ダンジョンで『神おま』を求めても出てこないんだけど   作:ぱきのら

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ひと狩りいこうぜ

 

「フェルズ!東門に着いた!残りの一頭はいま何処にいる!?」

 

『そこからバベルの塔に直進しろ。その道中でロキ・ファミリアが戦闘中だ』

 

「了解、もう一本強走薬飲んで一気に行く!」

 

『……それ、本当に危ない薬じゃないんだよな?』

 

「当たり前だろ。調合元のアイテムも全然危険性とかないし、飲んだら疲れなくなるだけの薬だぜ?何をそんな危険物みたいに……」

 

『……まぁいい。それよりも……本当に行くのか?45階層の一件から、お前はロキ・ファミリアに警戒されているはずだ。あの時と装備が違うとはいえ、感づかれれば……今回のモンスターの襲撃とお前の登場が重なっているし、更なる疑惑と致命的な確執が生じる可能性も』

 

「それじゃフェルズ!さっき伝えた通り、ちゃんと持ってきてくれよ!」

 

『……お前は話を聞かない頭ピッケル野郎だったな。渡す直前に合図を出す。それで落として壊れても知らんぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、変質者……」

 

 G級個体のディアブロスを0分針(正確には0分針宣言から6分経っていたとかいうフェルズの指摘は忘れた)で討伐し、そこから一切の休憩を挟まず全力疾走して救援に駆けつけたら変質者呼ばわりされた【炭鉱夫】がいるってホント?

 

 しかし指摘する暇はなさそうだ。

 耳の長い竜人族の娘……違う、この世界ではエルフという種族の特徴だったか。とにかく彼女の傷が深い。

 息が浅く不規則で、腹部から多量失血。下手するとこの子の最期の言葉は変質者になるだろう。

 

「レフィーヤ!」

「あぁ、良かった!ありがとうカラフルな人!」

 

 レフィーヤと呼ばれたこの娘の元に大慌てで近寄ってきたのは、これまた女性たち。

 金髪の娘にいたっては移動というか、風みたいなのを纏って瞬間移動してきた。えぇ、怖……。

 

 しかし、やはりというか。覚悟はしてたけども。

 

 あの時俺を囲ってきたロキ・ファミリアの人たちぃ……!黙ってたらぶちギレてきた怖い女の人もいるよぉ……!

 

「えと、あなたは……?」

「この子に使えるポーションとかエリクサーはないのか?」

「え、あ、そう!持ってたんだけど落としちゃって……」

 

 妙な追及をされる前に話を進める。

 そもそもお喋りしている時間がない。彼女の容態もそうだが、目の前のディアブロスが健在なんだ。閃光玉の効果で混乱してるし、見たこともない植物っぽいモンスターに絡まれているとはいえ、またすぐに暴れ出すはずだ。

 

 暴れるディアブロス。

 家屋に囲まれたこの狭いエリアから出さないこと。

 周囲の昏倒した人々。

 重症のエルフ。

 彼女たちからすればよく分からない不審者の俺。

 

 未だかつてこうも動きづらい狩猟環境があっただろうか。ギギネブラの狩猟で、誰もホットドリンクも解毒アイテムも持ってきてなかったあのときよりヤバい。

 特に不審者の俺という要素が一番邪魔だ。これだけは直ぐに解決できる方法が思い浮かばない。

 

 だからちゃっちゃと行動で示す!

 狩猟も勢いで何とかなることがけっこうあるから!

 

「……よいしょおっ!」

「うえっ、なに!?」

 

 この世界では超絶貴重な"生命の大粉塵"をばらまく。金髪の娘が風の何かを使っていたことが幸いして、より広範囲へと翡翠色の輝きが散っていく。

 いやまぁホントに貴重だけど……出し惜しみをしたら力尽きるのが【炭鉱夫】。

 当たらないと思って緊急回避しなかったら力尽きるのが常だ。もうアイテムは全部使うぞ。

 

「へ……え……?」

「レ、レフィーヤ!?」

「すごい……傷が治って……」

 

 レフィーヤさんが自分の腹部を不思議そうにぺたぺたと触る。よし、傷は癒した。失った血液までは戻せないから全快とは言えないが、十分だ。

 

