勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話 作:社畜だったきなこ餅
だけど市井の武力を持った個人を管理、運用するという点においては確かに理に適ってるきがしなくもない気がする今日この頃です。
国家間の小競り合いこそあれども大乱が起きなくなって久しいこの世界において、武器や防具は民衆と切っては切れない関係となっている。
戦争が頻繁に起きていた時代においては、国内の魔物や害獣……そして武装した犯罪者の処理は騎士や兵士の職務であった。
しかし戦争が起きなくなった事で金食い虫の化身である軍隊の規模が縮小されると、今度は国内の武力が必要な事態に対し手が回らない事態が発生する。
無論縮小されたとはいえ軍人は民を守る為にその刃を振るっているが、いかんせん手が足りない。
そこで注目されたのが市民の立場では購入が許されなかったスキルや魔法、そして武具である。
その事に目を付けた国家は働きに応じて、各個人に今まで購入を許可していなかった品々の購入を許可する事で、便利に使える戦闘員を作り出した。
コレがこの世界における冒険者という存在達の成り立ちである。
なお武力を手にする事で犯罪を犯す人間も発生した事は言うまでもない。
「なぁお嬢ちゃんや、武具についてる名札に書いてる印はなんだ?」
「あ、これは冒険者ギルドとかで認可された人じゃないと買えない武器って印です」
「ぼうけんしゃ、ギルド……?冒険者なんて組合関係なしの根無し草じゃないのか……?」
山賊から剥ぎ取った鉈が意外と便利とはいえ、いい加減使い勝手の良い剣が欲しいと思った男は少女に案内されて町の中でも繁盛している武器屋へと足を踏み入れる。
その中に陳列されていたのは様々な形状をした剣や武具、中にはどうやって使うのか皆目見当つかないものまで実に種類が豊富にあった。
その中の一つの剣に目を付けたラースは陳列されている剣へ近づき、そして付いている名札に見慣れない印がある事に気付くと何かあれば便利に質問している少女ことリリフィアへ問いかける。
問いかけられたリリフィアもまた慣れた様子で答え、冒険者ギルドという聞きなれない単語に男は鳩が投石を直撃させられたかのような顔をした。
「町によって微妙に差はありますけど、確りとしたギルドですよ? お忍びの貴族が腕試しで参加したりしますし」
「それはそれでどうなんだ」
気になった武器が軒並み購入制限を示す印がついており、げんなりとした声を出しつつ赤毛の男ラースは少女の言葉に適当に相槌を打つ。
ラース自身もそれなりの修羅場を様々な名剣を使い潰しながら駆け抜けた経験があるだけに、彼の目に適う剣はリリフィアの目から見ても名剣と言うに相応しい一品だ。
問題があるとすれば先ほどからラースがげんなりとした表情を浮かべる原因である、購入制限があるという事と……。
「そもそもラースさん、根本的な事言っていいですか?」
「おう」
「さっき獲物を売ったお金じゃどれも手が出ないです」
リリフィアの言葉に道すがら確認した貨幣の価値と剣につけられた値札をラースは見比べ。
桁が三つどころか四つ足りない事に気付くと、大きくため息を吐くと適当な店員を手招きして呼びつける。
「はいはい何でしょうか、格安かつ認可の要らない武器はあっちの樽にまとめてありますよ」
呼びつけられた店員は明らかに金を持ってない、そして事実金を持っていない客であるラースをあしらうかのようにそっけなく言い放つ。
ラースの隣に立っている身なりのよい少女、リリフィアが買うなら本気で売り込みをしようとも思うが彼女が腰に下げている剣は鞘に入っていてもわかるほどの名剣。
そんなものを持っている少女が武器を欲しがる事は店員の経験上あり得ない以上、武具を欲しているのはラースであろうと店員は察していた。
そもそもリリフィアが案内したこの店は言ってみれば高級志向の武器屋である。
そんな所にラースを連れてきた彼女に割と非がある事態であるが、悲しい事にリリフィアはその事実に気が付くことなく慇懃無礼な店員の様子にムっとした表情を浮かべていた。
