すっかり静まり返った天界の上を見たこともない場所を歩いている人物は薙浪 迅真その人である。低下している気圧に体を慣れさせながら目の前の大鎌を持つダイ・アウターを見て、怪しく笑みを浮かべた。
「よぉ……これが計画なんだろ?俺の立ち位置は『計画を潰す役』だ」
「……我が名はダイ・アウター。絶滅を運ぶ者……」
「はぁ?なんだそりゃ。比喩か?それとも俺への当てつけか?」
「…………」
「(だんまりかよ)」
しかし、
(まずいな)
と迅真は顔をしかめていた。低気圧の中はもう大体慣れたが、問題はそこでない。敵が能力に依存するしないかの問題ですらない。問題は……
(俺の能力……『存在を司る程度の能力』で消せないだと……?)
存在とは概念……物質や事象を名称する単語一つ一つからその意味がなされる。だが……
(『一秒毎に存在が変わる生物』だと?確かに一秒後にはただの肉塊になっていたらそういうこともあるが……『生き物として変わる』か……久しぶりに能力じゃなくて、頭で分析するか)
と、ダイ・アウターの大鎌の乱舞をかわしながらそう考える迅真。ゆっくりと大鎌だけが動き出し、回転しながら突進してくる。
「『大鎌の存在を消滅』」
「無駄だ」
「何?(能力の無効化でもできんのか?それでもこの程度の攻撃が俺に当たるわけがない)」
そうこの程度の攻撃なら迅真にとってはもはや回避するまでもないどうにかなるというのにも関わらず、大鎌は突進を続ける。ひょいとそれをかわそうとしたが、
「あ?」
グシャリ、と何かが迅真の胸から飛び出てくる。それはダイ・アウターの左手だった。だが、それだけではなく、手は何かを握っている。迅真の心臓だ。
すぐさま『
「ふむ……やはり心臓を抜き取った程度では死なぬか……」
「当たり前だ。お前も似たようなもんだろ」
「それでいい」
「何?」
「真実を語るに及ばず。個は一。やがて一は全となり、虚無となって、消えゆく」
「……語りに落ちてんぞ。ほら」
迅真はそう言って、ダイ・アウターの左手を見せ、斬りおとす。
「我に敗北無し、
「はぁ、お前の意味不明な言葉も聞き飽きた。『剣の存在を生成』。さっさと終わりにしようぜ」
そう言って剣を構える迅真。それに伴い、ダイ・アウターもいつの間にか再生していた左手に大鎌を持ち替えて、構える。
次の瞬間、剣と大鎌が衝突する。互いに激しい乱撃。時々、お互いの攻撃で、肩が斬り裂かれたり、四肢が消えたりしたが、それはまるでスキにならず、不死と不死の終わりが見えぬ戦いだった。が、戦線が動いたのは一瞬の出来事だった。迅真の剣がダイ・アウターの右肩を折り、ダイ・アウターの大鎌も迅真の右足を切断する。一瞬で傷が治ったのは迅真。残っている左足を軸足にして、ダイ・アウターにアッパーをかまそうとした瞬間にダイ・アウターは姿を消す。その拳が空を裂くと、肩をふるふると震わす。
「フ……フフフ……フーハハハハ!!さぁ!さぁさぁさぁ!もっと楽しませろ!ハリー!ハリー!」
両手を大きく上げて笑う。背後に突如として現れたダイ・アウターを振り向くこともなく、後ろ回し蹴りを喰らわす。気づかれたことに驚く暇もなく吹っ飛ぶダイ・アウターを追尾し、その地面を蹴り上げ、空中で断続的に回転し、腹に強靭な踵落としをたたき出す。大量の血がダイ・アウターの体内から排出される。止めと言わんばかりに炎の魔法を唱えようとした次の瞬間、ダイ・アウターは左手を迅真に向け、かざした。
(……なんだ……これは?)
迅真の脳内に直接入ってくるのはダイ・アウターの記憶。想像を絶する痛みと恐怖に打ち震えた日々を見せられ、無言になる迅真。だからだろうか、不意に激痛が走る。そして気づく……
自分の背骨が存在していないということを……まさかと思うがまさかダイ・アウターの奴、俺の後部に『めり込んでいる』というのか!?まさかそんなことまでできるのか奴の『あの能力』は!仮に再生しようにもダイ・アウターがいるから無効になる。痛いなんてもんじゃねえぜ。
いくら過去に酷い目にあったことがある迅真とはいえだ。あまりの激痛と言うのは思考を鈍らせるだが、ふと、迅真は思いつく。背中にくっついているダイ・アウターをはがす手段は吹き飛ばしたり、燃やしたりなどといろいろあるが、迅真は直感的にそれらを選ばなかった。彼が選んだ手段は……『俺の血が付着している存在の消滅』だ。迅真の返り血を浴びたという存在ならば、ダイ・アウターが何に変化しようと関係ない。
「……さよならだ。絶滅を運ぶ者」
「……のようだな」
直後、迅真の背中にめり込んでいたダイ・アウターが消滅する。そして抉られたCERO Zの部分は元に戻る。そして少し膝に付いたほこりを払い除けると、一度深いため息をついてから
「さて……と?」
とわざとらしく首を傾げて、そして不敵な笑みを浮かべた。
頭に浮かんだ言葉に……
???「おーおー。よく見知った顔だ。薙浪 迅真か」
咲き人「よく聞きますね。主にあいつの愚痴で」
???「あれはしょうがない。お前もあいつの言葉を黙って聞いているがいい」
咲き人「あいつが私に愚痴の一つでも言わせてくれたら聞いてやりますよ」