俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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2話目・なにもかも上手くいかない日、と思いきや

 

 ◇◇◇

 

 思えば今日は、朝から変な感じがしていたんだ。

 

 いつもは目が覚めない夜明け前の時間に目が覚めたり。

 

 いつもの屋台が臨時休業だったので、いつもとは違う屋台で朝飯を食べた(あまり美味しくなかった)り。

 

 ダンジョン入口を警備する兵士が、いつものおっちゃんじゃなかったり。

 

 いつもなら拾えるアイテムを全然拾えなかったのもそうだ。

 

 その結果、1層目からいつもより稼ぎが少なくなりそうなことを予感して、普段ならあまりにも効率が悪すぎて絶対に通らない地点まで、全部歩き回ったりするハメになった。

 

 しかし、それでもやっぱりアイテムを拾えない。

 

 おかげで俺は、2層も3層も4層も、同じように非効率的なルートを歩いた。

 

 途中から「もう今日はさっさと帰って寝るか?」とも思ったが、ここまで来たら意地だとも思い、本当に隅から隅まで隙間なく歩き詰めた。

 

 俺たちのような探索者の基本的な装備品の一つに「マップ」というものがあり、これはその探索中に行ったことのある地点が自動的に記録されるものなのだが。

 

 今日の俺は、本当に1マスの抜けもなくマップを埋めてしまうぐらい、ダンジョン内を歩き続けている。

 

「……くそ、PP(ファントムパワー)が尽きちまうぞ……」

 

 ダンジョン内の全てを構成する幻想力(ファントムパワー)

 

 当然、ダンジョン内に入る際には自分の肉体も幻想(ファントム)(ボディ)に変換されている。

 

 そして幻想によって形作られた体は、個人個人の持つ幻想力を燃料にして活動することができるのだ。

 

 これは、魂とか精神とか、そういう目に見えない部分から出てくる力らしいのだが、あいにく俺は詳しい原理を知らない。

 

 ただ、これが尽きると幻想体を維持できなくなり、元の肉体に戻ってしまうことは知っている。

 

 普通の肉体のままダンジョン内にいるというのはただの自殺行為であるので、PPが尽きることはイコール重大な死の危険ということになる。

 

 もちろん、万が一そうなったときのための備えはしている(ヤバくなったらダンジョンから自動で脱出できるものだ)が……、高価で使い捨てなものなので、使ってしまうと本日の稼ぎどころか、ここ3日分くらいの稼ぎが全部パアだ。

 

 そうなればまさしく踏んだり蹴ったり。

 泣きっ面に蜂というやつだ。

 

「くっそ……」

 

 結局俺は、5層に来てもたいした稼ぎもないままフロアボス部屋の前に来てしまった。

 

 いかん、このままでは本当にダンジョンを散歩しただけになってしまう……!

 

「……なんか、矢を射つのももったいないな……」

 

 弓や銃などの射撃系の装備品は矢弾を発射するたびにPPを消費する。

 普段なら気にならない程度の消費だが、今の俺はPPカラカラ寸前だ。

 

 無いとは思うが、兎を矢で射ってる最中にPPが尽きて幻想体が崩壊してしまったら。

 

 俺はクリアを目前にしてダンジョンから追い出されてしまうという、なんともお粗末な結果で今日という日を締めくくることになる。

 

 それはさすがに嫌すぎる……!

 

 なのでここはPP消費の少ないブレードだけで兎を狩ることにしよう。

 

「たのもうーー!!」

 

 俺は最後くらい元気良く行くことにした。

 具現化したブレードを抜き放ちボス部屋の扉を蹴り開けると、暴れ兎が動き出すより早く駆け出した。

 

 悪いが、チンタラするつもりはねぇ!

 

 暴れ兎がこちらに気付く。

 俺はブレード()を使用状態にして切れ味を持たせ、一気に踏み込んだ。

 

 暴れ兎が爪を振り上げる。

 

「くあっ……!」

 

 いや、マジでデカいし怖いが、俺のほうが速い!

