勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
ス〇ーウォーズファンでジェダ〇に憧れる少年が、道に落ちてた金属筒を拾ったらそれがライトセー〇ーだったみたいな、そんな感じ。
この世界において魔王はおとぎ話の産物であり、古き伝説を識る者にとっては遥か遠き過去の存在である。
しかし一方、勇者という存在は身近とは言い難いがそれでも人々の平和を脅かす破壊の邪神に抗う希望の象徴であり、その在り方はかつての勇者の在り方と変わる事はない。
故にこそ市井には勇者の偉大さを示す書物やおとぎ話が溢れ、どんな者であれ男子であれば一度は勇者ごっこをするのは当たり前。
彼ら、もしくは彼女達は適当に拾ったなんかよさげな棒を輝きの直剣と名付けて振るって魔物役をする羽目になった子供をばったばったと切り伏せるのが定番であった。
平たく言うと勇者に憧れた者、今も憧れている者にとって輝きの直剣というのはソレだけ特別な存在なのだ。
勇者ごっこの時に仲間の剣士か騎士か賢者か聖女が欠ける事はあっても、輝きの直剣を外しては勇者ごっこではないとまで言われている程なのだから憧れる者たちの思い入れがどれだけ深いか窺い知れるだろう。
そんな代物が、実は結構前から使い勝手の良さと不思議な力が便利で愛用していた剣だったと知った現代の勇者でありおとぎ話の勇者に憧れている少女、リリフィアはどうなったかと言うと。
「ほ、ほぁぁぁぁぁ……」
両手で宝物を握るように輝きの直剣を握りしめ、頬を紅潮させてぷるぷると震えながら声にならない声を漏らす生き物となっていた。
伝説の剣と同じ銘を打たれた剣は名剣なまくら問わず無数に存在する。
だがしかし、魔王の力と言われる漆黒の肉片を浄化し今も心が安らぐかのような淡い光を放つその剣は、紛れもなく自身が真の聖剣であると剣自身が主張するかのような空気を放っていた。
「その剣がラース様、貴方からリリフィア様へ渡された事は聞いております。その上で今一度問います……その剣は何処から、どのようにして手に入れられたのですか?」
先ほどまでの情報共有とラースの説明を静かに見守っており、今は消えた執務室の頑固な染みと化した黒い肉片を見てもなお沈黙を保っていた神殿長が口を開く。
嘘偽りもはぐらかす事も許さないと言わんばかりの神殿長の視線に、ラースはどうしたものかと溜息を吐いて軽く周囲を見回すも。
現在パーティを組んでいるファム、そしてメルトもまた同じような視線をラースへ向けていた。
なおリリフィアは今もぷるぷる震えながら輝きの直剣を見詰め続けている。
「まぁ色々あってな、親友だった勇者達とガチンコで殺し合いした末にその剣を要に封印されてたんだよ。俺」
別に隠す気も無かったが吹聴するような面白い話でもない過去であったが故に、今の今まで黙っていた事を言わざるを得なくなったラースは気まずそうに後ろ頭をがりがりと掻きながら白状する。
ラースの言葉に耳を疑う一同、だがそれもやむを得ないと言えよう。
輝きの直剣を手に戦い続けた勇者、彼の物語にそのような結末は何処にも残っていないのだから。
現代に残っていない聖剣についても行方は不明となっており、魔王との決戦で折れたとする説から真の勇者が現れるまで何処かで眠りについているという説まであったぐらいに行方は諸説あるとしか言えない状態。
その真実が明らかになったと言え、その真実が勇者を親友と称する男と殺し合いをした末に封印する要となったのだから信じられないのも当然であった。
「勇者と戦う事になった理由を、聞いても?」
「言いたくはないがそれも通らんのなら話すぞ、だが今はそんな事より優先する事があるだろう」
「……必ず聞かせてもらいますからね」
ファムがラースへぶつけた質問に、話す気はあるが今はそれより衛兵詰所襲撃の犯人の事が先だろと言われおとなしく引き下がる。
ハーフエルフの少女は、リリフィアが握る輝きの直剣とラースの言葉……そして彼女の魔法の師匠である年齢不詳のエルフの賢者から聞いた話を頭の中で組み立て、一つの推論を導き出す。
もしかしてこの赤毛の無法極まりない男は、伝説の勇者と共に魔王を討ち果たした剣神と呼ばれるに至った剣士なのではないかと。
だが、そうだとした場合何故そのような英雄が勇者と殺し合いをした末に封印されたのかまでは結論が出せず、かといって今この場で問い詰めるわけにもいかないファムは奥歯に者が挟まったかのような何とも言えない表情を浮かべていた。
「……剣士殿、一つお尋ねしたい」
「今度はお前さんか、どうした?」
「…………魔竜ベヒムルゥスという、黒鱗の巨竜を討伐したことは……?」
