東方二重録【完結】   作:咲き人

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どうも咲き人です。


第六零話「覚醒」

歌槧が殴った瞬間、耳をすんざくほどの風が吹き、漣が消える。そしてまるで戦いが終わったかのように鬼たちは一つの場所に集まる。鬼子母神は呆気なさそうにつまらなさそうな顔をして絶を見る。だが、妃香梨はいなかった。

 

 

「全く、歌槧よ………吹き飛ばすのは良いが肉の一片ぐらい残しておいてくれんかのう?」

 

「む。すまない。」

 

「全くのう………のう、絶様よ。終わってしまったぞ?お主ほどの人物が重要視ぐらいだったから手加減無しでやったわいいが、さっさとくたばってしまったし、さっきの女子(おなご)も悲しんでおるぞえ?」

 

「ああ。確かに終わったな。」

 

 

絶は意味ありげにそういう。四天王たちは何の意味を孕ませてそう言っているのか検討もついてないらしく、それを嘲笑うかのように絶が口角を上げて止めの一言を言う。それは『彼』への絶大な信用から来ていたというのと、『覚醒』を感じ取れたからというのがもっともな理由だった。

 

 

「お前らの『負け』でな………」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

歌槧以外の鬼たちはそう驚いた。歌槧も目をいつもよりも大きく開け、口には出していないがかなり驚いているようだ。絶の言葉に賛同するかのように爆風が巻き起こる。そして上空には超小型の台風によく似たものがゆっくりと降下してきた。『それ』が起こす莫大な量の風に圧されながらも『それ』が確実に地面に足をつける瞬間を見た。『それ』は地上で何回転もすると、纏っていた風を周囲に飛ばす。両手で必死にガードしている四人であってももはやそれを躱す術はない。地面に跪き、両手で地面の草むらをかき分け、地を直接掴み、耐える。地面をえぐり、木々を根っこごと持ち上げ、空高く吹き飛ばし、森の小動物もその風に巻き込まれ、一部のものは風に抵抗力を奪われ、地面に叩き潰され死に至り、又一部のものは飛ばされていない木に思いっきりぶつけられ一瞬のうちに絶命してしまう。そんな風がやっとこさ止み、さっきの台風の場所を見る。

 

 

台風の目というのはそこだけ唯一風が吹いていない。言わば安全地帯というものだ。それだけいうだけあって、そこは地面がえぐれておらず、生命の起源とも呼ばれても過言ではない植物たちが平然とそこに佇んでいる。そしてそこには植物以外にもいた。

 

 

 

 

鬼たちが死んだと思っていた大神 漣だった。

 

 

 

 

だが、最初に戦ったときの漣とはまるで違っていて髪は最初は白と黒が半分半分だったのに、今は白一色しかなく、服は綺麗に千切れ、上半身はかなり露出していて足は膝ほどまで破けている(ポロリはない)。残念だったな!腐女子とかそこらへんの人たち!

 

 

鬼たちはその人物の目と目が合う。一瞬で自分がこれまで生きてきた記憶が蘇った。まるで生きてきたことを後悔するかのように………自分たちがこれまで誇っていた『鬼』という妖怪に対する自信………「自分たちは鬼なのだから」………という『常識』は一瞬で無に還った。こんな感情が沸き上がるなんて思いもしなかったのだろう。身震いが止まっていない。『恐怖』………それも『死』の恐怖だ。自分たちが好戦的な種族の妖怪であることを今更ながらに後悔した。もっと平和主義の存在であったらとそう思ってしまうほどの威厳のある瞳だったのだ。『赤い瞳』………確か最初見たときは黒く、底の見えない自信に満ち溢れていた目だった。だが、今の漣の目から感じられるのは『絶対的勝利』という五文字だった。

 

 

「そ、そんな馬鹿なことがあってたまるかえ!」

 

 

鬼子母神は自分を震い上がらせるかのように立ち上がる。自分の能力は無敵だと思っているからこそさっきまでの自分が許せず、それでも尚自分の負けを信じて疑わない自分を叱咤したのだ。その言葉でほかの鬼たちも立ち上がる。自分たちは最強の種族の『鬼』なんだ………絶対勝てると………何の根拠もない言葉で見せかけの自信で漣の前にたつ。漣は何も喋らず、剣も構えず、ただ棒立ちの状態だ。漣のその行為にいらいらが募っているようで鬼子母神は飛びかかる。その細いという見せかけの拳で漣を殴る。

 

 

バキッ!

