俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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6話目・肉を喰わせて命を絶つ

 

 ◇◇◇

 

 E級ダンジョン「黒の沼地ダークネスボトム」の第10階層フロアボスは、蛇だ。

 

 もちろんただの蛇ではない。

 全長15メートル近い大蛇だ。

 人間なんて軽く一呑みにできそうなくらいデカい。

 

「着いたぞ。ここから先がボス部屋だ」

 

 霧とぬかるみばかりが広がる階層内に突然高い壁が現れる。

 壁には扉があって、扉を抜けるとダンジョンボスの「沼蛇」が住む大きな沼のほとりに着くのだ。

 

「こ、ここがボス部屋……!」

 

「ちゃちゃっと倒すから、部屋に入ったらブーツとマントを使用して扉の近くで屈んでいるんだぞ」

 

「分かった! 頑張ってねタッキー!」

 

 ……タッキー?

 

 それってもしかして俺のことか??

 

 まさかとは思うがこの女、道中ちょっと会話をしただけで俺のことを友達かなにかだと思ってるんじゃないだろうな??

 

 軽く話したところ、ツバサが先月15歳になったばかりのスーパールーキー(ダンジョンに入れるのは15歳からだ。だから15歳の探索者はこう呼ばれている)だと判明している。

 

 そして話していて感じるのは、どこにでもよくいる、頭の軽い若者という印象だ。

 

 若さに任せて無謀な突撃をするあたり、ちよいとばかし危機感が足りていない。

 

 俺も15歳から探索者をやっているが、ここまでバカではなかった。

 

「…………」

 

「あれ、どうしたのタッキー? あたしの顔にまだ何か付いてる?」

 

 しかしまぁ、どうせここを出るまでの仲だ。

 いちいちそんなことを言う必要もない。

 

 それに、言ったところで聞きやしないだろう。

 初対面の人間から賢しらにモノを言われれば、誰だって腹が立つし、反発したくなる。

 

 俺も、歳ばかり取ったような奴から偉そうなことを言われたらキレるかもしれないしな。

 

 なので適当に誤魔化す。

 言わぬが花だ。

 ここでケンカする必要もない。

 

「いや、ダンジョン内で誰かと一緒にいるのも新鮮だと思ってな」

 

 ツバサは「ほえっ?」と間抜けな声を出した。

 

「ダンジョンって皆で潜るものでしょ? タッキーったら変なこと言うね?」

 

「……じゃあ、なんでここには俺とアンタしかいないと思う?」

 

「んん? ……あれ、ホントだ。タッキー、他のメンバーは?」

 

「いない」

 

「えっ?」

 

「他のメンバーはいない。俺はずっとソロで探索者をやっている」

 

 ツバサが不思議そうな顔をする。

 

「えっ、なんで?」

 

「探索方針の合う奴がいないからだよ。あと俺は友達が少ない」

 

「ええ……」

 

 今度は呆れたよう表情。

 コイツ、顔に出やすいな。

 

「俺のことはいいだろ。ほら、入るぞ」

 

「あ、待ってよ!」

 

 俺は扉を押し開けてボス部屋に踏み込んだ。

 遅れてツバサがボス部屋に入った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 部屋内には大きな沼がひとつある。

 底は深く、一歩踏み込めばどこまでも沈んでいく底なし沼だ。

 

 沼岸から部屋の壁までは10メートルほどしかない。

 壁際まで寄っていても沼蛇の攻撃は届くだろう。

 

「扉から離れるなよ」

 

 俺はツバサに一言だけ言い残すと、「ミドルブレード」を具現化して沼岸に近付く。

 

 このとき、沼に真っ直ぐ近付くのではなく、少し右に寄りながら近付く。

 

 沼蛇が沼の中から飛び出してきたとき、ツバサが真後ろにいるとやりにくいからだ。

 

 沼蛇が飛び出してくる可能性のある距離ギリギリまで近付くと、俺は装備品の中から「爆弾」を具現化する。

 

「ほーれよっ、と」

 

 爆弾は使い捨ての装備品だ。

 一回使うと破損して装備品枠から消える。

 

 PPを込めて使用状態にし、放り投げると数秒後に爆発する。

 

 使い捨てだけあって、威力は高い。

 地雷ガマの自爆とほとんど変わらない威力だ。

 

 俺が投げた爆弾は、沼岸から少し奥の水面に当たってそのまま沈んでいった。

 その数秒後、水中で大きな爆発が起こる。

 

 ズズン、と小さく地面が揺れて、底なし沼の水面に大きな水柱が上がった。

 

「ひえええっ!?」

 

 後ろからツバサの悲鳴が聞こえてきたが無視だ。

 

 吹き飛んだ泥水が上空から降ってくる。

 沼岸から大きな波が押し寄せてきて俺の足を濡らす。

 

 その奥の、大きな波紋の立った水面の下から、黒い何かが飛び出してきた!

