勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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と言うわけでクライマックス戦闘フェイズの開始です。
多分ゲームだとここまでがチュートリアル。


憎悪と狂気の肉塊

 

 

時刻は夕暮れ、夜の帳が降りる頃。

フォレスティアの町近郊に広がる森の中を、4人の男女が進む。

本来ならば人が進むのは困難となる森も、一団の中の一人であるハーフエルフの魔法使いが展開した移動式の光球により光源は確保されていた。

 

 

「……とまぁ、そんなワケで襲ってきたアホ共返り討ちにしたんよ」

 

「なるほど、それならそうと先に言って下さい」

 

 

道中赤毛の男、ラースより悪党冒険者の一団を返り討ちにした経緯をざっくり説明されたファムは溜息を吐きながら進む。

リリフィアが居る手前薬がどうのこうのやら肉便器やら、その手の話題は微妙に避けつつ説明したラースであるも、リリフィアとメルトは明らかに怒りを露わにしている。

 

 

「そんな事の為にラースさん殺そうとするなんて、許せない!」

 

「……仲間になりたいなら、言えばいいのに」

 

 

純真で純粋なリリフィアとメルトの発言、その言葉を聞いてファムはラースと視線を合わせる。

ファムは男達の悪辣な手段とやり方を仕入れていたからこそ、ラースが居なければ自分達は食い物にされ慰み者となっていたことを理解していた。

だからこそラースに感謝をすらしていたが、それでも言わないといけない事はある。

 

 

「そういう時はせめて私にだけでも伝達して下さい」

 

「おう、今度からそうするわ」

 

「しかし、思い出しましたよ。その連中……お嬢様の旅立ちに当たって腕利きを集めようとした時、名乗りを上げていました」

 

「え、そうだったの?」

 

 

ファムが思い出したと言わんばかりに口にした内容に、その時の当事者でありながら一人旅に出たリリフィアが驚きの声を上げる。

 

 

「腕も確かですし経験も豊富だから選考に上がったのですがね、その時は黒い噂が絶えなかったから見送ったのです」

 

「その時はまだ上手い事証拠を掴ませて無かったのだろうな、さしずめ勇者の一員になれると思い込んで浮かれた結果尻尾を出して王都を追われたってところか」

 

「ご明察ですラースさん、一つの綻びから芋蔓式に発覚して王都からフォレスティアに流れたそうです」

 

 

まぁ尤も、ここでも好き放題振る舞おうとしてましたし王都から罪状が回ってくる事はどちらにせよ避けられなかったでしょうね、とどうでもいい悪党の事をファムは切り捨てた。

態度と顔には出さないがファム自身も、その連中が王都近郊で働いた狼藉の数々には憤りを感じていた為、感情論だけで言えばラースが一人残してぶった斬ったのは万歳三唱したいのが本音である。

 

 

「……不浄の気配がする、警戒」

 

「おっと、どうやら目的地に着いたみたいだ。お嬢ちゃんら、戦闘態勢」

 

 

その間も森の中を進んでいた一行はやがて森の中の広場、かつてラースが一人で悪党冒険者を返り討ちにした場所に辿り着く。

目標を目視する前に気配に気付いたメルトは大柄な彼女の全身がすっぽりと隠せる巨大な盾を構え、反対の手には掘削用のツルハシかと思うぐらいに先端部分が大きいウォーピックを構える。

メルトの声に他のメンバーも思い思いの武器を構えると、悠然と歩くラースを先頭に広場の中へと足を踏み入れた。

 

 

その瞬間である。

 

 

「随分張り切ってんなぁ、オイ」

 

 

ファムが展開している照明光球の灯りが届かないラースの足元、その場所を狙い地面を高速で這い進んできた黒い触手。

その触手をラースは視線を向ける事なく踏み付け、すかさず手に持った長剣を振るって触手を切り離した。

 

 

「ギ、ィィィィ!?」

 

