亜人の佐藤がキヴォトスを楽しむ   作:はふはふサドンデス

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file.32 Under Dogs

ヴァルキューレ臨時本部のテント前。佐藤のビル破壊の凄惨さがまだ残ってる。

そのテントから2人の生徒が出てきた。

ミヤコとカンナだ。

 

 

「お世話になりました」

ミヤコが軽くお辞儀をする

 

「ああ、こっちも色々と…修繕も手伝ってくれてみんな助かってた」

カンナは松葉杖をついてテントの前に立っていた

 

「お前らの怪我は、大丈夫なんだな」

 

「ええ、もちろん。誰もカンナさんほど重傷じゃありませんでしたから。みんなもうピンピンしてますよ」

 

「…………。そうか」

カンナが頭をかく

 

「これからはどうするつもりだ。佐藤はまだ破壊行為を続けてるが…」

 

ミヤコが目線を少しだけそらす。そしてすぐにカンナの方へと向けた

 

「とりあえず私たちRABBIT小隊は、通常の業務に戻ろうかと。」

 

カンナが少しだけ目を開く

「意外だな……今すぐにでも佐藤を追っていくのかとでも…」

 

「…そこまでの執着はありませんよ……。

もちろん先生に応援を要請されればすぐにでも飛んでいきます。ですが今は先生が必ず佐藤を止めてくれることを信じて、今はこの地区の安全を守ろうかと」

 

「なるほど。まぁそれが無難か。

佐藤の行為は単純な破壊に留まらず、社会の不安も広げている。それらの社会不安を抑えるのも肝心だ。なにも佐藤と直接戦うことだけが我々の仕事でないしな」

 

「…ええ。そうですね…もう悔しさもありませんし…」

ミヤコが目線を下げる

 

「そうとなれば、互いにがんばろう。」

カンナが右腕を上げる

 

「ええ、お互いに」

ミヤコもそれに応じて腕を上げる

 

「それでは、また」

ミヤコが後ろを向く

 

「ああ、また」

カンナも手を振って見送っていた。

 

ミヤコが歩き出す。その背中は小さく、足取りは重いものであった

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

「………おい!」

カンナが呼び止めた

 

 

「……………?」

ミヤコが足を止め、カンナの方を振り返る

 

 

 

 

「ホントはまだ、悔しいだろ?」

 

カンナが言い放つ

 

 

 

「!…。…………」

ミヤコが目を大きく開いて固まる

 

カンナが続ける

「敵の情報がまるでなかった段階だったとは言え……

一人の人間にSRTの部隊が圧倒的な負けを喫した……。」

 

「…………………。」

 

「お前たちの日々の訓練、これまでの学び。それらが簡単に打ち破られた。死ぬほど悔しい思いだろうな」

 

 

ミヤコが息を吐く

「………まぁ、悔しくないと言ったら嘘になりますかね」

ミヤコの肩にかかった銃のベルトが少しずり落ちる

 

カンナが松葉杖をつきながらミヤコに近づく

「だが、そこまで気に病む必要はない。

お前たちの戦闘で時間を稼げたおかげで、ケガ人の救助や避難の誘導がスムーズにいった。

これは誇れ」

 

「それは………」

ミヤコが言葉を詰まらせる

 

「何度もそう聞かされましたが……。ですけど私は負けたんです…。何を聞いたってこの気持ちは晴れません。」

 

ミヤコがさらに下に目線を落とす

 

「私は、小隊の、リーダーとしての、

責任を果たせなかったんです……」

 

ミヤコの声が徐々に小さくなっていた。

そんなミヤコの肩にカンナが手を置いた

 

「なんにせよ、ビルの中にいて爆破に巻き込まれたまま間抜けにやられた私に比べれば、RABBIT小隊は素晴らしい活躍をしていた…そうだろ?…」

 

「……それは……コメント、しづらいですね……」

 

ミヤコの視線は下のままで変わらずに言葉を吐いた。

その言葉にカンナが自嘲気味に笑う

 

「はは…。………まぁ…それに」

 

「………。………?」

 

ミヤコが視線をあげる

 

「亜人と戦ったお前らの情報はきっと、先生たちが戦うときに役に立っていただろう。そしてこれからもその情報は使われる。お前たちの戦いが無駄になったわけじゃない。その経験と情報が、どこかで先生や誰かを助けてくれる。

 

最初に亜人と戦ったのはRABBIT小隊。あとにも先にもこれは変わらない。」

 

カンナがミヤコの肩を軽く小突く

 

「…………………

 

 

……はい…」

 

ミヤコの顔にわずかな笑みが浮かぶ

 

