東方二重録【完結】   作:咲き人

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どうも咲き人です。スランプとかそんな問題じゃない。時間がねえ………


第五九話「常識とは何か」

一体何が起きた?吹き飛ばされた漣はしばらく動けなかった。能力的に一番厄介であろう鬼子母神を霊剣で叩こうとした。それからだ。ちゃんと触れた。手応えはあった。だが吹き飛ばされてしまった。これが奴の能力か!恐らく『とある魔術の禁書目録』に出てきた『アクセラレータ』と同じ能力なのだろう。アクセラレータはベクトル………つまり方向を操ることができた。これを東方風に言うと『方向を操る程度の能力』ということになる。これは反則級の強さだ。つまりあいつをどうにかしないとどの鬼を攻撃しようと庇われる。くそ!と悔しみながら木の幹の破片が大量に腹に刺さっているのが分かる。もう一度くそ!と言いながら立ちあがる。この時点でもはや人の域を超えている。鬼たちは感嘆の声を漏らし、再び身構える。たった一人のただ一人の存在に認められただけの人間相手に鬼の四天王は本気でかかってくるのだ。なんとも滑稽な光景だろう。

だが、誰も笑わない。誰も表情を表に出さない。かと言って内心も表と同じ冷たく冷え切っていた。『殺し合い』人は昔から同じ種族同士でこの言葉を使って語ってきた。だが、種族を超え、鬼という最強の妖怪相手にこんな言葉は使わなかった。鬼たちは再認識したのだ。彼が………大神 漣が鬼をも超えてしまう存在であると………本来人が妖怪を越えるという歴史はなかった。いや、あったとしても消えてしまった。その瞬間その人間は人ではなくなるからだ。つまりこの戦いは『大神 漣が人ではなくなるかどうかの戦い』なのだ。漣は知らない。自分の能力を………それでもこいつらは倒せると踏んでいるのだ。どこからそんな自信が湧き出てくるのだろうか………絶は遠い目でそれを見て悔しそうにギリリと下唇を噛む。

 

 

漣は地面を10回蹴る。これは『ワンピース』に出てくる『(そる)』という移動手段でこれが可能ならば霊力無しでも空が飛べるのだ。飛ぶときの技は『月歩(げっぽう)』と呼ばれていた。そして漣は一瞬のうちに鬼たちの間に飛んでいた。

 

 

鬼たちが反応するよりも前に霊剣を地面に突き刺しこう叫ぶ。

 

 

「『無音――駕薇我羅蛇(がらがらへび)――』」

 

 

剣先の形がうねうねと変化し、八本ほどある蛇になる。その姿は正しく『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』に似ているが、体も何も頭と首しかないので威厳もない。毒こそないものの威力は霊剣八本分だ。それぞれ均等に鬼たちに襲いかかる。萃香は蛇を霧状に分散させ威力を殺し、勇儀は拳でたたきつぶして鬼子母神は奴の体に触れたもの同士がぶつかって相殺されている。ここまでは計算どうり………次に歌槧なのだが………まだ蛇が当たってもいないというのに何もない空間を握りながら右手を出し、人差し指をピンと弾く。まるでデコピンのような感じで………ただそれだけなのだ。ただそれだけで台風のときのような突風が吹き荒れ、二匹の蛇は消滅する。漣は以外すぎる対処法に口を開け、呆然としていた。馬鹿な………勇儀が力の四天王だぞ?それなのに歌槧がやったことはなんだ?デコピンで突風を起こす?なんだそれ………おかしすぎる。

 

 

歌槧のまだ未知なる力に恐れを持ってしまったのか、後ろからの攻撃に反応するのがおくれてしまった。今度はこっちの番と言わんばかりに勇儀が右手だけで殴りかかってきていた。はっと我に還り、咄嗟に全身を地に這わせるようなポーズで回避し、続いてきた第二打は回転して横に飛んで回避した。着地した場所には萃香が待ち構えており、既に巨大化していた。巨大化していたとしてもスピードは変わってないらしく、素早い拳がまるで隕石のように落ちてくる。苦し紛れに霊剣を構えると萃香はニヤリと笑う。そう霊力さえも萃香にとっては思うがままの物だった。霊剣は霧と化してしまった。だが、それを見て今度は驚かなかった。寧ろ笑った。

 

 