「……醜悪」

 

「うっわぁ」

 

「浅ましい欲望と悪意の慣れの果て、一周回って哀れですね」

 

 

ファムが杖を振るいここからは魔力を惜しんではいられない、そう言わんばかりに複数の照明光球を展開するとラースへ不意打ちを仕掛けた何かの存在が明るみに出る。

それはまるで人の死体を継ぎ接ぎしたかのような形をしており、もがく様に蠢く腕が脇や背中から何本も生えていた。

 

 

「え、えぇ……」

 

 

そしてリリフィアは思わず困惑したかのような、まるで発情してる牡馬を見たかのような気まずいような気恥しいような声を上げる。

だがそれもやむを得ないと言えよう、醜悪な死体の集合体のような化け物の股間にはまるで馬の生殖器かと言うサイズのモノが、激しく雄々しく聳え立っているのだから。

 

 

「お前異形化してまでソレとか引くわ、どんだけ女食い物にする事に命かけてんだ」

 

「……? 股間が大きい事と、女性を食い物にする、何の因果関係が?」

 

「メルトさん、それは一旦後にしましょう。まずは戦闘に集中を」

 

 

心の底からバカじゃねえのお前、と言わんばかりに異形を罵るラース。

一方で盾を構えたままのメルトは、股間の巨大化と女性の因果関係が理解できず不思議そうな顔をしており……ファムはそんな幼女レベルの性知識しかない神殿騎士を心配になりながら、一旦は戦闘に集中させる。

 

 

「邪魔、者ォォ……女ァァァァァァァァ!!」

 

「優先順位は俺、次いでお嬢ちゃんらってところか。見立ては当たってたが理性無くすの早すぎやしないか」

 

 

濁った眼を血走らせ、大きく裂けた口からは涎を垂れ流しながら化け物が元人間とは思えない俊敏性で飛び上がりラース達に襲い掛かる。

だがラースは同様に飛び上がると、空中ですれ違いざまに化け物の腕を2本同時に切り飛ばした上に空中で蹴りを叩き込んで撃墜。

撃墜に飛び上がったラースは相手を蹴った勢いで空中で反転し、手慣れた調子で元の立ち位置近くに着地した。

 

 

「……腕が、再生してる?」

 

「やっぱりか面倒くせぇ、ああなると普通は死ぬまで斬るか焼くか叩き潰すしかねえ。普通ならな」

 

 

地面に蹴り落された化け物がもがき苦しみながら立ち上がり、黒い瘴気を傷口から立ち上らせながら喪った腕を再生する様子にメルトは呟く。

その言葉にラースは同意を見せながら、げんなりした口調で語る。

 

 

「でも、そうじゃないという事ですね。ラースさん!」

 

「そうだお嬢ちゃん、お前さんに預けた剣なら異形に再生を許さずに殺しきれる」

 

 

ラースはリリフィアが握る、異形に反応して強い輝きを放つ直剣へ視線を向ける。

その視線と言葉にリリフィアは強く頷き、両手で剣を握り異形と化した化け物へ切っ先を向けた。

 

 

「女ハァァ、おとなしく股開ケバいいんだヨォォォ!!」

 

「一周回って尊敬するわお前の腐れた欲望」

 

 

交戦の意志を見せるリリフィア達に苛立ちを隠す事なく股間の欲望を滾らせながら襲い来る化け物に、ラースは思わずあきれた様子で呟いた。

 

そして戦闘は開始される。

 

 

「シャァァァァ!!」

 

「……ぐ、ぅぅ!」

 

 

全身で突進してきた化け物の攻撃をメルトは巨大な盾で一撃を加えながら受け止めるが、化け物は体の一部をひしゃげさせながら体から生やした触手を振るい。

メルトが全身に纏う超重装鎧を、まるで薄紙を切り裂くように引き裂いていく。

 

 

「……元の死体が持っていたスキル?いや、それにしては複合発動が多い……!」

 