 

 暴れ兎の正中線、胸の辺りに真っ直ぐ刃を突き込む。

 ズブリ、とわずかに骨を捉えたような手応えのあと、刃は深々と兎の胸に沈んだ。

 

「グギャオオォォォオオア!」

 

 なんか叫んでいるが、知るか!

 振り上げた爪が、力強く降ってくる。

 

 俺は刃を手放して真横に飛び逃げた。

 鈍く光る爪が空を切る。

 

 お前の行動パターンは、お見通しなんだよ!

 

 二度、三度と爪を振るうが、俺は全てかわす。

 

「もういっちょう!」

 

 そして隙を突いて刺さったままのブレードの柄を掴むと、再び使用状態にして切れ味を持たせ、そのまま下に斬り下ろした。

 

 兎の胸から腹をバッサリ斬ってやると、さすがに急所判定(クリティカル)だったらしい。

 

 暴れ兎は力を失い、その場に倒れて動かなくなった。

 光の泡になって消えると、落ち(ドロップし)たのはいつもの「暴れ兎の肉」だった。

 

「……はぁ、なんか疲れたな」

 

 いつもより長く歩き回っていたので、たぶん外はもうとっぷり夜で、真っ暗になっているだろう。

 

 なんならアイテムを売る店も閉まってるかもしれない。

 そうなれば、今日は日銭すら得られないわけだ。

 

「……サークルは出たけど」

 

 ここまで来れば、今日はもうとことんやってやろうか。

 

 俺は、普段ならしないボス部屋内の探索を念入りに行った。

 もうガス欠寸前の体だが、多少歩き回るくらいならまだ大丈夫だろう。

 

 部屋の中を隅々まで捜索する。

 せめて、せめて何かあれ……!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 結論として、何もなかった。

 マジか……。

 

「骨折り損か……」

 

 1時間ぐらいかけてボス部屋内を隅から隅まで見て回ったが、なーんにも無かった。

 

 あのクソ兎、宝物の一つでも隠しておけってんだよ……。

 

「あー、クソ、今日は散々だ」

 

 悪態の一つも吐きたくなる。

 PPももう本当に限界のようで、さっきから頭の奥で警戒音(アラート)が鳴っている。

 

「これ以上粘っても得られるもんはなさそうだし、幻想体が壊れる前に帰るか……」

 

 意気消沈して、とぼとぼと歩く。

 

 まぁ、こういう全部が上手くいかない日も、たまーにはあるだろうよ。

 

 と、自分で自分を慰めながらサークルを踏んだ、

 

 その瞬間。

 

『ぴんぽんぱんぽーん♪ 本ダンジョンの完全踏破(フルマッピング)攻略(クリア)を達成しました♪』

 

『ぴんぽんぱんぽーん♪ ダンジョン通算攻略(クリア)回数500回を達成しました♪』

 

「……は?」

 

 突然、能天気な(アナウンス)が聞こえ、直後、俺はダンジョン入口門前に立っていた。

 

「……え、なんだ今の声?」

 

 可愛らしい女性の声だった。

 が、全く聞いたことのない声だった。

 

 思わず振り返るが、誰もいない。

 きょろきょろと見回してみても、それらしい人影はない。

 

「疲れすぎてヤバいもんでも聞いたか……? いや、しかし」

 

 今の声は、頭の中で聞こえた気もする。

 探索用装備品の一つの「通信装置」を使うときは頭の中で話をすることができるらしいが、俺は通信装置を装備していないから、それも違う。

 

『あ、ごめんね、大事なことを言ってなかった♪』

 

 うおっ、まただ!?

