東方二重録【完結】   作:咲き人

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どうも咲き人です。


第五七話「本当の絶望へ」

絶と映姫は静かに口を開く………別々の場所にいるというのにも関わらず、

言葉の内容は殆ど同じであった。

 

 

「「()の話はあの家から始まる。」」

 

 

鏡に映った景色は暗い森の中………漣からすれば最初の頃にこの世界に来たときと

全く同じ場所のように思えたが、まるで違う場所だ。

ここは山の中腹のような場所だった。そこに一つの赤い屋根の家があった。

屋敷というほどの大きさではないのだが、普通の家よりは大きい………のだろう。

そしてこの鏡のことをまるで説明していなかったので説明しようと思う。

この鏡ではその人の生前の記憶を見るためのものであるが、三人称視点でも見れるらしい。(そういうふうに裏で設定しておく)

そしてその家から背を向けるように振り向くと遠く方の街灯がキラキラと輝いていてとても美しい光景なのだが、とつじょとして悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「あああああ!」

 

 

その声に漣も妃香梨も聞き覚えがあった。あの中性的な声………それに子供の時ということもあってもっと女の子っぽかった。そう………絶だ。

この視点は家に入っていく………そこは臭いさえ伝わっては来るわけないが、

鉄………すなわち、血の臭いが伝わってくるようであった。そして何か柔らかいものを殴るような音が聞こえる。

そしてその後にジャラ………ジャラ………とお金ではないが何か鉄のようなもの同士が絡み合っているような音も聞こえてくる。それが奥へ進むごとに強く聞こえてくる。妃香梨は思わず首を縮め、二の腕を両手で掴み、寒がるようなポーズをとる。 

恐怖心が高まっていくことが分かる………

それでも見なければいけない。聞かなければいけない。そう漣と妃香梨は思った。

 

 

ドカッ!バキッ!

 

 

黒髪の大男に殴られ続ける無抵抗の女の子に見えるが男の子であろう存在………きっと絶だ。

二人は見て分かった。これは………虐待だ。すると映姫は静かに目を瞑る。

どこか悲しい顔をしているのも無理もない。彼女はこの後の出来事を知っているにも関わらず、また見てしまっているのだから………そう思うとなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。

だがそう思っているうちにもまだ男は絶を殴り続けている。

 

 

一体何時間………いや、何日間殴り続けているのだろう………

 

 

絶が息を切らしているのを見て、痛みさえも忘れて回復に勤しんでいるように思えた。

そして少し微笑むと急に殴っていた男に話しかけた。

 

 

「ゲホッゲホッ!きょ、今日は………七日も耐………えられ、たよ………『父さん』。」

 

 

絶はとても辛そうに晴れ上がった頬を引き攣らせながら笑うと

絶に父さんと呼ばれた男も悪そうな笑顔で答える。

 

 

「そうだな。俺もお前が未だに『ストレス解消』に役立って嬉しいぜ。」

 

 

漣と妃香梨は驚愕した。実の息子を『ストレス解消用の道具』としか思っていない………

人を人とも思わないような発言にも絶は笑ったままだ。

 

 

よく見ると絶の両手両足首には鎖が巻きつけられており、逃げられないようになっている。

しかもその鎖も相当錆びているところから見て、ここ数年外出さえもしていないということが分かってしまった。なんてことだろうか。

これほどのことが現実に起きていいのだろうか!?ありえない。まるで悪夢だ………!漣たちがそう思ったとしてもこれが現実なのだからどうしようもない。

 

 

絶は笑ったままいう。

 

 

「今日は………何があったの?」

 

「今日は麻雀であの野郎共がインチキしやがってよぉ………頭にきちまってさぁ………勿論ぶん殴ったんだけどなぁ?そんなんじゃ俺の怒りが収まらないんだよぉ………」

 

「そう、なんだ………父さん。俺、役立った?」

 

「そうだなぁ。役立ったよ十分になぁ………」

 

 

男が何かに気づくとニヤリと笑い、絶に向かって「もう役立ったからよぉ………」と何か言いかけた瞬間絶の目が変わる。それは恐怖の色だった。何かに怯えて声が裏返って余計、女の子の声に近くなる。

