先生がシャーレへの道を歩いている。辺りは暗く、雨雲も出ていた
先生がスマホを手に持ち、モモトークを確認していた。
(セイアからのメール………。
…『トリニティに佐藤は来ない。けれどもテロ自体はどこかで起こる。詳細は後ほど』…か。
……やっぱり、セイアに頼って正解だった)
先生がため息をつきながらスマホをしまう
(わかったとして……どうしようか……)
手で口を覆い、空を見上げ大きく息を吐く。
「クックックッ、お疲れのようですね、先生」
「……!…」
コツ、コツ、コツと足音が響く。暗闇からは黒い人影が現れた。
「黒服……。久しぶりだな」
先生が振り向かずに答える。
「お会いしたかったですよ」
「こっちとしては………今は帰ってほしいけどな」
先生はため息を漏らしながら話す。黒服は歩みを早め、先生に近づいていく
「釣れませんねぇ。せっかく有益な情報を持ってきたというのに…」
先生が黒服の方に振り返る
「……佐藤に関することか?」
「ええ、一ヶ月前にお会いした時よりわかってきたことが増えてきましたので」
先生は佐藤がリンを襲った事件の後すぐに黒服に情報を求めていた。しかしその時はめぼしい情報を手に入れられずにいた。
その時は違い、黒服は情報を持っているという
「…………わかった。聞かせてもらおう」
「クックックッ…!少し歩きながら話しましょうか、先生」
二人が並んで歩き出した
「で?得た情報ってのは?」
「まずは佐藤のいた世界についてお話しましょうか」
「それは…キヴォトスの外から来たんだろ?」
「キヴォトスの外………そうは言っても、先生、あなたのような存在とは大きく異なります」
「……まぁ、そうだろうな」
先生が下唇を持ち上げ、口を歪ませる。
「どちらかと言えば偽の嚮導者《プレナパテス》や死の神《アヌビス》のほうが近い存在と言えるでしょう。もちろん本質は大きく相違しますが」
「……」
「彼はここの世界とは完全に切り離されたところから来ているのですよ。本来、我々とはなんの繋がりもないのです」
「………ふーん、まぁ、あいつが完全に別世界の人間だとして、
……佐藤はなんでこの世界に来たんだ?」
「トリニティに保管されている異世界に関する書物をご存知ですか?先生」
「あぁ、知ってるよ。……逆になんでお前が知ってるんだ?」
「私としてもあれらの特異は興味を引くものでしてね。個人的に調査を進めているのです」
「あ、そう…。それで、それが佐藤とどんな関係が?」
「ここ、キヴォトスは時空が極めて不安定です。あれらの書物のように定期的に別世界からの贈り物が届くことがあるのです」
「へぇ、そうなのか。
まぁ、前にもそんな事あったかも…」
先生が空を見上げる。
「それで、今まではその異世界に繋がる穴のようなものは極めて狭く、キヴォトスに与える影響も小さいものでした。来るとして、あれらの本などの小さいものばかりですからね
ですが先の最終決戦、色彩やあなた方は過度に時空に干渉を重ねたでしょう?その影響で異界からの穴が広がってしまったのです」
「……ああ、なるほど…それで……」
「ええ、そしてやってきたのが佐藤。よりによって不死身のテロリスト。災難ですね、先生。」
「ああ、ホント、そうだな…。
……情報は以上か?」
「ここからが本題ですよ、先生。」
黒服が立ち止まる。半歩前に出ていた先生が黒服のほうに振り返る
「佐藤を元いた世界に戻す方法をお教えましましょう」
「…………!」
「ですが、…これはあなたの身体を大きく蝕むことになるかもしれない方法です。まだ別の方法を模索することも____」
「そこはどうでもいい。とりあえずその方法を教えてくれ」
先生が至って落ち着いた声で言い放つ
「クックックッ…なりふり構っていられないようですね…。ではお教えいたしましょう」
「………」
黒服が先生のポケットを指差す。
「あなたの持つ大人のカード、それを佐藤に密着させるのです。」
先生が口をあんぐり開けている
「…………それだけか…?」
「ええ、あなたの持つ大人のカードに限界はありません。時空を超えた存在をも正常に戻すことが可能です。
しかし条件があります。」
「条件…」
「まずは、最低でも一分は佐藤に密着させ続ける必要があること…。そして
その間、あなたの寿命を注ぎ込み続けること」
「……………」
先生がしばらく考える
「なるほど…。厳しいな」
「ええ、いくらあなたでもそんなことは躊躇するでしょう?」
「……佐藤に一分間密着ってほぼ無理だろうな……」
先生が頭を掻く。
黒服が先生の方を見て呆気にとられている。
「…………。
…クックッ…クックックッ!」
黒服が今までで一番大きな声で笑った。
「……?どうした、大笑いしやがって」
「先生、やはりあなたは先生ですよ。
自分の寿命を気にも留めないなんて……クックック…。
先生、あなたなら必ず成し遂げるでしょう…!」
「…あ?………どうも…?」
黒服が笑うのを止め、先生の目を見つめる
「情報は以上です。我々は佐藤に直接手出しはしません。ですが先生がどうにかしたいのであればまたの助力も考えてもよいでしょう。
では、またの機会に」
「どうも。一つ借りができたよ」
「あぁ、あと先生、最後に一つ伝えておきたいことが」
「ん?」
黒服が先生に顔を近づける。
「お気をつけて、命は一つしかありませんから」
黒服が顔を離し、歩き出していくと暗闇に消えていった。
「…………言われなくても…」
先生はポケットに手を突っ込み、再びシャーレの方へ歩き出していった