「おう、最終的に親友が不憫すぎるから許してやってくれって言われるまでしばいた事ならあるぞ」
一族の始祖であると共に偉大なる語り部である黒鱗の巨竜、そして今もメルトの故郷である険しい山脈地方の奥に隠棲している竜から一族の他の子供達と共に聞かされた物語。
彼女たちは幼いころから始祖より……自分達竜の一族は人間やエルフと比べ遥かに強靭で頑丈だが、人間達を侮ってはいけないという警句を始祖のトラウマを混ぜて語られて育ってきた。
だからこそ、赤毛の剣士という存在に条件反射レベルでトラウマが刻み込まれていたわけであるのだが……。
目の前にいる赤毛の剣士が、まさに一族のトラウマの化身であると頭と本能で理解したメルトはその大きな体を縮こませてリリフィアの背後に隠れようとした。
悲報、トラウマ復活の御報せというヤツである。
「大丈夫だよメルトさん、それにファムちゃん」
だが、その空気を振り払うかのように口を開くのは先ほどまで輝きの直剣を手にしていたという事実に感激していた勇者リリフィアである。
少女は凛とした姿勢と振る舞いで輝きの直剣を鞘に収めると、真正面からラースを見上げて口を開き言葉を紡ぐ。
「ラースさんは私達を傷付けたりしない、そうですよね?」
「わからんぞぉ?お嬢ちゃんらが道を踏み外したら、そりゃもう泣いて詫びるまでしばくかもしれん」
「だったら大丈夫ですね、だって私達はそんな事しませんから!」
リリフィアの言葉にラースは意地悪く笑って言い放つが、そんな男の言葉をリリフィアは満面の笑みを浮かべて否定。
そして背後で小さく体を縮めてぷるぷる震えているメルトや、今も難しそうな顔を浮かべているファムを見回す。
「このポンコツお嬢様は、ほんと……ええ、この無法者が言動や態度や振る舞いはともかく人の道を踏み外すようなものじゃないというのは知ってますとも、ええ」
「…………無様で失礼な真似をまた晒した、申し訳ない」
勇者である少女の言葉にファムとメルトは疑念と恐怖を振り払い、いつもの調子を取り戻す。
その立ち居振る舞いとメンバーの心情を立ち直らせるリリフィアの姿に、ラースは内心でこのお嬢ちゃんは勇者として大成するかもなぁなどと思うのであった。
「話は、まとまったようですね」
「はい!お騒がせしてごめんなさい神殿長様!」
「いえ、私が話の発端ですから……ラース様、改めて謝罪を申し上げます」
「気にすんな、むしろ遅いくらいだ」
勇者パーティの危うい雰囲気が霧散したのを見届けた神殿長は、己が招いた不和の種について椅子から立ち上がると腰を曲げて深く詫びる。
その神殿長の様子に、むしろこのお嬢ちゃんらは警戒心皆無だからこのぐらい厳しくツッコムのがいるのは悪い事ではない、などとラースは考える。
「話がずれたから戻すぞ、衛兵詰所を襲撃したヤツだが。誘き出して始末する」
「誘き出す……簡単に言いますが、どうするおつもりで?」
「さっきも言ったろ、異形化した存在というのは己の欲望や欲求が肥大化するって」
軽く手を叩き、全員の意識を集めるとラースが話す言葉にファムは当然と言える質問をぶつける。
ハーフエルフの魔法使いの言葉にラースは、先ほど説明した異形化した存在の習性を改めて告げ……。
「アイツは十中八九、俺の臭いや気配を追って殺しに来る。だからアイツと仲間を返り討ちにした場所に夜出向けば良い」
「……ラースさん、私も王都から来た犯罪を犯した冒険者についてはここに来る前別件で耳に入れましたが、ラースさん以外も囮にしようとしておりませんか?」
「何の事かな?」
「この無法者、お嬢様に害が起きたら覚悟しとけよ。この命尽きるまで貴様に報いを与えてやる」
「心配するな、俺も切り札を切ってでもアイツの思い通りにはさせんよ」
ラースが言う作戦に不穏なモノを感じたファムは、眉を吊り上げて問い詰め悪びれなくラースが言い放った言葉に静かに怒りを込めてラースを睨む。
ファムのその殺意すら混じった怒りをラースはその怒りは正当なものだと言わんばかりに受け止め、その上で今回の惨劇の主犯の好きにさせる事はしないとはっきりと宣言する。
この世界に降り立ってからラースは本気を出す事はなかった、その事に何か理由があったわけではないがここで手を抜くのは仲間である少女達への不義理であるとラースは理解していたのである。
故にこそラースは、最悪の場合かつて親友達と殺し合ったあの姿……単独でかつての王国の戦力を殺し尽くし、その上で勇者達とほぼ互角に渡り合った異形になる事も視野に入れていた。
とうとう繋がった過去と今。
実はラースもどんな感じで今に伝わってるのか気になってるけど、それを聞いてる場合じゃないと一旦心の棚によけてたりします。