 

 

「やめて父さん!俺、黙って殴られるから!役に立つから!もう………捨てようとするのは止めて!」

 

 

絶は泣き出す。その声は薄く枯れゆく小さな命のように儚い感じを醸し出していた。

そしてその光景は絶望と言っても絶の黒歴史と言ってもおかしくはない。

いや、完全に黒歴史だ。こんなに毎日殴られ続けるだと!?そんなことがあってたまるか!と思ったが、このときの絶はどこかおかしい。『役立った』ということに妙に強調している。

そして絶が父親に向けて言った『捨てる』というワードからしてあの男は実の息子である絶を捨てたことがあるのだ。本当に目を疑う。どこまで腐っているんだあの男は!

一人の親という自覚はあるのだろうか………そう思わせる程の気持ち悪さがあの男から漂ってくる。

 

 

男がどこかに行くと絶も気絶したように倒れる………と、言っても鎖に繋がれているので

動き的にはあんまし動いたことになっていない。そして絶は一人言を喋り始める。

 

 

「お腹、空いた………」

 

 

 

「疲れた。寝よう………」

 

 

そして絶の視点になったようでこちら側の視点が徐々に明るくなっていく………

絶の目が覚めたようだ。すると絶の目の前に大量の焼けたような音がしている黒いものが皿に入っている。なんだろうと思ったら絶はそれに飛びついて食らいつく………

ぐちゃぐちゃと嫌な音がしながらその飯か何かもわからないものを食っている際に見えてしまった。

その黒いものから足のような触覚のようなものが見えてしまった。

そう絶が今、食っているものはゴキブリなのだ。しかも大量の………

 

 

この光景を見てしまったことで今日は何も食べる気がしなかったから何も食べていないというのに吐きそうになった。というか腹が痛くなってきた。

妃香梨もおかしくなりそうだったのでここら辺は退場させたほうがいいと思って言ったのだが、妃香梨はまだここにいる!見ている!と意地を張っていたものの流石に無理を感じたのか口と腹を抑えながらここを出て行った。でも絶がちょうど食べ終わった映像のようで皿をけっていた。

 

 

すると次は金髪の女が現れた。こちらは豊満な胸を辛そうに揺らしながら熟女魔のような姿をしていたのだが、絶は見た瞬間に一瞬だけ嫌そうな顔をしたように思えた。

あの男は大丈夫なのにこの女は嫌いなのだろうか………

いや、見た目からして絶の母親………あの男の妻ということは碌でもない奴なのだろう。

この女は悪いことを思いついたように笑いながら絶が蹴った皿を更に奥へ蹴飛ばすと

絶に近づいて足を踏みつける。この女はここが家であるにも関わらず、ハイヒールを履いていてもっとも硬い部分で素足を踏みつけるということはかなり痛いはずである。

勿論、その痛みはただ殴られるだけの痛みとは違うため絶は苦痛の悲鳴をあげる。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアア!」

 

「そう!その声よ!」

 

 

女はゾクゾクと興奮して更に絶を踏みつける。踏みつけたと気に鳴る音はとても日常では聞き入れることのない音で思わず耳を両手でふさいだ。絶は痛みにこらえきれずに倒れてしまう。どうやら痛みのあまり気絶したようだ。

やはりこの女も絶を人とも思っていないらしく道具のように気絶しているにも関わらず

自分のストレスをぶつけるかのように扱っていた。

 

 

ここで視点は第三者視点になる。

全て無慈悲にしか思えない。絶が何をしたというのだろうか………こんな奴等の子供に生まれて可哀想だ。

なんでこんな暗い人生からあそこまで立ち直れたのか不思議なくらいだった。

 

 

女は男が背後から来ているのに気づくとウインクして絶を踏みつけているというのになんにも気にせず男と熱いキスをする。そして二人で微笑むとどこかへ行った。そしてここからこの画面に流れる映像がワンパターンになった。アイツらは絶を殴る蹴るの暴行を加えそして放置するの繰り返しだ。

 

 