 

 

 

「ミヤコーーーー!まだなのかーー?!置いてくぞーーー!」

 

サキの大声が静寂を壊す

 

「…今行きますからーーー!」

 

ミヤコはすぐに返事をして、カンナのほうに向き直る

 

「……ほんとに、ほんとにお世話になりました」

 

軽くお辞儀してカンナを見る

 

「ああ。じゃ、今度こそ、またな」

 

「ええ。またいつか」

 

ミヤコは軽い足取りで走っていった

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

ゲヘナ学園 保健室

 

 

「委員長、お怪我のほうは……」

アコがベットの側で膝をついて、ヒナの手を握っている

 

「アコ、私はもう大丈夫。大丈夫だから」

ヒナはベッドの上からアコの手を握り返す

 

「委員長の身になにかあったら私は…」

アコの目には涙が浮かぶ

 

 

 

「3分前にもおんなじ質問してたよね、アコちゃん……」

ため息をつくイオリ

 

「今日だけで…100回は言っていますね」

チナツが時計を見ながら言う

 

「みっともないな、まったく……キキッ」

マコトが別のベッドに座ったまま肩をすくませ、少し笑う

 

 

「……………………。はぁ?!」

 

マコトの言葉がアコの逆鱗に触れた。

ヒナから手を離し、マコトの前に立つ。

大きく息を吸って

 

「……どの口が言ってるんです?元はといえばあなたが佐藤を招き入れたせいで作戦が崩壊したんじゃないんですか?校舎が崩壊寸前なのも、委員長が重症を負ったのも…。責任はあなたにあるんですよ!!」

 

まくし立てるようにマコトに言い放った

 

「……まぁ、それはそう。あれのせいで作戦がメチャクチャだったからな」

「そうですね。あの想定外の侵入がなければもっとマシな動きができてたはずです」

イオリとチナツが頷く

 

「そ、それは…」

マコトがアコのあまりの迫力にたじろぐ

 

「あ、争わずに解決できたら、い、いいなと思ってだな……!!

敵をだます前に味方をだますというか……なんというかその…」

 

「まだなんか言い訳するのか…見苦しいぞ」

イオリが冷めた目でマコトを見る

 

「黙れ!私にもいろいろと事情が…!」

 

「というかエデン条約の際も、敵に塩を送って自爆していましたよね?それも大勢を巻き込んで。…………そこから学ばなかったんですか?」

チナツも冷たく言い放つ

 

「うるさい!それ以上言うな…!だいたいお前らも…」

 

 

 

「マコト」

ヒナが小さな声で呼びかける

 

「…!…………。な、なんだヒナ…?」

マコトが驚いてヒナの方を見る

 

ヒナが小さく息を吸う

 

「佐藤のこと、まずは私に教えて欲しかった。」

 

静寂が広がる

 

「単独で佐藤相手に契約を持ち込めたのはすごいと思う。そんなの、マコトにしかできない。

けど、あなたがそれを私や先生に教えてくれていたら、もっと被害を抑えて佐藤を捕まえることもできたかもしれなかった。」

 

マコトが目を左右に動かしながら俯く

 

「だ、だか私には…」

 

「もちろんマコトにだって事情はあったんだろうけど……」

 

「…、、、、、」

 

「万魔殿の皆もひどい怪我をしてたみたいだし……それにイブキも危なかったみたいだね」

 

「……ぁ……!」

マコトがピクッと動く

 

「自分の失態のせいで、自分の大切な人が危険な目に遭ってしまう………………。どうだった?」

 

「どうって……なにが…」

マコトが言葉尻を濁す

 

「実際に味わうと…………くるものがあるでしょ?」

ヒナが遠くを眺めながら言う。そこには自嘲的な響きもあった

 

「……………」

マコトが完全に黙り込む

 

 

 

 

「静かになるとかわいいもんですね…」

「…マコトに初めて可哀想って思っちゃったよ、私」

「あのバカにはあれくらいでも生ぬるいですよ…!」

チナツとイオリとアコが小声で話し合う

 

 

 

「………わ、わるかった…。私は…こ、これで…」

マコトがさっと立ち上がり、そそくさと部屋から出ていった。ドアが勢いよく閉められ、保健室は静寂に包まれる

 

 

 

 

「逃げちゃった」

「あの人にも罪悪感とかはあるんですね」

イオリとチナツは未だに小声でいる

 

「……はぁ………言い過ぎたかな………」

ヒナがため息をつく

 

「まぁ、委員長。彼女なら大丈夫ですよ。それにさすがに今回の件でしばらくは大人しくしてくれるでしょ…うし……。……あれ?」

 

