとぎ話の中にしかいないこの世界で何故コレが出てきたのか俺にもわからん、だがコレに近いモノを扱う存在はいる……そうだな?」

 

「……はい、形状に違いこそあれどもこの色に不快な臭気。忘れるはずがない」

 

 

この中で唯一邪教の教祖に遭遇し、そしてそれが振るったとされる暗黒の触手を知るメルトへラースが問い掛ければメルトはその言葉に頷き肯定の意を示す。

 

 

「……剣士殿、貴方が交戦した魔王とやらは、どのような攻撃をしてきた?」

 

「直接殺し合った時は魔法無し、闇より昏い触手を振り回して前衛後衛関係なく縦横無尽に襲い掛かってきたわ」

 

 

メルトからの問い掛けにラースは、ほんとアレ洒落にならんかったわとげんなりした表情で呟く。

 

 

「……だが剣士殿、貴方はいまここにいる、打倒した手段はあるという事か?」

 

「ああ、そこのお嬢ちゃんに預けてる剣が鍵になる」

 

「へ?」

 

 

荒唐無稽すぎるラースの言葉、しかしメルトはここで男が嘘をつく理由は無いと断定して問い掛けを重ねる。

メルトの言葉にラースは頷くと、リリフィアが腰に提げている鞘に収められた輝きの直剣を指さした。

 

 

「お嬢ちゃん、この頑固な床の染みにその剣近づけてみな」

 

「頑固な染みって……やってみます」

 

 

血を一滴与えられただけで息を吹き返した黒いヒルのような何か。

今やラースの靴裏に磨り潰され、どす黒い床の染みとなったソレにリリフィアは半信半疑で剣から抜いた輝きの直剣を近付ける。

 

すると、信じられない事に輝きの直剣はひと際強くも暖かく柔らかい光を放ち始め、その光に触れたどす黒い染みはゆっくりと塵となって消滅していった。

 

 

「え? ええええぇぇぇぇ?」

 

「俺の親友レベルでその剣が認めただけはあるな嬢ちゃん」

 

「い、いや待って下さいラースさん。この剣何なんですか? というか剣の銘は何ですか?!」

 

 

自身が手に持つ輝く直剣が起こした現象にリリフィアは顎が外れんばかりに驚き、それは状況を見守っていたファムや神殿長も同様。

無表情なメルトですら、その目を見開いて驚いているのだから彼女達に走った衝撃の強さが窺い知れよう。

 

 

 

「え?俺と一緒に旅してた勇者が使ってた剣だけど。銘は確か輝きの直剣だったか」

 

「え?」

 

 

ラースが何の気なしに答えた内容が持つ情報量にリリフィアが宇宙の真理を目の当たりにした猫のような表情を浮かべ、ファムは絶句しメルトは自分の耳を疑った。

彼女たちがそうなった原因の言葉を放った男は何呆けてんだと呑気に呟くが、こればかりは仕方ないと言えるだろう。

 

この世界におとぎ話として伝わる魔王を討伐した勇者の伝説。

その伝説の中で、勇者が手に持っていた聖剣こそが邪悪な魔物をその光で浄化する輝きの直剣だったのだ。

 

ましてやリリフィアは魔王を倒した勇者の伝説、おとぎ話に憧れて勇者になったような少女である。

神託によって導かれた地であったとはいえ、そこで何の気なしにポンと渡された不思議な光を放つ直剣が伝説の剣であったと知らされたのだから……。

リリフィアが我に返るまで少しばかり時間がかかったのは、やむなしと言えた。




勇者ちゃん、とうとうラースから何の気なしにポンと渡された剣が魔王を倒した勇者の聖剣と知る。

なおこの剣が何故作られたのか、どうやって作られた代物なのかはラースも元の持ち主の勇者くんも知らない謎聖剣な模様。
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