勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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危なげなく異形とかした股間にベクトルが付いている元冒険者を撃破した勇者一行。
その後の話でございます。


この展開書くかずっと迷ってたし、どう描くか試行錯誤したのですけども。
こうした方が色々しっくりくると思った結果、こうなりました。


邪神来臨

 

 

多少危ういところはあれども、誰一人欠ける事無ければ重傷を負う事もなく異形と化した元悪党冒険者を撃破する事に成功したリリフィア一行。

彼女達は異形の残骸が輝きの直剣から放たれる淡い光によって、塵一つ残すことなく消え去ったのを見届けてようやく警戒態勢を解く。

 

 

「何とか、終わりましたぁ」

 

「おうお疲れ、その剣を問題なく使いこなせるようで俺も安心だ」

 

「こっちはぶっつけ本番で凄いひやひやしたんですからね!?」

 

 

地面にへたり込むリリフィアに手を差し伸べながら、とぼけた事を言うラースに少女は苦情を申し立てながら男の手を掴んで立ち上がる。

ついうっかりラースの安物の長剣も異形ごと真っ二つにしてしまったリリフィアであったが、ラースは安物だから気にするなと言う始末である。

 

ちなみに常連と化した武器屋ではラースは顔馴染となった店員より、もっと利率の良い高い剣を買えと言われているが気にせず安物を買い込み続けている。

 

 

「しかしお前さんの鎧もひどい有様だな、直すのに結構費用かかるんじゃないのか?」

 

「……問題ない、魔力で直せる」

 

「お嬢ちゃんもその機能搭載された衣服着用してるけど、今ではそんなもんが当たり前なんだなぁ」

 

 

リリフィアを助け起こしたラースは先ほどの戦いで敵の攻撃を一身に引き受け続け、レオタード状の内鎧もボロボロになっているメルトへ問いかける。

一方でメルトは破れた内鎧からかなり際どい所まで露出する形になりながらも、修復できるから問題ないと返す。

それはソレとして少しは肌を隠せと言おうとするラースであるも、自分から言うのも何かアレだと思い直しファムへ視線を向けた。

 

戦いを終え弛緩した空気が流れ、後は念のため周辺確認をしてから町へ戻る。

誰と無しにそう言い始めたその時、刹那の瞬きの間に空間に満ちた殺意に目を見開く。

 

殺意の狙いは今も腕を掴んだままのリリフィア、抱えて飛ぶのは間に合わない。

一瞬でそう判断したラースは全力で少女を突き飛ばす。

そして次の瞬間。

 

 

肉を貫く鈍い音が、複数その場に静かに響いた。

 

 

「がっ、はぁ……?!」

 

「ラースさん!?」

 

 

突然突き飛ばされたリリフィアは目の前で起きた事が信じられなかった。

今まで共に戦った中でも碌に被弾する事がなかったラースの体から、幾本もの黒い触手が伸びているという光景を前に思考が理解を拒んだのである。

 

 

「あらあら……困りましたわ、邪神様の障害となる勇者を狙ったのに。お父様(英雄様)を傷つけてしまうなんて」

 

 

ずるり、と鈍い音を立ててラースの体から複数の黒い触手が引き抜かれラースは力なく地面に倒れる。

仲間であり頼りになる大人である男を襲った突然の事態に、リリフィアが駆け寄ろうとするが少女の征く手を阻むように黒い触手が薙ぎ払うかのように少女達を襲い。

リリフィアは咄嗟に後ろに飛びのき、突然現れ勝手な事を言う相手を睨むことしか出来なかった。

 

闇の中から這い出るように現れたソレは、白銀色の長い髪の毛に紅い一房の髪が混じっている狐獣人の女性であった。

その女性は局部を隠せる程度の羽衣のようなモノしか身に纏っておらず、男の劣情を誘う装いをしており……その姿だけ見れば不幸にもこの場に紛れ込んだ娼婦のようにも見えた。

しかし、その女性の背後からは無数の闇より昏い触手が生えており……つい先ほどラースを貫いた触手に付着したラースの血を、狐獣人の女は指で拭うと頬を上気させながら愛しそうに舐める。

 

 

「……教祖……!」

 

「あら、貴方はあの時の神殿騎士の……なんて素晴らしいのでしょう、あの時見逃した方がお父様(英雄様)を連れてきてくださいましたわ邪神様!」

 

 

自分達を見ていないのに、自分達を意識してないかのように振る舞う教祖と呼ばれた狐獣人。

その異様な存在はゆっくりと倒れ伏すラースへ近づくとしゃがみこみ、血を流し続ける男を抱き上げると愛しそうにその腕で抱き締める。

 

 

「ああごめんなさいお父様(英雄様)、すぐに治しますわね」

 

「ぐ、ぅぅ……お前、は……」

 

 

男の体から流れ続ける血で我が身を汚しながら、それすらも愛おしいと言わんばかりに教祖は恍惚とした表情を浮かべながらラースの傷を魔法で治療する。

その治療の効果は凄まじく、致命傷としか形容できなかったラースの傷が瞬く間にリリフィア達の目の前で塞がっていく。

 

 