 

 

漣の左頬を殴り、漣は軽く何回も地面でバウンドする。だが、なんともないかのようにすっと立ち上がり、地面に口に含んだ血と歯をぺっと吐き出す。そして無表情のまま

 

 

「………この程度か?さっきの威勢はどうした?」

 

 

再び鬼たちはフリーズする。効いていない。鬼の四天王を纏める者の一撃を喰らって平気でいやがる。そう思って無意識のうちに半歩後ろに下がる。それは自然に怖いという感情を体で表現しているのだ。

 

 

それを見て漣はさっき殴られた頬を触る。ズキズキと神経を伝ってその音が相応しい痛みが来る。懐かしそうに頬を何回か擦る。またまた鬼たちの時間は止まる。今、こいつは何をやった?確か………頬を数回ほど、指で擦るように触っただけだ。それだけなのに………『傷痕がなくなっている』だと!?殆ど見えなかったが鬼たちの回復速度とほぼ同等スピードだったと記憶した。もはや、四天王全員から言える言葉は唯一つ………

 

 

 

 

『あれは人じゃない。あれは………鬼だ』

 

 

 

 

 

と………漣は軽くステップを踏む。そうだ。まだ戦いは終わってなどいない。漣が動く。それは彼ら彼女らにとって抗うことの出来ない天変地異と同じであった。

 

 

漣は剃と使い、またもや鬼たちの中に紛れ込む。さっきは不意打ちであっても反応できた技だ。だが、今回は見えなかった。唯一見えたのは飛ぶ際、地面を百回以上蹴っていることだけだった。

 

 

漣はもう一度霊剣を地面に突き刺す。だが、無音の技は賀薇我羅蛇ではなく………

 

 

「『無音――欠抉(けっかい)――』」

 

 

鬼たちが反応したとき、ふと地面を見る。本来ならば何の変哲もないはずの地面。だが今回は違った。無い………

 

 

 

 

『地面が無い』

 

 

 

「!?」

 

 

鬼たちは何が起きたかで思考停止して、『宇宙空間以外の空中では重力に逆らえず落ちる』という『常識』にさえ反応できなかった。漣も一緒に落ちているが彼の脚力さえあれば空間の空気を蹴って飛ぶこともできるのではないかという考えが鬼全員の頭によぎった。だが、そのまま落ちていっているというのはあくまで自分たちがどうやってこの場面を切り抜けるのかに興味を持っているからなのだろう。

 

 

「く!この!」

 

 

勇儀が壁となっている石を殴る。ビキビキとひびが入り、下の方の石たちがたまらず何もないこの空間に飛び出てくる。そして勇儀のやりたいことを察したのか萃香が地面どころか岩盤さえもを隆起させた。さすれば今出てきた石たちがクッションとなり、最小限のダメージになって何とか地上に戻ることができたが、これは漣の計画どうりだった。勇儀と萃香は限界が来たのか倒れる。さっきの能力の使用で力を使い果たしたのだ。これで現状戦闘ができるのは鬼子母神と歌槧だけとなってしまった。さすがに怪我ではなく体力、精神を削ってしまっているため、これは鬼であろうと人間と同じぐらいの回復力………いわば自然回復でしか回復できず、また種族の特性も何もないということだ。

 

 

鬼子母神と歌槧は二人がかりで漣に襲いかかる。さっきまでは一人ずつ戦っていたところを見る限り、あれでも手加減していたといえばしていたのだろう………あくまで個人の考えだが………

 

 

