第八四話「阻む者」
厳しい冬の時期が過ぎ去り、暖かい季節へと移り変わった。春の予感がしたのか、はたまた春告精が来たのかは分からないが、桜が開花していっている。冥界にある巨大な桜は一向に咲かないが……
そんな時期にアドバイザーは言った。
「伊勢神宮に行くぞ」
―――――――と……
「なんでまたそんな所に?」
漣が問うのも無理もない。計画の全貌を知らない身からすればそんなところにとてもではないが、用はないだろうからだ……
「そこに祀られている『天照大神』が我々を呼んでいるのだ。因みにお前たちを転生させたのも彼奴だ」
「天照が?」
「ククク……どうせ下らん考えだろうがな……」
漣と妃香梨に驚きはなかった。自分たちを転生させたといわれてもあの軽いテンションを持った奴がどんな奴であろうと会って何をするでもないのだから、この程度の事実では微動だもしないだろう。だが、問題はここからだ。
「下らないこととは何だ?」
「知るか……だが、お前たちが知っている天照とは別人だ。これも平行世界の影響の一つだが、この世界の天照は我と絶、滅を嫌っている。それは別に良いのだが、お前たち人間すら嫌っている節がある」
「神なのに?何でなの?」
「さぁな……」
アドバイザーはふっ……と、鼻で笑いどこか遠い目をする。思い当たる節があるのかもしれないが、得体が知れない。今更か……
「それで、どうしますか?私の能力で一瞬ですが……」
「そうだな。紫、ククク……境界を開いて、奴らの顔を拝んでやろうではないか」
(………おかしい。紫の態度……アドバイザーに対し、よそよそしいのは俺と妃香梨もそうだが、妙に俺たちから遠ざかろうとしている気がする……何なんだ?)
漣はこの時、気づくべきだったと後悔する。だが、もう遅い……遅すぎたのだ。全てが最善の結果で終わるとは限らないのだ。
ゲームもそうだ。大体がハッピーエンドだろう……だが、同時に敵からすればバッドエンドに決まっている。誰もが全員思いを果たせるというわけではない。その思いの強さが『正義』になってしまい、その『正義』と思いの大きさ関係なく、他の『正義』誕生……対立し合い、戦う。戦争が起きる。そして負けた者は『悪』と見なされ、蔑まれ、歴史に刻まれる。
―――――――精神世界―――――――
「どうする絶?このままだと何の真実も彼らに渡せず、俺たちが終わっちまうぞ」
「ああ、それでいいとずっと思っていたが……仕方ない。俺たちがまず、結末を知らない限りどうしようもない……『奴』に会いに行くぞ」
「……大丈夫なのか?」
「この結界内にいるのは俺とお前『だけじゃない』……奴はどこでもいるからな……」
「……へー……そういうわけか……いいよー。君たちには私が書いた『運命の結末』を見せてあげよう」
「頼むぞ……
咲き人」
「よく来ましたね。運命の虹色の子たち……そして忌むべき者よ……」
確かにアドバイザーが言った通り、この世界の天照は俺たちが知っている天照ではないようだ。
「単刀直入に言います。忌むべき者よ……今は
「ククク……奇遇だな。我も貴様が嫌いだ。信仰心でしか動けぬくせに人一人すら助けられぬ下らん神よ……メタトロンは違ったぞ?」
メタトロンとか比べる対象を間違えているだろう。生命の樹……エデンの園にあった禁忌の果実が生る樹を守る最強の神の一人だぞ。
「……他の神のことなどどうでもよいではないですか。貴方は全ての神に嫌われた存在なのですから……」
「全ての神に嫌われた?アドバイザーがか?」
「……本当に迷惑だというのなら我という存在を生まなければよかったのだ……先のことなど分かっていたはずなのに……そんなことも分からん神共は我の足元にも及ばんわ……」
「ですが、私は違います」
「……ほぉ?」
「単刀直入に言う言葉はもう一つありました。貴様たち全員をこの場で消し去る!」
「何だと!?」
「いきなり何を……!?」
「神がいきなり敵に……!」
「待て」
臨戦態勢に移行していた俺と妃香梨と紫……そして、天照を停止させたのは他の誰でもない……アドバイザーだ。
「ククク……天照よ。一言、理由ぐらい言ってもらおう……そのこと自体には何の罪もないと思うぞ?」
「……いいでしょう……」
天照は語り始める……だが、誰も臨戦態勢から動きはしない。
「貴方という存在がこの地球に現れてから早46億年ほどですか……」
「丁度、地球が原始地球という存在だった時から我は居るから正確には我がこの宇宙に現れてから……だな。その時は貴様ごときは生まれてすら無かったがな」
ククッと笑う。
「……その時から私たち神は貴方という存在を敵視していた……必ず貴方はとんでもないことをしでかすということが分かっていたから……」
一呼吸置き、
「そして……貴方は今、私たちが危惧していたことを起こそうとしている!この世界を貴方がいた前の世界のように壊そうとしている!」
「「え!?」」
漣と妃香梨は流石に驚く。世界の破壊……それが計画だというのか?何故?理由がわからない。そんなことして、何の得があるというのだ……
「……ククク……」
パチパチ……アドバイザーは怪しく笑いながら拍手を送っていた。
「そこまでか……正直、残念だ」
「!」
「神といえどこの程度か……奴らとは大違いだな……」
「どの神と比べているのかは理解しかねるが、私たちの侮辱は決して許しはしない!罪もない人間すら手にかけ!妖を恐怖で支配し、よからぬことを始めようとしている貴様だけは許さない!」
ククッ!
