俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。   作:龍々山ロボとみ

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7話目・お腹が空いたらちゃんとしたご飯を食べる

 

「半日ぶりの外だー! お陽様が明るい!!」

 

 E級ダンジョンの入口門前で、ツバサが両手を上げて叫んだ。

 

 昼間から恥ずかしいやつだな。

 

 というか、ここまで来たらもう大丈夫だろう。

 仲間だと思われる前に別れよう。

 

「無事に生還できて良かったな。これからも元気に頑張れよ。じゃあな」

 

「へ? ……えっ、ちょっと待って!」

 

 俺はツバサを無視してスタスタと歩き出した。

 

「次からはもう少し緊張感を持って潜れよ。あ、そうだ、もしどこかで俺に会っても、挨拶とかしなくていいからな」

 

「ちょっと! 待ってってば!!」

 

 ツバサが俺のシャツを掴んで引っ張ってくる。

 

 おいやめろ!

 お前の手のべとべとが付くだろ!

 

 今は俺も生身なんだぞ!

 服が汚れるだろうが、服が!

 

「なんでそんなに置いていこうとするの!? なんか急に冷たくない!?」

 

「見捨てずに助けてやったんだから冷たくないだろ」

 

「なんか! 心の! 距離を感じるの!!」

 

 こいつ、元気になったらなったでうるさいな……。

 

「そんなに冷たくされたら風邪引いちゃうよ!」

 

「風邪は引かねぇだろ」

 

「寒い! お湯浴びたい! ぬるぬる落としたい!! ねぇタッキー、あたしの体をすみずみまで洗ってくれるって言ってたのは嘘だったの??」

 

「そんなことは言ってないだろ!?」

 

 誤解を招くような事を言うな!?

 見ろ、周りの人の視線がちょっと険しくなってきてるだろうが!

 

「じゃあお願い! 一緒にお風呂行こう! お風呂行ってお湯浴びたいけど、こんなどろどろの格好でひとりで歩きたくないの! あたしを助けると思って一緒に来て!」

 

「……お前なぁ」

 

「お願い! タッキー、お願いだよぅ……」

 

「む……」

 

 そこまで言われて、俺の服を掴んだままのツバサの手が震えていることに気付いた。

 

 それに汚れていてよく分からなかったが、よくよく見ればツバサの顔はかなり青ざめている。

 

 そうか。

 ツバサはダンジョン内で生身になって、スライムに集られながら泥の中に全身浸かっていたのだ。

 

 しかも先ほどのツバサの言葉を聞くに、かなり長い時間その状態で耐えていたのだろう。

 

 探索者になったばかりのルーキーが。

 まだ15歳になったばかりの女の子が。

 

 いつ助けが来るかも分からない状況で、体力と精神力をすり減らしながら、泥水の冷たさと死の恐怖に耐えていたのだ。

 

 そう考えれば、なるほど、辛くないはずがない。

 

 先ほどの元気も、空元気だったのかもしれない。

 そしてそれも限界に近いのだ。

 

 そう考えると、ここで見捨てて「はい、さよなら」もなんだか悪い気がしてきたぞ……。

 

 乗りかかった船、という言葉もあるしなぁ……。

 

 俺は、少しだけ悩んでため息を吐いた。

 

「仕方ねぇな」

 

 もう少しだけ、手を貸してやるか。

 

「分かったよ。一緒に行ってやるよ」

 

 俺はツバサの全身を一瞥して、必要なものを考える。

 

 身体中べとべとに汚れてて、服も同じく汚れている。

 

 靴はダンジョン内に置き捨ててきてしまったし、たぶん半日間は飲まず食わずのはずだ。

 

「ツバサ、お前歩けるか?」

 

「えっ?」

 

「もう立ってるだけで限界なんじゃないのか?」

 

「……それは、」

 

 そっと目をそらすツバサ。

 やっぱり限界が近いみたいだな。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 俺は、ダンジョン入口門を警備する兵士さんにカネを渡して、仮眠用のシーツと休憩用のサンダルを売ってもらった。

 

 シーツをツバサに巻き付けて濡れた体を隠し、サンダルを履かせてやる。

 

 次は、と。

 

「おーい、坊主ども! おつかい頼まれてくれ!」

 

 近くで遊んでいた子供たちを集めて、一番家の近い子供に、親の服を上下一揃い売ってもらうように頼んだ。

 

 カネは多めに渡したので、わりとすぐに服を持ってきてくれた。

 

 って、男物の服かよ。

 なに?

 探索者やってる兄ちゃんの服なのか?