「あれ……私……?」

「うう……俺なんで寝て……」

「う、うわあぁ!モンスターがまだいやがるっ!!」

 

「回復魔法でもないのに、こんな広範囲で……」

「これで周囲の人たちは自力で離れてもらう」

「だけどまたあの咆哮をされたら……」

 

 金髪の娘がそう指摘したとき、俺の足元で桃色の煙が弾けた。

 

 女性陣はすぐに周囲を警戒する素振りを見せたが、俺は知っている。おつかいを頼んだフェルズの合図通り、真上から落ちてくる武器を両腕でしっかりと掴む。うぐぅ、重い。

 

 さすが、フェルズも素晴らしい仕事をする。

 狩友かオトモになってという誘いを断られたのが残念だ。なんだよ『過労死するから嫌だ』って。お前は骨だろ。

 

「うわっ!?今度はなに!?」

「俺がこいつを使って、あのディア……二本角のモンスターの咆哮を無効化する。あとは一般人が逃げられるように奴を足止め、そして狩猟すれば万事解決だ。だから……」

 

 俺が【炭鉱夫】だとはばれてなさそうだ。だからこそ。

 勢いよく、未だ困惑状態の彼女らに頭を下げた。

 

「頼む!俺と協力して奴を狩猟してくれっ!!」

 

 視界の隅でディアブロスが正気に戻った様子が見えた。植物のモンスターを振り払われたらもうやるしかない……だけどチームで不信感があるのは致命的。ここは省略なんてできない!

 協力しないと、他の一般人を全員逃がしながら狩猟とか俺には絶対できない!この防具のスキルもこの武器だと全く意味ないし!

 

「俺は変質者だがどうか……!」

「分かった。協力する」

 

 ……お?

 

「いいのか!?」

「あなたはレフィーヤを助けてくれた。それに、あのモンスターを放置できないのは私も同じ」

「そうね、正直めちゃくちゃ怪しいけど……助けてくれて感謝するわ。それと、レフィーヤを傷付けてくれやがったあいつをぶっ殺さないとなぁ!!」

「もちろん私も手伝うよ、カラフルな人!レフィーヤを助けてくれて本当にありがとねっ!」

「私も、恩を返します……!」

 

 え、やばい。泣きそう。

 ……俺は冒険者を、彼女たちを誤解していたのかもしれない。

 

 チームを組んでクエストとか何年ぶりだろう。いや、今回はクエストじゃないし報酬も報酬金もないけど。

 

 『神おま』が出たときみたいに嬉しいじゃんか!テンション上がって調子に乗っちゃうぞこれぇ!!

 

「よっしゃぁっ!ひと狩りいこうぜ!!」

〈グオオオオッッ!!〉

 

 俺たちはディアブロス目掛けて走

 

 

 

 

 

「いや待って!?君たち武器は!!??」

 

 急ブレーキ急ブレーキ!!

 え!?びっくりなんだけど!?何でこの人たち素手でディアブロスのとこ行こうとしてんのっ!!?

 

 レフィーヤさんは魔法使いっぽいけど、あなたたちは!?

 

「え、今日はずっと素手で闘ってたけど」

「無いものは仕方ないでしょ。武器がないなら拳と足を使えばいいじゃない」

「私にはこれがあるから大丈夫」

 

 何が!?根本から折れてる剣の何が大丈夫なの!?

 

 え、てことはこの人ら、俺が来るまでディアブロスを素手と裸同然の装備で押し留めてたってこと?ついでにあの厄介そうな植物のモンスターも?

 何それ怖すぎるんだけど。

 

 あとこれを事前に俺に伝えなかったフェルズも怖いんだけど。素手でモンスターと殺り合うのは、冒険者ではよくあることなの?常識なの?だから何も言わなかったの?

 

 極まったハンターでもそんなことしな……ん……しな、い、はず……よ……?

 

 ええい!とにかく!!

