俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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5話目・見送らず見放さず、拾い上げる

 

 俺自身は、ダンジョン内で下手を打って死にかけるような経験は、したことがない。

 

 いつでも入念な下調べと事前準備をして、安全に配意して探索してきたからな。

 

 しかし、この街でダンジョン探索してる奴ら全員が俺と同じような慎重派なわけではないことも、俺は知っている。

 

 俺より後にこの街に来て探索者になった連中の半分くらいは、1年もたずに探索者を辞めている。

 

 そして残りの半分のうちのさらに半分くらいが3年以内に探索者を辞め、残りの連中の半分くらいが5年以内に探索者を辞めた。

 

 難易度の高いダンジョンに挑んでボコボコにされて挫折したとかならまだ可愛いほうで、手足をなくしたとか命を落としたとか、そういう奴らもけっこういる。

 

 俺としては、「もっとリスクを減らす努力をしていたら良かったのかもな」と思うが、それをそいつらに言うことはしない。

 

 何もかも喪った人間にかける言葉などないからだ。

 弱った奴に追い討ちをするのは趣味じゃないしな。

 

 それに、そこまで親しくもない奴にいちいち声をかけてやるほど俺も暇ではない。

 

 俺は俺のためにダンジョンに潜っているし、ここで得られるカネで生活をしているわけだから、余計なことをしている暇はないのだ。

 

 しかしまぁ、そうは言っても、だ。

 

 もしこの道の先にピンチに陥っている新人がいるとするならば、手を貸してやるのはやぶさかではない。

 

 死にかけてる奴を見殺しにするのも寝覚めが悪いしな。

 

 もやっとした気持ちのまま帰って飯を食っても美味くはないだろうし。

 

「おおーい! 生きてるかー!」

 

 俺は「デコイマフラー」を使用状態にしたうえで、大声で呼びかけた。

 

 返事はない。

 

 足跡はまだ続いているので、もう少し先にいるのだろう。

 

「生きているなら返事をしろー!」

 

 デコイマフラーは使用するとレーダーに反応し、近くにいるエネミーを引き寄せる効果がある。

 

 いつもならこれを木の枝などに引っかけてエネミーを誘き寄せ、その隙に自分は「こそこそマント」を使って距離を取るなどしている。

 

 しかし、今の俺はマフラーを身に付けたままだ。

 これだと近くのエネミーがどんどん俺に寄って来ることになるだろうが、

 

「助けに来たぞー! 返事をしろー!」

 

 もしその先に生き残った新人がいるとするならば、俺のほうにエネミーが集まるほうが好都合だ。

 

「もう大丈夫だぞー!」

 

 先ほどガマを倒してレベルを上げた俺なら、この階層に出てくるどんなエネミーが相手でも負けることはない。

 

 寄ってきたスライムやハゲワシを順番に倒しながら、俺はずんずんと進む。

 

 しばらくすると、人間の背丈より大きい岩がごろごろ転がっている地点に来た。

 ここは岩の上に登れば先まで見通せるので俺もよく来るポイントのひとつだ。

 

「おおーい! 誰もいないのかー!」

 

「……た、たすけてぇー」

 

 お、声がしたぞ!

 

「どこにいるー! 助けにきたぞー!」

 

「いわ、岩のしたー……!」

 

 声のするほうに寄っていくと、岩陰から何体かのスライムが這い出してきた。

 おっと、マフラーを使っているままだったな。

 

「おら、邪魔だ!」

 

 一体ずつブレードで串刺しにしてからマフラーの具現化を解く。

 スライムの這い出してきたところをのぞき込むと、

 

「た、たすけてよー……! べたべたするよぉー……!」

 

 おそらく、つい先ほどまでスライムたちに(たか)られていたであろう、全身ぬるぬるぐちょぐちょになった女の子が、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして助けを求めていた。

 

 これはなかなか強烈だな。

 しかも、だ。

 

