勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
ロマンシングなサガとか。
王国の中でも辺境に近い位置に存在する町、フォレスティアは王都から遠く離れた位置にありながらも大きく栄えていた。
その要因は幾つもの理由が挙げられるが、特に大きいのが近隣の豊富な森林資源が挙げられる。
更には木材の一大生産地となっている山々が幾つもあり、その山々から流れ込む河川を利用する事で切り出した木材を町へ運搬し加工を施し。
そうして仕上げられた高品質の木材を王国内へ搬送する事により、町には大きな富が齎されているのだ。
富が集まれば人が集まり、町の拡張に追いつかないほどに人が集まれば近隣へ開拓村を拡げ、更に獲得できる資源を増やすというサイクルが一つの完成を迎える時期にある街、それがフォレスティアであった。
問題があるとすれば人の増加による治安の悪化と、開拓村が出来る速度の速さから村々の防衛に割く戦力の育成が追いついていないのだが……。
得られる富や資源の前には、それらは些細な問題と目されている。
「……なるほどなぁ」
「だからこの町には色んなお店や情報が集まるんです」
町へ入る為の列に並んでいる間、リリフィアから町について説明を受けていたラースは相槌をしながら列の先にある石壁と門へ視線を向ける。
辺境にあるという割に物々しい警備に、石壁の上に見えているバリスタには相応の理由があったのだななどと男は言葉にせず納得する。
「だがいいのかお嬢ちゃん、お前さんの立場を使えば列に並ばなくてもいいだろうに」
「仮にそうだとしても、列で待つのが規則です!」
「真面目なこって……」
勇者という身分がこの世界においてどのぐらい力を持つかはわからないにしても、リリフィアの低くはないであろう立場を使えば楽に入れるだろうとラースは言うが。
そんな事したら待ってる人達に失礼だと、リリフィアは真面目極まりない言葉を返す。
そうしてる間にも列は特にトラブルもなく進み、リリフィアとラースの番が来る。
衛兵は当初、堅気には見えないラースに対して不審そうな目つきを見せるが……リリフィアが懐から出した紋章付きのペンダントを取り出して衛兵に見せると、衛兵は態度を一変。
恭しい態度を示して二人へ町の中へ入るよう促す。
「今のペンダントは勇者の身分証明か何かか?」
「はい、国王と神殿から拝命した勇者に授けられるものです」
「そ、そうか」
ペンダントを懐へしまうリリフィアへラースが問いかけ、返ってきた言葉にラースは思わず絶句する。
この警戒心が緩い事極まりない娘が、まさか二つの権威に認められた勇者とは信じられなかった模様。
「まずは、ラースさんが仕留めた熊と猪を引き取ってもらわないと……」
「例の不思議空間なら腐ったりしないから、そんな急がなくてもいいだろうに」
「私が気にするんです!」
足早に目的の場所へ向かおうとする少女にラースがそんなことをのたまい、一刻も早く魔法の格納空間から熊と猪を出したいリリフィアはデリカシーに欠けるラースをジト目で睨みながら叫ぶ。
別に血やら何やらつかないなら気にしなくても良いだろうに、とボヤきながらラースもまた少女の後を追いかけた。
尚この男のデリカシーの無さや配慮に無頓着な所は、かつて共に死闘を戦い抜いた親友や妻となった神官も苦労していたことは言うまでもない。
そんなこんなでやってきたのは、町の外れにある大きな施設。
付近には卸されたばかりの獣肉等を威勢の良い声を張り上げてセールスしている、屋台の主人の声が賑やかな喧騒を作り出していた。
「屠殺場も兼ねていそうだな、しかし臭いがあまりしない」
「そりゃそうですよ、疫病を起こさない為に専用の魔法道具が設置されてますから」
「マジかよ、すげぇな魔法道具。驚き慣れたと思ったが……こりゃまだまだ色んなモノが出てきそうだ」
少女と共に施設の扉を潜った男は鼻を鳴らして臭いを嗅ぎ、驚くほどに血生臭さや動物の解体で生じる悪臭がしない事に驚きを隠すことなく呟く。
そんな男の呟きにも少女は律義に反応し、清潔さを保っている理由を丁寧に解説した。