 

「ほら、この盾持って!あとお守り着けて!」

「え、ええ?」

「次!元気な君はこの槍持って!」

「わー!いいの!?」

「最後に君は、剣……剣だから……はいこれ!これ使って!」

「あ、ありがとう……これ、どれくらいの強度……」

「どんなモンスターも切れるよ!」

「すごい。大事に使う」

 

 "はぎとりナイフ"を武器として使うのは、きっと君が史上初だよ。

 

「使い方は三人に任せる!あと、こいつらも飲んどいて!力が湧いてきて頑丈になって疲れなくなるから!」

「え、何そのやばい飲み物……」

「さぁ来るぞ!おおらあぁぁ!!」

 

 俺の狩猟笛で頭かち上げてくれるわぁ!!

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

「な、なんか凄いことになりましたね……」

 

 いや、凄いこと(重症)になっていたのは私だったか。

 暴れることしか知らないような二本角のモンスターに瀕死の重症を負わせられ、そのまま引き潰されそうになったあの時。

 

 突然広場が真っ白に輝き、そしてやたらレインボーな髑髏頭のあの人が立ち塞がるように立っていた。

 そしてあれよあれよと振り撒いた砂粒状の何かにより傷がふさがり、倒れていた周囲の人たちまで起こしてみせた。

 

 そして今や、私たちの誰よりも前に出て、楽器?のような何かをモンスターへと叩き付けている。

 

「これ、飲んでいいかな?」

「得体の知れないものを口にするなんて冒険者以前に人としてあれだけど、ま、私たち含めてここらへんにいる人全員を回復させる粉をばら撒かれてるもの。今さら気にしてられないわ」

「それもそっか!おーい!それじゃあありがたくいただくねー!」

「早く飲んで早く助けてー!!」

 

 甲高くてどこか情けない声が聞こえた。

 真紅色の鮮やかな液体、鈍い銅色の液体、そして黄金色に輝く液体が瓶におさめられた状態でティオネさんたちにそれぞれ一本ずつ。

 つまり一人三本飲まなくてはいけないけれど、量が量だし、そんなに一気に飲むのは難し……。

 

「ぷはー!なんか、カッとする味ー!」

「いや、これは……」

 

 三人ともあっという間に飲んでしまった。第一級冒険者になるには早食い早飲みのスキルも必要なのだろうか。

 そんなどうでもいい思考は、アイズさんがポツリと呟いたそれで吹き飛んだ。

 

「ステータスが向上した時と同じ感覚……」

「え、えぇ!?それを飲んだだけでですか!?」

 

 魔法にも防御力向上などの効果を持つものはあるが、飲むだけでそれらの効果を得られる代物など、少なくとも私は聞いたことがない。

 だってそんなものがあれば、ただ飲んでいればステータスが向上するではないか。

 

 それらをついでのように簡単に他者へ投げ渡したのか?

 

「あの人はいったい……」

「よぉし!いっくよ~!」

「私も……!」

「あ、こら!勝手に……あぁもう。レフィーヤ、詠唱を始めといてくれる?」

「え?」

「今度は必ず、私たちが守るから」

「……はいっ」

 

 ティオネさんたちが私を守ってくれると言ってくれた。だから私も、皆を助けたい。

 一つ、深呼吸。杖を構えて、言葉を紡ぐ。

 

 しゃりん、と、鈴の揺れる音がした。

 

 それは、あの人の頭上から突然落ちてきた武器だ。

 

 ーーー見たこともない武器。いや、あれは見るだけじゃ武器として扱うなんて思いもしないな。和風……っていうんだっけ。傘の内側に人の頭ほどもある薄桃色の鈴がぐるりと提げられていて、まるで何かの祭事に使う祈祷の道具みたい……。

 

 鈴は髑髏の人が傘を振り回す度に雅やかな音色を奏でる。

 

 だけど絵面のアンマッチ具合が凄いな。

 首から下はゴーレムみたいに厳めしくて存在感があるのに、頭はレインボーな髑髏。それが必死に和風な傘を振り回してる光景は、何か呪いでもかけてるのかと思っちゃうよ。

 

 失礼なのは重々承知の上だけど、もっと落ち着いた神秘的な女性とかに似合いそうな武器だと思う。

 

 でもどうしてあんな、自分の存在を態々ひけらかすような武器を……と不思議に思っていたら。

 

「おらぁ!久しぶりでも出来たぞぉ!」

 

 鈴の音が一際大きく波の波紋のように広がり、私の中に滔々と流れたような感覚が。

 

 ……今のはいったい……?