歌槧は畏怖したのだろうか右手で殴りかかり、鬼子母神は長い両手の爪で引き裂こうとする。その二手の攻撃を両手で歌槧にはお返しと言わんばかりに人差し指で止め、鬼子母神には歌槧の物真似で人差し指で親指を弾くように飛ばす。

 

 

その瞬間途轍もない爆風が発生し、鬼子母神も歌槧も漣さえも吹き飛ぶ。鬼子母神と歌槧は地面があることを確認してから地面に着地する。そして敵を見ようとした瞬間にやっとこさ気づく。もう目の前にいることに………

 

 

「いちいち足場なんて確認してんじゃねぇ!『無音――神葬牙(しんそうが)――』!」

 

 

神葬牙は霊剣本体の形を変形させる技、その名の通り、剣ではなく(クロー)のように両手に霊力が付与される。咄嗟に歌槧が両腕を体の前で交差させ、ガードの姿勢に入り、神葬牙を受ける。歌槧は勢いのまま地面にぶつかり、受け身をとったものの反動がでかすぎるためかまた地面と離れ、今度は巨大な木々たちにぶつかり、倒していく。さっきまでの漣のようなかっこになってしまうまで吹き飛んでいる。

 

 

漣は神葬牙の状態のまま鬼子母神の後ろに周り横になぎ払う。だが、鬼子母神の能力により、そのまま返されるはずなのだ。それを知っていて攻撃するのだろうか………

 

 

「そんな攻撃、無駄だぞえ!」

 

「どうかな?今の俺は『お前の常識を超えている』。」

 

 

ガキン!

 

 

という金属音とともに鬼子母神の周りを包んでいた薄い膜のようなものが壊れ、中にいた鬼子母神を漣の爪で引き裂く。爪に食い込んだ肉はスーパーなどで売っている肉を包む紐の締め具合が強すぎるかのように原型から弾かれ、肋骨は全て折れていくつかは地面と初めてのご対面を迎える。背骨もぐちゃぐちゃになってしまい、いくら鬼とて普通にたつことさえもままならないだろう。更には仙骨も粉々になってしまい、鬼子母神はもうまともに動くことさえできないだろう。

 

 

鬼子母神がリタイアになった瞬間、動けないと踏んでいた萃香と勇儀が突如として襲いかかる。どうやらさっきまでの疲労は回復したようだ。顔は大量の泥が被っており、疲労がどれほどのものだったかがよくわかる。萃香も勇儀も拳を握り締め、漣を攻撃しようとする。

 

 

「三歩必殺!」

 

「三歩破壊!」

 

 

勇儀の右こぶしが腹にむけて放たれる。そのこぶしと空気の摩擦で出る音はまるで鉄砲のごとし、漣は左手でそれを受け止める。パァアン!という発砲音によく似た音が生じたかと思った瞬間、萃香の左こぶしが漣の頭部を狙い放たれる。漣はこれを右手で受け止める。漣の体重に拍車がかかり、地面が凹み、ドゴォッ!という地面に亀裂走る音と漣の左手の骨がひどく損傷する音が鳴り響く。だが、それに触れていられる時間はないと勇儀の左手が漣の右頬に向かって飛び、勇儀が殴る速度よりも早く漣は勇儀の右こぶしを払い除け、左手でガードする。そして萃香の右こぶしがもう一度頭部に飛び、それも漣はさっきと同じようにガードする。最後に勇儀、萃香の二人同時に拳を握り締め、殴りかかる。漣はまるでサッカーのゴールキーパーのような構えでそれを受け止める。だが、足のすぐ後ろの地面が少し坂となっているため、体制が崩れる。そしてそのまま鬼の拳が加速を早める。ビキ………ビキ………という音が漣の背にくっついている地面から聞こえてくる。このまま押しつぶされてしまいそうだと思った。その時だった。漣はギロリと二人を睨んだ瞬間、二人は倒れる。

 

 

