俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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23話目・理屈は分かるが納得できるかは別の話

 

 俺は、どう説明したらユミィに理解してもらえるかを考えながら次の言葉を出そうとしたが、すぐにそれが間違いだと気づいた。

 

 ユミィのあの表情。

 俺の話をきちんと理解している表情だ。

 

 だが、感情とプライドが邪魔して納得できずにいるように見える。

 

 だったら俺は、もう少しだけ踏み込んでみることにした。

 

 どうせここまで怒らせたんだ。

 毒を喰らわば皿までってな。

 

「そもそもお前、なんで探索者になったんだ」

 

「はあっ!?」

 

「いや、少し違うか。んー……、そうだな。探索者になって、何がしたかったんだ?」

 

 カネ儲けか?

 

 それとも単にエネミーをぶっ飛ばして、スカッとしたかったのか?

 

 一番強い探索者になりたかったのか?

 

 虹ダンの一番奥を、人類で初めて見てみたかったのか?

 

 この街を、普通の街に戻したかったのか?

 

「ユミィ。お前は、どういう動機で探索者になった? お前は何を求めて探索をしている?」

 

「なんでお前みたいなボンクラに、そんなこと言わなくちゃいけないんだ!」

 

 まぁ、聞け。

 俺だってこんな面倒な話はしたくはない。

 

 だが、だからこそお前と黒ダン前で別れてそれっきりになろうとしたのに。

 追いかけてきてきちんと説明しろと言ったのは、お前のほうだ。

 

「そして、一時とはいえパーティーを組んだお前と、お前のことを友達として心配している不肖の弟子一号。俺はお前たちのために少しだけ知恵を使ってやるって言っているんだ。良いから答えろ」

 

「このっ……!」

 

 また罵声でも出てくるかと思ったが、ユミィはぐっと堪えた。

 そして少し気持ちを落ち着けてから、言う。

 

「……楽しそうだったからだよ」

 

「楽しそう? ……ダンジョン探索がか?」

 

「そうだよ! 幻想の中でしかあり得ないようなエネミーと、神話で語られる魔法のような技を用いて戦うことができる。ボクは、それが楽しそうだったから探索者になったんだ! 悪いか!?」

 

 ……ふむ。

 まぁ、そういう奴もいるのか。

 

「いや、悪くはないさ。俺だって、穏やかで安定した生活を送るための日銭稼ぎのつもりで始めたからな」

 

 最初の動機は、人それぞれだろうよ。

 

「それならお前は、今も戦うのが楽しいから探索者をしていると?」

 

「そうだけど……。今は、少し違う」

 

 ユミィは、目を伏せる。

 そしてチラリと、ツバサを見た。

 

 それから訥々と語り始める。

 

「……最初は、独りで探索しても十分楽しかった。見るもの感じるもの目新しいものばかりで、戦いに慣れるまではハラハラすることもあったし、フロアボスを倒せた時は思いっきり喜んだりもしたさ」

 

 だけど、とユミィは続けた。

 

「少しして、すぐに気づいた。思ったより、大したことないなって。どいつもこいつも全力で撃ち続ければ倒せてしまうし、独りで戦って独りで勝っても、なんか、寂しいなって」

 

 孤独に寂しさを感じるタイプか。

 まぁコイツ、ツバサとのやり取りを見るに人恋しそうな感じだったもんな。

 

「それでも、しばらく独りで探索を続けてたら、ある時パーティーが半壊してエネミーに襲われてる集団に出くわした。ボクは、何も考えずに襲ってるエネミーたちを撃ち倒してそいつらを助けた。そしたら、助けたそいつらからすごく感謝されてさ。一緒にパーティーを組まないかって誘ってくれたんだ」

 

 それがゴンザたちのパーティーか?

 

「そう。そこからボクは、ゴンザたちのパーティーの一員になった。……それからは、すごく賑やかだったよ。どんどん上を目指して駆け上がっていって、一年足らずで黄ダンをクリアできて。銅ダンでも、少しずつ奥へ進めて行っていた。皆とバカ言って笑い合ったり、助け合ったりしながら、ボクはこのまま行けるところまで、ゴンザたちと登り詰めていくんだろうって、そう思ってた」

 

 なのに、とユミィはうつむく。

 

「ボクにパーティーを出て行けだなんて。そんなふうに思われてるなんて、思いもしなかった。皆がピンチのたびに助けてたから、それならそもそもピンチにならないようにすればいいと思って、見えるエネミー全部倒すようにしてただけなのに」

 

 ……それを実際にやれちゃうのは素直にスゲーと思うよ。マジで。

 

 普通はそんな戦い方を思い付いても、技術的な問題で実行できないからな。

 

「それを、経験値泥棒だって言われるのか……。皆のためにと思ってやってたのに、迷惑だって言われるのか……。良いじゃんかよ、ボクが一番強いんだから、ボクが皆を守ってやれば。ボクが頑張れば、皆は安全に探索ができるんだぜ?」