「この程度で………『剣』という事実は変わりはしない!『無音――霧嬢(むじょう)――』

 

 

漣は霊剣が霧になっているのを再確認すると次に萃香に向けてその霧を投げた。萃香の拳は何故かその霧に防がられてしまう。今度は鬼たちが驚く。だが、すぐに理解する。漣が言っていたこと………『剣』という事実は変わらない。つまり霧状になったとしても霊剣は霊剣だということだ。それならば萃香の拳がガードされ、ましてや………無数の斬り傷を受けているのにも納得がいくというものだ。さて、漣の反撃をさせまいと次は歌槧が

攻撃を仕掛けてくる。さっきの突風を起こせるほどのデコピンだ。まずいと思って霊剣でガードする………がさすがに風は回避できるわけもなく、吹き飛ばされる。一番最初に鬼子母神の能力でカウンターされたときは恐らく一倍の力で跳ね返ってあれだろう。だが、やはり歌槧の攻撃はおかしすぎる。吹き飛びすぎだ………さっきの吹っ飛んだ距離がおよそ20M(メートル)。今吹き飛んだ距離は大体それの5倍の100M(メートル)

 

 

「一体どんな能力なんだよ!」

 

 

弱音のように聞こえるかもしれないが、本人は分からない力に対抗できる自信をつけるために能力を聞きたかったのだ。それでも歌槧は答えない。無口でクールキャラが漣にとってはあだとなった。どこが優しい『茨木童子』さんだよ!超強いし、超怖いんだけど!

 

 

と弱音を吐いても仕方がないと再び立ち上がる。その時、勇儀と萃香が共に拳を握り締め、殴りかかろうとする。霊剣………と思うともう霧状になっている。流石に今、霧嬢を使ったとしてももう一人にやられてしまうなと判断すると、それぞれの拳を手で覆い、勇儀たちの勢いで後ろに倒れる。鬼二人の片手とはいえ、本気の拳を両方の手で片手ずつ防いでいるのだ。当然受け止められるわけも無く………ミシミシ………という骨が軋むような音と共についには………ボギャ!………という骨が折れた音も聞こえた。だが、漣はなんともないように必死に抑えている。だが、じょじょに漣の両手は地面につこうとしている。漣は意を決し、両足を勇儀と萃香の前に出し、蹴る。ただし………音はなかった。

 

 

「『無音連脚!』」

 

 

二人は腹に縦一文字に傷を負う。ただ、さっき萃香に与えたはずの拳の傷も見られなかったことから、流石は鬼。再生能力も最強クラスだ。そして今つけた傷も消えていく………いや、塞がっていく。なんともないぜ的な感じでニヤニヤとニタつかれたとしても

どう答えていいのか分からない。といったふうに呆れた眼差しで勇儀を見る。勇儀は気を取り直して構える。どう考えても必殺技の構え方だ。先にやっとかないと殺られると思ったのだろう。もう一度霊剣を作り、構える。

 

 

「『無音――霧嬢――』」

 

 

もう一度………今度は自分から剣を霧の状態にしてから投げつける。まるで関係ないかのようにこっちだけを見てくるが、漣は指を鳴らすと目の色を変える。その霧はじょじょに光の屈折でキラキラと輝いているように見えて、眩い光になる。それに一瞬囚われたのが最期だった。

 

 

「『無音――金剛粉(ダイヤモンドダスト)――!』」

 

「!?」

 

 

無音で唯一地雷式設置型攻撃用手段………金剛粉(ダイヤモンドダスト)。それは霊剣を霧状にしたとき限定でいくら霧でも霊剣という性質は変わっていないことを利用した技だ。霧の状態から少しだけ『◇』の形に置き換えて発生する光で敵を錯乱することも技の効果の一つだが、もっと他の狙いがある。それは………

 

 

「光が霊剣となる。つまり高速でお前たちを襲う音無き霊力の結晶さ!」

 

 

 

まずは萃香に襲いかかる。萃香は咄嗟に自身の体を霧に変化させて受けるダメージを最小に減らす。霧とはいえ、剣に斬られるのだ。そして次に勇儀に襲いかかる………だったがその攻撃は鬼子母神が防ぐ。だが、粉は何時まで経っても鬼子母神の周りから吹き飛ばない。周囲の鬼も不思議がっているが漣が言ったことが分かっているため、迂闊に能力が解けないのだ。そうこれがアクセラレータもとい反射の弱点。勢いが無ければその勢いを反射しても無意味。方向を操ったとしても動かなければ意味がない。つまり、他の鬼たちを安心して攻撃できるということ。その意志が汲み取れたのか萃香、勇儀、歌槧は身構える。