漣はゆっくりと立ち上がる。その手には見たこともない剣を持っていた。どうやら二人は気絶しているようだ。漣が目を瞑りゆっくり目を開けると剣は消失していた。これであとは一人………そう思いながら森の奥を見据える。一人の鬼がそこでゆっくりと怒りを溜め込んでいた。

 

 

 

 

「グオオオオオォォォォォォォ!!!」

 

「………………心の鬼………それは静かに心の内を隠す鬼のこと………その均衡が敗れた時、鬼は怒る。ただ静かに………流石だ。茨木 歌槧、またの名を茨木 童子よ。お前の能力………『敵よりも強くなる程度の能力』………今なら分かる。それは筋力だけで冷静さや知能、判断力は変わらないのだと………お前は俺が敬意を持って倒してくれる!さあ、その力で俺を超えてみろ!四肢を食いちぎってみろ!眼球を抉り、首から下を無くして見せろ!それでも俺はお前を倒してみせよう!なぜなら………お前は化け物という名の『(敗者)』で俺が『人間(勝者)』だからだ!そう………化け物を倒すのはいつだって人間さ!」

 

 

歌槧が地面すれすれまで姿勢を低くし走り出す。そして右こぶしで殴りかかるそれと同時に漣の左こぶしがぶつかり合う。その衝突は覇気とも呼べるような威力で周囲の木々は根っこから吹き飛び、小動物……ましてや弱い妖怪さえもこの一撃に気絶してしまう。

歌槧は少し距離を開けて次は足を振り上げ、地面を抉りあげて攻撃する。それを漣は腕を一旦下げて手を妙な形に変形させ、攻撃する。

 

 

「ガアアァァァア!!」

 

「竜の鉤爪。」

 

 

蹴り上げた地面と漣の右爪がぶつかり、地面が粉々に塵とかして漣の右爪はそのまま歌槧の足元の地面を突き破ってまで深くえぐる。漣は歌槧を見上げる。すると歌槧はこの至近距離で黒い弾幕をレーザーのように放ってくる。漣がニヤリと笑うと一言

 

 

「俺はお前の常識を超えている。」

 

 

レーザーが当たる寸前に霊剣を地面に置き、雷を纏いさっき歌槧がやったかのように岩盤ごと持ち上げ抉る。

 

 

「反逆のライトニングディスオベイ!」

 

「!?」

 

 

同じことをされた力が自分よりも強いことに驚いたのではなく、雷と一瞬、漣の背後に見えた黒い起こったようなドラゴンであった。

 

 

「まだまだぁ!超過鞭糸(オーバーヒート)!!」

 

 

漣の手の脈の部位から何本ものの糸が束となって一つにまとまり、一度退いた歌槧に向かって襲いかかる。歌槧は燃えるような糸がどこに出てきているのかなど疑問に思う暇もなく、左手で払いのける。だが一瞬のうちに糸束は消え、漣は霊剣を振り下ろす。歌槧はすぐさま右腕で支え、払い除けたばかりの左手で殴りかかる。ばっと下がった漣の後ろに回り込み、妖力レーザーを遠慮なくぶちかます。周囲は焼き焦げるが漣は霊剣を回しレーザーを反射させる。そして返しを行った後、前蹴りをして歌槧を後ろへと下げさせると一気に加速する。剣を短くして両手で持ち、一直線に走る。歌槧は絶好のカウンターのチャンスなのだが、漣の素早さに反応する速度が足らなかった。

 

 

突撃槍(ペネトレイション)!」

 

 

小太刀となった霊剣が歌槧に突き刺さり、そのままの勢いで傷口が深くなる。漣は自分のスピードが急に止まった反動で転げまわる。

 

 

「ガァァ……!」

 

 

歌槧はしばらく苦しんでいたが、痛みに耐え切れなくなったのか気絶してしまった。漣も息が絶え絶えている。そしてバタンと倒れる。能力を無理にコントロールしていたのだろう。今、そのツケがここに来たようだ。

 

 

 

 

遠くから滅が漣をみていた。

 

 

「……流石だな。『常識を超える程度の能力』か……どうやら……始まってしまったようだな。」




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次回「平安京」
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