 

 間違いなく聞こえてくる。PP切れの時のアラートみたいに、頭の中に響いているのか。

 

『白の平原ホワイトプレインを完全踏破(フルマッピング)攻略(クリア)した特典(ボーナス)として、貴方には予備門鍵(スペアキー)2の使用権を差し上げます♪ それと、ダンジョン通算攻略(クリア)回数500回を達成した特典(ボーナス)として、貴方の幻想体の装備品枠を増加します♪』

 

「特典……?」

 

『これからもダンジョン探索、頑張ってくださいね♪』

 

「あ、はい。頑張ります」

 

『ばいばーい♪』

 

 思わず返事をしてしまったが、しかし。

 

「スペアキーの使用権……? ていうか、装備品枠の増加って言ったか……!?」

 

 俺は、ポケットから迷宮門鍵(ゲートキー)の付いた識別票(タグプレート)を取り出した。

 

 そして表面をぐっと押し込んで識別票を起動すると、画面上で指を滑らせてお目当ての項目を表示する。

 

・━・━・━・━・

 

【名前 セリウス・タキオン】

【性別 男】

【年齢 18歳】

★★

 

Key1

【消耗度】

HP・100.00/100%

PP・1.42/100%

 

【ステータス値】

LV・23

知力・F+

心力・E-

速力・C+

技力・E-

筋力・F

体力・D

 

【装備品枠・20/70(+50)】

『マップ(1)』

『レーダーC(1)』

『ミドルブレード(2)』

『ショートボウ(1)』

『こそこそマント(1)』

『デコイマフラー(2)』

『フックロープ(1)』

『バウンドボード(1)』

『水中マスクC(1)』

『所持品枠追加20(3)』

『緊急脱出装置D(5)』

『煙幕(1)』

 

【所持品枠・18/40(+20)】

『暗視ゴーグル(1)』×1

『通信装置(1)』×1

『煙幕(1)』×3

『下級修復剤(1)』×4

『中級修復剤(1)』×1

『土食い虫』×1

『ぬめり苔』×2

『綺麗な湧水』×2

『蜘蛛の糸』×2

『暴れ兎の肉』×1

 

・━・━・━・━・

 

「ごじゅう……!?」

 

 思わず叫びそうになり、俺は自分の口を手でふさいだ。

 

 危ない。

 

 こんな夜更けに路上で叫んでたら、警備兵に連行されてしまう。

 

 しかし……。

 

「マジか……?」

 

 俺が確認したのは、装備品枠の上限枠数だ。

 装備品枠や所持品枠の上限枠数は、ステータス値とは違って基本的に動かない数字だ。

 

 一応、所持品枠は装備品枠をいくつか潰せば(そういう装備品がある。俺も装備してる)増やすこともできるが、装備品枠は変えられない。

 

 装備品の装備コスト(装備重量、と呼ぶ人もいる)の合計は20枠まで。

 これは、このダンジョンタウンでは基本にして絶対的な事項だ。

 

 それを、

 

「プラス50枠は、いくらなんでもヤバいだろ……!」

 

 俺は、じっとタグプレートの表示画面を見つめる。

 いくら見つめても表示内容は変わらない。

 

 現実だ。

 マジで装備品枠が増えた。

 

「それに、スペアキーだと?」

 

 もうひとつ、増えた表示がある。

 Key1だ。

 

 これもどういうものなんだ?

 1ということは、2や3が存在するのか?

 

 それも、今までこの街で過ごしてきて、一度も聞いたことがないことだ。

 

 これは……。

 

「……いや、待て待て待て。落ち着け、俺」

 

 俺は、理性を振り絞って目を閉じた。

 そして大きく深呼吸をすると、タグプレートの画面を消した。

 

「俺よ、まずは宿に帰れ。そして寝ろ。こんな疲れてヘロヘロな頭と体で新しい事に挑むのはダメだ」

 

 大丈夫だ、これは逃げない。

 それにまだ、俺しか知らない事かもしれない。

 

 焦らず、慌てず、一つずつ。

 万全の状態で確実に挑め。

 

「明日から忙しくなるかもしれない。だから今日は、しっかり休め」

 

 俺は自分の言葉に頷くと、足早に宿に戻った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 そして次の日から、F級ダンジョン潜りの日々はしばらく休みにした。

 

 新しいことを調べるにはそれなりの時間を要する。

 俺は、気になることを一つずつ順番に検証していった。

 

 その過程で、新たな謎が出てきたり、新たな特典とやらをもらったりもして……。

 

 気が付けば、初めて特典をもらった日から、2年が経っていたのだった。

 

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