「アンタ、やっぱり生身(・・)になってるんだな」

 

 案の定というか、レーダーにも映らないからそうだとは思っていたが。

 さっき吹き飛んでいた幻想体の脚は、この女の子のものだったのだろう。

 

 幻想体が崩壊してしまえば、ダンジョン内に生身で放り出されることになる。

 それは、少しだけ遠回りな自殺に等しい。

 

「スライムの消化液が、幻想体を構成するPP(ファントムパワー)にしか効かない性質で良かったな。でなけりゃアンタ、今ごろ白骨死体になってたぞ」

 

「ぴやぁあああああん!? まだ死にたくないよー! 助けてー!?」

 

「分かったから、落ち着け。ちゃんと助けてやるって。……ほら」

 

 泣きながら伸ばしてくる手を掴んで、岩陰から引っ張り出してやる。

 泥やら消化液やら粘液やらでもう見るに堪えないぐらいぐちょぐちょだが、どうやら大きなケガはしていないようだ。

 

 幻想体が崩壊して生身になった後は、ガマやハゲワシやトカゲたちに会わなかったのだろう。

 

 不幸中の幸いってやつだ。

 どろどろに汚れただけで済んでいる。

 

 生身でガマに吹き飛ばされたら即死だろうし、ハゲワシやトカゲの爪や牙は、よく切れるナイフみたいなものだからな。

 五体満足では済まないだろう。

 

「お湯で洗い流してやりたいのはやまやまだが、それはダンジョンを出てからだな」

 

「ううっ、ぐす、ひっく……」

 

「詳しい事情も出てからだな。とりあえず今は、さっさと外に出られるようにしようか」

 

「ひぐっ、すんっ。……うん、お外出たい……」

 

 やっと泣き止んできた。

 よかった。ずっと泣かれてたら面倒くさい。

 

「アンタ、名前は?」

 

「……ぐすっ。……ツバサ」

 

「俺の名前はタキオン。おそらくアンタよりは先輩の探索者だ。同じ探索者のよしみで助けてやるから、もう泣くな」

 

 俺は上着の袖口で乱暴にツバサの顔を拭う。

 まぁ、こっちはどうせ幻想体だ。

 いくら汚れても外に出たら消える。

 

「うわっぷ!? ちょっ、乱暴……!」

 

「すまんが外に出るまではこれで勘弁してくれ」

 

 顔の汚れを落としてやると、思ったよりも可愛らしい顔が出てきた。

 

 それにしてもだいぶ若いな。

 もしかしたら、15歳になってすぐに探索者になったタイプか?

 

 服とか靴がぐちょぐちょなのは、もうどうしようもないとして、

 

「これでも着てろ」

 

「これは……?」

 

「こそこそマントとホバーブーツだ」

 

 装備品の中から「こそこそマント」と「ホバーブーツ」を具現化して、ツバサに一時譲渡する。

 

 マントは使用すれば敵に気付かれなくなる効果があるし、ホバーブーツは使用すれば足の裏が地面から少しだけ浮く。

 

「アンタも多少はPPが残ってるはずだ。PPを消費すれば使えるから着ておくといい」

 

 ツバサは、おそるおそる自分の靴を脱いでホバーブーツをはく。

 そしてぐちょぐちょで肌にぺったり張り付いている服の上からマントを羽織った。

 

「わ、すごい! ちょっと浮いた!!」

 

「基本的には俺の少し後ろを着いてくれば大丈夫だが、俺が戦闘する時は巻き込まれないように両方使用状態にして離れていろ」

 

「う、うん」

 

「ここからなら、下ったほうが早いな。最短で階段を目指して10階層まで降りる。ダンジョンボスを倒せば帰還用のサークルが出るから、それでダンジョンから出るぞ。いいな?」

 

「わ、分かった!」

 

 よし、だいぶ元気になったな。

 さぁ、予定とはちょっと違うが、頑張ろうかね。

 

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