――――――絶の精神世界にて――――――
「こんな場所があるとはな……」
滅がそう呟く。彼はここの住人のことは知っているが、こんな所にいることは知らないからだ。絶は「ああ」と小声で言うと、その家の玄関の前に立つ。
古い石材を使って作られたその家は窓と呼べるものは一つも存在せず、玄関と言っても朽ち果てかけた木のドアがあるだけである。
絶はそのドアに手を触れると、サラサラと砂……否、灰になって消える。そして家の中に入る。そこには……一人の男が存在していた。紫色のぼさぼさした髪で目の位置まで垂れ下がってしまっており、家の中だというのにここは大空と大草原が広がっていた。
絶と滅が家の中に入りきった瞬間に後ろで朽ちて灰になったはずのドアが再び閉じて元の位置に戻っていく。
「これは……全部『絵』なのか……?」
滅が驚くのも無理はない……足元の草ですら立体的で触ることもできる。触った感覚は本物の草と同じくらいなのだ。
絶は目の前にいる紫髪の男に話しかける。
「久しぶりだな……『咲き人』よ……」
「……え?……ああ……君たちか……悪いが今、私は忙しい。ここの部分の『絵』が気に入らないんだ。とんでもないミスを悔やんでいても仕方ないから開き直って、今、直さなければならない。人生というのはそういうものだ……だが、『人』という生き方をやめた存在はそのことをしない。やり直したかったことを先にやっておくことすらできる。完全なやり直しだ……それで未来が変わるならきっと誰でもそうするが、今までの自分が消えてしまい、新しい自分になってしまう。その時、その『人』は『人間』であるのか……君たちは分かるか?」
「お前の哲学めいたことに興味はない。俺の要件は分かってるはずだ」
「言っておくが、私はB型だ。つまり、私は極度のマイペースである。常に自分のためになることしかせず、時間さえ経てば、そのことすらやらなくなるような存在だ。君たちはこんな愚かな性格の存在に何の用だと言うのかね?」
咲き人は自らを卑下し、嘲笑う。だが、その笑いが起きた瞬間に全ての『絵』が動き出す。愉快に……楽しそうに……
「……はぁ……相変わらずお前は変わらないな」
「そうだね。君と最後に会ったのは3億7834万2986年11ヶ月31日と21時間47分26秒だしね……いやぁ、長い長い。こんだけ長ければ私は変わらずとも君は変わるに決まっている……何故なら君は『人間だった』のだもの」
「……おい。用をさっさと終わらせろ咲き人。お前の話は一々長いんだよ」
「おっと。滅……君と会ったあの日からなんと6億6666万6666年66ヵ月66日と66時間66分66秒の時間が経ったんだよ。いい数字だね……」
「なんて不気味な……っていうかつまり、6億6666万6671年8ヵ月10日と7時間7分6秒じゃねえか……中途半端だな」
「……そうだね。そろそろ本題に入ろうか……君たちが知りたいのは私の能力……『予めある運命を描く程度の能力』で先の運命が見たい……もっと簡単に言い換えようか……『最期』が見たいと言う訳だ。それは……ちょっとぉ……どうかなぁ?」
「どういうことだ」
「都合が良過ぎるんだよねぇ……私という存在からそのことを知った者はこの世界の運命にはもう干渉させられない……もう描いた運命を書き換えなければいけない……そんなことは『あの人』が良くても私が許可できない……何故なら面倒だからな」
「……そう言うと思ったが、『あの人』が許可している以上はお前も従わなければいけないのだろう?なら俺たちに見せるのに渋る必要はない。さっさと見せろ」
「……そこまで言うなら、見せてあげるけどさぁ……この運命を見て、この場所で心が壊れたら困るのは君たちだからそうなっても知らないよぉ……」
「「覚悟の上だ」」
「……」
咲き人は絶と滅を凝視したまま何も喋らない……どうやらその覚悟が本物か見ているようだ。ただ絶と滅にとってはとても苦しいのだ。はたから見れば、ただ咲き人に見られているだけなのに絶と滅は嫌な汗をかき、顔を強張らせる。そしてその沈黙の時間が数分ほど経つと、咲き人が眼を閉じる。それを皮切りにため息をつく絶と滅の二人……
実際、絶と滅が咲き人に何をされたのかというと『予めある運命を描く程度の能力』でこれまでの世界などの全ての運命を見せられていた。全てというのは本当に全て……
「……よくぞ、耐えきった。君たちの脳内に直接色んな運命を一瞬で約5000万の世界の運命を刻み込んだのに……いやいや、もう壊れているか?君たちの心は……あの時、『彼女』を……」
「言うな」
絶の怒号が咲き人の言葉を続かせなくさせる。やれやれといった感じで呆れながら咲き人は一瞬で椅子を描き、その椅子に座る。
「では、語ろうか……君たちに……君たちの最期と『彼女』の最期もね……
そうだなぁ……まず、結論から言おう」
ゴクリ。知ってはいても緊張してしまう。絶も滅も生唾を飲み込む。覚悟はあるが、いざという時だけ恐怖してしまう。
「君たちの最期は……」
「…………絶……君の……
「君たちは……絶、君の『最期の娘』に殺される」
「そして、漣と妃香梨は……
『あの人』によって殺される」
ふふ……頑張ってくれよ……君たち
次回「神罰者」