 

 まぁ、長袖のシャツと、腰回りを紐で縛れるタイプの長ズボンだ。着れないことはないだろう。ありがとうよ、坊主。

 

 着替えが手に入ったので公衆浴場に向かう。

 

 俺はツバサを抱えて町中を走り、カネを握らせてツバサを女湯に放り込んだ。

 

「……走ったら汗かいたな」

 

 俺も風呂に入ることにした。

 どっちみち今日の探索は終わりだ。

 たいした稼ぎにならなかったが、仕方がない。

 

 お互いに汗と汚れを落とす。

 ツバサは俺より時間がかかったが、まぁ仕方ないだろう。

 

 しっかり汚れを落として、温まってから出てきてもらわないとな。

 

 公衆浴場の外でしばらく待っていると、新しい服に着替えたツバサが出てきた。

 手には丸めたシーツが抱えられている。自分が着ていた服も一緒に丸めているんだろう。

 

「さっぱりしたか?」

 

「うん、……なんとか」

 

 見てみれば、確かにさっぱりしている。

 

 べとべとになっていた栗色の髪も、今は洗い流されてモコフワっとなってツインテールにされているし、

 

 涙と鼻水にまみれていた顔もスッキリして、パッチリとしたレンガ色の眼とか、わりと整った顔立ちがあらわになった。

 

 服も、濡れて肌にぺったり張り付いていたのが乾いたブカブカの服に着替えたので、一部以外の身体のラインは隠せている。

 

 まぁ、良いんじゃないだろうか。

 外を出歩くのに見苦しくない程度にはなった。

 

「じゃあ行くぞ」

 

「え、どこへ?」

 

 決まってんだろ。

 

「ちょっと早いけど、飯だよ。晩飯。腹は減ってるか?」

 

 と、その時。

 くぅぅ、と可愛らしい音がツバサのお腹から鳴った。

 ツバサが顔を赤らめて目をそらした。

 

「……腹が減って、食欲があるのは良いことだ」

 

 俺はそう言うと、ツバサを連れて行きつけの食堂に向かったのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

「ほれ、温かいうち食え」

 

 テーブルの上に料理がずらりと並んでいる。

 

 炒飯、オムレツ、酢豚にロールキャベツ、焼き魚にコンソメスープ、水餃子と、ミートボール。

 デザートは後でお汁粉とプリンが出てくる。

 

 メニューを見て、目についた料理を手当たり次第に注文したらこうなった。

 

 この街の飯屋はダンジョンで回収した食材系のアイテムやレシピを使っているため、多種多様な料理が作れる。

 

 この街にいれば色々な旨い物が食べられる、というのも探索者が探索者をやる理由の一つになっているようだ。

 

 俺は、美食にそこまで興味はないが、毎日ちゃんとした飯を食べることで日々の活動に活力が満ちることは知っているので、探索のためにダンジョン内にいるとき以外はちゃんと飯を食べるようにしている。

 

 この店は、メニューの豊富さと、味と値段と出来上がりの早さのバランスが良いのでよく食べに来ているのだ。

 

「あの、タッキー?」

 

「なんだ、カネの心配か? 全部俺のおごりだから、遠慮なく食え」

 

「いや、そうじゃなくて……。なんで急に優しくなったの? 逆に怖いんだけど……?」

 

 なんだコイツ。

 何が怖いというんだ。

 

 俺のお前に対する同情心のどこに怖がられる要素があるっていうんだよ!

 

「あとで法外なお助け料を請求されて、払えなかったら借金のカタにエッチなお店に売られたりしない?」

 

「そんな面倒くせぇ方法でカネ儲けなんかするか! ダンジョン潜ってるほうがよっぽどカネになるわ!」

 

 まったく。

 よく分からん心配をしやがって。

 

 そもそも、胸以外ろくに育ってないその貧相な身体じゃあ、そんな店で働くのも無理だろ。

 

「食わないんなら、俺が全部食べるぞ」

 

「食べないとは言ってない! ……じゃあ遠慮なく、いただきます」

 

「おう。食え食え」

 

 一口、二口とおそるおそる食べ始めたツバサだったが、だんだん料理を口に運ぶペースが上がっていって、しまいには一心不乱に料理を胃に詰め込み始めた。

 

「美味しいよぉ、美味しいよぉ……」

 

 おう、暖かい飯は美味いだろ。

 

「生きてて良かったよぉ……!」

 

 そうだな。

 そう思えるなら、なによりだ。

 

 やがて、全部の皿が空になった。

 

 こいつ、俺の倍くらいの量を食べたな。

 その小さい身体によく入ったものだ。

 

 デザートのプリンまで綺麗に食べきっている。

 

「ふぁー……、ごちそうさまでした。こんなにたくさん、ありがとうございました」

 

 ツバサは、深々と頭を下げてきた。

 だいぶ顔色も良くなってきたな。

 

「満足か?」

 

 ツバサは大きく頷く。

 

 それは良かった。

 世話を焼いた甲斐がある。

 

「どうせここまでしたんだから、もう少しだけ時間いいか? アンタに聞きたいことがある」

 

「うん、良いよ」

 

「ツバサお前、なんであんなところで死にかけてたんだ? 何がどうしてどうなった?」

 

「……実はね」

 

 ツバサはひとつ頷くと、ぽつりぽつりと語り始めた。

 

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