前回から数日が経った。日常的には劇的な変化が起きたが絶がいないという寂しさ以外はあまり変わっていなかった気がする。漣と妃香梨の二人にとっては……
ただ、問題は紫だ。
あの日から明らかに食欲が失せてしまい、痩せてしまっている。
スキマの中にこもる機会が増えていった。精一杯の笑顔をこちらに向けてはくれるものの。やはり元気がない。
「紫様……まもなく、各一族の長たちの会議が開かれますが……」
「ええ、悪いけど藍……貴女に変わりに行ってもらうわ」
「…………」
「……ごめんなさい」
「いえ、では失礼します」
藍の姿が見えなくなってから紫は既に枯れてしまった涙を浮かべる。
「ああ……わかってる……悔やんでも戻ってこないことぐらい……未来の私が見せたあの光景も……もうありえないのに……」
そう……あの時の紫は、未来の紫に精神を支配されてしまっていたのだ。未来の紫の体は未来から過去へと移動する際に大ダメージを受けてしまい、結局過去の紫を乗っ取ることを思いついたのだ。そして絶の真実を知ったショックで、未来の紫の精神は消えてしまった。だからなのだろうか……今の紫は破滅の未来を知っている。精神の融合が起きた偶然の産物だが、これを素直には喜べない。現実が紫を更に締め付ける。
「お父様に認めてもらうための
ああ、どうしてこんなにも脆いのだろうと紫は嘲笑する。
運命の子なのに……なんでお父様の運命を変えられたのだろうか……?
そうだ。思い返せば運命の子……これが私たちを繋ぐキーワードだった。何の脈絡もない私たち3人がなんで運命の子と呼ばれるのか……それはお父様の子だったから……
漣と妃香梨は……お父様の先に死んでしまった子の転生。私の今は亡き兄と姉であった。
「……お母様の事……知りもしなかった」
母親も転生者……しかも妖怪になっていた。妖怪……よう………かい?
「ならなんで私は『スキマ妖怪』なの……?一人一種族妖怪じゃなかった……?」
母親が妖怪ならそういうことになる……だが、父親が人間なら半妖が生まれるはず……それにアドバイザー……パンドラも言っていた。
~『その子たちは人間だった』~
死んだ兄と姉は間違いなく人間だった。
人間だった……?どっかで聞いた覚えが……
お父様……?
間違いない。お父様はいつも『人間だった』と言っていた。
「人間だった……そしてお母様は転生して妖怪に……まさかお父様も……?」
父親も妖怪なら紫が一人一種族妖怪な理由も分かる。異なる種族の妖怪同士の子は勿論、両親の血を半分ずつ分けた別種の妖怪になる……だが、それでは兄と姉が人間だったわけがまだ分からない……
「……うん?もしかして……二人とも『半妖』だった?それなら……」
二人の妖怪の部分の血だけが混じって紫が生まれ、人間の部分の血だけが混じって兄と姉が生まれた……かなり奇跡に近い確率の低さだが、起きる可能性が0ではない……まさに運命の子だったのだ……
「……って、なんでこんな馬鹿真面目に考えてるのかしら……」
自分ではもう分かっている。もうこんなことが分かっても関係ない……自分は絶の娘だったのだと胸を張って言えるのだ。
「ありがとうございます。お父様……また、別の可能性が出てきました」
ニッコリと笑う。紫はそっと、スキマから出る。スキマの中にあった絶が最後に造った剣を持って……
???「……潮時かぁ……咲き人よ」
咲き人「……失礼ですが、介入する気は」
???「ない。傍観こそ至高なり……だ」
咲き人「はぁ……」
???「それにこれから起こる戦いは絶の遺志の強さを教えてくれるものだ。見物だとは思わんか」
咲き人「……別に。私は結果を知っているので……パンドラが勝って、世界が滅びる……」
???「なら我は大神 漣達運命の子が勝つと予言しよう」
咲き人「賭けですか……何を」
???「右腕」
咲き人「利き腕はやめてください」
???「そうだったか……なら左腕だ」
咲き人「いいでしょう……楽しませてくださいよ」
???「勿論だ」
???「分が悪い方に賭けた方が面白いに決まっている。これこそ愉悦。慢心が……止まらないでな」