 

 そう言って、ユミィは深くため息を吐いた。

 

「……こじらせてんなぁ」

 

 俺は、率直な感想を呟いた。

 

「なんだと?」

 

「5年間ほぼずっとソロ探索者だった俺が言うのもなんだが、」

 

「……それはほんとに(なん)だろ。え、ずっとソロ? なんで??」

 

 うるせぇな。

 そっちのほうが楽だったんだよ。

 

「ええ……」

 

 ユミィがドン引きするが、まぁ聞けって。

 それは話の本題じゃない。

 

「ユミィ、お前、探索者になるまで友達とか仲間とか、いわゆる対等な立場の人間が近くにいなかっただろ。だからそういう相手との接し方が分かってねぇんだろ」

 

 もうここまで言っちまったから、遠慮せずに言うけどよ。

 

「お前、人付き合いがヘタクソか? お前が強いのは素晴らしいことだが、だからってお前みたいなチンチクリンに、おんぶにだっこでヨシヨシバブーってしてもらって本気で喜ぶやつなんて、そうそういないぞ?」

 

「な、な、なんだと!? 誰がチンチクリンだって……!?」

 

「お前が本気でさっきの、自分独り頑張ればいいってのを言ってるんなら、お前が探すべきは探索者パーティーのメンバーじゃないな。お前のことをいつでもヨイショしてくれる愉快な太鼓持ちたちか、お前の強さに(たか)ろうとする姑息なハイエナ連中だ」

 

「……!」

 

「俺の言ってる意味が分からないんなら、俺のことをぶん殴って席を立てばいい……、」

 

 バチーン!

 と、俺はユミィにビンタされた。

 

「お前みたいなボンクラに、期待したのが間違いだったよ!」

 

 それだけ言い残すと、ユミィは会計伝票を引ったくって席を立った。

 

 ツバサが慌ててあとを追おうとしたので、俺はそれを止める。

 

「タッキー! なんであんなこと言うの!?」

 

 仕方ないだろ。

 誰もアイツにホントのことを言ってやらないから、こうなったんだからな。

 

「ひどいよタッキー! ユミィちゃん、泣いてたじゃん!!」

 

 そうだな。

 だが、遅かれ早かれだ。

 

「アイツの考え方が変わらん限り、いずれどこかでこの話が出てたよ」

 

 それに、だから俺は言ったんだよ。

 もう俺たちはユミィとは組まないって。

 

「……これ以上仲良くなってからこの話が出たら、余計に傷付くだろうからな」

 

 アイツも、……お前も、な。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ユミィに喫茶店でビンタされてから、数日たった。

 

 なんか、知らん間に探索者たちの間でビンタ事件に尾鰭がついて回っているらしく。

 

 俺がユミィに告白してこっぴどく振られたとか、俺がツバサとユミィに二股かけてたのがバレてビンタされて振られた、みたいな噂になっているらしい。

 

 どういうことだよ……!

 

 なんで俺が、あんなチンチクリンと付き合おうとしたり、さらには振られたりしなくちゃならないんだよ!

 

 俺のタイプは、歳上で背が高くて、胸と尻が豊かで、知性と母性にあふれたおっとりした女性だ。

 

 あの弾バカとは1ミリも被っている要素がない。

 確かに可愛らしい顔だとは思うが、それだけだ。

 

 ツバサに関しても胸は素晴らしいと思うし顔も将来性十分だとは思うが、いかんせんバカすぎる。

 せめて一桁同士の掛け算を間違わなくなってから出直してほしい。

 

「はぁっ、くそ……」

 

 俺は、装備屋通りの一角にある「アルケミー・バクエン(爆炎)バクエン(爆煙)バクエンエン(爆炎煙)!」で「爆弾」を買い込みながらため息をついた。

 

 この数日、ひたすらツバサにガマ退治をさせているのだが、どうにも最後の一押しが足りない感じがある。

 

 だいぶ爆弾の取り扱いも上手くなってきたし、地雷ガマの自爆にもビビらなくなってきたのだが、やはりどこか緊張があるようで動きが固かったりするのだ。

 

 俺としては、トラウマを完全解消してもらって地雷ガマなんてへっちゃらになってもらいたいが、こればかりは焦っても仕方ない部分があるからなぁ……。

 

 とかなんとか考えながら買い物を済ませ、店主の「ありがとう!! ございました!!!」という耳がバカになりそうなぐらいクソデカい声を聞きながら店を出る。

 

 そしてしばらく歩いていると、茶ダン(C級ダンジョン)の入口門前で探索準備をしている一団を目にした。

 

 その一団の中に、ユミィが入っていることも見えた。

 

「…………こっちから行くか」

 

 さすがに今、ユミィと顔を合わせたくないので、俺は茶ダン門前を通らない道のほうに歩みを向けたのだった。

 

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