勇者と共に魔王を討ち滅ぼした剣士が追放されるよくある話   作:社畜だったきなこ餅

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ここまでの話をお読みになられた読者の方はお気づきになられたかと思いますが。
勇者ちゃんはアホの子です、愚鈍ではないですが他者の悪意は察知してもその行動が齎す報いを考えると、よっぽどの事はしないだろうと無意識に他者に善性と理性があると思ってたりします。


ポンコツ令嬢正座させられるの巻

 

 

賑やかな喧騒に満ちていた空間が、今では誰かが生唾を飲み下す音が聞こえてくる錯覚を感じるほどに静まり返る。

そうなった原因である小柄なエルフは、まるで無邪気な姫君のように微笑みながら対面にいる長い黒髪の少女である勇者へ語りかける。

 

 

「お嬢様、私言いましたよね? 貴方様は勇猛果敢純情可憐であるも直情径行五里霧中なアホだから、必ず仲間を連れていけって」

 

「あ、あの。そんな言い方しなくても良くない……?」

 

「黙れポンコツ、私が言ったことを覚えてるか覚えていないか答えろ」

 

「ヒェッ、い、言ってました!」

 

 

可憐な声で訥々と罵詈雑言を織り交ぜながらエルフは勇者をガン詰めし、あまりの言い分に勇者の少女は弱弱しく抵抗するが。

微笑みを一瞬で消して真顔になったエルフが、ドスの利いた声で放った問答無用の言葉の刃にて一刀両断される。

そんな少女の隣にいる男、言ってみれば爆心地直近にいる男であるラースはこのエルフめっちゃ口悪いななどとのんきにどこ吹く風である。何しろ他人事だし。

 

少女の言葉にまずエルフは満足そうに頷くと、心配そうに此方の様子を伺っていたギルド職員へ微笑みながら声をかける。

 

 

「騒がせて申し訳ありません、奥の個室をお借りしても?」

 

「は、はいどうぞ!」

 

「ありがとうございます……オラ行くぞポンコツ、すいませんそちらの方も一緒に来て頂けますか?」

 

 

極端な二面性を使い分けるエルフにラースは、このエルフおもしれーななどと内心思いつつ申し出を受諾。

力なく項垂れしおしおになっている勇者、リリフィアと共にギルドの奥にある個室へ向かう。

 

ちなみに冒険者ギルドには規模にもよるが、内々の話をするための個室が設けられていることが多い。

その場所は不用意に第三者が立ち入る事が出来ないようにされており、仮にギルド職員が偶然耳にしても漏れ聞こえた話を外に漏らすことはない。

そんな秘密話に打ってつけの部屋に3人が入り、まず何が起きたか。

 

それは。

 

 

「こんのポンコツ駄姫がぁ!お前が勝手に旅に出たと聞いてオレ様がどれだけ心配したかわかってんのかぁ~?!」

 

「ヒィン!?」

 

 

エルフの少女の口汚い罵倒であった。

エルフに上背があればきっと迷う事なく勇者のほっぺを引っ張っていたであろうが、悲しい事にエルフの背丈は勇者より頭一つ分小さくそれは適わない。

 

これは勇者が特別大きいというわけではなく、むしろエルフが小柄であるがゆえに起きた悲劇であった。

 

 

「お前の姉君達は卒倒!兄上は阿鼻叫喚!ご両親は右往左往!家令は今にも腹を切るとかそんな有様だぞ!」

 

「う、うぅ……ご、ごめんなさぁい……」

 

「お前が呑気にしてるその様子から、最悪の事態はないにしろ! お前はもっと自分の立場と血の大事さを理解しろ!!」

 

 

目の前で起きた壮絶な説教に、短い期間であるが勇者と同道したラースは思わず同意を示すように腕を組み頷いた。

この娘は野営の時も人目を気にせず、すやすやと寝息を立てて爆睡するぐらいには警戒心がない、さながら誰にでも尻尾を振る猟犬がごとき無警戒だったのだから。

 

 

「はぁ……はぁ……見苦しいところをお見せしました、お嬢様を無事に送り届けて下さり深く感謝します」

 

「いや別にいいんだが、お前さん外面の使い分け凄いな」

 

「ふふふ、気が付いたら慣れましたよ」

 

 

