漣と妃香梨が閉じ込められていた世界は徐々に綻び始め、遂には崩壊する。
そして目の前に広がる景色にふたたび言葉を失う。
紫がアドバイザー……否、絶を刺し殺したのだ。
同時に紫もアドバイザーが見せた過去の記憶の中から再び現実に戻ってきてしまう。
「嫌あああぁぁぁ!!」
紫は既に壊れてしまっていた。漣と妃香梨は何も言えなかった。二人もまた絶から真実を聞かされた身。泣きたい気持ちは山々だが、ここで泣けば誰が紫を支えているというのだ。ただでさえ、藍が支えているのに……それでも崩れているのに……
「紫……」
妃香梨が彼女の名を呼ぶ……それに合わせて紫は叫ぶ。
「私は……愚かだ!何が賢者だ!何が夢だ!何が復讐だ!お父様がいたから創れたのに……!描けてきたのに……!私は自分の弱さが何より……憎い!」
なく……なよ……
どこかでか細い声が聞こえた気がした。
「何!?まさか……絶!」
漣は絶の体を凝視する。酷い量の血は流れ、挙句の果てには凝固しているものまであるが、それでも魔剣に刺された場所からはまだ血が流れている。そして小刻みに動いている。もう死んでいるはずなのにと驚くのも無理はない。
「「絶!」」
「お父様ぁ……」
「泣く…………な………………笑……ゴフッ!ゴホッ!」
「絶!もういい!あんたは呪いに勝ったんだ!生きて勝てたんだ!」
「………ぁ……………ぁぁ…………」
「そうよ絶!私たちは自分で生きられるわ!安心して頂戴!」
「………………………フ」
「お父様……これからも……愛して……くれていますか?」
「…………」(ニコリ)
何も言わなかったが、微笑んだ。その笑顔からは当然だろと言っている気がした。
そして遂に瞳を閉じた。
八雲 絶――――死亡――――
「何故だ……何故絶望しない!?」
絶の体から噴きあがった黒い煙は口を尖らせてそう言う。
それをざまあみろと笑いながら漣は怒鳴る。
「アドバイザーよ!俺達は決して絶望しねぇ!お前の手の上で踊るくらいなら絶の方がましだったぜ!」
「ええ、アドバイザー!私は紫を歪ませたあなたを許さない!」
「……これは怒りの聖戦よ……お父様の意思は私たちが引き継いで見せる!」
「……何が絶の想いだぁ?」
三人の意思をぺっと吐き捨てるかのように反論するアドバイザーにはいつもの怪しい笑みが存在しなかった。
「貴様等なぞに絶の何がわかる!?我が何億という年単位で絶と共にいたと思っている虫けら共!絶を知ったように語っていいのは我とメリーだけだ!我は世界を恨んでいるぞ……我だけでなく絶さえもだ!この世界は狂っている……!いや、『この世界を創った奴は狂っている』!」
「この世界の創造者だと……?」
「そうだ……我は奴に復讐する!この世界を滅ぼし、奴の思惑を全て踏みにじってやるのさ!我は奴の全てを台無しにする復讐の化身となる」
「……そうはさせないぜアドバイザー!」
「アドバイザーだと……?そんな仮の名などもどうでもよいわ!
我が真名は『パンドラ』!絶望の箱に眠りし、禁忌の力……今こそ世界に復讐するために使用する!」
絶から出た黒い影は煙のように空へと辿っていって、やがて消えていった。
「……消えた」
「ああ、妃香梨。結界はどうだ?」
「無理ね……アドバイザー……じゃなくて、パンドラがつくった魔法陣のせいで結界の力を分散しているわ」
「しょうがない……パンドラのやつも精神体だけだからすぐには動けないはずだ……」
「そうでしょうね……それにしても漣と妃香梨はどこにいたの?」
紫の質問にどう答えるべきか、少し悩んだが、思い切って、
「絶と最後の戦いをした」
「私は滅とね……」
「そうだったのね……いえ、もう大丈夫よ」
「全く顔色が悪いのに無理すんなよ。俺達『兄弟』に頼ってくれよ」
漣の一言に、紫はやはりと呟いた。
「漣……やっぱりあなたは……いえ、あなたたちは……」
「ああ、俺達は……死んだ絶の子の転生者だ」
「……改めて、初めまして」
「ふふ、初めまして紫」
「ああ、初めましてだ。っと、帰ろうぜ。我が家に……」
「ええ」
「そうね……」
『計画始動編~紫色の決意~』終了。
最終章……始動。
???「遂に真実が明らかになったか……咲き人よ。無駄に引っ張り過ぎなのではないか?」