 

 

漣が走る。萃香が地面を凹ませ、隆起させ、姿を隠す。だが気配をとっくのとうに読めてしまえる漣には無意味なのだが、一番厄介なのは歌槧だ。歌槧は無表情ではあるが殺気がこもった瞳でこちらを睨んでくる。それに負けじと睨み返す。

 

 

まず右ストレートをかまそうとする。歌槧はそれを人差し指で受け止める。さっきの勢いとは裏腹に右ストレートはまるで動かなくなる。すぐさま右手を引いて霊剣を持とうとした瞬間に次は歌槧の反撃が来た。意外や意外。歌槧も右ストレートを放ってくる。漣への対抗意識の現れなのだろうかなんなのか。漣よりも異常な速さで一瞬、居合の突きかと思える速度だった。それにはどうすることもできず、漣の顔面に当たる。バキッ!グシャ!という骨が折れ、肉が引き裂かれる音がパンチが当たったときの音とともに鳴り響く。

 

 

どこまで吹き飛ぶんだ?

 

 

漣は思った。一体いつになったら何かにぶつかって止まるのだろうか………終わらない。風のすんざく音で鼓膜は破れ、何も聞こえない。目を風圧で開けられない。明らかに音速の速度で飛んでしまっている。もはや頭でどうこうしようなどということも思いつかない。いかれている。何なんだこの威力は?否、威力だけだったら即死だ。だがどうしてこんなにも俺の体は宙を舞っているのだろうか?おかしい。心の四天王などだから鬼らしくない幻覚でも操るのかと思ったがそんなものではない。絶の能力がそれに類似しているため、そういう能力だとしたら既に感知していてもおかしくないからだ。つまり今のこの状況は本当ということだ。流石に地球外まで出て行くなんてことにはならないだろう。だったらいずれか地面にぶつかるはずだ。重力というのはそういう性質がある。これが『常識』だからだ。でも、歌槧の『アレ』はおかしい。あいつ自身の常識が壊れているとしか言いようがない。そもそも常識なんて言ったら、まず第一に俺がトラックなんかで死ぬのも常識的にありえない。なんかに操られたなんてそんなのあっちの世界だったら口から出た嘘程の言い訳だ。その後に神なんかに会うのだって、その神が今の時代の言葉を使っているのも常識じゃありえない。あれ?じゃあ『常識』ってなんだ?俺の『常識』はなんだ?………分からない。まるで分からない。

 

 

漣の肉体は風の勢いに負け徐々に風化して削られていく………そんな時思い出したのであった。母親の最期を………そして………『親友の最期』を………

 

 

 

「母さん!母さん!どうして………なんでだ!なんでなんだよ――――!お前が母さんを殺したのか………!」

 

「違うんだ漣!俺じゃな………」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!よくもよくも!許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!」

 

「れ、漣………」

 

 

ドガッ!

 

 

グチャ………グチャ………

 

 

血肉がちゃんとした形から飛び出たかのように流れ落ち、その音は滴る水そのものだった。漣は思い出した。自分の罪を………あの後、漣は気絶しており、警察に保護された。だが、当時はまるで記憶がなく。また母親の死を警察官の人に聞いてまた泣いた。父親はすでに病でこの世を去っていた。母子家庭で母親の手で育てられて将来は病があり、長くは生きられないというのにも関わらず母を支えられるような巨大な組織の職に就きたいと願っていた。だが、それは叶わぬ願いだった。心が壊れたわけではなかった。だが、引っ越しをして妃香梨に出会うまではきっと、小さな命のまま死ぬのだろうと覚悟していた。叔母に引き取られても叔母を母親同様の存在だとは認められなかった。

 

 

不幸だった………

 

 

そうだ………

 

 

俺の『常識』とは………

 

 

俺が『異常』というのが………

 

 

俺の『常識』なんだ………

 

 

そう漣が思った時、ゆっくりと瞳を開いた。いつのも黒い目ではなく『赤い瞳』へと変わっていた。




やっと5000文字………

次回「覚醒」
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