 

「っ……!」

 

 沼から真っ直ぐ、太いモノが伸びてくる。

 その先端に切れ込みがあって、上下に大きく開いた。

 

 沼蛇だ。

 大口を開けて、俺に噛み付こうとしてきている。あるいは俺を呑み込もうとしているのか?

 

 俺はブレードの切っ先を沼蛇に向ける。

 

 大口をかわすため斜め前に身体を倒しながら、ブレードだけは腕を伸ばしてそのままの位置に置いておく。

 

 沼蛇の大口が俺の身体ギリギリの位置を通った。

 その瞬間に俺はブレードを握っている右手に力を込めて固めた。

 

 バクン、と沼蛇の口が閉じて、俺の右手が呑まれた。

 びきぶちっ、と嫌な音がして右肘から先が千切れる。

 

 勢いそのままに沼蛇は沼から身体を伸ばし、ボス部屋の壁に頭をぶつける。

 

「タッキー!? うで! が……?」

 

 幻想体の内部を流れるPPが破断面から吹き出しているので、左手で押さえて漏出量を減らす。

 

 しばらく放っていれば止まるが、きちんと押さえたほうが漏出量が少なくなるのだ。

 

 俺は別に他人と比べてPP総量が多いわけではないので、無駄なPP漏れは避けたい。

 

 さて、沼蛇だが。

 

「……今回はちゃんと一撃で終わったか」

 

 ボス部屋の壁に頭をぶつけたまま動かない。

 沼蛇の頭部からは、上向きにブレードの切っ先が飛び出していた。

 

 俺が食わせたブレードが口内から脳天まで突き抜けているのだ。

 なので、急所判定(クリティカル)になって一撃で倒せた。

 

 沼蛇の突進のタイミングに切っ先を合わせてやれば、今の俺のステータス値でも労せず倒せる。

 

 本当は、刃をぶっ刺した瞬間に手を放して引けば噛みちぎられずにすむのだが、今の俺では速力が足りないのでできない。

 

 それに、きれいにクリティカルが出なければ一撃では倒せないので、その場合は失った右手を下級修復剤で直してから追撃をかける必要がある。

 

 今日はまぁ、運が良かった。

 今の俺の技力では、クリティカルが出る可能性は2割ぐらいだからな。

 

「は……、えっ? 倒した、の……?」

 

 後ろでツバサが混乱しているようだ。

 俺はドロップ品の「大きな沼蛇皮」と「下級修復剤」×3を拾うと、ツバサの側に歩み寄る。

 

「倒したぞ」

 

「うそ……。一撃だったじゃん! タッキーすごい!」

 

 ツバサがはしゃいでいるが、なんともルーキーらしい反応である。

 

「別にすごくない。上の連中……、C級以上のダンジョンに潜ってる奴らは皆これぐらいできる」

 

 上の連中は幻想体のステータス値も高いし、本人の技量や反射神経も良い。

 

 これぐらいの相手に無傷でカウンターを決めて確定でクリティカルが出るぐらいでないと、C級以上のダンジョンでは戦えないのだ。

 

「ここE級ダンジョンだよ!? うわー、すごい! タッキーってC級以上の人たちと同じようなことができるってこと!?」

 

「まぁ、かれこれ5年くらい探索者やってるからな。これぐらいは、」

 

「すごいすごーい! タッキーすごーい!!」

 

 ぴょんぴょん跳ねて騒いでいる。

 いや、これは喜んでいるのか?

 

 まぁ、やっとダンジョンから出られるようになるわけだから、喜ぶのも当然か。

 

「帰還用のサークルも出たな。ほら、さっさと出るぞ」

 

「あ、待ってよー!」

 

 生身のツバサを連れて、俺はダンジョンから帰還した。

 




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