 

魔法的防御までしっかり完備している鎧を容易く引き裂かれ、その下にある素肌から血を滲ませながらメルトは受けたダメージから相手の攻撃を分析する。

相手の防御を無視し鎧を破壊するスキルは幾つか存在するが、どれも発動させるには何かしらの予備動作を必要とするのにこの化け物は突進した直後の攻撃でスキルを発動させていた。

そこまで考えてメルトは一つの結論に行き当たる。

 

 

「……剣士殿!」

 

「おうよ!!」

 

 

メルトが攻撃を受け止めている間に化け物の背後に回っていたラースは、手に持った長剣を振るい化け物が纏っていたぼろ切れごと背中を袈裟掛けに切り払う。

次の瞬間、化け物とは異なる声で絶叫が戦場に響いた。

 

 

「なるほどな、生きてたメンバーを優先して喰いにいったワケだ」

 

「痛い!痛いぃぃ!死にたくないぃィーィー!!」

 

 

ラースが襤褸切れを切り裂いて露わになった化け物の背中には、絶望と苦悶をその顔に浮かべた悪党冒険者の生き残りの顔が張り付けられていた。

どのような生命体でも、それこそ突進のように全身を使う攻撃から方向性が異なるスキルを発動するのは困難である。

それが相応の訓練を積んだ存在ならともかく、理性を失っている化け物には不可能と言っても過言ではない。

 

ならば、何故それが行えたかと言うと。

 

 

「生存者を取り込み、スキルを使わせているというのか……?」

 

 

あまりにも悍ましい所業に、ファムが思わず呟く。

 

 

「ウルセェウルセェうるせぇ!リーダーの為に働くノガてめえらの仕事ダロウがよォォー!」

 

「うーん、地獄の上下関係。そっちの怪我は大丈夫か?」

 

「……大丈夫、治療済み」

 

 

死にたくないと喚く元囚人の顔と、その声に苛立ち地団駄を踏みながら喚き散らす化け物。

ある意味この世の地獄のような光景に、ラースは鬱陶しく蠢く触腕を切り飛ばしつつ先ほど軽くない怪我を負わされたメルトを気にかける。

一方メルトはファムが発動した治療の魔法によって、触手に切り裂かれた傷は傷跡一つ残すことなく治療されていた。

 

 

「でやぁぁぁぁ!!」

 

 

勿論そのような隙を勇者は逃がす事はせず、メルトやラースが敵の気を惹きつけては確実に手に握った輝きの直剣で化け物にダメージを与えていく。

この戦術に当初リリフィアは難色を示していたが、そもそも決定打を与えられるのがリリフィアである以上しょうがないという事になり。

 

メルトが攻撃を受け止めラースが一撃を与え受けた損傷はファムが治療し、リリフィアが一撃を加える。

そのような形の戦術が構築される事になった。

 

 

「お前さん、兜も吹っ飛んでれば鎧もボロボロじゃねえか。無理せず下がれよ」

 

「……問題ない」

 

 

敵の猛攻を幾度もその盾と体で受け止めているメルトの負担が最も大きくはあるが、ファムから治療の魔法が飛び続けている事もありその戦意が衰える事はなく。

ラースが敵スキルの起点である化け物背面の人面を容赦なく切り付け、スキル発動を阻害している事もありボロボロになった鎧でも壁役として職務を全うする事が出来ていた。

 

 

「攻撃魔法で吹っ飛ばしてやりたいところですが……」

 

「気持ちはわかるがやめとけ、肉片飛び散ると面倒臭いぞ。経験者の実体験は素直に聞いとけ」

 

「なるほど、ならばやめておきます。ですがコレなら問題ないでしょう?」

 

 

