あれからルーミアがひどく懐いてしまい、「~♪」といった感じで上機嫌で後ろから抱きつかれている。今、妃香梨に見つかったら殺されてしまうなと自分をあざ笑うかのようにふっと笑いながらゆっくりと平安京に向かって歩いて行った。
妃香梨side
妃香梨はとある京より少し離れた家の瓦の上に立っていた。目の前には腰まで届こうかというまで長い、緑のメッシュが入った翡翠色の髪。頭には鬼のような大きな角に、赤いリボンを巻きつけており、衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている緑色の服。袖は短く白。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元に赤いリボンをつけている。下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている女性が存在していた。
今は夜で空を見上げ、月を眺めていた。今日は満月であった。それだからこそ……『上白沢 慧音』が今の姿が『白澤』なのだろう。最初は、聞いた声はひどく病んでいる遠吠えであった。妖力を探していた時に突如として聞こえ、最初はびっくりしたが今はこうして近づくと落ち着いていられる。気配を消して近づいてみるとつぶらな瞳からひと雫の涙が流れている。人間と獣の血が半分ずつ入っているというのは相当嫌われているのだろう。どちらでもない、どちらにも認められないというのは応えただろう。自分は漣に認められ、絶に、滅に、紫に認めてもらえた。だが、自分自身では自分を認められない自分と慧音は似ている気がする。それと同時に彼女は自分の逆の存在だと確認できる。それゆえに救いたいのだ。あの地獄から……
「大丈夫?」
妃香梨が後ろから声をかけるとものすごく驚いた様子で後ろを振り向く。
「安心して。私は貴方とお友達になりたいの。」
「友?……私はそんなもの……!」
「私が望んでいるの。私は貴方と友と呼べる関係になりたい。」
「ど、どうして……?」
急に現れた妃香梨の存在と発言……そしてその瞳から感じ取れる強い感情は本物であった。だからこそ「どうして」という疑問が浮かび上がり、かなり戸惑っている様子で慌てふためく姿が面白く思わず妃香梨はふっと笑ってしまっている。慧音は顔を紅潮させ、「笑うな!」と怒るが、その顔もまた可愛らしく、頭をそっと撫でる。やるなやるなと嫌がっていた慧音だが、今までこうやって撫でてくれる人がおらず、こうしてなでてくれている人がいたのは内心嬉しかったのだろう。つい顔がほころんでいる。そして妃香梨はさっきの慧音のわだかまりを解く。
「実は貴女は私に似ているの。」
「えっ!?」
「昔は私と同じところにいる。暗くて冷たい所に……」
「……」
「そんな所にいる人を救いたいの。だからね私と友達にな」
妃香梨が言い終わる前に妃香梨は咄嗟に後ろを振り返る。間違いない。陰陽師が来ている。なぜだ……もしかして慧音が他の誰かに目撃されていた?それとも……いや、そんなことよりも慧音を隠すことが先決だ。陰陽師が瓦へと足を運ぶ。慧音は慌てて逃げ出そうとするが、妃香梨は肩にポンと手を置き「任せて」と言う。
慧音は何故人間である妃香梨がこんなにもどうしようもない化け物を構ってくれるのか、放っておかないのだろうか。しかも出会ってまだ幾分と経っていないのに……だが、その姿勢に尊敬の念を込めた眼差しで妃香梨をみていた。陰陽師は気づくはずの慧音を無視して妃香梨に話しかける。
「大丈夫ですか?」
陰陽師は貴族の服装に長く束ねた黒髪に聖徳太子の頃からの冠位十二階を表わす帽子に緑の勾玉をぶら下げ、左目の周りには火傷の後がついている。だが、若い女性なため、火傷が少しついていても魅力は衰えていない。
「妖しが現れたと人里の者が……」
「ふふ、きっとその者が珍しい私を畏怖したのでしょう。」
「そうですか……ん?その足元の妖しは?」
慧音はびっくりする。バレたのかと思ったが、陰陽師は妃香梨の足元を見ている。慧音自身は妃香梨の後ろにいるため、足元には誰もいないのだが陰陽師はそこに目をやるとすぐ妃香梨の方へ顔をあげる。その顔は流石だと言いたげな尊敬を表していた。
「依頼成功ですね。流石です。」
「いえいえ、それほどでもありませんよ。」
「漣様の方も終わったと連絡がありました。私はあっちの方に向かいます。」
「わかったわ。」
そう言って陰陽師は去っていった。妃香梨はそれを見送るとふうっとため息をついて慧音のほうに振り向く。
「ね。なんとかなったでしょ?」
「ど、どうやったの?」
「人の視力じゃ見えにくい程の結界を張ってたの。」
「結界……」
慧音は納得するようにうなづく。妃香梨が張ったのは『錯覚結界』。慧音が死んでいるように見せかけていたのだ。陰陽師だったらばれてしそうで少しびくついていたのだが、陰陽師初心者な彼女には少しわからなかったのだろう。結果論ではあるがよかった。
「ねえ。」
「?」
「さっきの返事聞かせてくれるかな?私とお友達になってくれる?」
「……その、なんだ。わ……私のこと必要なら。」
「うんうん。大好きだよ。私は鳥遊 妃香梨。」
「か、上白沢 慧音だ。」
「慧音~!」
「だ、抱きつくな!こらっ頭を撫でるんじゃない!角も触るんじゃない~!」
一人の孤独から救われた少女の嬉しそうな声が響いた。
次回「京からの訪問者」