勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
開拓村に差し迫っていた脅威である山賊の一団、それらが排除された日の翌日。
二人の男女が開拓村から一番近い町へ向かい、歩みを進めていた。
男女の片割れである少女は動き易さを重視した仕立ての良い服に身を包んでいる一方、隣で歩く赤毛の男の恰好はどのようなものかと言えば。
頑丈そうな着古された農夫の服の上に、洗濯済みの毛皮のマントを羽織るという粗野な恰好をしていた。
何も知らない人間が二人を見れば、育ちの良い少女を野盗崩れの男が連れ回しているかのように見えなくもない。
少女、リリフィアが普段愛用していた旅装は先日野盗たちに引き裂かれ使い物にならなくなっていたが、彼女が身に着けている衣服にそのような事が起きた痕跡は見受けられない。
替えの衣服があったのかと言えばそれも否である、ならば何故いま彼女の装備は何一つ不備がない状態になっているのかと言うと……。
「しかしたまげたなぁ、今は魔力で修復できる衣服が流通してるとは思いもしなかったぜ」
「そんな事言われても、もう数百年前ぐらいには実用化された技術らしいですよ? 衣服修復魔法は」
「俺が知ってる魔法なんて、戦いに使えるモノしかねえよ」
リリフィアが隣を歩く男であるラースに身に着けている腕輪を見せ、そんな大したものではないと説明をしている。
先日は山賊との連戦によって魔力も尽き、まともに衣服も修復できなかったというのが事の真相なのであった。
「しかもその腕輪に色んな魔法を込められるんだろ?」
「はい、専門のお店に行けば込めた魔法も入れ替えれます」
えっへん、と言わんばかりにラースの視線の先にある腕輪を見せ続けるリリフィア。
なお彼女基準で言えば大した物品ではないとのことだが、一般庶民が手にしようと思ったら覚悟が必要な金額がするのは言うまでもない。
「魔法なんてスクロールや魔法本から習得するもんだと思ってたんだがなぁ……」
ところ変われば常識も変わるってことか、などとラースは呟き溜息を吐く。
男が思い出すのはかつて共に旅をしたエルフの魔術師や後の妻になった神官が、魔法本やスクロールを手にしては野営で読み解いていた光景である。
「ラースさん、どんな場所から来たのですか……」
「おん? なんだその視線、まるで未開の地から来た野人を見るみたいじゃねーか」
一方そんなラースの呟きが信じられないリリフィアは、何時の時代ですかと言わんばかりの視線を向ける。
失礼極まり無いように見えるリリフィアの行動だが、これには理由が存在する。
この世界において魔法というものの大半は専門の学術機関に属する術師が開発し、誰でも扱えるよう術式を改良した上で専門の店へ術式を販売するのが常識なのだ。
時折遺跡から古代魔術が発掘される事もあるが、それらも術師が解析した上で市場に流される事が当たり前なのである。
流通出来るほどに簡略化するという流れの都合上、汎用性が向上する代わりに魔法自身が持つ破壊力や効力も減衰する傾向にはあるのだが……。
魔法を込める道具さえ用意すれば、あとは誰しもが保有している魔力を消費するだけで魔法が使えるという事は何事にも代えがたいメリットとなっていた。
一方でラースが居た場所では魔法というのは専門技術であった。
魔法を制作した魔法使いが忘れない為に魔法本やスクロールに認める事こそあれど、基本その術式は門外不出。
魔法使い本人から認められるか奪い取らない限り、他人が開発した魔法を習得する事は無いというのが常識であった。
平たく言えばこの世界においては魔法は広く使えるよう万人に対して調整されており。
ラースが居た場所においては、魔法使い側が魔法に対して自身を調整していたのである。
「俺が知ってる魔法使いがソレを聞いたら、ありえないし考慮するに値しないとかしかめっ面で言い放ちそうだわ」
「昔々にはそういう人いたらしいですけど、古代から生きているエルフの長老の一声で千年ぐらい前に今のやり方が一般的になったそうですよ」
大暴れした末にこんな世界にやってきた男、ラースは当然この世界の常識なんて知ったことではない。
だから時折リリフィアが浮かべるドヤ顔が鬱陶しく感じる事こそあれど、彼女がする解説はとても有難いものであった。
一方リリフィアもまたラースに対して疑念というほどではないが、違和感を抱いていた。
初めて出会った洞窟のあの場所、異形の亡骸の中から出てきたラースは自身が危ういところを助けてくれた恩人である事は間違いない。
しかし、あまりにもチグハグ過ぎるのである。
先の村での一幕でも彼が見せた一面や行動は、一言でいえば粗にして野だが卑ではないという評価に尽きる。
敵意を向けられたり気に入らない事があれば、言葉で解決するよりも早く拳や足が出るが村人のような人間に対して武器を振るうまではしない。
そして子供が訴えかけてくれば矛を一旦収める度量もある……その後村長から村が困窮しない程度に報酬をせびっていたのはさすがにどうかとリリフィアは思っているが。
ともかく、リリフィアにとってラースというのは色んな意味で気になる人物であった。
そもそも
「しかしなんでまたお前さんはあんなところに立ち寄ったんだ? 村から救援依頼でもあったのか?」
「え? あ、ええとですね……旅立つ前に神殿へ行って預言を授かったんです」
「預言?」
そんな具合にリリフィアが考え込んでいる所に唐突に浴びせられたラースからの質問に、リリフィアは思考の海から意識を引き揚げつつ男の質問に応じる。
ちなみにラースは預言と聞いて、非常に胡散臭いものを見る目をしてリリフィアを見ている。
「はい、破壊の邪神に対抗する力がこの地にあるって」
「……破壊の邪神?」
「あ、なんですかその目。胡散臭いって思ってますよね? とっても由緒正しい神殿に仕える大神官様の預言なんですよ!」
「いやだって、なぁ……魔王とかではなくて?」
異形の魔族やらそれを統べる魔王やらを仲間と共に討ち果たした男こと、ラースでも聞いたことのない単語に心の底から胡散臭いという感情を隠すことなくラースはリリフィアへ問う。
敬虔な神殿の信徒である幼少の頃から教えを信じてきたリリフィアは、そんなラースの視線と表情にムっとした表情を浮かべながら反論する。
想定以上の勢いで反論されたラースは少し気まずそうにしながら、後ろ髪をがりがりと掻いてリリフィアに対して再度問う。
ラースのその問いに対して、リリフィアがとった行動は。
「何言ってるんですか、魔王なんておとぎ話にしか出てきませんよ」
見た目のわりに子供みたいな事を言うラースに、意趣返しじみたドヤ顔を浮かべながら言い返す事であった。
「い、いひゃいいひゃい!なにふるんでふか?!」
リリフィアの顔と発言に大人げないラース、容赦なく少女のもちもちとしたほっぺを掴み引っ張るという蛮行を敢行。
少女に対する大人げなさ極まりないその蛮行は、リリフィアが涙目になりながら謝る事でようやく止まるのであった。
ある程度のネタバレというかアレなんですけども。
主人公は平たく言うとファミコン時代RPG的世界において『たたかう』一本で敵を薙ぎ倒してきたタイプの戦士です。
一方で勇者ちゃんことリリフィアは、昨今の同人エロゲRPGとかみたいにお店でスキルや魔法を買えるタイプの勇者です。