 

〈グウ……ッ!〉

「っ!咆哮が来るぞぉーっ!!」

 

 二本角のモンスターが鎌首をもたげた。

 まずい、またあの頭が割れるような悲鳴を上げられたら詠唱どころじゃない!それどころかせっかく意識を取り戻した周りの人たちがまた……!!

 

ギイアアアアアッッッ!!!

 

 大地が、大気が、視界が震えた。

 

 ……あれ?

 なんとも、ない……?

 

「もう暫くは誰もこの咆哮にやられることはない!!安心して自分がやるべきことをやれぇ!!」

 

 一瞬立ち止まっていた周りの人たちも、この場から散り散りになって逃げていく。

 よ、よく分からないけど、この状況なら私の魔法も使える……!

 

「あはは!すっごいや!おんどりゃああぁぁ!!」

 

 ティオナさんが、髑髏の人から渡された槍を二本角のモンスターの翼目掛けて突き、横薙ぎに振るう。

 彼女の何倍もある大槍を慣れたように振り回す。そして螺旋のように回転させてモンスターのねじれた角を削ってゆく。

 

「力がみなぎるー!全然疲れないよ!」

目覚めよ(テンペスト)!はあぁーっ!!」

 

 続けてアイズさんが風を纒い、目にも追えない速度でモンスターの巨木のように太い尾を斬りつける。

 あの魔法は、並大抵の武器では耐えられず自壊してしまうと聞いていたけれど……。

 

「やっぱり力が増してる……このナイフも風に耐えられる……!」

 

 尾の付け根から棍棒にかけては肉質が柔らかいのか、アイズさんの影が駆け抜けると赤い血飛沫が弾けた。二本角のモンスターも無視できないダメージなのか苦しげに呻き、巨体を回転させ尾の一撃を狙う。しかし当たらない。

 棍棒のような尾が瓦礫を潰し、家屋が音を立てて倒壊するときには、彼女はいない。まるで嵐そのものがモンスターを斬り刻むように赤く彩られていく。

 

「いいぞ!そのまま肉質の柔らかい尾の付け根か、脚を狙うんだ!」

「いける……!」

「身体の調子も良くなるし、なんか手応えいいし!どんどんいくよー!!」

 

 二人の快進撃が止まらない。ダメージどころか疲れすら見えず、勢いが増していく。

 どうしてだろう。あの鈴の音色を聴くほどに身体の傷や疲労が癒えていく。感覚が鋭くなっていく……!

 

〈ゴアアアッッ!!〉

 

 しかし二本角のモンスターは槍で穿たれようと、ナイフで甲殻を裂かれようとお構いなしにその巨体全てを破壊の手段として行使する。

 モンスターの猛威は鎮まらない。片角が砕かれようと威力は衰えず、右へ左へ頭部を叩き付け、周囲の建造物を瓦礫へと変えていく。

 

「突進行くぞぉーっ!」

「っ!レフィーヤ!」

 

 アイズさんたちの攻撃を引きちぎるように二本角のモンスターが爆走を始めた。その先にいるのは……私だ。

 迫り来る地響き。怖くないはずがない。だけど大丈夫……!

 

「らぁああああぁぁっっ!!!」

 

 ティオネさんが大楯で真っ正面から突進を迎えうった。

 もはや原型を留めていない地面にがりがりと二本線が刻まれていき、やがて突進を完全に封じ込める。

 

 すごい、あのモンスターの突進を封殺しちゃった……!

 

「ぶっっ飛べやああぁぁぁっっ!!!」

〈ギアアアアッッ!!?〉

 

 そして大楯をモンスターの顎下からかち上げた。ごぎぃ、と抉れるような重低音とモンスターの苦痛に呻く声が重なり、頭を強く打たれたモンスターは大きく仰け反り倒れた。

 疲労が限界なのか、厳つい口元からは涎がぼとぼと滴っている。

 

 というか、盾ってあんな使い方も出来たんだ……!

