俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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53話目・クンフー整体術・ヒラメ式

 

 D級ダンジョン「赤の山脈レッドクリフ」。

 通称名は赤ダン。

 階層数は20。

 

 赤ダンは、水産資源の獲れる青ダンや、果実などの豊富な森の恵みを採取できる緑ダンと違い、新人探索者にはそれほど人気がないダンジョンだ。

 

 まぁ、ひたすら険しい山道を登りながら、上空から襲ってくる怪鳥や下級翼竜(レッサーワイバーン)どもと戦う必要があるからな。

 

 対空戦闘用の装備品を装備していない状態だとまともにエネミーと戦うこともできんし、ある程度の知識がないと、カネになるアイテムを回収するのも一苦労だ。

 

 一人前を目指すならきちんとここでの歩き方戦い方稼ぎ方を覚える必要もあるが、そうでない奴はここには来ないし、来る必要もない。

 

 青ダンか緑ダンをクリアからの、黄ダンもしくは灰ダン。

 この生活物資回収者ルートを進めるなら、探索者としては成功したも同然だからな。

 

「ぜぇ、ぜぇ……、……あーー、死ぬ……」

 

「頑張れユミィちゃん! 大丈夫、もう少しで次の階層への下り階段らしいよ!」

 

「……山を登り切たら山頂に下り階段。変な造りしてるアルネ」

 

 現在、第2階層の終わり間近だが、早くもユミィがへばってきている。

 

 装備品の長杖(ロングスタッフ)に寄りかかってヒィヒィ言いながら、元気な他の2人に励まされている。

 

「ユミィお前、スタミナ量が体力値よりも少なくないか?」

 

 俺の計算では、もう少し元気でいられるはずだったんだがな。

 

「ああ、そうか。生身のお前の体力のなさを見誤っていたな。俺が思うよりもはるかにお前は貧弱だったようだ」

 

「こんな、ときでも、バカにして、くるのは、……はあぁーー、ふぅ、タキ兄ぃらしいよね」

 

 バカになんかしてないだろ。

 お前を買い被りすぎてたという反省をしただけだ。

 

「お貴族様の家、しかもこの国の北方を蛮族や猛獣たちから守護する辺境伯家に生まれたお前が、なんの身体的鍛錬も積んでいないとはさすがに思わなかった」

 

「う゛っ……、それは、その……」

 

「だが、そのあたりも含めて俺の見通しが甘かったということだ」

 

 だから反省して、今計画を練り直している。

 とりあえず、山頂に着いて下り階段前に陣取ったら、結界カンテラを使うぞ。

 

「はぁっ? まだ昼過ぎだぜ、いくらなんでもそれは……」

 

「ユミィがこれほど垂れるとは思ってなかったからな。一回仕切り直す」

 

 ということで、山頂の下り階段前広場に着いたのでカンテラを取り出し小さめの結界(高さ2メートル、半径5メートル)を張る。

 

 で、結界内にすやすやベッドを置いて、そこにユミィを座らせて(ツバサとモコウにも、別のすやすやベッドを椅子代わりに出して)やった。

 

「お前ら、一回生身に戻れ。それと靴を脱いで、服もかまわない範囲で緩めろ」

 

 ベルトやボタンは外して、ヒモで縛ってるところは一回全部解け。

 

「生身の肉体自体に疲労は来ないはずだが、お前らはまだ赤ダンに慣れてないだろうからな。精神的な疲労が溜まる可能性はある」

 

 俺は弟子たちにコップを渡して冷たい果実水を飲ませてやる。

 

 さらに別の水筒から氷水を出してタオルにかけ、冷たい濡れタオルを作ってユミィに渡した。

 

 ユミィ、お前は額にこれを乗せて横になってろ。

 疲労感が溜まる前にしっかり心と体を休めとけ。

 

「う、うん」

 

 今日中に、最低でも第5階層のフロアボスは倒しておきたいからな。

 そのためには、なるべく探索ペースを落とさずに進みたいところだが。

 

 無理して進んで潰れてしまっては、それこそ意味がないからな。

 

「少し早いが、昼飯にする。温め直すから少し待ってろ」

 

 俺は、俺用のチェストベッド(回復効果はないが、装備品やダンジョン用消耗品以外のもの(水や食料)を収納できる)から小型の焼き台を取り出した。

 

 焼き台の鉄板面の下に小さく砕いた炭と「ガマ油」を入れ、火矢を使って着火してやる。

 

 で、鉄板面の上に、買っておいたハムチーズサンドを人数分乗せ、ついでにその横にケトルを乗せて茶を沸かし、たっぷりの砂糖と一緒に淹れてやる。

 

 ハムチーズサンドのチーズがいい感じにとけてきたところで皿に乗せていると、

 

「痛だだだだだ!! 待って待って待って、ちょっと待ってモコウーー!?」

 

 と、なにやらユミィの騒がしい声が聞こえてきた。

 

 何事かと思って見てみると、ベッドで横になっているユミィの足の裏をモコウが指先でゴリゴリと押していた。

 

「オォー、ユミィ。色んなとこコッてるヨ。これじゃあ氣が淀んで、疲れが溜まりやすくなるネ」

 

「あんぎゃあーー!? 無理無理無理! そんなとこ押しちゃダメェエエーー!?」

 

「ほら、足裏以外にモ、脹脛も腰も背中も肩も首も全部ダメヨ。これはほぐし甲斐がアルネ」

 

 お前ら、何やってるんだ?

 

「ター師父。これはクンフーの教えのひとつ、ヒラメ式マッサジだヨ。肉体の歪んでるとこ、とどこってるとこ、ツボを突いて正常な状態に戻すネ」

 

 モコウが、試しに手を貸してみろと言うので左手を出してみると、親指と人差し指の間をツマみながら、反対の手で俺の前腕部をさわさわとしてくる。

 

 そして、何を見つけたのか分からないが、「ここネ」と呟いて親指でグッと押し込む。

 

「うぐっ……!?」

 

 とたんに押されたところから、腕どころか肩首を伝って耳の後ろまで痛みが飛んできた。

 

 なんだこれは……!?

 痛ってぇ……!!

 

 俺は、情けなく叫びそうになるのをグッと堪えた。

 そして10秒ほど押し込んだところでモコウが手を離した。

 

 コ、コイツ……!

 

 俺は、ほら見ろと言わんばかりの表情のユミィを無視して、モコウに聞く。

 

「……今ので、何がどうなった?」

 

「今ので、肩コリちょと楽になた思うヨ」

 

 んなバカな、と思ったが、腕を回してみると確かに肩が軽くなっていた。

 

 おお!

 これはスゴいぞ……!!

 

「ワタシ小さいころ、よくパッパの肩揉みとかしてたね。で、もとたくさんほぐしてあげたくて、クンフーのマッサジ技術、いぱい勉強したヨ」

 

「関節極めとか制圧の技術体系に近いのか……? いや、そもそも捉えるべき点の概念が違うのか……?」

 

「そゆのはよく分かんないケド、しかり解すと氣……、アー、ター師父風に言うと、幻想力の流れがスムーズになるし、疲れにくい体なるヨ」

 

 ……時間が空いてたらで良いから、夜寝る前にもやってくれないか。

 

「オケー。じゃあ、今はしかりユミィ解すヨ。お昼ご飯、ちょと待ってほしいネ」

 

 ああ、分かった。

 

「……は? えっ、まだボクを揉むのか!? ちょ、先にご飯、ご飯食べようよ!? ……ア゛ァーーッ!?」

 

 それからしばらくの間、結界内にユミィの悲鳴がこだました。

 




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