「綺麗事を……貴様は妖怪も人間さえも信用はしていない……言わば『人種差別』ならぬ、『絶対正義』からなる『種族差別』か……『神族主義』もここまで来ると滑稽だ……」
「滑稽なのは貴様の方だ……計画のためにどんな犠牲を払っても結局とはそれを成せやしない。それが……」
「それが?」
「貴方が奪っている絶と滅の命ですら支払っても……」
「…………」
「それに絶と滅には前々から言ったはずです……こんなアドバイザーに何故体の中に住まわせているのかと……私の力さえあれば、このような残留思念如き一瞬で……やはり、奴らはどこまで行こうと人間です」
「………………おい」
漣は
「残留思念から力を手に入れたとしても『呪い』にかかるなどと分かっていた癖に……それでも……リスクを背負ってでも力を手に入れようとする……そんな行為、無力な人間がすることですもね……」
「…………おい!」
自分のことよりも
「やはり、どんな人間も綺麗にはなれないのです。私たち、神こそが世界を支配すれなばいいというのに……そうだ。絶に惚れてしまった神が二人ほどいましたね。彼女たちも私が真実を語れば戻ってくれることでしょう。全く絶の何が彼女たちを……そういえば奴の能力は操ることが主でしたね。成る程そういう……」
「おい!いい加減にしろぉ!」
怒っていた。
「どうしましたか?下らない人間」
「そういうことかよ……!成る程、アドバイザーの言う通りだ。下らないことしか考えてねぇ神だ」
「何?」
「お前みたいな奴は絶対に許さねえって言ったんだ!」
「人間如きが?神に?許さない?何を言ってんだよぉ!」
天照は突如として声色が変わる。まるで男のような図太い声だ。実は天照は男神だったという説というのもある。
「神に縋るしかできねぇ!弱くて!愚かで!自分のことしか考えられねぇ人間が!我を許さないだと!?驕るなああぁぁぁ!!」
「上等だよ!てめーみてぇなのは一生己を恥ずかしんで天岩戸にでも籠ってな!」
「待てと言っただろうが貴様ら!」
「アドバイザー!だが、俺はもう我慢の限界だ!こんな奴ほど許せねえんだ!」
「だから待てと言ったのだ」
「なんで!」
「お前よりも……」
ゾクッ!漣は久しぶりに死の予感を感じた。これが……アドバイザーの……
「我の方が怒っているからだ……」
「ほぉ……貴様が来るか!だが、我の太陽は貴様らごと残らず罪を消し去ってやる!」
天照の上空に突如として太陽の何百分の一に縮小されたマグマの塊が現れる。とんでもない熱気が放たれる。
思わず、身を伏せる三人。
「くっ!太陽が目の前にあるのと同じだと?」
「あ、熱い……!体中の水分が……!」
「……っち!!」
紫は咄嗟にスキマを開く。恐らく熱気をスキマ送りにしているのだろう。それを見て、漣は熱を与えられたら汗をかくという常識を超え、水分を体の中に留める。妃香梨は拒絶で必死に抑え、あわよくば漣と妃香梨も拒絶結界の中に入れようと結界の範囲を広げようとしているが、どうやらあの太陽が強すぎるようだ。
「アドバイザー!」
漣は咄嗟にアドバイザーを呼ぶが、こちらを振り向きはしない。だが、
ククク……
と、怪しく笑った気がした。その瞬間、
「ガァア!?」
漣は突然の全身の激痛に顔を歪ませる。そして、妃香梨も紫も激痛で倒れる。何故だ?
ここはすでに拒絶結界の中……どんな
「まさか……昔、イカロスは蝋で固めた鳥の羽で太陽に近づき、裁きが起きたと……なら奴は俺たちを……」
「殺すつもり……ってことね……アドバイザーよりも目的は私たちの始末が先ってことになるわね……そういえば全員消すっつってたし……」
「はぁ……はぁ……ならどうするつもりかしら?私の能力でもこれは防げない……」
「……誤作動だ」
「つまり……」
「アドバイザーに頼るということね……?」
「それしか方法はない……俺たちは天照自身に能力をかけることはできない……つまり、アドバイザーだけが、今の天照を止められる」
「……そうか、そうだよな……我のことを心配するのか?いや、大丈夫だ……ククククククククク………神なんぞなぁ?……計画の邪魔になるものは全て蹴散らす……それだけだ。そして……夢を叶えよう……悪いのは我ではないのだから……」
次回「絶喰者」