 

「盾をあんな使い方するのか……怖……」

「好きに使えって言ったでしょ。それに盾は基本、殴るものよ」

「えぇ……盾単体をメイン武器にする奴は初めて見うおぉっ!?」

「カラフルどくろぉ!」

「いだだだだだっ!!!」

 

 植物型のモンスター(ヴィオラス)が髑髏の人に喰らい付いた。胴体に勢いよく噛みつかれ高く持ち上げられた彼は激痛に叫……なんか余裕そうに見えるのは気のせいかな。

 

「おりゃあー!!」

〈シャアアアアッッ……!!〉

「うぐぉ……っ、すまない!助かった!」

「お互い様だけど、どういたしましてー!」

「まずいっ!潜られるわよ!!」

 

 事態は小休憩など許してくれない。

 ティオナさんの槍の一閃で植物型のモンスター(ヴィオラス)は根本から斬り伏せられ塵となるも、攻撃の手が緩んだ二本角のモンスターが潜行を始めている。

 

 ……また地中から攻撃される……!

 

「最後の一個ぉっ!!」

 

 髑髏の人が投げた何かが弾けて、甲高い金属音が響いた。

 

〈グオオオオッッ!!?〉

「今だぁ!叩き込めぇっ!!」

「はっ、次から次へと芸達者ね!」

 

 潜ったはずのモンスターが飛び出した。

 だけど上半身だけ、地面に埋もれて身動きがとれていない。

 

 ……当てる!

 

「撃てますっ!!」

「ティオナ!アイズ!」

「おっけい!」

「分かった!」

「それとカラフルどく……何やってんのあんた!?」

 

 あの人が二本角のモンスターに走り寄っていって……ええぇ!!?どこから取り出したんですかその大きい樽っ!?

 

「念には念だぁ!!俺は避けられる!そのままなんか、すっごいのをぶっ放せ超人さぁんっ!!」

 

 さっきまで勇猛さが嘘のように両腕と両足を必死(過剰な程)に振って駆けてくるあの人が叫んだ。

 不思議、会ったばかりで名前も顔も知らない人なのに……!どうして、私、こんなに……っ!

 

「吹雪け三度の厳冬――我が名はアールヴ……!」

 

 欠片も躊躇しないでいい気がするっ!

 

「クエストクリアってやつだ……っ!!」

「ウィン・フィンブルヴェトル!!」

〈ガアアアアアァァァァ!!!!!〉

 

 絶対零度の結晶がモンスターをいびつな氷像へと変えていき。

 あの人の設置した二つの大樽が大爆発を起こし、けたたましい爆音と白い光、弾け散った氷の欠片が舞った光景を最後に、私はぎゅっと目を瞑った。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△ 

 

 

 

 

「ちょっと!生きてる!?」

「無傷だ!問題ない!」

「いや、大の字で地面に転がられてても説得力が……」

 

 それは仕方がない。緊急回避は身体を投げ出さないと使えないんだから。

 

「倒した……?」

「レフィーヤの魔法ととんでもない爆発が重なってたからね。眩しさと衝撃で見えなかったけど、魔石もろとも塵も残さず吹き飛んだんじゃない?」

「確かに、すごいことになってるものね……」

 

 体を起こして振り返る。

 ディアブロスが足掻いていた広場の中心は隕石でも落ちてきたのかと錯覚するほど陥没していた。黒く焼け焦げた瓦礫と、元々の用途が推察もできない木片が静かに燃えている一方で、周囲を取り囲むように氷柱の円が出来ており、爆発と冷気の混在するある種の芸術作品のような現場になっている。

 舗装されていた地面は足の踏み場を考えねばならないほどにぼろぼろ。周囲の建造物も全壊、または半壊と目も当てられない破壊痕だ。

 

「今日が怪物祭(モンスターフィリア)でみんな外出していたことと、もともとは植物型のモンスター(ヴィオラス)が暴れていたことが幸いして、周囲の屋内に人はいなかったようです。外出していた近くの人たちもちゃんと逃げられたみたいで……怪我人はいますが、現在まで死者は見つかっていないってギルド職員の方が言ってました」

「そうか……」

 

 誰も死んでいない。少なくとも、今までに分かる限りでは。

 

「……良かった」

 

 死んでいないなら、いい。いくらでもやり直せる。

 

「いやぁ、ホントに助かったよレインボーな人!あ、この槍もありがとね!すっごいリーチが長いし強いし、使いやすかった!」

 