だが少女はすぐにハっとすると、この無礼な店員に対してラースが鉄拳制裁をするのではないかと慌てて男を止める為にその顔を見上げ……。
「うん、うん……そうだよな。武器屋の店員はこんぐらい接客がクソであるべきだよな」
暴力沙汰を心配された当の本人、ラースは何か懐かしむように腕を組みながら深く頷いていた。
予想外の男の行動にリリフィアと店員が合わせてガクっとなったのは言うまでもない。
その後ラースの態度と言動に毒気を抜かれた店員は、どこか疲れた表情を浮かべながら地味に注文が多いラースの眼鏡に適う投げ売りの長剣をラースへ差し出し。
切れ味が微妙だのバランスが悪いだの好き放題文句を言いながらも、予算との兼ね合いにちょうど良いと判断したラースはその剣の購入を決定。
「いやぁ良い買い物したぜ」
「はぁ、良かったですねぇ」
「今度は金持ってきてくださいねー」
漸く鉈から使い慣れた種類の武器である剣に持ち替えたラースは、ほくほくとした顔で鞘の上から剣をぽんぽんと叩き。
短い買い物だったのにドっと疲れたリリフィアは溜息を吐きながら適当にラースの言葉に同意を見せ。
売上以上に面倒臭い客の相手を漸く終えた店員は、客商売の常識も投げ捨ててラース達の背中へ向けて手をひらひら振るのであった。
余談だが店員は気持ちはわかるがあの接客はないだろうと後に店長から叱責され、その結果給料減額させられたりしたが些細な事である。
「とりあえず剣も手に入ったし、時間もちょうど良いから何処かで飯でも食うか」
「それなら冒険者ギルドに行きましょうよ、あそこなら食事も出来ますしラースさんも登録すれば良い武器買えるようになりますよ」
「それもいいか、けどギルドとか入会金とかノルマとか上納金とかあるんじゃねえの?」
「そんな事するわけないじゃないですか、由緒正しいギルドなんですよ」
勿論そんな店員のささやかな悲劇など知った事ではないラースは、時間的に昼飯時だと言わんばかりに食事に行こうなどと言うのであった。
だが同道者であるリリフィアにもその提案を断る理由はなく、ラースについでにギルドへ登録するよう勧める。
勧められたラースは未だに冒険者ギルドが信じられないのか、この世界のギルド職員が聞いたら憤慨することを口にするがそんな男の疑問を勇者である少女は一刀両断。
一刀両断された男は、いや由緒正しい組合だからこそ色々汚泥みたいなしがらみあるんじゃねえのかな、と思いつつも口に出さない程度の分別はあったらしい。
そんなこんなでやってきた冒険者ギルド。
リリフィアとラースが熊と猪を持ち込んだ屠殺場に似た施設にほど近い場所にある、その大きな建物は食事時という事もありとても賑やかな喧騒に満ち満ちていた。
実は由緒正しい家の出であるリリフィアは勇者として任命される前から、冒険者に対して憧れを持っていた。
故にこそいつか冒険者ギルドに足を踏み入れたいと思っていたのだが、悲しい事に家の者の監視をすり抜けられなかったりタイミングが悪かったりと言った事情があり、彼女も初冒険者ギルドだったのである。
だからこそ、少女は物珍しそうにギルドの建物を見ているラース以上にわくわくとした気持ちを隠そうとすることなく満面の笑みを浮かべていた。
そして、すぐにその表情は凍り付く事になる。
「とても楽しそうですねぇ、お嬢様ぁ?」
「ヒェッ」
冒険者ギルドの扉をくぐってすぐの位置に仁王立ちしていた、人ならざるモノの証である尖った耳を持つ身の丈ほどの大きさを持つ杖を持った少女。
平たく言うとエルフと思しき少女に、冷や水かと勘違いするほどの声音で語りかけられた少女は情けない悲鳴を上げて凍り付いた。
問題です。
とある勇者である少女は、勇者の任を受けました。
彼女の実家はとても太い由緒正しいお家なので、そんな娘の為にも家の者たちはそれはもうしっかりとした仲間を用意しようと準備を進めていました。
しかし、勇者は逸る気持ちを抑えられなかったのか知りませんが勝手に旅立ち勝手に予言を受け取って勝手に辺境へ旅立っていきました。
この時の家人、ひいては彼女の目付け役に等しいエルフの血が入っている魔法使いの気持ちを述べよ。