「ラースさんから、離れろぉ!」

 

「……教祖、ここで討ち取る」

 

「相手の出方も不明なのに飛び出すな! ああもう!!」

 

 

 

命を預けられる仲間であるラースが敵の腕の中にいる、その事態は勇者達にとって看過出来るものなどではない。

リリフィアは仲間を傷付けられた怒りを輝きの直剣に込めて飛び出し、仲間を殺された怒りを再燃させたメルトもまた盾とウォーピックを手に突撃する。

完全に頭に血が上っている二人にファムは思わず叫びながらも、前衛二人に襲い掛かろうとする教祖が操る触手を攻撃魔法による迎撃を敢行。

 

だが、少女たちの決死の攻撃は全て無駄であった。

リリフィアが振るう聖剣は襲い掛かる触手達を切り裂き、道を切り拓こうとするが少女が捌ききれない物量の触手に襲われ勇者は触手の薙ぎ払いによって吹き飛ばされた末に大木に打ち据えられ。

メルトは幾度も触手の一撃をその大盾で耐え凌ぎ一歩一歩進めたものの、大盾を弾かれて生じた隙を突かれ全身を激しく切り裂かれ地面へと倒れ伏し。

攻撃魔法に専念しすぎたファムは、背後に回り込んでいた触手に気付いた瞬間強烈に打ち据えられ地面を幾度もバウンドしながら転がされた。

 

 

「あら?あらあら……どうしましょう邪神様、思ったよりも弱いですわ」

 

 

ラースをその手に抱いたまま地面に倒れ伏すリリフィア達を見下ろす教祖。

その声と仲間たちの苦悶の声により、薄っすらと意識を取り戻したラースは咄嗟に教祖を突き飛ばして距離を取るがダメージが残っているせいか膝をついてしまう。

 

 

「まぁいけませんわお父様(英雄様)、そのようなお体で無理をしないで下さいませ」

 

「違う、お前は……(レイラ)じゃない。(レイラ)と同じ髪の色、面影のある声をしているお前は……誰だぁ?!」

 

 

自身をお父様(英雄様)と呼ぶ、(レイラ)の面影がある女性……もしかするとあの日亡くした(レイラ)が成長したらこうなっていたかもしれないと思わせるほど面影のある狐獣人の女性を前に。

ラースは顔を歪ませ血を吐くような声音で叫ぶ。

 

激しい拒絶を態度と言葉で突き付けられた教祖、しかしソレに対して見せた感情は。

激昂でも悲哀でも絶望でもなかった。

 

 

「うふふ、うふふふふふふふ! 聞きましたか邪神様?! 流石お父様(英雄様)ですわ!私が、私が貴方様と違う貴方様のお姿を借りたまがい物と一目で見抜きました!!」

 

 

ラースの拒絶を受けた教祖が見せた感情ソレは、狂悦とも呼べる正気とは思えないモノだった。

 

 

「姿を借りた、まがいもの……どういう事だよ。お前は誰なんだ!邪神ってのは一体何だってんだ!!」

 

 

よろめきながら立ち上がるラース、男はあり得ないそんなはずはないと自身に言い聞かせながら叫ぶ。

ラースの娘は悪戯好きな優しい娘で、誰かを傷付けて喜ぶような事は一切なかった。

だからこそ認めたくなかった、信じられなかった。

 

 

「改めて名乗らせて頂きますわ、私の名はディース……破壊の邪神レイラ様を奉ずる教団の長ですわ」

 

「嘘だ……ふざけるな!俺の(レイラ)の名前を邪神なんかに付けてんじゃねえ!!」

 

 

ディースと名乗った女性がうやうやしく頭を下げながら名乗り、ラースが愛し喪失した宝物である(レイラ)の名が邪神につけられていると知るや否や。

ラースは認めたくなかったし信じられなかった。

愛した女性との間に生まれた、何事にも代えがたい宝物だった(レイラ)が邪神となっている事など。

故にラースは自身の怒りの赴くままに、かつて仲間達と死闘を繰り広げた異形の姿へ変ずることを自ら選択する。

 

そして例え二度と人の姿に戻れなくても構わないと決意したラースの体は、圧縮した漆黒の闇に包まれ始める。

 

 

「ラース、さん……?」

 

 

ラースが血を吐くような叫びと共に、その身を異形に変えようとしていると知ったリリフィアは口の端から血を零しながら傍らに落ちていた輝きの直剣を弱々しく握りしめる。

偶然であるが意識を取り戻した瞬間に、霞む視界に見えた光景にリリフィアは導かれるように剣を手に持ちながら立ち上がる。

 

このままラースを異形化させたら、もう二度と会えないと誰かが囁くように導き教えてくれた気がした。

だからリリフィアは、勇者は命を落とすかもしれないと思いながらも駆け出す。

 

 

「あら? そのまま倒れていれば助かったやもしれませぬのに」

 

 

恍惚とした貌でラースの異形化を見守っていたディースは、こちらに向かってくるリリフィアに水を差す無粋な勇者ですわね。などと呟きながら無造作に触手を振るう。

辛うじて立ち上がり何とか走れているリリフィアにその一撃を回避する術はなかった、が。

 

