俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。 作:龍々山ロボとみ
「やァ。来たね、セリー」
姉貴の隣には、サポート役で組んでいるモルモッティーアさん(いつもニコニコ笑っているのだが、口数が少なく感情が読めないので俺は正直ちょっと苦手だ)が立っていた。
モルモッティーアさんは、俺たちの姿を見ると手にした
「しかし、まさかいきなり殴られそうになるとは思わなかったよ。私の使う人形幻想体のことは、その子たちに伝えていなかったのかい?」
姉貴がベッドから体を起こしながら、からかうように問うてくる。
俺はため息混じりに否定した。
「もちろん伝えていた。……が、人の話を聞かないバカ相手には、念押しが足りなかったかもしれん」
「お人形壊そうとしてごめんなさい! さっきの黒い人たちの仲間かと思っちゃいました!」
ツバサは本当に、聞いたことをすぐにポロっと忘れるときがあり、再三の念押しをしてもダメだったりする。
こういうやつって、マジでどうやったら物覚えがよくなるんだろうな。
「まぁ、良いさ。それじゃあここから先は私もセリーたちのサポートに回る。どういう人形が必要だい?」
「基本的には偵察役だな」
向こうは
つまり今、情報量ではこちらが圧倒的に負けている。
「俺たちもフレスピークたちの居場所を突き止めないと、攻め手が限られるからな」
今は様子見をしているんだろうが、
本腰を入れて向こうが攻めてくる前に、フレスピークたちの居場所を探り当てなきゃならん。
「良いとも。それなら速力特化型を15体出そう」
そう言うと姉貴は、人形作成に取り掛かった。
手の中に
すると
これを15回繰り返したあと、姉貴は再びベッドに寝転んだ。
姉貴の人形幻想体たちが、それぞれの方向に駆け出し、すぐに姿が見えなくなった。
「ねぇ、タキ兄ぃ。さっきの人形たちって、今まさにタキ姉ぇが操作してるんだよな?」
「ああ。15体全て、リアルタイムで同時操作している」
人形には視覚聴覚もあるので、今の姉貴は15体分の感覚情報を同時に処理しながら、全ての人形をそれぞれ独立して操っていることになる。
「……にわかには信じ難いけど、でも実際目の前でやって見せられてるわけだもんね」
するとニコニコ顔のまま、モルモッティーアさんが口を開いた。
「セリーさんならご存知でしょうけど、ステラさんには多重分割思考の
まぁ、そういうことだ。
姉貴は頭の中でいくつものことを同時に考えることができる。
で、それぞれの思考を人形の操作に割り振っているから、多数の人形でも問題なく操作できるというわけだ。
「
「多い。以前測定した時で20万近くあったし、今ならもっと多いかもしれん」
するとツバサが、とても驚いたような顔をした。
「20万って、タッキーの10倍じゃん! すごーい!」
「オォー、姉弟でもそんなに違うものなのネ」
……まぁ、個人差はあるもんだからな。
「……ボクの倍か。……なるほどね」
と、そうこうしていると、姉貴が口を開いた。
「お、セリー。8番の人形がビリーたちと接触してバラバラに撃ち壊された」
ん、そっちが先に来たか。
「幽霊男たちとは一緒じゃなかったが、だいぶ近寄ってきているねェ。このままなら、あと3分ぐらいで接敵しそうだ」
ふむ……。
「
「いたねェ。向こうも気づかれたことに気づいただろうから、もう少し速度を上げてくるかもだ」
それなら。
「お前ら。ここでモルモッティーアさんと一緒に姉貴を守ってろ。姉貴は引き続きフレスピークたちを探しててくれ」
「セリーさん。いつも言っていますが、私のことはもっと気軽にモルモと呼んでください」
「……俺が帰ってくるまでは、基本的にはモルモさんの指示に従え。もしヤバそうな事態になったら、誰かが爆弾を上空に向けて思いっきり投げて知らせろ」
「はい、分かりました。皆さん、よろしくお願いしますね」
ということで、俺は単独でビリーたちがいるであろう地点に向かう。
そしてしばらく進んだところで。
「おっと」
右斜め前の上方から光弾の機銃掃射が降ってきた。
俺は自在盾で防ぎつつ、後退して近くの岩陰に隠れた。
慎重に顔を出してみると、機関銃を構えた男たちを引き連れて、リーゼント頭の男が崖の上に仁王立ちをしていた。
「待ってたぜぇ……! この瞬間をよォ……!」
額に青筋を浮かべ目を血走らせたビリーが、真っ赤な二丁拳銃をホルスターから抜いた。
おいおい、気合い入りすぎだろ。
「おい、ビリー! 幽霊男たちの援護は要らなかったのか!」
「あぁん!? 俺たちにゃあんな根暗どもの助けなんて必要ねーんだよ! だってのにあの陰気女もお貴族サマも、ごちゃごちゃぐちゃぐちゃ好き放題ヌカしやがって……!」
……なるほどな。
マインさんとフレスピークに色々言われて、怒りのあまり別行動してるってことか。
さすが
行動理由が分かりやすい奴だ。
「そもそも、テメーみてぇなヘナチョコ野郎をヤるのに複数パーティーなんて必要ねぇ! それどころか、俺のパーメンすらいらねぇ! 俺ひとりいればラクショーだってんだ!!」