どこから取り出したのか不明だが、首から『私は考え無しのポンコツ勇者です』と書かれた板を提げ床に正座しているリリフィアを横目に。

エルフは息を整えると説教の勢いで乱れた髪を軽く整え、優雅にラースへ向けて一礼する。

一方話の流れにいまいちついていけてないラースは、とりあえず素直な感想を述べるしかなかった。

 

 

「しかし言っちゃなんだが俺も大分怪しいぞ」

 

「まぁそうですね、ですが今の所害を為していないのであれば邪険に扱う理由もないでしょう?」

 

「お前さん、やりてだねぇ」

 

 

あのそろそろ足が痺れてきたんですけど、と切ない声で訴えるリリフィアをエルフはスルーしつつ。

ラースの言葉に対して微笑みを浮かべながら応じ、その様子に男は心ではなく魂で理解した。

 

あ、この娘が傍にいたからあのお嬢ちゃんはあんな感じになったんだな、と。

 

 

「何があったかをお聞かせ願えますか? 何となく察してはいますが当事者の話をお聞きしたいのです」

 

「ああ、別にいいぞ」

 

 

そして飛び出す山賊に襲われそうだったから助け、済し崩し的に町まで同道したきたという情報にエルフは思わず頭を抱える。

ラースは自身が封印されていたような状態だったことこそボカして話したが、エルフにとってはリリフィアの女性としての尊厳が風前の灯だった事を聞いて驚愕する。

 

 

「下手人達は?」

 

「始末した、今頃山の肥やしだろうよ」

 

「ならばよしです、しかし神殿の予言を受けた先でそんな状態になっていたとは……」

 

 

勇者を脅かしていた存在が駆逐されたことに言葉少なく安堵を示したエルフの様子に、ラースは意図的に村人が裏切ったことは伏せておく選択をした。

恐らくだがこのエルフ、勇者が気付かない内にあの開拓村に捌きを下すことぐらい躊躇せずやるだろうな、という判断を下す。

まぁやった事がやった事だけにそうなっても因果応報と言えるが、何となくいやな気分がしたというだけで言わない男であった。

 

 

「……ああ失礼、名乗るのが遅れました。私の名前はクーリエの森のファム、適当にファムとでもお呼び下さい」

 

「ラースだ、家名はない」

 

 

肩口で切りそろえた薄く碧がかった髪を軽く手で整え、微笑と共に名乗ったエルフに男もまた名乗り返す。

時折視界の隅っこで正座しているリリフィアがこっそり足を崩そうとしているが、そのたびにファムに睨まれ慌てて正座し直していた。

 

 

「そんでもって、そちらのお嬢ちゃんも相応のお家柄ってか」

 

「ええ、本来ならばお教えする理由はありませんが……」

 

 

この場合説明しない事は不義理ですし、私ではなく当人が言う分には問題ないとファムは可憐な声で続けると。

ちらり、とリリフィアへ視線を向け手招きして着席を促す。

一方促されたリリフィアはハゥッなどと足の痺れに時折呻きながら、ファムの隣に着席する。

 

そしてファムに促されたリリフィアは軽く息を整える、口を開く。

 

 

「改めて名乗らせて頂きます、私は……公爵を任じられているアレイクルス家の三女、リリフィア・アレイクルスと申します」

 

 

凛とした表情、そして堂々とした名乗り。

とてもではないがさっきまでエルフのガン詰めされて涙目になり、正座による足の痺れで呻き声を上げていた少女と同一人物とは思えない高貴さを前にラースは。

 

 

「……それなりの良いところの出とは思ったがぁ、公爵……え? 本当に公爵? 爵位の詐称はダメだろ」

 

「酷くないですかぁ!?」

 

「……言ってることは無礼極まりないが、正直その気持ちはわかる」

 

「ファムちゃんまで!?」

 

 

特に調子を崩すことなく……否、想定よりも遥かに上の爵位の令嬢という事に驚きを感じつつもかしこまりへりくだる事もなく、素直な感想を述べた。

あんまりにもあんまりな言葉に先程まで纏っていた空気を霧散させ、抗議の声を上げるリリフィアであるも隣に座るファムの言葉に裏切られたと言わんばかりの表情をするのであった。




多分エルフさんことファムさんのCVは、グラブルのカリオっさんみたいに可愛い声とドスの利いた声を使い分けられる声優さん。
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