 お、おう。俺はこのラスカシェロスを使いこなすのに半年かかったんだけどね……。

 

「このナイフも返すね。凄い切れ味だった」

「それは良かった」

「……これ、どこのファミリアで打ってもらったの?」

「いや、オラリオじゃなくて遠い故郷のものでさ」

「そう……」

「……」

「……これ、売るとしたらいく」

「ダメです」

「あう……」

 

 それなかったらはぎとり出来なくなっちゃうからね。ダメです。

 

「アイズは先に壊したレイピアの返済でしょ。私もこの盾返すわ。あと、この腕輪も。色々と手伝ってくれたこと、感謝するわ。感謝するけれど……」

 

 これで彼女らに貸した装備一式は全て俺の元へと返ってきた。

 レフィーヤさんの人外魔法があってディアブロスは跡形もなく吹き飛んでしまったようだし、これ以上この場に居座る必要はなくなった。むしろ共通の敵がいなくなったのだから、速やかに撤収しなければならない。何故なら。

 

「あなた、随分とあの二本角のモンスターに詳しかったわね?アイテムも武器も見知らぬものばかり、念入りに準備していたみたいだけど」

「そうだね、特にあの薬とか!びっくりしちゃったよ」

「……話、聞かせてほしい」

 

 何故ならこうなるから。

 

 やー、別嬪さんらのお誘いなのに全く気が乗らない不思議。

 理由が怪しまれているってこともそうだが、そもそも前の世界でも女性らには無茶ぶりされた印象が強いから苦手意識が尾を引いている。

 

 金獅子の毛で外套を作りたいだとか、目覚まし代わりに使う黒轟竜を捕獲してこいだとか、真の女王の座をかけて雌火竜に喧嘩売りに行ったから止めてほしいとか。

 依頼人もそうだが、ユクモ村の受付嬢にオススメとか言われた雷狼竜二頭の狩猟クエストは、普通に遠回しに殺されるかと思った。モガの村の受付嬢さんも、もっと早くモンスターの情報を教えて欲しかったです。狩猟が終わった後に言われても困ります。

 

 さて、ほろ苦い思い出に浸って遠い目をしている場合ではない。

 前にはロキ・ファミリアの冒険者。後ろにはギルド職員っぽい人たちが控えている。

 フェルズに散々言われたが、俺がこの世界の人々と必要以上に関わると、いろいろな常識が壊れかねないのだ。だからここは……逃げる!

 

「ま、待って下さいっ。この人は私の命のおんじ……わぷっ!」

 

 どこからともなく発生した黒い煙が広場に充満した。

 

「な、何この黒い煙!?」

「ただの煙じゃない、絡みついてくる……!?」

「くっ、アイズ!魔法で吹き飛ばして!」

「分かった、テンペ……あうっ!」

「アイズ!?」

「な、なんか顔に当たって……」

 

 ……ごめん。

 ホントごめん、アイズと呼ばれた金髪の子よ。いつかちゃんと土下座して謝るから……!

 

「なにこれくさーーい!!?鼻どれぢゃうー!!」

「アイズ、臭い……ごめっ、近寄らないでっ!!!」

「く、くさ……!?」

「何てこと言うんですか二人とも!!アイズさんが臭いわけゴホゲホオッ!!」

「レフィーヤ!?」

 

 アイテム使いすぎて、使えるアイテムが“こやし玉”しかないんだ!!

 

 君に魔法を使われたら絶対逃げられないんだもん!!

 でも大丈夫!これだけは一個も使わず残ってたから、君だけに臭い思いはさせないッ!カヤンバ師匠、あなたの技ッ、お借りしますっ!!