敵の攻撃から仲間を庇ったり突進を受け止める事で傷が絶えないメルトや、触手の切り払いを躱しきれず怪我を負うリリフィアに治療をかけるファム。

根気よく戦い続けなければいけない状況に思わずボヤくも、ラースからの実体験が籠った制止に派手に衝撃を与えるような攻撃魔法の使用を断念する。

だがこれなら問題ないでしょう、と言わんばかりに杖を振るえば化け物の背面にある人面が凍り付いた。

 

 

「そう言う事も出来るのか、凄いなこの世界の魔法使い」

 

「貴方も魔王を倒す時には魔法使いと一緒にいたのではないですか?」

 

「……アイツ、広範囲を吹っ飛ばすか極小範囲を木っ端微塵にするくらいしか攻撃魔法知らなかったから」

 

「貴方でも苦労したことあったんですね」

 

 

傷が増え苦し紛れに触腕を振るう化け物の攻撃を躱し、お返しとばかりに何本目かもわからない触腕を返す刃で斬り飛ばしつつファムの魔法に称賛を贈るラース。

褒められたファムは丸みを帯びた長い耳をピコピコと動かし誇らしげにしながら、半ば正体を確信しているラースと談笑をする余裕まである始末だ。

 

 

「あ、ファムちゃんずるい!私もラースさんから色々聞きたいんだからね!」

 

「ブレないなぁお嬢ちゃん」

 

 

敵の攻勢が弱々しくなったタイミングで、一気に攻撃のペースを増やしたリリフィアは舞う様に輝きの直剣を振るって化け物を切り裂きながらラースと談笑しているファムに抗議する。

なんせリリフィアは勇者伝説の大ファンだ、一番の推しは勇者であるが勇者の仲間達も箱推ししているのである。

そんな彼女がラースの話を聞きたいと、紛れもない悪である化け物を倒す事に奮起することは当然の帰結であった。

 

 

「俺ハ、俺ハァこんなトコロデしなねえ!女も名誉モ俺ノモノだあぁ!」

 

「あ、そう言えばお前の名前知らなんだわ、なんだっけ?」

 

 

ファムが放った氷結魔法で身動きを封じられ、メルトが振るうウォーピックで顔面に風穴を開けられ。

それでももがき足掻いて自身の怨敵であるラースを殺し、女を食い物にする欲望を満たそうとする化け物であったが。

ふと思い出したと言わんばかりに呟いたラースに背面の人面ごとその体を長剣で刺し貫かれる。

 

そして。

 

 

「これで、終わりです!!」

 

「イヤ、ダァァァ!消えタクナイ、死にたくナイィィ!!」

 

 

リリフィアの気合と悪に対しての怒りが反映されたかのように、朝陽と見間違うばかりの極光を纏う輝きの直剣。

その光を見た化け物は本能的恐怖から逃げようとするが最早逃げる事は不可能で、ただ命乞いをするしかなく。

 

その命乞いをリリフィアは一顧だにせず、輝きの直剣を振るい悪党冒険者リーダーの末路である化け物を一刀両断する。

ついでに化け物の背面から突き刺さり串刺しにしていた、ラースの安物の長剣もへし折られた。

 

 

「おぁーー!?」

 

「あ、ご、ごめんなさい!!」

 

 

化け物の亡骸が黒い煙となり、輝きの直剣が放つ淡い光で浄化される神秘的な光景の中。

見事なまでに聖剣でまとめてへし折られた長剣に情けない悲鳴を上げるラース、その事に慌てて謝るリリフィア。

 

どうにも締まらない光景であったが……。

 

 

「こんなところまでアイツと同じ事やらんでいいだろ、お嬢ちゃん……」

 

 

見事なまでに折れた長剣を手に嘆息するラース。

彼の親友である勇者が輝きの直剣の真の力を発揮した最初の戦いでも同じ事あったなぁ、とラースは遠くなった過去を想い森の中から見える星空を仰ぐのであった。

 

 




【悲報】ラース、返り討ちにした連中のリーダーの名前知らなかった【お前誰やねん】
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