 

「……させ、ない!」

 

 

全身傷だらけの血塗れとなったメルトが、その大柄な体を肉壁にするかのようにリリフィアを襲う触手の一撃をその体で受けて吹き飛ばされる。

その目はリリフィアに足を止めるなと、声に出すことなく語り掛けていた。

 

 

「あら? じゃあこれならどうかしら」

 

 

もはや死んでないだけと言える神殿騎士がまさかまだ動けたとは思わなかったディースは、それならばと言わんばかりに複数の触手で圧し潰すかのように襲い掛かる。

だがその一撃もリリフィアを押しつぶす事はなく。

 

 

「ふ、はははは!どうだ邪教の親玉ぁ!勝利を確信したところでの邪魔は効くだろぉ!?」

 

 

不自然な方向に折れ曲がった左腕をだらんと垂れ下がらせながら、辛うじて動く右腕で杖を保持したファムが残った全魔力を使ってリリフィアに襲い掛かる触手の津波に風穴を空ける。

その空けられた風穴は不自然なぐらい偶然、リリフィアが触手の津波を突破する通り道となりまたもや教祖の目論見は外れた。

 

しかしその姿を見届けたファムもまた、満足げに獰猛な笑みを浮かべると糸が切れたように地面へと倒れ伏す。

 

まさか2回も防がれるとは思ってなかった邪教の教祖ディースは困ったように頬へ手を当てる。

彼女の目線の先では、ラースが異形へ変貌するために構築した闇の繭に輝きの直剣を振りかざすリリフィアの姿があった。

 

 

「残念ですわね邪神様、お父様(英雄様)を連れて行けると思ったのに失敗しましたわ。異形化して頂けたら邪神様に会わせられたのに」

 

 

困ったように呟くディースの目の前で、ラースを包む闇色の繭が輝きの直剣にて切り裂かれ中から人の姿のままをしたラースが出てくる。

 

 

「……おいお嬢ちゃん、邪魔を……」

 

「邪魔するななんて言わないで下さい!異形化なんてしたらラースさんが一番どうなるか知ってるでしょ!?」

 

 

全てを差し置いてでもこの(レイラ)の姿を借りたまがいものを殺さなければならない、そう決意したのに邪魔をされたラースはリリフィアへ食って掛かる。

しかし少女はラースの言葉を遮り、傷だらけのまま目に涙を浮かべてラースへ向かって叫んだ。

 

その姿にラースはこれ以上文句を言う事も出来なくなる、性別も見た目も全く違うというのに。

自身を止めようと、涙を浮かべて自分を必死に止めてきた親友の姿を思い出したからだ。

 

 

「どうしましょうか邪神様? ……ええ、無理に連れて行って邪神様がお父様(英雄様)に嫌われるようなことをしたらいけませんわね」

 

「逃げるつもりか貴様ぁ!!」

 

 

そんな二人を詰まらなさそうに眺め、虚空へ語り掛けると結論を出したディースはふわりと浮き上がる。

思わずその姿に叫ぶラースであるも、彼自身もまた追いすがるような力は残っていなかった。

 

 

「ごきげんようお父様(英雄様)、邪神様より伝言ですわ……『パパ達に救われたのにママを殺した世界なんていらない』、そう仰ってますわ」

 

 

そう言い残すとディースは瞬きの間にその姿を消し、空間には沈黙だけが残される。

完膚無きまでの敗北、そして信じ難い現実を突き付けられたラースは地面に膝をつき力が入らない拳を握りしめて地面に叩き付ける事しか出来なかった。

 

 

「ラースさん……」

 

「……すまないお嬢ちゃん、それとありがとうな。止めてくれて」

 

 

体を震わせるラースにどう言葉をかけてよいかわからないリリフィアは沈痛そうな声でラースへ語り掛ける。

だがラースはすぐに立ち上がると、切り替えるかのようにこう言った。

 

 

「二人を急いで町へ運ぼう、俺はメルトを運ぶ。ファムの方は頼めるか?リリフィア」

 

「うん、大丈夫だよ!」

 

 

ラースに大丈夫か聞こうとするリリフィア、しかしラースの拳が硬く握りしめられてるのを見てその問い掛けを心の中へ仕舞い。

二人はそれぞれまだ辛うじて息がある仲間を担ぎ、町へ戻るしかなかった。

 

 

コレは、今まで敗北と呼べる敗北を経験したことのなかった勇者パーティにとって初めての敗北であった。

 

 




今回の敗因

1.ラースの装備がそもそも貧弱
2.ラース自身慢心があった
3.リリフィア達のレベリング不足
4.タンク役のメルトの消耗が前座戦の時点で大きかった
5.ファムが様子見を選んだ結果、適切な火力投射を失敗した

大体こんな感じです。
なおラースが居なかった場合、R18G一歩手前なバッドエンド直行シーンが流れたかもしれない。




追記情報
教祖ちゃんはかつては普通の狐獣人の孤児出身使い捨て娼婦でした。
しかしある時邪神の声を聴き、彼女の導きのままの力を受け入れたらこの髪色に変わったらしいですよ。
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