「こちら引取カウンターです、何を引き取りましょうか?」
「ええと……この熊と猪をお願いします」
そうして二人が向かった先は大きな引取口のあるカウンター、その窓口には頭頂部から猫の耳が生えた女性が微笑みを浮かべて立っていた。
女性はリリフィアとラースが引き渡す目的の獲物がない事に若干不思議そうにしながらも、リリフィアが魔法の格納空間にしまっていた熊と猪を引き取り台へ出した事で納得したような表情を見せる。
「まぁ、格納の魔道具持ちでしたか……それでは査定をしますので、こちらの番号札を持ってお待ち下さい」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても立派な熊と猪ですねぇ、奇麗に仕留めて頂けてますからとても助かります」
ニコニコと笑みを浮かべている受付からリリフィアは札を受け取ると、ラースと共に施設の中にある空いているテーブル席に座る。
ラースは軽く施設の中を見回すと、ふと疑問を感じたので隣のリリフィアへ素直な質問をぶつける。
「なぁお嬢ちゃんや、この施設ではもしかして動物の買取りだけじゃなく異形も買い取ってるのか?」
「異形?魔物の事ですか? ええ、その通りですよ」
ラースは手練れのような雰囲気を出している一団が引取口へ引き渡している獲物、獅子頭と鷲の翼と大蛇の尾を持つ異形を指さしてリリフィアへ問いかけ。
リリフィアはラースの疑問に頷きながら応じる。
「そうか……ここは良い世界だなぁ……異形とか殺したら報奨金以外で金になるなんて」
「あの、ラースさんってどんな修羅の地から来たんですか……?」
「聞きたいかぁ? 地平線の果てまであんな感じのやらそれ以外にもバリエーション豊富な連中がうじゃうじゃする所だ」
「地獄そのものじゃないですか」
しみじみと呟く男、それもそうであろう。
彼がかつて戦友達と共に駆け抜けた場所において、異形を食すなんて論外なのは勿論……その素材を使う事も良しとしない風潮が強く。
ドラゴンのような存在なら戦利品である遺骸を用いて装備を作る事もあったが、そのレベルに届かない異形の死体など金になるどころか拾うだけ嵩張るという邪魔者でしかなかったのである。
なおリリフィアはそんな男の言葉を話半分に流しつつ、引取口に乗せられた魔物を見て一人でアレを倒すのはまだ難しいかなぁなどと口の中で呟く。
仲間が居ればまた話は変わるだろうが、神殿にて予言を受けてからこうしてはいられないと使命感に駆られ飛び出した駆け出し勇者少女には荷が重い相手なのである。
そこまで考えてリリフィアはハっと顔を上げ、対面に座る男を見る。
この男、ラースは色々と常識外れな人物であるがその実力はもはや疑うものではなく、粗野であるが話が通じない人物ではない。
勇者としての使命を果たす為の仲間としては、決して悪くないのではないかと思い口を……。
「お、呼ばれてるみたいだぞ」
……口を開こうとして、出鼻を挫くような形で獲物の引取口カウンターから番号を呼び出されるのであった。
タイミングを逃した微妙な気持ちを抱えつつリリフィアは立ち上がり、ラースを伴って窓口へと向かう。
ちなみに熊と猪はそれなりにまとまった金額になった、具体的には二人で分けても一般武装村人状態であるラースが一般通過剣士の装備を整えられるぐらいのお金に。
「いやぁ結構金額を乗せてもらえたなぁ」
「あの、熊も猪もラースさんが仕留めたのですから私に分け前渡さなくても……」
「お嬢ちゃんの不思議格納が無かったら運ぶのに難儀してたんだ、運搬代だよ」
上機嫌そうに知らない鼻歌まで歌ってるラースに、リリフィアは遠慮がちに話しかけるが男は気にすることなく少女に貰っておけと押し付ける。
少女は配慮に欠けるけど良い所もあるんだなぁ、などと思い。
「しかし思った以上に金になるな、よしお嬢ちゃん狩りに」
「行きませんしもう格納しませんからね!」
「最後まで言わせてくれよ」
やっぱりそんな事ないやこの人、などと思い直すのであった。
ラース「やだ、この世界難易度低すぎ……?!」
リリフィア「いや、ラースさんが居た世界の難易度がクソゲーだっただけでは……?」