 

「ゴーホームYEAH!」

 

 あるだけのこやし玉を周囲にばら撒いた。

 

「ぐああっ!!何だ、毒の攻撃かー!?」

「いやぁぁっ!!助けてーっ!!」

「おい!獣人がぶっ倒れたぞ!!?」

 

 阿鼻叫喚の地獄の中を、黒煙と茶煙に紛れて俺は抜け出し、周囲の瓦礫やら何やらを踏み台にして家屋によじ登って離れる。

 後方から聞こえる悲鳴がディアブロスの襲撃のときより大きい気がしたが頑張って無視した。

 

 屋根伝い、屋上伝いにオラリオ都市を駆ける。

 

「……ここまで来れば大丈夫か」

『やってることが闇派閥(イヴィルス)予備軍みたいだったぞお前』

「死人も怪我人も出ていないんだ。まあ、許してもらおう」

『心に傷を負ったものや鼻が壊れた者がいそうだがな』

 

 ……今度匿名で消臭玉とか納品しようか。

 

 それはともかく、相変わらずベストタイミングで現れるフェルズ。

 あの黒い煙も様子をうかがって使ってくれたのだろう。鼻のない骨の姿が幸いしたようだ。手持ちが一杯一杯だった俺の姿を見かねてか、狩猟笛を持ってくれた。優しい。

 

「……周囲の騒ぎはなさそうだな。モンスターが逃げ出したと聞いていたけど」

『ほとんどがロキ・ファミリアの【剣姫】により掃討されている。残った少数のモンスターもガネーシャ・ファミリアが対処した』

「ナルガクルガはどうした?奴の咆哮が聞こえたからこっちに来たんだが」

 

 フェルズは、付いてこい、とだけ言うと、比較的高い建物へと移動する。

 ここは迷路のように複雑だと聞いている、確か……ダイダロス通り、とか言う地区だったか。こんな場所にナルガクルガが入り込んだとなれば、あの敏捷性も相まって厄介なことになりそうだと思っていたが……。

 

 フェルズがとある場所、ダイダロス通りの開けた場所を骨の指で指し示した。

 

「……おお、すごいな」

 

 ナルガクルガは、討伐されていた。

 

 その亡骸の傍らには、迅竜を討伐したと見られる、白髪の少年の姿がある。装備もぼろぼろで体の傷も少なくない。しかし少年を囲う誰もが彼に賞賛と感謝の言葉をかけているようだ。その少年にくっついている……少女か?少女が少年に必死に抱き着いているのを見るに、恋人かなにかだろうか。

 

「見た感じ、一人で討伐したのか。Lv.3……いや、Lv.2か?」

『Lv.1、だそうだ。それも十数日前に冒険者登録したばかりの、駆け出しも駆け出しだという』

「は!?ホントか!?」

 

 周囲の冒険者やギルド職員の話を盗み聞く限りではな、とフェルズは付け足した。

 

 確かに俺が捕獲した時点で部位破壊は数か所していたし、その後ずっと檻の中であったなら少しは衰弱もしていただろうが、あのナルガクルガは体感でも、集会所の下位クエスト相当の個体だった。

 それを何の事前知識もなく、入り組んだダイダロス通りで単独で仕留めたのが、冒険者になって十数日のLv.1ルーキー……。

 

 ハンターズギルドに登録して数日でナルガクルガを討伐したようなものだ。

 

 しかしどうしてあの少年が単独でナルガクルガを討伐する運びになったんだ?暴れているナルガクルガを見過ごせずに自ら討伐に動いたのか?だとしたら無謀にもほどがあったろうに。

 

「とんでもないな。ここの住民たちからすればヒーローだ。名前はなんて?」

『神ヘスティアは彼を、ベルくん、と呼んでいた』

「神ヘスティア?」

『あの少年に組み付いている少女のことだ……っておい。何処に行く?』

 

 そりゃ、ナルガクルガを討伐した彼に感謝を……。

 

『ロキ・ファミリアから逃げたお前が目撃情報を増やすような真似をするな。っ、言ってるそばから【剣姫】が来たぞ……!さっさと地下に戻れ。まだ未解決の事象が多い。角竜がオラリオに潜行していた最中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()事態を筆頭に、全てウラノスと意見を共有する必要がある』

 

 腕を引かれて強引に引っ張られる。骨で魔術師なのに力強いよねあなた……。

 

 フェルズの言う通り、向かいの家屋の屋上に金髪の少女のアイズさんが瞬間移動染みた動きで現れた。臭いは風で吹き飛ばしたのだろうか。ぶっ殺されてもなんも文句言えないので見つかる訳にはいかない。

 しかし、こちらに気付く素振りはないどころか……俺たちと同じように、あの少年を見ていた。感情の読めない無表情で、じっと見つめている。知り合いなのか?