アコがさっきまでマコトがいたベッドのほうを見つめる

 

「どうしたのアコちゃん?」

 

「いや…これ…。マコトさんの忘れ物でしょうか?」

アコがベッドの上の小箱を拾う

 

小箱は雑にラッピングされ、付箋が貼られていた。

付箋には「風紀委員会へのお見舞いの品。渡すのを忘れないように」と書いてあった

 

「お見舞い……そんな気の利いたことできるやつだっけ…?」

 

「他の委員から提案でしょうか?イロハさんとか……。

…まぁ…とりあえず開けましょう。私たち宛てなんですし」

 

アコが小箱を開ける

三人が集まって中身を確認する

 

 

 

「「「え」」」

 

 

 

「……?」

ベッドから動けないヒナが体をよじらせて、どうにかしようとして中身を見ようとする。

 

「な、なんだコレ……」

「見舞いの品…これが…?…」

「もっとあったでしょうに…なんでこれを…」

三人が中身を囲んで話し続ける

 

ヒナが翼をパタパタさせて体をひねる

「アコ、見せて。何が入ってたの?」

 

「あ、いや、えっと……………これです」

アコが中身を見せる。

 

箱の中には手のひらサイズのマコトの黄金のトロフィーがあった。指を高く掲げ、己を誇示している。

 

「え………」

ヒナが絶句する

 

 

「こんな趣味の悪いもの…捨てておきましょうか…?」

アコがトロフィーを箱にしまっていると

 

 

 

 

「……ふっ…あは………あはははは…!」

ヒナが突然笑い出す

 

 

「………委員長…?」

 

「あは………なにそれ…ははは…!」

ヒナが腹を抱えて笑う

 

「……委員長はお気に入り……なんですかね…」

チナツが首をかしげながら像を見る

 

「馬鹿にしてるだけじゃないか?」

イオリが閉口する

 

 

 

 

 

「ねぇ、アコ」

 

「は、はい」

 

「それを私の机の上に置いておいて」

 

「え、本気ですか?」

 

「うん…………ふふ」

 

「はぁ…では、そうしておきます」

 

 

イオリとチナツが顔を見合わせる。2人とも意外という感想しか頭にない。

 

「ま、委員長が元気出したみたいだし何でもいいか」

イオリが空いてるベッドに座った

 

 

アコが箱を抱えて保健室から出て

風紀委員会の部屋に向かって歩いて行った。

 

 

____________________

 

 

 

ミレニアム サイエンス ハイスクール

復興拠点のテント

 

ウタハがかがんで何かを組み立てている

 

「さてと………だいたい終わりだ。どうかな。余り物で作ったから動きが不安定かもしれないが…」

 

ウタハが工具を箱にしまっていく。

 

「うん、完璧ですよ。ウタハ。新しい車椅子、ありがとうございます。」

 

ヒマリがウタハが組み立てた車椅子の車輪を少し回す。鉄製の簡易なものだった。回転、移動、それらの動作を試していく

 

「少し心配なのは…エンジニア部お得意のおまけ機能がついてないかですが……」

 

ヒマリが体を傾けて車椅子を調べていく

そんなヒマリにウタハが

 

「はは!大丈夫さ。今はそんな余裕なんてないからね。だって……!……

……ほら…えっと…その……ほら……部室が…あー…」

 

ウタハの語気が段々と弱まる。そのまま窓の奥の景色に目をやった。破壊された校舎の瓦礫はまだ大量に残っている。

 

「…………………。」

 

二人とも黙ったままだった

 

 

しばらくして

 

「………あ、そうだ…。」

ウタハがゆっくりと立ち上がる。

脚には可動式の金属の板が装備されていた。負傷した脚を補うために応急でウタハ自身であてたものだ。

 

「私は行かなくちゃならないところがあるんだ。もし車椅子に不具合が出たら、連絡をくれ。クレームは何時でも何でも受け付けるよ」

 

工具箱を持ち、周囲の荷物を回収する

 

ヒマリが車椅子を回転させウタハと向き合う

「ああ、そうですか……何から何まで助かります。

それじゃ、お気をつけて」

 

「ああ、また」

 

ウタハがぎこちない歩きで、それでいて急いているように、その場をあとにした。

 

 

 

 

入れ替わるようにネルが入ってくる

 

「ウタハのやつあんな急いで。まだ仕事でもあんのか?」

 

両腕には大量の資材を持っていた

 

「動けるってつっても、負傷者だろあいつ。」

 