そして映像はさっきのから約3ヶ月程の月日が経っていた。何十倍速にも加速させたのであっという間だったが、それでも鏡の中から聞こえる絶の叫び声に胸を痛ませた。

そしてちょうどここらで妃香梨が復活する。

小町と一緒にいたらしく、愚痴を言い合っていたそうだ。妃香梨は仲良くなった存在とは必ずと言っていいほど

愚痴を言い合っているように思える。そこまで俺は妃香梨に負担をかけているっけ?と疑問に思っていても妃香梨が実際にそう言っているというのだから言い返しはしない。

 

 

そして俺たちからしても普通になってしまった絶へのストレス解消の光景。

また同じだと思っていたが、絶の様子がさっきから違っていた。

まるでおぞましい何かが見えているかのように男の後ろの方を見てふるえている。

それに気づいていないのか男は不思議そうに絶を見ていたがその顔を見ているうちにイライラが募ってきたのだろうか、いきなり絶の頬を殴った。それがトリガーになったのか、絶は奥の方ばかりを見ていたのに徐々にその見ている位置が近づいてきていた。

何かが近づいているのだろうか?この鏡を持ってしても見えない『何か』が……… 

 

 

「うわあああ!」

 

 

絶がとつじょとして叫ぶ。それはどんな時も恐れを知らない存在だったと知っている漣達にとって信じられない出来事だった。その唐突な叫び声に男も思わず飛び上がるように後ろに下がった。

そして暫くして絶に何かがとり憑いたように静かになる。男は「ははは」と掠れた声で笑い出す。

鏡で見ていた中で初めて男の恐怖したような顔を見た。そしてゆっくり慎重に絶に近づく。絶はさっきからずっと下を向いていて呼びかけに返事をする気配もない。

男は絶を殴ろうとする。さっきのイライラを思い出したのだろう。勢いをつけて殴ろうとする。

 

 

 

 

ニタァ………

 

 

ガブリ!

 

 

 

 

グシャッベキッゴキャ、ガリュッ!

 

 

ゴクン!

 

 

 

 

「ぐああぁぁぁ!腕がァァァァ!よ、よぐもでめえ!」

 

「………うまい。腹へっだ。」

 

「ヒ、ヒィッ!」

 

「もっと喰わせろぉぉ!」

 

「た、助け!がぁぁぁぁ!」

 

 

信じられない光景だった。いきなり絶が四肢を縛っている鎖を破壊したかと思うと

実の父親である男を【食べ始めた】のだ。そして男は叫び声をあげている。

今までの日々が嘘みたいだ。最初とここだけ見れば立場が逆転しているようなものだろう。

だが、これは自業自得だ。今までの悪行が全て裁かれているようなものだ。

数分もしないうちに絶は男を骨一本も残さず喰った。

 

 

そして奥へと進み、今度は………母親を喰らった。

 

 

 

 

「クケッ!クケケケケケ!」

 

 

けたたましい笑い声を上げて………

 

 

 

 

紫side 

 

 

「そんな………ことが………」

 

「………ま、まだあるんだがな。」

 

「絶様。これ以上は紫さんの精神(メンタル)が危ういと思いますし………

帰らせたほうが………」

 

「それもそうだな。紫。お前が今いる部屋の奥に転移魔法陣がある。

それを通ればここに来る時に通った場所に戻れる。俺は先に戻るぞ。」

 

「え、あ………そ、その前に一つ私の質問に答えてください。」

 

「………なんだ?」

 

「漣と妃香梨………そして私は計画で必要と言っておりましたがそれは………

捨て駒としてですか?それとも生け贄としてですか?」

 

「………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捨て駒としてだ。それまで精一杯に生きるがいいさ。」




ラスボス=絶&滅説浮上。

次章のあらすじ………


そして絶は漣の能力を覚醒させるために無茶な難題を押し付ける。


漣はどうなるのか!?その光景を見た妃香梨が決心したものとは!?


そして平安京で次々と妖怪が現れるという事件が起きたらしい。その原因を探るため、漣、妃香梨、紫は平安京に行く。そこで起こる妖怪たちとの戦いが激しさを増すとも知らずに………


次章『都の百鬼夜行編~平安の毒風~』




次回「難題」
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