ビリーが、右手のリボルバーを撃ってくる。
俺はサッと顔を引くが、光弾が前髪をかすめていった。
やっぱ、速えぇな。
ビリーは抜き撃ち早撃ちのスペシャリストだ。
しかもビリーの真っ赤な拳銃は他の奴らのと違って光弾の威力と弾速に特化した造り(銃系の装備品は、銃ごとに光弾のパラメータが固定されている)になってるらしいからな。
俺の反射神経(ステ値の補正でも、視力や聴力が良くなったり反応速度が上がったりはしない)だと、弾道をうまく見切れない。
一応、銃口の向きから弾道を予測して、ビリーの動きが照準のために止まって引き金を引くまでの一瞬の間で反応すれば、ギリギリ避けられないこともないわけだが。
まともに戦うと、やはり手間がかかる。
なので。
「おいおいビリー! そんなひどいこと言ってやるなよ! バカで短気なお前を支えるために、ヒヨコみてーにヨチヨチついてきてくれてる仲間たちが可哀想だろ!」
「んだとコラァ!?」
「しかもそいつら、他のパーティーでは素行不良だとか態度不良とかでクビになるようなド底辺どもじゃねーか! お前にまで見捨てられたら、あとは強制労働者どもにケツを振るぐらいしか仕事はねーぞ!」
怒らせて視野狭窄にさせて、……ハメ殺す。
「言わせておけば……!! オラッ、テメーこそ白アリみてーに隠れてないで出てこいよ!! 蜂の巣にしてやっからよォ!!」
良いぜ、出ていってやるよ。
俺は、瞬間的に幻想体をKey1からKey2に切り替えた。
そして、装備品欄をズラッと埋め尽くす大量の煙幕を取り出して投げまくり、あたり一面に白煙をたいた。
ビリーたちの立つ崖の上からだと俺のいる高さの地面が一切見えない、どころか、ビリーたちのいる崖を越える高さにまで白煙が舞い上がり、ビリーたちの視界を塞ぐ。
「おいおいおい、なんだこの白煙の量はぁっ!?」
今回のフィールド設定が雨や強風になっていなかったからな。
こうやって30個ぐらいまとめて使うと、これだけ広範囲に煙を広げることができるわけだ。
もちろん、これは普通の幻想体ではあり得ないことだ。
所持品枠は空にしてあって、装備品枠は20枠しかないからな。
だが、俺はもう手の内をさらして他の奴らに知らしめることに決めた(闘技場内での決闘の様子は、あらゆる角度から撮影されて観客席で放送されている)からな。
だから幻想体の切り替えも使うし(さすがに、Key3はステ値を上げてないからこの決闘では使わないが)、装備品枠もフルで使う。
俺の装備品枠は、幻想体1つにつき70枠ある(普通の奴より50枠多い)ので、そこに煙幕を30個と
俺は自在盾2枚を頭部と胸部の最低限の防御のために使いながら、白煙の中を駆け抜けつつ爆弾を崖の上に向けてポイポイと投げていく。
崖の上で次々と炸裂音が響く。
ビリーの怒り狂ったような叫び声が聞こえてきた。
「クソがあぁぁーーーっ!!!」
視界の効かない状況で、俺から一方的に爆弾を投げつけられているわけだからな。
奴らの唯一の勝機はこうなる前に距離を詰めて乱戦に持ち込むことだったわけだが、それを怠った時点で奴らに勝ちの目はない。
闇雲にこちらに向けて光弾をブッ放してきているようだが、視界もきかずレーダーもない状況ではそうそう俺に当たるわけがないからな。
さらに次々と爆弾を崖上に放ってやるよ、爆弾の炸裂音に混じって幻想体の破損による強制退場(緊急脱出と同じ原理だ)の音も何度か聞こえてきた。
そして強制退場音が5回聞こえたところでKey2の爆弾を全て使い終わった。
俺は崖の壁面に張り付きながら幻想体をKey1に戻し、
「行くぞ」
両手に持った自在刃をカギ爪状に形状変化させ、それを使って崖の壁面をすいすいと登っていく。
今の俺のステ値なら地上を歩くより速く壁面をよじ登れるので、あっという間に崖の上にたどりついた。
崖の上には、すでに左腕が吹き飛んで落ちかけ状態のビリーしか残っていなかった。
「よぉ、言われたとおり出てきてやったぞ」
「テメェ……、正々堂々って言葉、知らねーのかーーーっ!?」
「もちろん知ってるよ」
俺はお前と違ってバカじゃないからな。
だが、知っているのと実行するのは別の話だろ?
「死ねやぁ!!」
ビリーが残った右腕で早撃ちをしてくるが、俺は自分の顔と胸の前にそれぞれ自在盾(範囲を小さくして耐久力を上げてある)を出して防いだ。
額と心臓に3発ずつか。
相変わらずたいした腕だな。
しかし、いくら見切れない速さの早撃ちでも、怒りで狙いが単純になれば簡単に読んで防ぐことができる。
狙いを読むのがたいへんなら、狙いを誘導してやればいいだけだ。
そういう意味では、コイツは単純でいい。
俺は、リロードの隙のできたビリーの首を自在刃でハネながら、思う。
「こっちは勝つためにやってるんだ」
正々堂々なんて、それでも勝てる奴が気にすればいいだけの言葉だよ。
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