ネルが大量の形鋼を、ドスンと大きな音を立てて床に置いた。

ヒマリがそれを呆れたように見ている

 

「全身包帯ぐるぐる巻きなのに、動き回っているあなたが言えることじゃありませんよ。」

 

「人手が足りないんだ。しょうがないだろ」

 

「それにウタハは仕事ではなくて、お見舞いに行ったんです」

 

「見舞い…?……ああ、チヒロか…」

 

重いセメントの袋を揃えていくネル

 

「ええ、彼女は大怪我に大やけどを負いましたから。それが時間が経って悪化してきて…今は他校の医務室で緊急の治療をしていますが…」

 

ヒマリが車椅子に深く腰をかける

 

「ウタハはそれに責任でも感じてんのか?」

ネルがぶっきらぼうに聞く

 

「おそらく…。すでに戦闘機の追突でダメージを受けていたところに、ドローンの自爆と佐藤の追撃でさらに重傷化してしまいましたから。自爆はチヒロ自身が選んでやったこととは言え、提案をしたのはウタハ。責任も感じてしまうでしょう。」

 

「……あいつが、ウタハが、そんなの抱え込む必要はないのに……。」

 

ネルがその場に座り込む

 

「…私が食堂で佐藤を逃がしたせいだ。…チャンスはいくらでもあったのに私は全部逃した。そこで捕まえてりゃ、チヒロだって無茶せずにすん…」

 

「あなたまで自分で抱え込んでどうするんですか…!」

 

ネルの発言を遮ってヒマリが声を張り上げた。車椅子のひじ掛けに軽く拳を落とす。

 

「ああ、もうみんな辛気臭いですね…!

元気なアリスが恋しいですよ。資材運びが終わったら彼女を抱きしめたいです……」

 

ヒマリがため息をついた

 

 

 

「………さっき泣いてたんだ」

 

震えたネルの声が響く

 

「…え?」

 

「アリスが、泣いてたんだ。モモイも、ミドリも、ユズも…」

 

「………………」

 

「私らを介抱してるときはわかってなかったのか、それとも無理してたのか…。

作業中に瓦礫の裏でこっそり泣いてた。さっきまであんなに明るかったのが嘘みたいに悲しんでた…。大事な場所が全部なくなった。そりゃ泣くよな…。」

 

「………………」

 

「……みんな大怪我して、学校壊されて、アイツラ泣かせて……

 

 

 

………何が00だよ、、、クソ…」

 

 

 

 

二人が何も話さないまま、ただ時間が流れる

 

 

 

 

 

 

「…リオが……」

ヒマリがゆっくりと口を開く

 

「…?」

 

「……あ……あの………」

 

「…リオがなんだよ…」

 

「リ、リオが……」

 

ヒマリが頭を抱える

 

「だからなんだよ…」

 

 

 

「ほ、褒めてましたよ…!

あなたのこと………!」

 

 

 

ヒマリの言葉にぽかんと口を開けたままのネル

 

「……………は?」

 

「……だ、だから、えっと…その、……最後まで勇敢に…たて、じゃなくて、その〜…立ち向っ…」

 

 

ヒマリがタジタジになっている。

ネルが少しにやける

 

「……なぁ、」

 

「…!はい…?!」

 

「お前、さ。フッ……、それ……ククッ……絶対嘘だろ」

ネルが笑いをこらえながら聞く

 

「……い、いえ?そんなことは…」

目をぐるぐるさせるヒマリ

 

「慰め方が……っふふ…下手くそすぎるだろ、ククっ…ハハ……お前…なんで、リオ…ふふっ…」

 

ネルの笑いが止まらない

 

「…………あーーー!もう!」

 

ヒマリが頬を膨らませる

「そうですよ!あなたを慰めてやろうと思ったんです!けど空気が重すぎて何も思いつかなかったんですよ!他の人の名前を出せばあなたが喜ぶかなって、思ったんですよ。…ウィンザー効果ってやつです…」

 

「…ハハ!なんだそれ、

病弱美少女なんとかのくせに、慰め方が下手すぎるだろ、笑っちまった…ふふっ」

 

「超天才清楚系病弱美少女ハッカーです!」

 

「あーはいはい、ありがとよ病弱ハッカーさん」

 

「なんで悪いところだけ切り抜くんですか!?」

 

 

ネルが立ち上がって伸びをした

「う〜ん、なんかスッキリした。何も解決してないけどスッキリした!そろそろ作業に戻る」

 

「そうですか、頑張ってくださいね」

ヒマリがそっけなく言う

 

「おいおい拗ねんなよ」

 

「すねてませんけど」

腕を組んでそっぽを向くヒマリ

 