 

「神ヘスティアに、ベル少年、か……」

 

 彼にも機会があれば、改めて感謝を伝えられたらいいんだけど。今回の騒動が落ち着くまで、彼と話す機会どころか、『神おま』探しにいく時間もなさそうだなぁ……。

 

 





■個人的誰得メモ

○生命の大粉塵
・MH3Gから登場した生命の粉塵の上位互換。回復薬グレートと同等の効果を手早く周囲に散布できるが、2つしか持っていけなかったり、調合がめちゃ大変だったりと貴重品。調合もできず交換でのみ手に入ることもあった。

○強走薬グレート
・使うと6分間スタミナが減らなくなるというチートアイテム。しかし狂走エキスが必要なため調合がめんどくさい。下位互換の強走薬は生焼け肉を使うためこれまた調合がめんどくさい。
MHP3なら農場に『連続肉焼き器』なる、10個を一気に肉焼きできる馬鹿でかい肉焼き器があったため簡単に生焼け肉も入手できたが、以降の作品は全て『よろず焼き』でNPCに焼くのを任せるため、生焼け肉が手に入りづらくなった。
ちなみにMHW以降は強走薬グレートが廃止。強走薬だけになり、それもスタミナの減少を軽減させるだけになった。

○鬼人薬グレート
・鬼人薬の上位互換。アルビノエキスを混ぜると完成。貴重。調合書がないとやってられない。力尽きるまで永遠に攻撃値プラス7(MHP3以降。それ以前はプラス5)。ちなみに怪力の種はプラス10だが、効果は3分間。

○硬化薬グレート
・硬化薬の上位互換。アルビノエキスを混ぜると完成。貴重。調合書がないとやってられない。力尽きるまで永遠に防御値プラス25(MH4以降。それ以前はプラス5という涙なしには語れない効果)。

○狩猟笛『なるかみの音鈴の乙鳴7(MHXX産)』
・タマミツネの狩猟笛。この小説で使っているのはMHXX産。だって最新作だと『聴覚保護』消えとるもん。なんでぇ。
・旋律効果…自分強化、体力回復【小】、会心率UP&体力回復【小】、聴覚保護【大】

○装備の変更
・MHWからのハンターはマイハウスの装備もアイテムもすべて狩場に持ち込むようになった。なのでキャンプに行けばいつでもアイテム補充できるし装備も変え放題。引っ越しか?
昔は装備を変えるのも猫飯食うのも家に帰る必要があったのにね。アイテムも長期クエストは調合書持ってってたのにね。

○シャドウ
・アクション(ジェスチャー)の一つで、シャドーボクシングをするやつ。ちゃんと当てればダメージが入る。ロキ・ファミリアがこれ(素手)で戦ってたので【炭鉱夫】ドン引き。しかしモンハン世界にもシャドウとキックだけで狩猟しようとする変態はいるらしい。

○はぎとりナイフ
・どんなモンスターもさくっとはぎとるナイフ。何製だこれ。

○大樽爆弾G
・寝てるときに使うと効果的。チームで意思疎通が取れておらず、設置中に爆破されてもろとも吹き飛ぶ事故が多発中。ハンターズギルドは注意を呼びかけている。

○クエスト依頼主
・ハンターズギルドはちゃんと依頼主の検閲をするべき。暇つぶしとか、何かモンスター見てみたいからとか、そろそろモンスター側もぶちぎれるぞ。

○受付嬢(ギルドガールズ)
・クエストを回してくれる別嬪さんら。生物学、地理学、事務処理、コミュニケーション能力などを極めた超難関職。
最近はマイホームに常駐してくれたり、一緒に狩場に来てくれたりするなど、どんどん仕事を増やされている。仕事は断る勇気も重要です。

○緊急回避
・浮いてるときは無敵ってのがハンターの常識。

○こやし玉
・超臭い。どのくらい臭いって大型モンスターが縄張り放棄して逃げ出すくらい臭い。だから人に投げるのはやめようね!

○カヤンバ
・MH3Gでオトモになってくれる奇面族。かわいい。ちなみにオトモシステムはMHP2Gからだが、それとMHP3のオトモは狩猟中は一切喋らないのでちょっと寂しい。
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