「お前の下手な慰めでもこっちは元気出たんだ。感謝してる」

 

「…そうですか。それは良かったです」

 

「それじゃ、行ってくる」

 

 

 

ネルが軽い足取りで歩き出した

 

 

「あの…!」

 

それをヒマリが呼び止める

 

「ん?なんだ?」

 

 

「あの…!さっきの、あなたを勇敢だって褒めていたの。

私がそう思っているというのは本当ですからね!」

 

 

 

「…、ふっ…。…わかってるよ」

 

 

 

 

「…いってらっしゃい、00」

 

「ああ、行ってくる」

 

 

ネルがテントから出ていく

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

アビドス自治区の近く

 

夜道、シロコが一人で歩いていた。

 

 

(やっぱり徒歩だと時間がかかっちゃったな。もうすぐ自治区だけど学校に誰かいるかな……)

 

シロコがスマホをつける。けれど電源がつかない

 

(バッテリー切れ………ずっと充電してなかったし、そりゃそうか……。

どうしよう、帰る前にホシノ先輩に一言だけでも連絡したほうがいいよね)

 

あたりを見回すと、公衆電話が1台、そこにあるのを見つけた。シロコは財布の中身を確認して、そのまま公衆電話の中に入っていった。

 

 

バタン

 

扉が閉めると予想以上に音がして、少しだけ驚く。

 

(使い方は…どうだっけ…)

 

受話器を持ち上げる。「ツー」と音がなる。それを確認して、硬貨を入れた。

 

(ホシノ先輩の番号は…たしか…)

 

ボタンを押していく。慣れていないやり方に少し手間取った。

 

 

プルルル、プルルル……、、、

 

 

(まだ夜遅くはないし、寝てはないはず…。でも公衆電話からかけると非通知になるんだっけ…でてくれるかな…)

 

プルルル、プルルル……、、、

 

電話のひもをくるくると回して絡める。

 

(…締め切ってるからかな、暑くなってきた。)

 

マフラーを少し緩める。が緩めすぎてそのまま落ちてしまう。銃のベルトに少し引っかかっていたようだ

 

「あ」

 

慌ててマフラー拾う。手を離した受話器が宙ぶらりんになってしまった

 

「はぁ…」

 

マフラーをつけ直そうとしたその時、電灯に照らされたガラスが、シロコの姿を写していた。

 

 

「…!……………。」

 

シロコの首にくっきりと跡が残っているのが見えた。

 

それは佐藤に首を絞められた時にできたものであり、誰にも見せていないものであった。先生にも見せていない。そしてシロコ自身も初めてその跡を見た。

 

 

左の頬が少し擦り切れているのが見えた。

 

それはゲヘナで戦った際、佐藤のIBMに壁で引きずられたときにできたものであり、まだ治癒しきっていなかった

 

 

手の甲に火傷があるのが見えた。

 

それはミレニアムにて、キッチンに向かって飛ばされたときにできたものであり、見えているところ以外にも火傷は広がっているだろう

 

「…………………」

 

プルルル……プルルル……

 

(そうだ……違うんだ……。私が戦いを諦めたのは……先生の足を引っ張らないようにするためじゃない。ホシノ先輩との約束を守るためじゃない……

 

 

私は………)

 

 

 

プルル……

 

『はい、もしもし〜?…』

 

受話器からホシノの声が聞こえてくる

 

 

 

 

(私が逃げたのは…

 

 

 

 

 

 

ただ、佐藤が、怖くなったからだ)

 

 

 

 

 

 

ガラスに近づき、顎を持ち上げて、首の跡をしっかりと目に焼き付ける。

 

__________________

 

「あなたは逃げて…全部から……何も…戦う義理はないから……」

 

 

「おう!佐藤をぶっ倒したら祝杯をあげよう!」

 

 

 

「行こう、シロコ」

 

 

 

_________________

 

ヒナとネル、そして先生の顔が頭に浮かぶ

 

 

 

 

『あの〜もしもーし?イタズラ電話?』

 

宙ぶらりんの受話器からホシノの声が聞こえている

 

 

 

「………ごめんなさい、もう少しだけ……」

シロコが小声で呟く。銃を持ち上げ、扉に手をかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え?誰か何か言った?…………

…もしもーし!…

 

 

 

……………………』

 

 

 

 

 

ツーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公衆電話の中には誰もいない

 

 

 

 

 

 

 




単話としては過去一長くなった。

今まで、一つの章のどこかに佐藤さんの描写を入れようってなんとなく考えていたけど、今回は佐藤さん無し。
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